ダンジョンの中でピクニック!
「うわああぁ! この子、可愛いわ。すっごくかわいい!!」
視界の端で、マイリンがネフィアの頬に頬ずりをしている。
「ひ、ひぇ!! な、なんですかぁ!!!」
ネフィアはプルプルと小刻みに震えていて、さらには涙目になっている。
(なるほど。マイリンがネフィアを同じパーティーにしたがっていたのは可愛いからか……)
まぁ、分からないわけではない。ネフィアは実際、小動物のようで物凄く可愛いのだ。私も時々撫でたくなる衝動を抑えきれず、なでなでしてしまう。
「はぁ。ほんっとうに可愛い。うちの子にしちゃいたいぐらいよ~。」
マイリンはそう言いながら、ネフィアを戦利品のように小脇に抱えて歩いていく。
ちなみに、マイリンはもう一方の手で剣を振り回しているため、時々ネフィアに返り血が少しかかってしまっている。そのたびにネフィアが震えながら叫ぶので、何度か通りすがりのパーティー達が恐る恐るこっちの様子を窺っている。
だが、ダンジョンの中で周りの様子なんて気にしているような余裕はない。
ちょっと視線が集まるぐらい問題ないので、どんどん先に進んで行く。
「あれ、そう言えばミロウ様、今日はあまり魔物を倒さないのですね?」
「うん。私が倒そうとすると、全部消えちゃうからね。お金にならないし。」
ギルドの講習によれば、魔物を倒した時に一番お金になるのは毛皮などの素材だ。しかし、スキル『魔物摂り込み』は魔物をすべて吸収してしまうため、骨しか残らない。それでも買ってくれる物好きな収集家はいるそうだが、お金になるかと言えば微妙だそうだ。つまり、少しでもたくさんお金を手に入れるためにも、マイリンに魔物を叩き斬ってもらった方が効率が良いのだ。
探索はすっごく順調に進んだ。
マイリンさんが出て来る魔物を真っ二つに切っていくおかげで、戦えないリリサも無事に進むことができた。
しばらくして、昼になったので休憩を挟むことにした。
近くの切り株に座り込んで、みんなで食事を食べる。
「リリサ~! そこのパン取って~。」
「はぁ~い。分かりましたぁ」
このパンは、この前行ってきたレストランみたいな場所で売っていたらしい。見た目はサンドイッチみたいだ。
有能なメイドであるリリサが、予め買っておいてくれたそうだ。
「ネフィアもどうぞ。」
すみっこで座っているネフィアにサンドイッチを手渡すと、彼女は戸惑ったような表情を浮かべた。
「えっ? 私も……食べていいのですか?」
「何言ってるの? いいに決まっているでしょ!」
ネフィアは成長期なんだし、たくさん食べた方がいいだろう。私はネフィアの口に、サンドイッチを突っ込む。
「ふぇ!」
突然口の中にサンドイッチが入れられたネフィアは、びっくりしたように目を見開いた。
「どう? 美味しい?」
「おいひぃ、です。」
ネフィアの顔がキラキラと輝いた。
「私が作ったんですよ。美味しいに決まってるじゃないですか!」
リリサは自信満々に胸を張る。
ん? 確か買って来たって言っていなかっただろうか?
(まあ、あまり聞かないでおいてあげよう。)
ドヤ顔をしながら「お義姉ちゃんと呼んでくれてもいいんですからね」と言っているリリサに、わざわざ聞くのは野暮だと思い、気づかなかったことにしてあげた。
◇◇◇
「じゃあそろそろ、ボス部屋に入るわよ!」
マイリンは重厚な扉の前で立ち止まって、私たちの方を見た。
(おお! もう入るのか!)
『ボス部屋』という言葉に、私のテンションが少し上がった。
ボス部屋とは、各階層にある小さな部屋で、その中にいるボスを倒すことで次の階層に進める。
ちなみに、一度倒したら次からはその部屋ではボスと戦わなくて済むそうだ。
そして、このボス部屋に一度に入れる人数が六人以下なのだ。だからこそ、パーティーを組むときは六人より少なくないといけない。
「ボスは倒したら消滅するから、思いっきり倒しちゃっていいわよ。素材は手に入らないからいくら傷がついても大丈夫だもの。」
マイリンの言葉に、私ははっとした。
そうなると、私がスキルで吸収しちゃってもいいという事か。
今日はあまり役に立っていないから、今こそ本気で頑張るところじゃないだろうか?
少しだけ気合を入れ直す。
《冒険者三名、確認しました。ただいまよりボス討伐戦が始まります。》
ボス部屋に入ると、無機質な機械音が鳴り響いた。
その音声を聞いて、私は少し違和感を覚えた。
(って、あれ? 転生してからしばらくダンジョンにいたけど、こんな音声聞いたことないよ?というか今、冒険者三名って言ってたよね? 四人いるはずなのに?)
そう言えば、私はダンジョンの中でも好きに移動できる。
何なら、前のダンジョンでは最下層まで良く遊びに行っていた。だが、今まで一度もボス部屋なんかに入ったことはない。ボスを倒さなくても、階層を自由に移動できていた。
そう考えたところで、私は一つの可能性に思い至った。
「まさか私、プレイヤーじゃなくて魔物とカウントされている?」
(ガーン!)
そんなはずはない、と思ったが、そう考えればすべての辻褄が合ってしまう。
あまりの事実に、軽いショックを受ける。流石にその可能性には思い至らなかった。確かに人っぽくない角も羽も生えているけど、魔物だと思われているだなんてひどすぎる。
「私、魔物じゃないのにぃ~!!!!」
八つ当たりのように、目の前に出て来た牛なのか人なのか良く分からない魔物を吸収して、魔力ごと溶かす。魔物は「ぎィぇえええええ」と変な音を出して消滅していった。
「ミロウちゃん、その言葉、魔物をぼっこぼこにしながらいうセリフじゃないと思うけど……」
引いたような視線を送るのやめて! 心が、傷つくから……
ネフィアもプルプルと震えている。
そんな中、私がいつも魔物を吸収するのを見ているリリサは、一人だけ平静を保っていた。
流石にリリサは、私が魔物なんて思っていないはずだ。
最後の期待を込めてリリサを見つめると、彼女は困ったような表情を浮かべた後、ニコリと笑って、言った。
「すごいですね、ミロウ様! まさか一瞬で魔物を倒してしまうなんて! ここまでくると、ミロウ様が本当に人間なのか怪しくなってきましたね……」
「ひどい! リリサまで⁉」
みんなして私を人外扱いするのはやめて欲しい。私、人間なのに!
あまりの扱いに、私はかなりのショックを受けた。




