チーム決め
「ミロウ様、あっという間にどこかへ行ってしまいましたね。」
脱兎のごとく走って逃げて行ったミロウ様を見て、思わず茫然としてしまう。
横で、エイスがアンドリューのことを睨みつけた。
「おい、お前がミロウを怖がらせたせいだろ。」
だが、アンドリューはむしろ楽しそうににこっと笑う。これはいつものことだ。アンドリューは基本的に飄々としていて良く分からない。掴みどころのない性格をしていると言ってもいいだろう。
「ふふ。ミロウは本当に面白いね。観察していて飽きないよ。」
その言葉に、エイスのアンドリューを睨む目がさらに鋭くなる。
「おい。お前は何がしたい? ミロウを怖がらせて、どういうつもりだ?」
「さあね。どういうつもりだと思う?」
アンドリューはこてんと首を傾げる。仕草はまるで子供のようだが、その瞳は相手の内心まで見透かしそうな底知れなさを感じる。前々から思っていたが、アンドリューはかなり不気味だ。
だが正直、今はそんなことどうでもいい。もっと重要なことがあるだろう。
「そんな議論は後にして、今はどうやって今晩の寒さをしのぎ切るかじゃないですか? 正直もう、寒くて凍え死にそうなんですが……」
そう、今晩の寒さは異常だ。このまま野宿なんて言われたら、私は倒れる自信がある。
アンドリューはS級冒険者だと聞いているから、そこそこのお金は持っているのではないかと思ったが、そんな期待は早々にして打ち砕かれる。
「う~ん。残念だけれど、俺は今一文無しだよ。ミロウに有り金全部預けてあるからね。」
な、何をやっているんですか?
ミロウ様に、預けた?
嘘……
まさか今夜は本当に野宿コース?
「ぎゃああ! 野宿はヤダ! 野宿はヤダ!!」
頭を抱えると、後ろからつまらなそうな声が聞こえて来た。
「おい、何を騒いでいる?」
まさか、その声は……
慌てて顔を上げると、そこには見覚えのある金髪の男が立っていた。
なんだか彼の後ろに、後光が差しているように見える。竜神国の時に置いて行かれたことがあったが、もうこの際それはいい。水に流そう。やばい、拝みたくなってきた。ミロウ様に教えてもらった頼みごとをするときの究極の方法、土下座を使う。
「お金、貸してください。」
「はぁ?」
彼――レアルドは訝し気な表情で私を睨んだ。
◇◇◇
冒険者ギルドの入り口まで向かうと、門の前に目立つ銀髪の髪が目に入った。
「エイス! 良かった、見つかって。」
走って向かって行くと、いつも通り呆れたような顔をしたエイスが立っていた。
「全く。昨日は急にどっか走っていくから心配したぞ。」
エイスは不安そうに私の顔を覗き込んだ。
アンドリューが怖くて逃げていただけなのに、エイスは心配のしすぎだ。
「それで、その子供は誰だ?」
私の後ろに隠れているネフィアを見て、エイスは首を傾げた。
「ん? ああ、さっき拾ったんだよ。」
「おい、犬でも拾ったかのように言うのはやめろ!! まさか、誘拐でもしてきたんじゃないだろうな……」
「人聞きの悪いなぁ。 そんな訳ないでしょ。」
なんでそんな疑いの目で私を見て来るのだろうか。流石にそんなことしないよ?
ほら、そんなこと言うからネフィアだって震えているでしょ。
可哀そうだったので頭を撫でてあげていたら、心なしか震えが激しくなった気がする。
一体なぜだろうか?
「そう言えば、昨日は私が逃げた後、どうしてたの?」
「どうしたって……普通に宿に泊まって一晩寝ていたが。」
あれ? ちょっと待って? 宿?
「え? お金は……」
宿に泊まるお金なんて、持っていたのだろうか?
首を傾げていると、エイスは後ろを指差した。
「ほら、あいつが貸してくれた。」
貸してくれたって……まさかあの、借金取りマッドサイエンティスト?
角を折ってもいいかと言われた時のあの恐ろしさを思い出して、背筋が凍る。
だが、そこにいたのは黒髪の男ではなく、見覚えのある金髪の少年だった。
「あ! お久しぶりです、ミロウさん!」
「もしかして……レアルド?」
懐かしい。いつぶりだろうか。竜神国で別れて以来会っていない。
「ええ。再会することができて光栄です。」
「うん。本当に良かった! 」
全然会えないから、一体どこにいるんだろうと思っていた。
そういえば、私が獣人国でやりたいことの一つがレアルドを探すことだった。
(まさか、こんな簡単に見つかるとは思わなかったね……)
まあ、レアルドは冒険者なのだから、よく考えたら冒険者ギルドにいるのは当たり前だった。なんで気づかなかったんだろう、私。
「あの、お願いがあるのですが、僕もパーティーに入れて貰うことはできないでしょうか?」
「レアルドもうちのパーティーに入りたいの?」
結構意外だった。レアルドは前までソロの冒険者だったそうだし、あまりパーティーを組むのが好きではないのだと思っていた。
「はい、ぜひ。構いませんか?」
「うん。もちろんだよ。人数多い方が探索もはかどりそうだし。」
◇◇◇
しばらくしてマイリンとブラウスたちとも合流したので、みんなでギルドの受付場所に並ぶ。
まだ朝早いが結構人が集まっていて、順番待ちに時間がかかりそうだ。
数分後、ようやく順番が回って来た。
登録をした冒険者ギルドのカードを持ち、受付の人のところまで行く。
座っていたのは茶髪の髪の、少年のような見た目の人だった。
(この人は確か、最初にギルドに来た時に話しかけて来た人だったかな?)
あれ? 今日は前回と違って職員さんの服を着てる。この人、職員だったんだ……
「久しぶりだね。」
彼はへらへらと笑うと、不思議そうに私の頭を見た。
「あれ、今日はなんで角がついていないの?」
こっそりと小声で話しかけられる。
やっぱり不信に思われたか。だが大丈夫、今日はそこも抜かりない。
「あれ? 角なんてついてたっけ? 見間違えじゃない?」
そう、今日の私はそこら辺の対策はばっちりだ。ちゃんと角を偽装して猫耳にしている。変身魔法はかなり上手くなった自信があるので、そう簡単にはバレないだろう。
私の完璧な誤魔化しに対して、彼は怪訝そうな顔を浮かべた。
「まあいいけど。それで、今日は何の用? ずいぶん大所帯だけど……」
「……ダンジョンに潜る依頼を受けようと思って。」
それを聞いて、彼はきょとんと首を傾げた。
「ちょっと待ってよ。その人数じゃダンジョンには入れないよ?」
「へ?」
どうやらダンジョンに入るには人数制限があるらしい。
「まだしっかり講習を受けてないでしょ? 先にギルドについていろいろ説明させてもらうけど、大丈夫?」
なるほど。講習なんてものがあったのか。全く知らなかった。
ここはきっちりと聞いて置いた方がいいだろう。
「うん。分かったよ。よろしくね。」
講習ちょっとめんどくさそうという気持ちを胸の奥にしまって、きっちりとギルドについて勉強させてもらうことにした。
講習は、本を渡されて説明されるような簡単なものだった。
ちなみに、冒険者のルールについて知らないのは私とエイスだけだったようだ。レアルド達やリリサは元冒険者だからともかく、マイリンやブラウスまで知っているとは……二人は冒険者だったのだろうか?
そして、私はなぜかこっちの世界の言葉が読めるようだ。転生特典的みたいなもの?……でも、なぜかこの文字見覚えがあるんだよね。う~ん。なんでだろう。
「ちょっと、聞いてる?」
うわっ! ぼーっとしていて全然聞いていなかった。
「聞かないならここら辺で切り上げるけど。……こっちの人も聞く気がないらしいし。」
そう言って彼は、私の隣に座ったエイスを見た。
エイスは勉強が苦手なのが、机の上に突っ伏している。エイスは頭が良さそうに見えるのに、全くそんなことはなかった。むしろ、すでに説明を聞くのを諦めてしまっている。
すると突然、ギルドの職員さんはイライラした目でエイスを睨み、その頭に拳骨を落とした。エイスは飛び起きて頭を摩る。エイスが痛がっている所なんて初めて見た。
(うわぁ。怖い……)
叩かれたくないので、今度はしっかりと説明を聞き直すことにした。
前に聞いた通り、冒険者は階級が分かれていて、一番下からF、E、D……と上がっていき、一番上がS級。ちなみに一番上まで上がると、自分の持ち物に紋章みたいなものを刻んでもらえるという変なサービスがあるらしい。
さらに、パーティーを組む時は三人から六人という縛りがあり、私たちは、エイス、リリサ、ネフィア、マイリン、ブラウス、レアルドと私で七人なので、ギリギリ人数オーバーでパーティーが組めない。
数時間後、ようやくギルドの説明を全部聞き終わった。
まさかこんなに時間がかかるとは思わなかった。
やっとパーティー決めができる。
「よし。じゃあ早速、二手に分かれよう。」
すると、リリサがわくわくした顔を浮かべた。
「どうやって分けますか?」
「う~ん。どうしよう。」
悩んでいると、マイリンがキラキラした目で私を見た。
「私、ミロウちゃんと同じパーティーがいいわ!」
「ほんとに⁉ じゃあ一緒に組もう!」
マイリンは優しそうな人だし、一緒に組めてすごく嬉しい。それに、彼女からパーティーに誘われたのだから、組まないのは申し訳ない。
そんなことを考えていると、彼女は私に手を差し出した。
「じゃあよろしくね。……ミロウちゃん?」
「うん。もちろんだよ!」
マイリンと手を握っていると、リリサが寂しそうにもう一方の手を掴んだ。
「う、羨ましいです。私もミロウ様と組みたいです……」
「それはいいけど……リリサは戦えるの?」
リリサが戦っている姿を見たことがない。というか、魔物にやられている姿しか見たことがない。この前も熊に襲われていたし、大丈夫だろうか?
「わ、私は戦います! 戦えるんです!!」
涙目になっているように見えるのだが……まあ、気にしないであげよう。
「分かったよ。リリサもこっちのパーティーね。」
「え、いいのですか? やったぁ!」
ぴょこぴょこ跳ねて喜んでいるリリサを尻目に、私はメンバーを見回した。
これで、私とリリサ、マイリンが同じパーティー。もう一方のチームはレアルド、エイス、ブラウスさん、そしてネフィアということになるが……
すると、マイリンが不安そうにネフィアを見た。
「ネフィアちゃんはこっちのパーティーに入れてあげましょう? 流石に年上の男三人と同じパーティーに入れられちゃ、可哀そうだもの。」
そうよね、とマイリンが聞くと、ネフィアはおどおどしながら小さく頷いた。
「は、はい。ありがとうございます。」
緊張気味のネフィアを見ながら、マイリンは飄々とした笑みを浮かべる。
「良かったわ。あなたにはいろいろと話したいことがあったのよね。……せっかくだから、後でゆっくりお話をしましょう?」
その言葉に、ネフィアは一瞬で凍り付く。
「あ、私、やっぱり向こうのパーティーの方が……」
そう言って彼女はレアルド達の方へ戻って行こうとするが、一瞬で獲物を捕まえたような目をしたマイリンに肩を掴まれた。
「あら? 遠慮なんてしなくていいのよ。こっちのパーティーに来るといいわ。」
「ひぃ!!」
なんだかネフィアが不憫に見えてきた。
マイリンも、あんなにネフィアを怖がらせなくてもいいのに。
そんなことを考えるミロウは、まさか自分が何度もネフィアを怖がらせているだなんて、思いもしないのであった。




