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なんやかんやで仲が良い二人

「俺も……ミロウ様と同じパーティーが良かった……」


 さっきのパーティー決めの時に言わなかったことを後悔するが、時すでに遅い。すでにミロウ様は他の三人と一緒にパーティーを組み、一足先にダンジョンに潜って行ってしまった。


 苛立ちをぶつける様に前から襲い掛かって来た魔物を三体、剣で真っ二つに切り、魔石を回収する。


「お前なんてまだいい方だろう。俺なんて、ミロウに話しかけることすらリリサに禁止されて、ギルドの外から中を眺めていることしかできなかったんからな」


 アンドリューが俺を睨んだが、それは仕方ないだろう。


 なんでもこいつは、あろうことかミロウ様に角を寄越せと言ったらしいからな。ミロウ様はすっかり怖がってしまったようで、アンドリューを見るたびに逃げ出しかねないそうだ。


「それにしても、さっきの会話は笑えたな。お前、ミロウの前でだけあんな敬語になるのか。猫を被りすぎじゃないのか? 聞きながら笑うのを堪えていたぞ」


 アンドリューが茶化したように笑う。


「黙れ。斬られたいのか?」

 短剣を片手に魔力を軽く飛ばして威嚇すると、アンドリューはむしろ愉しそうに笑った。


「はは。それは怖いな。……お前の今の顔をミロウにも見せてやりたいよ」

 たぶん驚いて腰を抜かすぞ、と付け加える。


「うるさい。黙れ」


「さっきから『黙れ』しか言ってこないな。ずいぶん言葉のレパートリーが少ないんじゃないのか?」


「だま……」

 そう言おうとして、口を噤む。

 こいつと話していると本当にイライラしてくる。

 思わず、手に持った魔石を粉々に砕いてしまった。


「まぁまあ。いったん落ち着いて話をしないか、レアルド?」


 さっきまでさんざん俺を苛つかせるようなことを言ってきたくせに、一体何を言い出すんだか。

「本当に、お前は何を考えているのか分からない。」


「それはそっちも同じだろ? ……それで、マイリンとどんな取引をしていたんだ?」

 突然言われた言葉に、思わず動揺した。指先がピクリと動いてしまう。


「……なんでお前がそれを知ってる?」


 すると、アンドリューはわざとらしく驚いたような表情を浮かべた。

「驚いたな。まぐれで言っただけだが、あっていたのか。」


「おい、ふざけるなよ。まぐれで当たるわけがないだろ。」

 まず初めに考えたのは、昨夜の会話を聞いていたのではないかという可能性。

 だが、気配はなかった。しっかりと確認したはずだ。


「いや、本当にただの当てずっぽうだよ。お前はマイリンのことを信用していなかっただろ? それなのにミロウとパーティーを組むことに反対をしなかったということは、何かあったのかと考えるのが妥当だろ?」

 本当に痛いところを付いて来る。


「はぁ。なんでお前はそんなに勘が鋭いんだか。」

「悪かったね。それで、どうなんだ?」

(こいつ、今日はやけにしつこいな……)


「別に、言わないならそれで構わないが、その場合、お前が普段どれだけ猫を被っているのかミロウに言うことになるな。」


「……脅しているのか?」


「いや、別に脅している訳じゃないぞ。言いたくないなら言わなければいいんじゃないか?」


 頭の中で舌打ちをする。


「殺しを手伝ってくれ、と言われた」

 それを聞いて、アンドリューの口が愉しげに弧を描いた。


「へぇ。それは随分面倒だな。なんでそんな取引に応じたんだ?」


(さあな……自分でも分からない。)

 興味深そうに俺の顔を覗き込むアンドリューを無視して、マイリンの言葉を思い出していた。




 ◇◇◇




『殺したい人がいるの』

 息が詰まるような緊張感が、部屋に染みつくように広がった。

 その空気を流すように、窓にかかった薄いカーテンが音を立てて揺れる。


『私怨か?』

『ええ。さらに言うなら……復讐ね。』

 その言葉に、俺は違和感を覚えた。


『それなら、なぜ俺に協力を求める? 』

 復讐なら、普通自分でやるものだろう。それに、わざわざ俺に頼む理由も分からない。


『ただの気まぐれよ。それに、あなたに頼みたいのは復讐じゃなくて、その後のこと。』

『後始末でも押し付ける気か?』


『違うわよ。……まあ、詳しい話はその時にするわね。』

 結局何も情報を掴ませないつもりか。


『それで、お前が殺したいのは誰だ?』

 マイリンは一つ息を吸うと、決意を固めるように手を固く握った。


『私の父親。 ランドレイ=ビーストダリア』

 ビーストダリアは獣人国の正式名称。そしてその名前を持っているのは、獣人国の当主だけだ。


『つまりお前は、獣人国の当主の娘ということか?』


『ええ。一応……そういう事になるわね。』

 マイリンは気鬱そうな声で言った。


『本当は物凄い強い化け物がいるって噂を聞いて、彼女に頼むつもりだったのだけれど……すごくいい子だったから私のつまらない復讐劇に巻き込みたくないと思ったの。』


『で、俺なら巻き込んでもいいと思ったわけか。』

『そういうつもりでもなかったんだけれど……取り合えず、協力してくれるかしら?』


『……ああ、構わない。だがその前に教えろ。なんで俺に取引を持ち掛けた?』


『さっきも言った通り、ただの気まぐれよ。でも……あなたは、私と同類だと思ったから。』

 マイリンはそれだけ言うと、音も立てずに部屋を出て行った。



 ◇◇◇



(同類、ね)


 今思い返しても、なんで協力しようと思ったのか分からない。ただ――

「強いて言うなら、あいつの生き方が俺と似ていたからかな。」


 俺も、家族を自分の手で殺した。


 地面に突き落とした後、短剣を投げつけた。狙いを外したとは思えないし、悲鳴が聞こえてきたことからして、恐らくあいつはもうこの世にはいないのだろう。


 ドラクマゴナのことを思い出して、いつの間にか手が震えていた。


(俺は本当に弱いな。)

 ミロウ様のために生きると決めて、それからずっと思い出さないようにしていたのに、ふと頭をよぎってしまう。


「ふ~ん。なるほどな。」

 アンドリューは良く分からないような曖昧な返事をした。


「まあ取り合えず、早く逃げた方がいいんじゃないか?」


「は?」


「さっきから魔物に囲まれているぞ?」

 その言葉に、慌てて後ろを見る。

 数十体の魔物がこっちを睨んでいた。


「早く言え!!!!」


 ダンジョンの中で、レアルドの怒鳴り声とアンドリューの楽しそうな笑い声が響いていた。




 ◇◇◇




 アンドリューとレアルドが喧嘩をしている数歩後ろで、エイスとブラウスがどこか疲れたような顔で歩いていた。


 ちなみに、彼らの方に魔物が寄ってこないのはエイスの結界のおかげである。彼は攻撃魔法がほとんど使えないが、その分結界を張るのだけは得意だ。だてに百年も結界を張り続けていない。


 恐らく結界の強度だけなら世界のトップレベルだが、本人はそんなこと気づいていない。


「あいつらは……なんの喧嘩をしているんだ?」


「さぁ。……恐ろしいから聞きたくもないが。」

 エイスの結界は周囲の物や音などを完全に遮断するので、外で何やら喚いている二人の声は聞こえない。

 だが、彼らが吹き飛ばした魔物やら何やらがこっちに飛んでくるため、そこはまるで地獄絵図のようだった。


「まあ、こういう状況には慣れている。」


 エイスは、いつもミロウが魔物を吹き飛ばしていくのをよく見てるため、少し遠い目をしながらもいつも通りの疲れた顔を浮かべていた。普通の人間ならば、彼らがさっきから飛ばしている魔力圧だけで気絶しているだろう。


「俺もだ。周りの奴らが怪物みたいだからな。」

 ブラウスもブラウスで、いつも怪物のような同僚たちが魔物を切り刻んでいく様子を日常的に見ているので、こういう状況に慣れてしまっていた。


「お互いに、いろいろ大変だな。」

「ああ、そうだな。」

 二人は、同じ苦労を分かち合った。

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