導入
広島、文学フリマのく-42にて本編+おまけが入った物を頒布いたしますので当日はどうぞよろしくおねがいします。
外部センサーが捉えた映像には、巨大なリング状のワープゲートが映し出されていた。直径数キロメートルはあろうかという構造物——人類の建造物の中でも最大級の人工物——の中心部で、空間そのものが飴細工のように歪み、青白い光の渦が静かに、しかし荘厳に渦巻いている。
その光の奥から、まるで深海から水面を突き破るように、恒星間船〈エルトリア〉の流線型の船首がゆっくりと姿を現した。光の粒子が船体表面を滑るように流れ、やがて船全体がこちら側の宇宙へと滑り出てくる。
ゲートの周辺では、〈エルトリア〉の他にも数隻の船が出入りを繰り返しており小型の貨物船が光の渦へと吸い込まれていくかと思えば、反対側からは大型の客船が悠然と姿を現していた。まるで巨大な駅のように、このゲートは休むことなく船舶を送り出し、迎え入れ続けている。
その恒星間船〈エルトリア〉がワープ空間から抜け出す瞬間、船体全体にかすかな振動が走った。
ワープ空間を通ったことがある者、モノなら誰もが経験したことある揺れた。今回は妙に長引いているのか、今回の探偵役であるシンイチは机の上にあるダイスが転がらないよう必死に抑えた。
「物理ダイスはこうやって転がって無くなりますし、荷物になって邪魔ですので電子ダイスをお使いください」
「電子ダイスは俺の趣味に合わないからな」
そう言いながらこぼれ落ちたダイスを拾い上げながら言う。
「イカサマするためでしょう?」
「……エイシム、起きたんならコーヒーを頼む」
誤魔化すようにコーヒーを頼む、気軽に恒星間で移動できるような世の中になってもコーヒーという物は廃れていない。
家族兼、仕事の相棒であるアシスタント・インターフェイスモデルロボットであるエイシムがアームを伸ばしプラスチックのコップにインスタントコーヒーを入れこの話の探偵役であるシンイチに渡す。
シンイチはダイスを机に戻し、エイシムからコーヒーを受け取り、ズズッとコーヒーを啜った。
――こういうのはインスタントに限るな。
端末からキャラクターシートとルールブックを展開させテーブルトークを再開しようとした所で緊急連絡が入る。エルトリアの船長からだ。
「Mr.シンイチ、船でちょっと……いやかなりの問題が発生してね。輸送警官として来てほしいのだが大丈夫だろうか?」
国際宇宙警察の法律第何条だっただろうか、恒星間で移動する際、刑事は船の順番や席の融通をしてもらえるが代わりにこの船で発生した喧嘩の仲裁やトラブルの解決などを手伝わなければならない。という条約がある。
普段は先にロボットなどが仲裁したりするので頼られる事があまりないが、この言い方だとそれより先の問題が発生したようだ。
「シンイチ、国際警察宇宙法」
手で静止し、わかっていると伝える。エイシムの方もルールなので伝えているだけですよと作業アームで抗議の意を示すがいつものやりとりなのでスルーする。
「了解しました船長。今すぐブリッジに向かいます」
「ああ、よろしく頼む」
ダイスを専用の袋に入れ、エイシムから国際警察宇宙警察のバッチをつけた古めかしいコートを受け取りコーヒーの残りを胃袋に送る。
「もっと味わいながら飲みたかったな」
「恒星間宇宙船のコーヒーは全て安物のインスタントですよ。シンイチ」
「わかっているだろう? それがいいんだ。エイシム」
空になったカップを机に置きブリッジに行くため廊下に出る。廊下は高級船らしく室内と同様に人工重力が敷かれており、床を踏みしめるたびに“地球の街路”を歩いているような錯覚すら覚える。
壁面には艶出しされたピカピカのパネル、柔らかい照明が等間隔に埋め込まれ、清潔感のある空気が循環していた。
「良い宇宙船ですね。移動時間や様々な要素を考慮しても骨粗鬆症のリスクはほぼないと判断できるますのに通路に重力装置が配備されてます」
「俺は何処か物足りない感じがするがな」
そもそも宇宙船の通路は基本的に無重力だ。ユニットモジュールシステムにより宇宙船に様々なオプションのついた部屋そのものを取り付ける形になっており、部屋の数を始めイベントホールなども後付できる。なので船本体にコストをかけなくて済むのでコストカット先に大体通路の重力装置が選ばれる。一部の重い荷物を運ぶ時など無重力だと都合が良いので尚更だ。
自分の好みはもっと「昔ながらの宇宙を感じる環境」
たとえば無重力の通路を手すりで渡り歩き、壁は人や靴で汚れたような、そんな薄汚……素朴な構造だ。もっと言い換えれば「宇宙開拓時代」を感じるような構造だ。この人工重力で整えられた環境は快適だが、宇宙にいるという実感を薄める。
「本当の安い移動船はインスタントコーヒーが常備されてませんよ。慣れないのはわかりますが国際法と経費の良い所を利用しましょう」
ごちゃごちゃ考えているとエイシムに見透かされてしまった。
「ああ、そうだな」




