狩猟祭
「ミロウ様、もう絶対に危ないことはしないでくださいね。分かりましたか?」
収納魔法に足がはまって動けなくなっていた私を助けた後、リリサは驚いたのか涙目になってしまった。
ちなみに、なぜ部屋の中で溺れかけていたのかみっちり質問された。まさか収納魔法の中に足を突っ込んだら抜けなくなっただなんていうわけにはいかなかったので、何とか誤魔化そうとはしたのだが……リリサに睨まれた結果、すぐに白状してしまった。
当然のことに、物凄く怒られてしまった。
これからは収納魔法を使うのを控えた方がいいだろう。
リリサにまた見つかったら大変なので、今度収納魔法の実験をする時は人目につかない場所でやろうと思う。
◇◇◇
次の日、私達はいつも通りダンジョンに四人で潜っていた。
「今日は妙に人が多いけど、何かあったのかな。」
なぜだか分からないが、ダンジョンの中に人が多い。
私たちのパーティーは人ごみを避けるように、岩陰に座り込みながら雑談していた。
「ああ。次の狩猟祭に向けて、ドロップ品を集めているんじゃない?」
「狩猟祭?」
「そう、ダンジョンの中で手に入れた魔石なんかを当主に献上するの。協力するのもありだから、ライバル同士のパーティーでも同盟を組んで魔物を運んだりするのよ。」
他にも魔物の肉の屋台が出たりするらしい。
なるほど、通りで集団行動しているパーティーが多い訳だ。納得がいった。
「そう言えばミロウちゃん、あの『影収納』とやらを使えば、狩猟祭で大活躍できるんじゃない?」
「言われてみればそうかもだけど……別に、狩猟祭で優勝しても何か貰えるわけじゃないんでしょ?」
私はお金にならないことはやらない主義なのだ。それに、この前売り払った魔物約九十匹のお陰で懐はかなり潤っている。正直に言えば、わざわざ狩猟祭で目立つようなことをする必要は全くないのだ。
「今度の狩猟祭は、あまり騒ぎを起こさないようにゆっくりしている予定だよ。」
「ミロウちゃんが騒ぎを起こさないようにする、ね。ちょっと難しそうだと思うのだけれど……」
なんだか私、問題児扱いされていないだろうか。
流石に少しひどいと思う。
「そう言えばミロウちゃんは狩猟祭、誰と一緒に回るの?」
「ん? 絶対に参加しなきゃダメなの?」
「ええ。基本的に強制参加よ。この獣人国で一番重要な行事だもの。普通は二人一組で参加するのよ。」
なるほど、まさか強制参加だとは思わなかった。いろいろ聞いてみたところ、狩猟祭が行われている間はダンジョンに入れないのだそうで、どのパーティーもその前に必死にダンジョンに潜っているのだそうだ。
「ちなみに、マイリンは誰と一緒に参加するの?」
「私? 私は、レアルドと回る約束があるの。」
なるほど。マイリンとレアルドが一緒に回るとは意外だった。二人は知り合いなのだろうか?
そんなことを考えていると、話に割り込むように声が聞こえて来た。
「そんな約束した覚えはないですが?」
慌てて振り向くと、そこには笑顔のままマイリンを睨みつけるレアルドがいた。
いつもの優しそうな微笑みだが、どこか冷ややかな笑い方に見える。どうやら怒っているようだ。レアルドがこんな顔をしているとは珍しい。
「あら。約束したじゃない。……もしかして、忘れちゃった?」
その言葉にレアルドは少し考えこむと、何かを思い出したように小さくため息をついた。
「ああ。もしかしてあのことですか?」
「ええ。覚えていてくれて嬉しいわ。」
マイリンはニコリと微笑む。
なんだかよく分からないが、どうやら二人は一緒に回るらしい。
「うーん。私は誰と一緒に回ろうかなぁ」
考え込んでいると、リリサが私の肩をツンツンと叩いて別の方向を指差した。
「ちなみに、ミロウ様と一緒に回りたそうにこっちを見ている人達がいますけど……?」
そう言われてリリサの視線の先を見ると、遠くからこっちを見ている人が何人かいた。この距離から声を聞き取るなんて、一体誰だろうか。
目を凝らしてみると、そこにいたのはエイスとアンドリューだった。
(ん? ちょっと待って、アンドリュー⁉)
チラチラとこっちを見て来るアンドリューを見て、私は思わず叫び声を上げそうになった。
アンドリューには角を折られそうになった恐ろしい思い出があるので、目を合わせただけで倒れそうになる。
「無理無理。絶対あの二人とは組みたくないよ。」
私はこの前の竜神国のお祭りでエイスに置いて行かれてしまった。一人だけ取り残されてすごく不安だったのだ。結局、エイスはなぜかドラゴンに食われていた。なんでわざわざドラゴンに食われに行ったのかはよく分からなかったが、あんなに心配させるなんて許せない。
そんなことがあったので、正直のところエイスとはあまり組みたくない。
そして、アンドリューとももちろん嫌だ。
この前の角が狙われた事件がかなりのトラウマになってしまっている。
(角、角が折られる……)
現在は変装をしているため角は見えていないが、正直怖い。
今は猫耳になっている角を持ちながらプルプルと震えていると、ネフィアが心配そうに私を見上げて来た。
「あ、あの。大丈夫ですか、お嬢様?」
不安げに上目遣いでこっちを見つめるネフィアは、すごく可愛い。
「ネフィア~。ネフィアは本当に癒しだよ。」
ぎゅーっとネフィアに抱き着くと、彼女は目をぱちくりさせた。
「え、えっと……ありがとうございます?」
なぜ疑問形なのだろうか?
「よし、決めた。私、狩猟祭はネフィアと一緒に回るよ!」
「え? え?」
戸惑っているネフィアが可愛い。
本当に癒される。
「もしかして、ネフィアは私と一緒に回りたくない?」
「へ? ……い、いいぇ。そんなこと、け、決してありません。お嬢様と一緒に回れるなんて、う、嬉しいなぁ……」
震えているネフィアの頭を撫でると、さらにプルプルと震え始めた。
なんだか怖がられている気がするのだが……まあいいか。




