表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/78

ブラウスの苦労

メリークリスマス!!

『Sランク最弱』

 それが、俺につけられた呼称だった。


 これでも、冒険者歴は随分長い。

 十歳で活動を始めて、今ではすでに三十歳を超えた。


 それにも関わらず、俺は他のS級と比べてあり得ないほど弱かった。


 レドやアンドリューのような後輩達のように魔力が多いわけでもなく、マイリンのように勘が冴えている訳でもない。ダリとイズのようにチームワークが物凄い訳でもない。ましてや他のS級達のように華々しい功績を残している訳でもない。


 それなのに、化け物みたいな同業者の中で良くやっていけたものだ。

 今まで生き残ってきたのが奇跡みたいなものなのだろう。


 だが、そんな俺でも、一つだけ他のS級冒険者より誇れるものがある。

 それは、危機察知能力だ。


 何度も恐ろしい相手と戦っているうちに、自然と相手がどれだけ強いのか直感で分かるのだ。

 おかげで、二十年間も魔物達に追いかけられ、食われかけながらも無事に生き残れたとも言えるだろう。


 そして今、俺のS級として培ったすべての力が、俺に逃げろと警鐘を鳴らしている。


 それほどまでに恐ろしい怪物が目の前に現れたからだ。そいつ……いや、彼女はニコニコと笑っている。だが、その笑い方が俺の目には不気味にしか映らなかった。


 そのバケモンを一言で表すなら、底が見えない、だ。

 S級冒険者たちがあれほど変わり果てた理由も理解できる。


 物陰に潜みながらこっそりと様子を窺う。


 どうやら、獣人国の冒険者と何か話をしているらしい。


(あの化け物に話しかけるなんて、あいつは正気じゃない。危機管理能力がバグってるんじゃないのか?)


 そんなことを考えていると、俺の隣にいたはずのマイリンがいつの間にか化け物の隣にいた。


「あら? じゃあ私が案内しましょうか?」


「ちょ、ちょっと待て!!」


 俺は慌てて止めようとした。そう、止めようとしたのだ!!


 だが、マイリンは止まらない。

 いつの間にか、討伐対象と仲良くなっている。


(なぜだ、一体なぜなんだ……頼むからやめてくれ!!)


 俺の心労を知ってか知らずか、化け物は不思議そうに首を傾げている。


「じゃあ早速、獣人国を案内するわね!!」


 そう言ってマイリンは歩き出す。

 俺は心の中で悲鳴を上げながら、恐る恐るマイリンたちの後を付いていった。



「おい、マイリン、どういうつもりだ⁉」

 俺はミロウという怪物から少し離れた場所で、マイリンに小声で話しかけた。


 マイリンは不思議そうに首を傾げている。


「なんでわざわざ話しかけたんだ? あいつ、今回の討伐対象だろう?」


「油断させた後に倒すのよ。当たり前でしょう。」


 そう言って、マイリンは拳を握る。


(いや、無理だろう……)


 いくらマイリンが強かろうと、S級だろうと、あの化け物には敵わない。

 油断させるよりも、絶対に闇討ちでも仕掛けた方が早いと思うのだが……


(マイリンは何を考えているんだ……)


「まあまあ。いざとなったら私が守ってあげるわよ。仕方ないわねぇ」


 そう言ってマイリンはドヤ顔をするが、正直不安で仕方がない。

 俺は、本日何回目になるか分からないため息をついた。

 



 ◇◇◇



 その頃——


 獣人国の中心部にある巨木の中で、一つの蝋燭がゆらりと揺れていた。部屋は薄暗く、一つの窓から入って来た僅かな光が部屋を二つに分けている。


 赤いカーペットが敷かれた先で、一人の男が豪華な椅子に座っている。その男の目は、暗闇の中であるにも関わらずほんのりと光っていた。


 コツ、コツと地面を小さく蹴るような音がして、扉が開かれた。


「当主様、ご報告があります。」


 そう言って現れたのは煤のような色の髪をした少女。手には紙の束が乗っている。彼女は青白く細い指先で、ゆっくりと紙をめくった。


「どうやらマリン様が、獣人国に帰って来られたようです。」


 その言葉に、男の指がピクリと動く。


「今は、『マイリン』と名乗っているとか。」 


「……あの家出娘。ようやく帰ってきおったか。」


 その声は、驚くほど冷え切っていて、まるで感情がないかのように凪いでいた。

 男はゆっくりと立ち上がる。そして少女の方へと向かって行った。


「当主様、資料はこちらに……」

 そう言って、少女は紙を差し出す。


 男は紙を受け取ると、()()()()()()()()()()()()


 紙は音を立てずに地面に散らばる。


 少女は息を吞み、一歩後ろに下がった。

 だがその瞬間、彼女は壁に叩きつけられた。


 ガホッ


 少女はえずいて血を吐く。真っ赤なカーペットに血が滴った。


「弱い。」


 その言葉に、少女は身を強張らせた。

 地面に這いつくばって、許しを請うように頭を下げる。


「弱い。弱い弱い弱い弱い弱い弱い。」


 男は狂ったように呟きながら、少女を蹴り続ける。

 そのたびに、少女は痛みで震えた。


「人間が、俺の部屋に入って来るな。」


 男がそういった頃には、少女はほとんど動かなくなった。


「弱者に、生きる価値などない。」

 

 男は、まるで演説でもするような口調で言った。


「お前は強くなっただろうな、マリン?」


 男はそう言って、部屋の外に出る。

 血を吐く少女の前で、扉は音を立てて閉じていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ