パーティー
店を出たら、様々な人の視線が突き刺さった。多くの人が探るようにこっちを見ている。なんだか落ち着かない。なんでこんなに見られているのだろうか。
「さっきからずいぶん目立っているな。」
エイスが怪訝そうにあたりを見回した。
「人間が来るのが少ないから、珍しいんでしょう。」
マイリンさんが赤い髪を人差し指でくるくると回す。
「上手いこと、変装できればいいんだがな……」
(変装か……猫耳をつければ獣人っぽくなると思うけど……)
そこで私は、一ついいことを思いついた。
「変身魔法を使えばいいんじゃない?」
魔力を角に込めると、黒い角がキラキラと光って姿を変えた。
頭の上にふわふわの耳が出現する。
「耳!! かわいいですね。」
リリサが私の頭に突然現れた耳を見て目を丸くする。
今までは角を消すために使っていた変身魔法だが、従来の使い方はこちらだ。
そう言えば、変身魔法は転生してきて最初にゲットしたスキルだった。懐かしい。
「わぁ~!同じ色の耳ね。おそろいじゃない!!」
私の黄金色の耳を見て、マイリンさんは目を輝かせた。
「可愛いですね。私もつけてみたいです……」
リリサは羨ましそうにこっちを見ていた。
「リリサも耳をつけてみる?」
「えっ! そんなことできるんですか?」
たぶん出来ると思う。
リリサの頭に手を置いて、変身魔法を使う。リリサの茶色の髪の上に、耳がぴょこっとついた。
「うわぁ。すごいです! かわいい!!」
リリサは自分の頭についた耳を触りながらはしゃいでいる。
「エイスはどうする?」
「ああ。頼む。」
そう言って、エイスは頭を差し出してきた。
今気づいたことだが、エイスの頭にも小さな角が生えている。
この角を変身させる形で変身魔法を使えばいいだろうか?
角に手を当て、猫耳に変わった。
エイスに猫耳は意外と似合っている。
もふもふの耳を撫でていると、エイスは顔を真っ赤にしている。一体なぜだろうか。
「ブラウスも耳をつけて貰ったら?」
マイリンさんは目をキラキラ輝かせながらブラウスさんを見る。だが、彼は後ろに隠れてブルブルと震えていた。
「耳、付けますか?」
「ひ、ひぇ。よ、よろしくお願いします……」
ブラウスさんは怯えながら言った。
変身魔法をかけている間もびくびく震えている。やっぱり体調が悪いようだ。チョンと頭をつつくと、耳が現れる。
変身魔法をかけるのが上手くなったのかもしれない。ものの一秒でふわっふわの耳をつけてしまった。
こうして、五人全員の頭に猫耳が付いた。
すでに夕日が出ていたせいか、影が伸びて五つの耳が地面に映る。
「こうして並んでいると、なんだか家族みたいですね。」
リリサがぽつりと言った。
(家族、ねぇ)
その言葉で、私はダンジョンに捨てられた日のことを思い出してしまった。
マイリンさんも複雑そうな表情をしている。
家族との間に何かあったのだろうか?
だが、それは一瞬のことで、すぐに顔を上げて私たちを見た。
「あのね、お願いなのだけれど、せっかくだから五人でパーティーを組まない?」
(パーティー?)
マイリンの突然の申し込みに、私は首を傾げていると、リリサが説明を加えてくれた。
「ミロウ様、パーティーとは一緒に冒険する仲間のことです。初級の冒険者は、基本的にパーティーを組んで行動するんですよ。……まあ、私はパーティーの仲間に裏切られてばかりでしたが……」
リリサは遠い目をした。
どうやらいろいろと苦労をしてきたらしい。
「パーティーか。悪くないな。」
エイスが頷いた。その顔はどこか嬉しそうだ。ずっとあの生贄の村で暮らしていたから知り合いも少ないと言ってたし、仲間が欲しかったのだろうか?
「私も……‟本当の仲間”が欲しいと思っていましたから、パーティーができたら嬉しいです。」
リリサもそう言ってほほ笑んだ。
「じゃあ、五人で一緒にパーティーを組もう!……明日の朝、冒険者ギルドで集合でどう?」
「ええ。構わないわよ。どうぞよろしくね。」
マイリンさんはそう言って微笑んだ。
その顔が、どこか作り笑いのように見えたのは……恐らく気のせいなのだろう。
◇◇◇
俺とマイリンはミロウ達から離れた後、近くの宿に泊まった。
すぐに部屋を借りて乱暴に鍵を閉め、ドアにもたれ掛かるように地面にへたり込んだ。
怖さのあまり、腰が抜けるかと思った。
震えが止まらない。
そう、さっきからあの‟ミロウ”という怪物のせいで、体がおかしな痙攣を起こしている。
というか、おかしいだろう。なんであんなに魔力が多いんだ? 近くにいるだけで魔力酔いでクラクラしてくるぞ?
いつマイリンが怪物の機嫌を損ねるのか考えているだけで、怖さのあまり胃が痛かった。
さっき一緒に食事をしていた時なんて、緊張のあまり水すら喉を通らなかった。
『これが、俺の人生で最後の水になるかもしれない』なんて考えながら、震える喉の奥に無理やり冷たい水を流し込んだ。
隣でジュースなんかを飲んでいる、能天気なマイリンが羨ましい。
あいつには絶対に危機感が足りていないと思う。
もし王太子からの依頼じゃなければ即刻逃げ出していた。
(この依頼、普通に受けても蹴っても地獄なんだよなぁ。)
受けなければ王太子に殺されかけるだろうし、だからと言ってあんな化け物を倒せるはずもない。
怖さのあまり頭を押さえると、頭にふさふさの耳が付いていた。
(そうだ、この耳もあの‟ミロウ”が付けたものだった……)
あの化け物は、頭に手を置いてたったの数秒で耳を作り出してしまった。魔法を使う腕は、世界に五人しかいない王宮魔導士にも匹敵するだろう。それこそ、数千年も生きていなければ身に着けられないような技術だ。
(一体何年生きていればあんな化け物になるんだ……)
魔力が多ければ多いほど長生きすることができるこの世界だが、あの怪物は一体何百年もの時を生きてきたのだろうか? 見た目は成人したばかりのようだが、実際はそうではないのだろう。
数十年、数百年、いや、それ以上——
考えれば考えるほど、震えが止まらない。
「絶対に無理だろう、あんな化け物を討伐するなんて……」
その時、俺一人しかいないはずの部屋で、声が聞こえて来た。
「へぇ。それはどういう事だ、ブラウス?」
(い、いつの間に?)
窓際を見ると、閉じていたはずの窓が音もなく開いていた。
暗闇の中、カーテンが静かに揺れる。
そこに座っていたのは、すっかりと性格が変わってしまった後輩だった。
金色の瞳が、獲物を見つけた肉食獣のように光っていた。
レアルドは怒っています。恐怖ですね……
読んでいただき、ありがとうございます!
皆様よいお年を!




