第1話 勇者パーティー、冷たい別れ
はじめまして、本作をご覧いただきありがとうございます。
「追放された補助魔法使いですが、世界唯一の『コピー』チートで辺境スローライフを満喫します」は、
勇者パーティーから追放された補助魔法使いルイが、
世界唯一の《コピー》スキルをきっかけに、辺境でのんびり(時々無自覚に無双)していく物語です。
初投稿で拙い部分も多いかと思いますが、少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです。
ギルドの扉が、バタン、と乱暴な音を立てて閉じられた。
「――これで終わりだ、ルイ」
続いて、ドンッ、と重い音が響く。
ガイルが苛立ったようにテーブルを叩いたのだと気づいたのは、その音でようやく周りのざわめきが静まりはじめてからだった。
さっきまでガヤガヤしていた酒場兼ギルドは、嘘みたいにしんと静まり返っている。
カウンターの奥でグラスを拭いていた受付嬢まで、手を止めてこちらを見ていた。
「……終わりって、どういう意味だよ、ガイル」
絞り出した自分の声が、ひどく遠く聞こえる。
「そのまんまの意味だよ」
ガイルは金色の髪を乱暴にかき上げ、心底うんざりしたような目を向けてきた。
「お前は今日で、勇者パーティーから外れろ。いや――“追放”だな」
その一言が、胸の奥で鈍い音を立てて落ちていく。
「……冗談だろ」
思わず笑おうとしたが、口の端は引きつるだけだった。
「俺、今までずっと、一緒に魔物と戦って――」
「“一緒にいるつもり”だっただけだろ?」
ガイルの冷たい声が、容赦なくかぶせてくる。
「正直に言うぞ、ルイ。前からずっと邪魔だった」
ギルドの空気が、さらに冷え込んだ気がした。
「邪魔……?」
「そうだよ。お前の補助魔法って、いちいち発動に時間がかかるし、効果も中途半端だろ。バフをかけ終わるまで待ってたら、その分こっちは攻め手を鈍らせることになる」
ガイルは指を一本一本折りながら、淡々と俺の“欠点”を数え上げていく。
「攻撃魔法は三流。回復だって専門職には全然届かない。おまけに、その固有スキルときたら……」
彼の視線が、俺の胸ポケットに差し込んだステータスカードに落ちた。
「《コピー》? 笑わせんなよ」
クスクス、とどこからか小さな笑い声が聞こえる。
「……俺の《コピー》は、ちゃんと――」
「ちゃんと? 何が“ちゃんと”なんだよ」
ガイルが鼻で笑う。
「見たスキルを、ちょっとだけ真似できる? そんなもん、実戦じゃ使い物にならねえんだよ。威力は落ちるし、発動までタイムラグがある。そんな不安定なもののために、こっちは命張ってんだぞ」
言葉のひとつひとつが、胸に突き刺さっていく。
(わかってる……そんなこと、自分が一番わかってる)
俺は勇者パーティーの“穴”を埋めるために、攻撃魔法も補助魔法も、回復も、なんでも少しずつかじってきた。
だからこそ、どれも中途半端なのだと、何度も自覚してきた。
それでも――。
「俺は、みんなの役に立ちたいって……それだけで、ここまで――」
「“気持ち”だけじゃ、魔王は倒せねえんだよ」
テーブルに肘をつきながら、ガイルが吐き捨てるように言った。
「優しいだけの補助魔法使いに、何ができる? 俺たちにはもっと、“本当に強い仲間”が必要なんだよ」
「……本当に、強い……」
その言葉は、さっきまでのどんな罵倒よりも重く感じられた。
「ルイ」
今度は、柔らかい声が俺の名を呼んだ。
白い法衣をまとった神官、ラミア。
傷ついた仲間を何度も救ってきた、パーティーの回復役だ。
彼女は申し訳なさそうに目を伏せ、ぎゅっとロッドを握りしめている。
「ごめんなさい。わたしも……ガイルの意見に、賛成なの」
「ラミア、お前まで……」
「だって、ほら」
彼女は戸惑うように微笑み、俺のステータスカードを指さした。
「あなたの固有スキル、《コピー》……でしたよね? それって、どうしても“本物”より弱くて、不安定でしょう? 前線で戦う勇者様を守るには、向いていないと……ずっと思っていたの」
「…………そっか」
喉の奥が、からからに乾いていく。
わかっていたはずだ。
皆の足を引っ張らないようにと、必死で食らいついてきたつもりだった。
けれど、どうやらそれは“つもり”でしかなかったらしい。
「エリアス、お前もそう思ってるのか」
最後の希望のように、幼なじみの名を呼ぶ。
勇者エリアス。
俺と同じ田舎の村で育ち、共に剣と魔法を学び、共に“勇者パーティー”に選ばれた、俺のたったひとりの親友――だったはずの男。
「…………ああ」
エリアスは、俯いたまま、小さく頷いた。
「ルイ。今まで一緒に戦ってくれて、本当にありがとう。お前のことは、親友だと思ってる。だからこそ――ここで区切りをつけたい」
「区切り、ね」
「魔王との決戦が近い。これから先は、一つ一つの選択が命取りになる。俺は……パーティーのリーダーとして、最善を選ばなきゃいけない」
「その“最善”に、俺はいらないってわけか」
自分でも驚くほど、声は静かだった。
「お前の優しさも、覚悟も、よく知ってる。でも、それでも――力が足りないんだ」
“足りない”。
昔から、何度も聞かされてきた言葉だ。
魔力が足りない。腕力が足りない。センスが足りない。
だから、せめて“支える側”として、誰かの助けになろうと決めた。
その結果が、これだ。
「……わかったよ」
ふっと、力が抜ける。
「つまり俺は、クビってことだろ」
「ああ。今日限りで、お前はパーティーから追放だ」
ガイルが、はっきりと宣告した。
ざわ……と、周囲がざわめく。
「追放だってよ」「勇者パーティーから?」「あの地味な補助のやつだろ」
好き勝手な声が耳に入ってくる。
誰かがクスクスと笑い、誰かが同情するように眉をひそめた。
(……ああ、これが“現実”か)
ギルドの空気が、急に重たく感じられた。
「……悪かったな」
沈黙を破ったのは、自分の声だった。
「今まで、迷惑かけて」
「お、おいおい。そこで謝るのかよ、お前」
ガイルが呆れたように笑う。
「ほんと、最後まで“いい人”だな。だからダメなんだっての」
「ガイル」
エリアスが小さくたしなめるが、ガイルは肩をすくめるだけだった。
「別にいいだろ。どうせ、こいつとはもう二度と会わねえ。なあ、ルイ」
「……そうだな」
ギィッ、と椅子を引く音がやけに響く。
立ち上がり、テーブルの上に置いてあったパーティー共用のギルドカードを外す。
長年一緒だった、その“証”を、エリアスの前にそっと差し出した。
「これ、返すよ」
「……ああ」
エリアスはそれを受け取り、ほんの少しだけ、寂しそうに目を細めた。
「ルイ。また、どこかで――」
「もういい」
その先を聞きたくなくて、言葉をさえぎる。
「そういうの、今言われても困るからさ」
笑ったつもりだったが、きっとひどく引きつった顔をしていたに違いない。
視線を合わせないようにして、俺はギルドの入口へ向かう。
コツ、コツ、と床を踏みしめる音だけが、妙に耳に残った。
誰も、引き止めない。
それが何より、わかりやすい答えだった。
扉の前で立ち止まり、最後に一度だけ振り返る。
そこには、勇者パーティーの面々がいた。
世界を救うと称えられた英雄たち。
そして、そこに俺の居場所は、もうどこにもなかった。
ガチャ、と取っ手を回す。
昼下がりの眩しい光が、容赦なく差し込んできた。
バタン。
背中で扉の閉まる音を聞いた瞬間、張りつめていたものがぷつりと切れた気がした。
「……はは」
思わず、乾いた笑いがこぼれる。
「何だよ。終わってみれば、こんなもんか」
肩から、ずしりとのしかかっていた“勇者パーティーの一員”という重みが、するりと落ちていく。
ゆっくりと、胸ポケットから自分のステータスカードを取り出した。
――名前:ルイ・アーデン
――職業:補助魔法使い
――固有スキル:《コピー》
「《コピー》、ね」
誰からも馬鹿にされ、役立たずと笑われたスキル。
「見たスキルを、しょぼい威力で真似できるだけ、か」
自嘲気味に呟いてから、ふっと息を吐く。
「……まあ、いいか」
さっきまで胸を締めつけていた痛みが、少しだけ和らいでいることに気づく。
「どうせ役立たずなんだ。だったら、もう誰かの期待に縛られる必要もない」
誰かのために強くならなきゃいけない――そんな呪いみたいな義務感から、ようやく解き放たれたような気がした。
「どこか、誰も俺のことを知らない場所に行って……」
そこで、静かに、ひっそりと生きていけばいい。
ふと、ギルドの掲示板に貼られていた一枚の紙を思い出す。
『【急募】 辺境の小村での居住者兼雑用係
魔物は少なめ。のんびりとした暮らしができます。食事付き・寝床付き』
王都から地図の端まで離れた、誰も知らないような小さな村の名前が、そこには書かれていた。
「……辺境の村、か」
口の中で転がすように呟く。
「のんびりした暮らし、ね。悪くないかもな」
空を見上げると、そこには雲ひとつない青が広がっていた。
勇者パーティーとして歩くはずだった道は、さっき閉じた扉の向こうに消えた。
けれど、その代わりに――何も決まっていない、まっさらな道が目の前に伸びている。
「よし」
ステータスカードを握りしめ、歩き出す。
“追放された補助魔法使い”として。
そしてまだ誰も知らない、“世界でただ一人の《コピー》持ち”として。
この時の俺は、まだ想像もしていなかった。
自分が向かうその辺境の村が、やがて王国中を巻き込む騒動の中心になることも――
俺の《コピー》が、“世界唯一のチート”として恐れられる日が来ることも。
(第1話 了)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第1話では、ルイが勇者パーティーから追放される場面までを書きました。
次回は、彼が向かう「辺境の村」での出会いと、《コピー》スキルの最初の活躍を描く予定です。
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