獣人国めぐり
冒険者ギルドの登録を済ませた後、私たちは獣人国を散歩していた。
右手には、銅でできた薄いカードがある。
これはギルドのカードと呼ばれる銅でできた薄いカードで、私の名前が刻まれている。
階級は一番下のF。依頼をこなすと上がっていくらしい。
依頼を受ける前に、せっかくだから獣人国を回ってみることにした。
話によれば冒険者登録をしてすぐに依頼を受ける人は少ないみたいだし、丁度いいから今日はゆっくり観光でもしようと思う。
そんなことを考えながら街中を歩いていると、エイスが隣に来てこっそりと耳打ちをする。
「おい。あのマイリンってやつのこと、あまり信用しない方がいいと思うぞ?」
「なんで?」
「あいつ、お前のことを観察していた。何を考えているかは知らないが、信用できない。」
エイスは前を歩いていくマイリンさんを睨みつけた。
別にそんな警戒する必要もないと思うのだが……
「ちなみに、エイスとマイリンさんが戦ったらどっちが勝つ?」
ただの興味本位だったのだが、それを聞いてエイスは呆れたような顔を浮かべた。
「おい、俺が戦えると思ったのか?」
「え?」
私は首を傾げる。
そう言えば、エイスが戦っている所を一度も見たことがない。
「俺は結界魔法しか使えないぞ? 一応弓は使えるから、村に侵入しようとした魔物を何回か討伐したことはあるが……人間相手となるとまた別だろう。」
「そういうものなの?」
魔物と戦えれば人間とも戦えると思ったのだが、そうでもないようだ。
「ああ。そういうもんだ。魔物相手なら魔法でもぶつけたら大体倒せるが、人間相手なら別の戦闘能力が必要になってくる。相手の間合いや攻撃のタイミングをつかまないと対人戦は難しい。……まあ、お前みたいな怪物なら話は別だがな」
そう言って、エイスは私の頬をつつく。
なんで突然? 別に頬をつつく必要なかったよね?
「あら、二人とも仲良しなのね。」
いつの間にか、マイリンさんが振り返ってこっちを見ていた。
顔がニヤニヤしている。なぜだろうか?
首を傾げていると、エイスは冷めた目でマイリンさんを睨んでいた。
顔が怖い。
だが、マイリンさんはむしろ楽しそうに微笑む。
「せっかくだし、みんなでご飯でも食べに行きましょうか。お腹が空いて来たもの。それに、三人のことを良く知りたいもの。自己紹介でもしましょう?」
「お~。いいね。」
そういうわけで、近くのレストランで食事をすることになった。
◇◇◇
「うわ~!!美味しそう!!」
テーブルの上に置かれた薄いパンのようなものを見て、私は目を輝かせた。中に肉が挟まっていて、見た目はまるでケバブみたいだ。
一口齧ると、肉汁がじゅわっと溢れてくる。
食べるごとに魔力が回復していく感じがする。
恐らく魔物の肉が使われているのだろう。ドラゴンの肉ほどではないが、これもかなり美味しい。
「喜んでくれて嬉しいわ。お気に入りのお店なの。」
マイリンさんは宝石のような色のジュースを頼んでいた。
カラフルな液体の上に浮かんでいるのはホーンラビットの魔石だ。グラスから魔力を籠めながら飲むと、魔石が溶けてジュースと混ざっていくらしい。すっごくおしゃれだ。
「じゃあ早速、自己紹介と行きましょうか。私はマイリン。いろいろな場所を飛び回って冒険者をやってるわ。ちなみに、こっちが親友のブラウス。よく一緒に冒険しているのよ。」
そう言われてやっと、マイリンさんの横にもう一人男の人が座っていることに気が付く。影が薄いせいですっかり忘れていた。
なぜだか顔が青白い。具合が悪いのだろうか?
「ひいっ!!」
首を傾げて見ていると、ブラウスさんが突然奇声を発した。
なぜか震えている。やっぱり体調が悪いのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「ひ、ひぇっ!! も、申し訳ありません」
なぜか謝られた。しかもすごい勢いだ。テーブルに頭が激突して、ゴツンと音が鳴る。すごく痛そうだ。
「ブラウスは具合が悪いみたいね。気にしないであげて。」
なるほど。確かに具合が悪い日もあるだろう。
あまり気にしないであげた方がいいか。私はこくんと頷いた。
「あの、質問なんですけれど、二人はなんで私たちの案内を引き受けてくれたんですか?」
「う~ん。何となくよ。なんだか困っているみたいだから助け合いも大事かなぁって思ったの。」
なぜだか、何か隠している気がする。
エイスが警戒した方がいいと言っていたせいで気にしすぎているだけかもしれないが。
「そういえば、三人はどうやって獣人国に入ったの?」
マイリンさんは探るような視線を向けた。
「普通に国境を越えて来ましたけれど……」
質問の意図が分からず、私は首を傾げた。
「獣人国には結界が張られていたでしょう? どうやってくぐったんだか気になって……」
そう言えば確かに、結界のようなものが張られていた気がする。
「マイリンさんはどうやって結界をくぐったんですか?」
「ああ。これを使ったのよ。」
そう言ってマイリンさんは髪を結んでいた布を解く。そこには、刺繍のような模様が入っていた。
一体なんだろうか。
首を傾げていると、マイリンさんが説明をしてくれた。
「これは、S級冒険者の証よ。これを持っていると、どんな場所でも入ることができるの。」
なるほど。それは便利だ。
じっくり観察していると、どこかで見たことがあるような気がした。気のせいだろうか。
そんなことを考えていると、マイリンさんは残ったジュースを吸い込んだ。
「そろそろ退店する? 人も少なくなってきたみたいだし」
そう言われてみれば、お昼時を過ぎたのか店の中から客が減っていた。これ以上店に残っていたら迷惑になるだろう。
「そうですね。そうしましょう。……ミロウ様はどうするのですか?」
リリサは私のお皿の上に残った肉を見て言った。
「待ってて。これ食べてから行く。」
「分かりました。私達は外で待ってますね。」
そう言うと、リリサ達は先に店を出て行ってしまった。
慌てて肉を口に放り込んむ。最後の方は食べきれなかったため、スキル魔物摂りこみで肉を分解して飲み込んだ。
私も店を出ようとすると、入り口に座った店主さんに声を掛けられた。
「おい、待て!! 金払ってから行け。」
あ、お代払うの忘れてた。
「すみません。いくらですか?」
「金貨3枚だ。」
(高っか!!)
そんなにお金払えないよ!!
「一応言うが、ぼったくってるわけじゃないぞ。この店は魔物の肉を使ってるから、むしろ安いぐらいだ。」
確かに、魔物の皮を使った服も高かった。
魔物製品は高いのか。覚えておこう。
「ええっと。これをお金の代わりにできませんか?」
取り出したのは金色の懐中時計。
アンドリューという人に押し付けられたのだ。
「ハァ⁉ な、なんだそれ……S級の紋章が刻まれてるじゃないか⁉」
うん? S級の紋章? 何それ?
「もしかして、お金になりませんか?」
「いや、もらってくが……いいのか、本当に?」
「はい。大丈夫です。」
たぶん。
金時計を渡すと、店主さんは目を大きく見開きながら時計を凝視した。時計マニアなのだろうか。
「ありがとうございました。美味しかったです。」
お礼を言って入り口の扉を開く。
「あ、ああ。」
茫然としたような店主さんに見送られながら、私は店を後にした。




