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ネフィア

 私はずっと、親に捨てられたのだと思っていた。


 まだ目も開いていないごろにダンジョンの中に投げ捨てられて、一人きりでダンジョンの中を彷徨い続けた。その結果、あっけなくドラゴンに食べられて……死んだ。

 あまり考えないようにしていたけれど、必要とされていないと言われたような気がして、ほんの少し怖かった。


 だが、もしかして探してくれているのだろうか。


 本当は捨てられたのではなくて……ただの手違いで、手を滑らせて間違えて落としてしまったのかもしれない。


 ――いや、手を滑らせて子供をダンジョンの中に落とす親もどうかと思うが。


(それに、今更会うのもなぁ……)

 ちょっぴりだけ、会うのが怖い。


 悩んでいると、彼女はすがるようにこっちを見た。

「お、お願いします。……お嬢様は、私の命なんてどうでもいいのですか?」


 そう言って彼女は私の服の袖を掴んだ。黒い瞳にうっすらと涙が浮かぶ。ふるふる震えていて可愛い。

「分かった。じゃあ今度行くね。今日はちょっと無理だけど……」


 確か明日の朝、マイリン達と一緒に冒険者になる約束をしていたのだ。

 さっきの魔物を吸収したおかげで魔力も満ちているし、今日は休みたい。

 それに、いろいろと考える時間も必要だと思ったのだ。


「えっ! い、いえ。私は今すぐお屋敷に戻らないと当主様に処分されて……」

 当主って……ああ、私の親のことか。


「大丈夫だよ。何とかなるって。」

 別にそれぐらいのことで怒ったりしないだろう。たぶん。


「取り合えず、寝る場所でも探そう。」

 辺りを見回すと、洞窟のような場所があった。今日はあそこに泊まろうかなぁ。


「あ、ちょっと待ってください。そっちは――」


 その瞬間、夥しい数の闇で視界が覆われた。

 数秒後、それが魔物のものだと気が付く。


(闇属性の魔物。それも大量に……)


 まさか、さっきのスモールドラゴンのねぐらに迷いこんでしまったのだろうか。


「は、早く逃げましょう!!」

 彼女は慌てて逃げ出す。


「いや、これぐらいなら大丈夫。」

 量が多いが、食べきれなくはないだろう。


 さっき食べた魔物のスキルである『暗視』を使っているので、暗闇の中でも視界がはっきりしている。姿さえ見えれば攻撃もよけられるし、いつものように食べてしまえばいい。


 今持っている魔力を全部開放して、そのまま魔物を飲み込む。

 数十匹の魔物達が地面にバタバタと倒れて行った。


《スキル、影収納を手に入れました。》

 画面にそんな文字が浮かぶ。


 あれ? スキルが増えた。

 さっきの魔物の中に、影収納というスキルを持っているのがいたらしい。

 せっかくだし、倒した魔物を収納しておこう。お金になるかもしれないし。


 影収納というのはその名の通り、闇属性の魔力で出した闇の中にものをしまい込めるようだ。あまり魔物摂りこみと変わらない。魔力をドバっと出していつものように摂りこめば、魔物は跡形もなく消え去った。

「ひぇ。い、今のは……」


「ああ、スキルで収納したんだよ。」

「収納?あ、 あんなたくさん?」


 ああ。確かに結構収納したね。


「美味しかったなぁ。」

 たくさん魔物が食べられて満足だ。


 ニコニコしていると、少女は震えながらパタリと地面に倒れてしまった。

 

 さっきの魔物達が怖かったのだろうか?

 子供だから仕方がない。


 安全な洞窟の中に連れていって、看病をしてあげることにした。




 ◇◇◇




 地上から日の光りがうっすらと入ってくる。

 その光が眩しかったのか、少女はうっすらと目を開けた。


「あれ、起きた? おはよう。」


「お、 おはようございます。えっと……ここはどこですか?」

 彼女は辺りを見回しながら、恐る恐る私に聞いた。


「ああ。洞窟の中だよ。」


 その瞬間、彼女は昨日の魔物を思い出したのか、ビクッと体を強張らせた。

 やっぱり、魔物がトラウマになってしまっただろうか?


「大丈夫だよ。魔物は全部私が倒したから。もう出てこないよ。」

 怖くないよと言いながら慰めるように頭を撫でていると、彼女は何か言いたげな顔をした。


「いえ、怖かったのは魔物じゃなく――」


「え?」

 魔物じゃないなら何だったのだろうか。首を傾げると、彼女は慌てて言葉を止めた。


「あ、いえ。なんでもありません。」


 ふむ。なんだったのだろうか。


「体調は戻った? 起き上がれる?」

「は、はい。何とか。」


 もう体力が回復したようだ。すごい。


「じゃあ早速、外に出ようか。」

 こんな暗い場所にずっといるのも体に悪い。そう思ったのだが、彼女は不安そうに体を強張らせた。


「そ、外に、ですか?」


(あれ?どうしたのかな?)

 首を傾げていると、彼女は俯いて地面を見た。


「私、奴隷なので昼間は外を出歩けないのです。」


「奴隷?」

「はい。ですから、ご主人様の命令に従って早く帰らなくてはなりません。」


 ふむ。ご主人様というのが誰だかは知らないが、それは大変だ。

「逃げればいいんじゃない?」


「無理ですよ。人間が外を出歩いていたらすぐに見つかってしまいます。お嬢様も知っているでしょう、数年前に獣人国とカーレディアの間での大戦のこと。」


 カーレディアって確か、ここから西の方にある国だったよね。でも、獣人国との間の国境が閉まっていて、今は出入りできないようになっているんじゃなかっただろうか。


 首を傾げていると、彼女は寂しそうな笑みを浮かべて、自分の頭を触った。

 そう言えばこの国の人はほとんど頭に猫のような耳がついていたが、彼女の頭の上にはそれがない。


「もう、私は逃げられないのです。この国からは出られませんから。どこに逃げても、すぐに連れ戻されてしまいます。」


「それだったら、変装すればいいんじゃない?」

「へ?」


 人間だと捕まってしまうなら、変装すればいいだろう。


 困惑している彼女の頭に手を置いて、変身魔法をかける。

 ふさふさの耳が頭に二つ現れた。


「な、なんですか⁉ これ⁉」

 彼女は自分の頭についている耳を不思議そうにつつく。


「変身魔法だよ。じゃあ問題も解決したし、外に出よっか!」

「え? え?」

 困惑する彼女の手を引いてダンジョンの外に歩いていく。


 朝だからか中に入っていく冒険者たちは多かったけれど、外に出て行く冒険者はまだいない。そのせいか少し目立ってしまっている。ネフィアは人の目が怖いのか、私の後ろに隠れてしまった。


 光が差し込む。

 ダンジョンの外はすでに朝日が昇っていた。


 外に出た瞬間、彼女は光を怖がるように太陽に手をかざした。


「大丈夫?」

「ま、眩しい、です。」

 藍色の瞳が光に照らされて、キラキラと輝く。

 あまり外に出たことがなかったから、光が眩しいのか。


 頭を撫でてあげると、ピクリと瞼が動いて上を見上げた。


 目の色は暗闇の中ではよく分からなかったけれど、澄んだ空のような色をしていた。あまりにきれいな色をしていたので、思わずじっくりと見つめてしまった。


 私の顔を見て、彼女は不思議そうに首を傾ける。


「そう言えば、名前なんだっけ?」

「ネフィア、です。」

 なるほど。ネフィアか。ネフィア……よし、覚えた。

 私、人の名前を覚えるの苦手だからなぁ。忘れないといいけど。


「あ、そうだ。今から冒険者ギルドに行くんだけれど、一緒にどう?」


「……はい?」

誘拐していないか、これ……

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