収納恐ろしい……
「へ?」
ギルドの受付にドラゴンを置くと、ルースさんは目を白黒させた。
「これ、たぶんスモールドラゴンという種類の魔物だと思うんだけど、お金に換えることってできる? 売り物になるかわからなくて……」
魔力を吸ってしわしわになってしまっているが売ることができるのか疑問に思っていると、彼はまじまじと私が捕らえた魔物を観察した後、放心状態になってしまった。
「へ??」
「そう言えば、まだたくさん収納してあるんだけど、ここで取り出してもいい?」
(もしお金になりそうだったらたくさん売りたいなぁ)
そんなことを思っていると、慌てて止められてしまった。
「ちょっとストップ! 良く分からないけどストップ!!」
さっきまで黙っていたルースさんが声を出したため、突然のことに驚いてしまう。
「え?どうしたの?」
「あ~。取り敢えず、ギルドの裏口に行こうか。」
そして、手を引っ張られて連行されてしまう。
「えっ! ちょっと待って。なんで私だけ⁉」
ネフィア達三人は連行されていないのに、なぜ私だけ連れていかれるのだろう。
助けを求めるように後ろを振り向いたら、なぜか三人とも呆れたような顔をしていた。やらかしてしまった子供を見るような目でこっちを見るのはやめて欲しい。
手を引っ張られて連れていかれる私を見て、周囲の冒険者達が、野次馬のように集まって来る。物凄く恥ずかしい。なんでこんな目に合わなくてはいけないのか……
ただ魔物を捕まえて来ただけなのになぜだろう……解せぬ。
◇◇◇
ギルドの裏口。
広々とした空間に、大量の魔物が敷き詰める。
そのどれもが、私が昨夜捕まえて来たスモールドラゴンだ。
辺りの良く見える場所で魔物を見ると、意外と数が多いことに気が付いた。集合体恐怖症がある人は恐ろしくて見られないような光景だ。これだけ大量の魔物を目の前に並べられたら怖いだろう。だが、ちゃんと人払いをしてもらったので、他の冒険者たちに見られる心配はなさそうだ。
大量に積みあがった魔物を見て満足していると、ルースが恨みがましい目でこっちを見た。
「最悪だ……仕事が増えた。というか、数が多すぎない?」
「私は、依頼書の通りにたくさん獲物を狩ってきただけだよ? 褒められこそすれ、叱られるいわれはないと思うんだけど?」
「だから、限度というものがあると、言っているでしょ!! 金貨950枚⁉ そんな額出せる訳ないよね⁉」
そう、私の収納の中には、なんと95匹ものスモールドラゴンが入っていたのだ。
たくさん捕まえたけれど、まさかそんな多いとは思っていなかった。
ワォ。自分でもびっくりだよ。
「あ~。取り敢えず、上の人と掛け合って、金貨80枚ぐらい出してもらえないか頼んでみるよ。それ以上はたぶん無理だと思う……」
「でも依頼書には、一匹につき金貨十枚って書いてあるよ? もう少し出してくれてもいいんじゃない?」
それにスモールドラゴンは、結構高級品のはずだ。竜神国でもスモールドラゴンの素材を使ったものは高値で売られていた覚えがある。
「あのね、95匹もいっぺんに狩ってくる冒険者がいると思う?」
笑顔で断られてしまった。
でもそれはちょっと、詐欺じゃないだろうか?
本当は金貨950枚もらえるはずなのに、80枚なんて……
「というかそもそも、どうやってこの数の魔物を運んでるのさ。」
「だから、さっきも説明した通り、昨夜ダンジョンの中で魔物をたくさん倒したから、全部吸収して影収納を使って収納したんだよ?」
「いや、もう最初から全部意味わかんないんだって。そもそも、夜のダンジョンは立ち入り禁止じゃないの⁉ 後、吸収したって何? 『カゲシュウノウ』ってなに?」
どうやらルースは混乱しているようだ。
やっぱり、影収納は驚かれるみたいだ。初めてマイリン達に見せた時もかなり驚いていた。
「そう言えば、普通の収納ってどんな風なんだろう?」
影収納は使い始めたばかりなのだが、普通の収納との違いがいまいち分からない。
そう思っていると、ルースが説明をしてくれた。
「普通の収納はこんなに巨大なものを入れられないし、入れられる数も決まってるよ。それに、そもそも物に付与する物だからね。」
本来、収納とはスキルではなく、バックなどに付与するものだそうだ。
全く知らなかった。
「それに、生き物も入れられる収納っていうのも珍しいよね。」
普通なら、収納はドロップ品や装備品などを入れるのに使うそうだ。
「死骸だから収納できたんじゃない?」
「死骸を入れられる収納袋も聞いたことないけれど?」
そうなのか。
まあ、取り敢えずいろいろと調べてみよう。
◇◇◇
ギルドの探索を終え、ルースに貰ったお金で宿に泊まる。
一気にお金を払ってもらうのは無理だそうなので、分割払いでも良いと言っておいた。
今日は私が宿代を出すことにした。たくさんお金が手に入ったので、しばらくはお金に困ることはないだろう。ちなみに、レアルド達も同じ宿だったみたいだ。時々廊下とかですれ違う。
ベッドの上でぶらぶらしながら、地面を見た。
「せっかくだから影収納に生き物を収納できるか、試してみようかな?」
スキルを発動すると、いつものように地面に黒い影のようなものが現れた。
試しに、爪先を影収納の中に入れてみる。
生き物も中に収納できるのなら、私の足も中に入るはずだ。
その瞬間、黒い影に引っ張られるように中に引きずりこまれる。
「うわっ!!」
慌てて、ベッドの縁を持って落ちないように体を支える。だが、効果は薄い。吸収力が半端じゃないのだ。まるで、生き物に飲み込まれているみたいだ。
(スキルを解除する? いや、でもそれだと足だけ収納される可能性もあるのか……)
足だけ収納されて、真っ二つに切り落とされてしまうことを考えるとぞっとする。
だが、このままだとベッドごと中に引きずり込まれてしまうだろう。
すると、ドアが開いてリリサが中に入って来た。
「ミロウ様、夕食の準備が……って、何をしているんですか!」
影に吸い込まれかけている私を見て、リリサが悲鳴を上げた。
「り、リリサ!! 助けてぇ!!」
涙目になりながら助けを求めると、リリサは慌てて走って来た。
「は、はい。分かりました!!」
リリサが引っ張ってくれたおかげで、私の足はポンッと地面から抜ける。
(あ、危なかった……)
良かった。足を切り落とすようなことにならなくて。
もし、この中に間違えて落ちてしまっていたら外に出られるのだろうか?
影収納の中に一度入れたものは、外から引っ張り出さない限り中身を出すことができない。ボタン一つで便利に出し入れできたりするようなものではないのだ。もしかして、一度入ってしまったら外に出られないのではないだろうか。
(うん。考えないようにしておこう。)
私は首を振って、その恐ろしい想像を振り払った。




