運び屋の仕事
「ドロップ品が落ちていました。」
ネフィアが地面に落ちた一階層ボスのドロップ品(斧のような武器)を摘まみ上げた。
「それじゃあ、そろそろ引き返しましょうか。レドちゃん達はもう探索終えたのかしら?」
「う~ん。分かんないけど、そろそろ帰るころじゃないかな?」
さっき騒がしい声が聞こえていたし、もしかしたらレアルド達が騒いでいるのかもしれない。
「いったん、ギルドに戻ろっか。」
「そうですね。そうしましょう。」
引き返そうと後ろを向いたら、たくさんのドロップ品などを両手で抱えるネフィアに気が付いた。
「ネフィア、その荷物、私が持つよ。」
こんなかわいいネフィアに荷物を持たせるなんて、私の良心が許せなかった。
すると、ネフィアは戸惑ったような視線を私に向けた。
「え? で、でも……私にはこれぐらいしかできませんから。」
「そんなことないよ。ネフィアにはこれ以上ないほど助けられているよ。」
当たり前のことを言っただけのつもりなのだが、ネフィアは訳が分からないとでもいうように首を傾げた。
「私、役に立ってるんですか?」
「うん。当たり前だよ!」
自信満々に言うと、ネフィアは戸惑ったようにおろおろとした。
「でも私、魔物と戦えませんし……荷物もたくさん持てませんし……それに、」
「そんなの関係ないよ。ネフィアはいるだけで癒しになるからね。」
「そうよ、ネフィアちゃん! こういう時は仲間を頼りなさい!」
マイリンも自信満々に頷く。
「じゃあ、荷物を回収するね。」
この前獲得した、スキル《影収納》で荷物を丸ごと飲み込む。
「「「へ⁉」」」
私以外の声が、見事に揃った。
一体どうしたのだろうと思って首を傾げたら、三人は目をぱちぱちさせた。
「ミロウちゃん……今、一体何をしたの?」
「ん? 荷物を『収納』したんだよ。」
昨日、このダンジョンで捕まえた狼みたいな魔物で手に入れた新しいスキルだ。これを使えば、魔物を吸収しなくても済むため、影から物を出し入れできる。ずいぶん便利な能力だ。
「もしかして、収納って珍しい?」
「当たり前でしょう⁉」
マイリンが素っ頓狂な声を上げた。
三人の反応からして、そうなのではないかと思ったが、その通りだったようだ。
「手のひらに収まるぐらいの小さな荷物を収納するならまだしも、ドロップ品を全部まとめて収納なんて、普通ならあり得ないわ!」
「本当に、ミロウ様は規格外ですよね。……まあ、今更ですが。」
あれ? 私、さらに人外認定されてしまったのだろうか?
心の壁を感じる。ちょっと寂しい。
というか、私の影収納の中にはすでに昨夜倒した魔物が山のように積みあがっているのだが、それは言わない方がいいのだろうか? 言ったらいろいろと面倒なことになりそうだったので、黙っていることにした。
「そう言えば、他の冒険者ってどうやってドロップ品を運んでいるんだろう?」
収納なしにダンジョンの外に魔石や素材を運び出すのは、結構大変ではないのだろうか?
「普通なら、運び屋の冒険者を雇ったりするわね。……この国では、奴隷を使うのが主流だけれど」
「奴隷?」
「ええ。この国は、カーレディアといつもいがみ合っていて、国境を閉じたときこっちの国に取り残された人間の奴隷が残っているの。彼らは今も、この国で働かされているのよ。」
マイリンは「ほら、あんな風にね」と言って、ダンジョンの隅にいる冒険者たちを軽く指差した。
四人組のパーティーだろうか。三人で、一人の冒険者を囲んでいる。かなり雰囲気は悪く、その空気は張り詰めていた。
「おい、さっさと魔物を運べ!! お前はそれぐらいしか役に立たないだろ⁉」
「う、う……」
十五、六歳だろうか。足に鎖を繋がれた少年が、自分よりも体の大きな魔物を運んでいる。
私はその様子を見て、顔を顰めた。
「あの人たち、何してるんだろう?」
「奴隷に荷物を運ばせているのよ。普通の荷物持ちを雇うより奴隷を買った方が安く済むからね。」
マイリンは苦虫でも嚙み潰したような表情を浮かべた。
「こういう時って、助けた方がいいのかな?」
「いえ。あまり関わらない方がいいわよ。変に助けようとすると、逆に彼の立場が悪くなるから。」
なるほど。そういう事もあるのか。
可哀そうだが、放っておくことにした。
心の中で謝って、彼が無事に生きられるように祈る。
去り際、不思議そうに彼を見つめるリリサが目に入った。
「リリサ、どうかした?」
「いえ……あの人の顔、どこかで見たことがある気がしまして……」
あの子、リリサの知り合いだったのだろうか?
でも、リリサは確か獣人国へ来るのが初めてだと言っていた。だとしたら、一体どこで会ったのだろうか?
私は首を傾げた。
◇◇◇
「なんで、俺がこんな目に合わなくてはならないんだ……」
荷物を背負いながら、思わず悪態をつく。
どうして一国の王子がこんな必死に仕事をしなきゃいけないんだよ。
少し前までは王宮で美味しい食事を食べながら本でも読んで過ごしてたのに……
すると、パーティーメンバーの一人に背中を蹴りつけられる。
「何ぶつぶつひとりごと言ってやがる! さっきからうるせえよ! とっとと働け!」
彼――ゲイドはこのパーティーのリーダーで、働かないとすぐに暴力を振るってくる。腹を蹴られたり顔を殴られるのはまだいいが、ひどい時だと頭を踏みつけられたり、攻撃魔法を撃たれることだってある。
だが、しっかりと働かないとまた奴隷商人に売り払われてしまう。あそこでは奴隷を生き物として扱っていない。またあそこに連れ戻されるぐらいなら、命令を聞いて大人しくしていた方がマシだ。
「……はい。分かりました。」
巨大な虫の魔物を持ち上げて、再び歩き始める。
だが、すぐによろけて地面に倒れてしまった。
すると、このパーティーの魔法使いであるリュナが、俺の頭を踏みつけてきた。
「ねぇ、やっぱりこいつ、いらないわよ。早く捨ててこない?」
「どうせなら、今ここで追っ払った方がいいんじゃないか? ここなら、後片付けも楽で済むぜ。」
その言葉に、血の気が失せるのを感じた。
まさか、魔物の餌にでもするつもりだろうか?
魔物に食われることを想像して、体が震える。
「いや、ちゃんと奴隷商に売った方がいい。これでも一応、銀貨三枚で買った奴隷なんだ。その辺に野放しにするのは金の無駄だ。」
「そうかしら。まあ、ゲイドがそう言うなら、そうするわ。」
「ああ。俺達はお前に従うよ。」
「良かったな、お前。命拾いして。」
彼らは、温情をかけてやったように俺を見下しながら、薄く笑った。
恐らく、この探索が終わったら、俺はまた奴隷商人に売り払われるのだろう。
本当に、なんでこんなことになったんだろうか。
悪いのは、兵士の命を無駄にした父上。そして、勝手にダンジョンに突っ込んでいったドラクマゴナ。俺にこんな役割を押し付けている兄弟達も、同じぐらい許せない。シリング兄上だって、獣人国に行きたくなかったからか、逃げるようにカーレディアの魔法学園へ留学していった。
だけどやっぱり一番許せないのは。
「レアルドだ。……全部、レアルドのせいだ。」
そもそも、あいつがダンジョンの中に入って行かなければ、ドラクマゴナが捕まることもなかったし、俺がこんな目に合うこともなかったのに。
悔しさのあまり唇を噛む。傷口がじくじくと痛み、口の中から血の味がした。




