見事な土下座
「今日の探索が終わったんだけど、ドロップ品の鑑定をしてもらえる?」
探索が終わってダンジョンから出る。アンドリューに話しかけられないようにすぐに探索を切り上げたせいで、今日は前回ほどたくさん獲物が狩れなかった。
いつも通りルースの受付の場所へ向かうと、彼はなぜか嫌そうな顔でこっちを見た。
「うわ。また来たよ。」
失礼な。私達はちゃんとダンジョンで探索を終えて、ドロップ品を集めて来たというのに。その言い草はないだろう。
「今回はそんなにたくさん獲物を狩らなかったから、すぐに鑑定は終わると思うよ。」
ちなみに、ボス部屋は一度攻略したらもう攻略する必要はないそうで、素通りして二階層へと向かった。二階層の魔物も一階層の魔物とあまり変わらなかったため、マイリンだけで倒せてしまった。
確かこの前、S級冒険者だと言っていた気がする。道理で強い訳だ。
(私もいつか、マイリンみたいに強くなりたいなぁ)
彼女みたいに剣を見事に使うことができたら、きっとかっこいいだろう。
まぁ、私も戦えないわけではない。竜のような炎魔法が使える。だが調整が難しい上に目立ってしまうため、人がいる場所ではあまり使いたくない。そんな理由があるため、そのうち剣を覚えようと思っているのだ。
(そう言えば、そろそろ魔剣に魔力を注がないとな。)
最初のダンジョンで拾った魔剣は小さな刀ぐらいのサイズになったが、これだけではまだ小さいだろう。もっと魔力を注いで立派な剣を育てようと思っている。
そんなことを考えていると、ルースが鑑定を終えたのか顔を上げた。
「一体どうなってるの? なんで二階層の魔物をこんなに狩って来たんだよ⁉」
ルースが何やら騒いでいるが、いつものことなので放っておく。
しばらくして鑑定を終えたらしいルースは、一つため息を付く。
「まあ、お前が規格外なのはいつものことか。まだギルドに入って数日なのに、昇格することが決まったからね。いろいろと噂になってるよ。」
「ん? 昇格?」
一体何の話だろうか?
「ほら、この前スモールドラゴンをたくさん集めただろ。そのことでギルド長がお前を昇格させるんだって。」
なるほど。そういう事か。
「今のギルド証を出してくれる? ランクを書き換えるから。」
慌ててギルド証を出す。
彼が水晶のようなものに私のギルド証を乗せると、水晶が半透明になりギルド証がぽちゃんと中に落ちていった。数秒後、再びギルド証が水晶の中から現れる。すると、先ほどまでF級だったギルド証にはⅮ級と書かれていた。
「あれ? 二つも昇格してる⁉」
まさか一気にⅮ級になれるとは思わなかった。目を見開くと、ルースは訝し気に眉を顰めた。
「いや、お前の場合二つも、じゃなくて二つしか、だろ。こいつ、本当に馬鹿なのか? スモールドラゴンを買い叩いたことにも気づいていないみたいだし……」
ん? どういう意味だろうか? なんだか聞き捨てならないようなことを言っていた気がするのだが……
「どういうこと?」
「あ~。なんでもない。……それと、Ⅽ級に上がる時には昇格試験を受けなきゃいけなくなるから、その時はちゃんと別のギルド職員に相談してね。俺に仕事は回さないように。」
(この人……ほんとに仕事が面倒なんだな。)
仕事を減らすために必死なのだろう。
こんな面倒くさがりな人が専属受付だなんて、うちのパーティーは大丈夫なのだろうか?
不安になって来た。
◇◇◇
無事に昇格できたため、アンドリューなんかと出くわさないためにも早く宿に戻ろうと思う。そう思った私は急いでギルドの出口に向かって歩き始めた。
その時、後ろから突然声が掛けられる。
「おい。ちょっといいか。」
振り向くと、そこには厳つい丸坊主のおじさんが立っていた。
「ん? 誰?」
突然話し掛けられたが、知っている人だっただろうか?
「俺は、A級冒険者のバルドというものだ。」
そう言って、彼はギルド証を見せてくれた。
見た目に反して、意外と礼儀正しいようだ。
ここは、私もしっかりと挨拶をするべきだろう。
「こんにちは。ミロウです。ついさっき、Ⅾ級に上がりました。」
そういって私はギルド証を見せる。その途端、彼は眉を顰めた。
「いや、敬語は必要ない。冒険者は全員が対等だからな。それにしても、Ⅾ級? 俺はスモールドラゴンを倒した冒険者と聞いて来たのだが……」
スモールドラゴン? 私が倒したことが噂になってしまったのだろうか。
もしかしたら自分は気づかないうちに目立つことをしてしまっていたのかもしれない。
「確かにスモールドラゴンを売り出したけど……それがどうかしたの?」
スモールドラゴンのことで何かあったのだろうか?
そんなことを考えていると、彼は申し訳なさそうに身をすくめた。
「こんなことを文句言うのは筋違いだとは思うが……スモールドラゴンを安値で売り捌くのはやめてくれないだろうか。」
うん? スモールドラゴンを安値で売り捌く? そんなことをした覚えはないのだが……
首を傾げた私を見て、彼は話を続ける。
「ほら、お前がこの前スモールドラゴンを何十匹もギルドに卸したんだろ? そのせいでスモールドラゴンの在庫が増えて価値が下がってしまってな……稼ぎが減ってしまっているんだ。せめて、一気に大量に売るのはやめて欲しい。」
彼はつるつるの頭をポリポリと掻いて、申し訳なさそうな顔をする。
だが、そんなことを言われても困ってしまう。私としては、ルースに言われた通りに魔物を売っただけなのだ。魔物を安値で売り払っているようなつもりはない。もしかしたら、何か行き違いが起きているのかもしれない。
「ええっと……私は専属の受付に言われた通りに売っただけだから、もしかしたら彼に聞いてみた方がいいかも。」
良く分からないが、こういうのは詳しい人に聞いた方がいいだろう。そう思ってルースを指差すと、彼は少し顔を顰めた。
「あいつは確か……ルースだったか? 確かに新人の受付だが……さすがに魔物の相場を間違えたりはしないと思うのだがな。」
いや、そんなこともないと思う。ルースは驚くほど仕事が雑なのだ。魔物の相場を間違えて変な鑑定をしていてもおかしくない。
「そんなこともないと思うけど……取り敢えず、ルースに話を通してもらうことはできる?」
「ああ、確かにその通りだな。お前に聞くのもお門違いだった。……済まない、迷惑をかけてしまって」
「いや、大丈夫だよ。」
そうして、彼はルースの方に歩いていった。良く分からなかったが、面倒ごとはルースに押し付ければ大丈夫だろう。きっと何とかしてくれるはずだ。
話を終えると、マイリンが興味深そうに近寄って来た。
「ミロウちゃん、あの人になんて言われていたの? 結構話し込んでいたようだけれど。」
「ん? なんだかよく分からなかったけれど、ルースに話を通してもらう事にしたよ。なんか私がとった魔物の相場のことで、気になることがあったみたいで。」
「ああ。そうなのね。びっくりした。叱られているのかと思ったわ。」
「叱られている?」
意外な言葉に首を傾げた。
「ええ。彼は不正を許さない厳格な冒険者だって誰かが言っていたから。まさかミロウちゃんが何かをやらかして、怒られているのかと思ったの。」
なるほど。いい人に見えたが、悪い人には厳しいのか。
「ちなみに、不正ってどういう事を指すの?」
バルドさんはずいぶん私に質問をしてきたが、もしかしたら知らない間に不正をしてしまっていたのかもしれない。少し不安になったので聞いてみた。
「そうねぇ。例えば、別の冒険者たちの戦利品を盗んだりすることとか……受付の人で言うなら、鑑定の結果で嘘をついたり、冒険者達から安いお金でドロップ品なんかを買い叩いたりするようなことね。」
流石にそのようなこと私でもしない。まさか、そんな人のことを騙すようなことをするような人がいる訳ないだろう。私が怒られることはないはずだ。安心安心。
次の日、ギルド受付へ向かったらなぜかルースに謝られた。見事な土下座だった。まさかこっちの世界にも土下座の文化があるとは思わなかった。だが、なんの謝罪なのかが良く分からない。
取り敢えず、これからは真面目に仕事をすると言っていたので謝罪を受け入れることにした。
(結局、何を謝っているのかはよく分からなかったけどね。)




