称号を手に入れた
「うぅ。ここ、どこだろう。」
私はダンジョンの中で震えながら隠れていた。
さっきのアンドリューという人、本当に怖かった。
まさか角が折るなんて、そんな恐ろしいこと考えるとは思わなかった。
(やっぱりこの角、隠しておいた方がいいよね?)
再び変身魔法を使い、角を偽装する。
これで少しは安全だろう。
(というか、私の角ちょっぴり光ってたんだね。全然気づかなかったよ……)
自分の角なんてまじまじと見るものではないので、全く知らなかった。
近くで見ると装飾のような模様が入っているらしいが、まさか切り取ろうなんて思わない。
(もしかして、私の角って高く売れるのかな? ……)
お金に困ったら、試しに切ってみようかな?もしかしたらそんなに痛くないかもしれないし。
……って、いやいや。ダメでしょ。
あの人のせいで、恐ろしいことを考えてしまうところだった……
(取り合えず逃げよう。ここに居たらまた見つかっちゃう。)
私の角を見ながら興奮していたアンドリューを思い出して、全身に寒気が過る。あんな調子で角を取られたらたまったものではない。
下へ下へと歩いていくと、しばらくして行き止まりについたのか、階段がなくなってしまった。
最初のダンジョンは縦に広かったけれど、このダンジョンは横に広いようだ。
目を凝らすと、青い光が二つ、人魂のように宙に浮かんでいた。
(一体なんだろう)
暗くて周りが良く見えない。
目を凝らしていると、その光はゆっくりとこっちに近付いて来た。
その瞬間、右手に鈍い痛みが走る。
(痛っ!! た、食べられた!!)
どうやら魔物がいるらしい。
右手を食べられているのにも関わらず叫ばないでいられたのは、こういった状況に慣れているからだ。すでに二回もドラゴンに食われ、最初のダンジョンでも幾度も魔物に食われ続けていた。
その経験から言うが、こうして食べられている時に、叫んだりと変に声を出すのは得策ではない。
声を聞いて、さらに魔物が集まって来るからだ。
だから、魔物に襲われた時はなるべく静かに魔力を飲み込むのが良い。
――こんな風に。
右手で、魔力を吸い込んでいく。
これぐらいの小さな魔物なら、スキルで大体の魔力は摂りこめるだろう。
魔物は突然のことに驚いたのか、私の腕を噛みながらジタバタ暴れ始めた。
だが、今更逃がしてやるつもりはない。
そっちから私を食べに来たんだから、お互い様だ。逆に食べられる覚悟ぐらいできているだろう。
遠慮なく魔力を吸いつくす。
最後にピクリ、と魔物が動く。数秒後、魔物は力尽きたのか、地面に音を立てて倒れた。
歯型がついてしまった手をさすっていると、だんだんとの痛みが薄くなってきた。ドラゴンの治癒力のおかげだろう。傷跡は残ってしまったが、血はもうほとんど出ていない。
一方で、魔物は干からびたようにカラカラになっていた。
つついても起き上がらない。
この一帯はこの魔物が根城にしているようなので、しばらくは他の魔物も入ってこないだろう。ここにいれば比較的安全に過ごせそうだ。
せっかくなので、今日はここで野宿するとしよう。
ちなみに、倒した魔物は『スモールドラゴン』という種類だった。変異種だからか暗闇にも対応したスキルを持っている。『暗視』というスキルがあったので、もらっておいた。
その時、いつものステータス画面に変化があることに気が付く。
いつもの画面の端に、何かが書いてあった。
《称号を手に入れました》
あれ?称号?
目の前に書かれた文字を見て首を傾げる。
ぽちっと押してみた。
『魔物に食われし者』
なにこれ……絶対いらない称号……
押してみると、詳しい情報を見ることができるそうだ。
ろくでもない称号なのは見なくても分かるが、試しに画面を開いてみることにした。
ーーー
【称号】『魔物に食われし者』
何度も魔物に食われ続けた者に与えられる称号。
効果:魔物に食われた時の痛みが半減する。
ーーー
いらない。全くいらない。
これ以上魔物に食われろと?冗談じゃない。
それに痛みだけ半減しても意味ないでしょ。結局HPは削られるんだから……
まさか、異世界に来て最初に手に入れた称号がこんな変なのだなんて……
がっくりと肩を落とす。
諦めて画面を閉じようとしたら、下の方に何か称号があることに気が付いた。
「あれ? 他にも称号なんて持ってたっけ?」
だが、通知なんて来た覚えはない。
一体いつの間に手に入れたんだろう?
首を傾げながらスクロールしてみると、画面がバグを起こしたように黒くなった。
ジジッ
変な音がする。
「あれ? 壊れた?」
ステータス画面が壊れるなんて、そんなことある?
ーーー
【称号】
■■■■■
ーーー
なんだろう、これ。
画面が黒くなっていて全く読めない。
良く分からないが、試しに押してみよう。
〈このデータは削除されています〉
〈このデータは削除されています〉
〈このデータは削除されています〉
〈このデータは削除されています〉
:
〈このデータは削除されています〉
〈このデータは削除されています〉
画面が文字で埋め尽くされる。
何度押しても結果は同じだった。
削除って何? 普通に怖い。
他にも称号を持っていたけれど、消されちゃったってこと?
いったい何なのだろう。
干からびた魔物の上に座りながら、一人首を傾げた。
◇◇◇
暗闇の中を、必死に走っていく。
足を動かしながらも魔力反応を感知する。
近くにある魔力を探っているが、反応はない。
(早く、マリンお嬢様を見つけなきゃ……)
処分。廃棄。恐ろしい想像が私の頭の中をめぐる。
これは、私の奴隷としての最後のチャンスだ。
もしこの依頼を達成できなかったら、私は物理的に当主様に消されてしまう。
絶対にマリンお嬢様を見つけ出して、お屋敷にお連れしないと……
(そういえばマリンお嬢様って、どんな人なんだろう……)
獣人国に帰ってきたという噂を聞いたが、彼女がどんな人物なのかは具体的には知らない。だが当主様の子供なのだから、恐らく物凄い魔力の持ち主なのだろう。
記憶の中の当主様を思い浮かべる。
異常なまでの魔力に、こちらを睨む赤い瞳。そう、まるで怪物のような――
その時、魔力の圧でびりびりするような感覚があった。
あまりの圧に、魔力酔いを起こしそうだ。
「近くに、誰かいる……」
それも、巨大な魔力の持ち主が。
辺りを見回してみるが、夜になったからかすでに人はほとんどいなくなっていた。建物の中にいるにしても、それらしき場所は見当たらない。
それに、魔力はまるで地面で蠢いているように感じる。恐らくだが、地下に誰かいるのだろう。獣人国の地図を頭の中で思い起こす。確かこの下には、ダンジョンがあったはずだ。
「まさか、ダンジョンの中にいる?」
流石にあり得ない。
だって、ダンジョンは夜に、魔物の動きが活発になるのだ。その上、暗闇のせいで魔物の姿を捉えることすらできない。
だからこそ、夜にダンジョンに入るのは自殺行為だ。
そんなことをやろうとする人間は絶対にいない。
だがもし、マリン様なら?
普通なら夜のダンジョンに入るなんてあり得ないが、あの当主様の娘なのだ、もしかするとやりかねない。
(確かめに行ってみる、か……)
私は覚悟を決めて、ダンジョンの中に足を踏み入れた。




