美味しいご飯 1
リリサと合流した後、二人でエイスの家に帰った。
ちなみに、エイスはまだ目覚めない。
竜が出て来たあの日から、ずっと眠り続けたままだ。
(無事目覚めてくれるといいけど……)
倒れてしまった理由は分からないが、もしかしたらドラゴンに食われかけたことがトラウマになってしまったのではないだろうか。眠りながらうなされているのを何度か見てしまった。そのたびに絞った布を頭に乗せて熱を冷ましている。
エイスが寝ている間、私は食糧を調達するために何度か森に出て狩りや採集をしていた。
この辺りは食べ物が少ないらしいが、雪が止んだおかげで小さな草や木が生え始めている。
おかげで食事に困ることもない。以前のように虫を食べて食い凌ぐ必要もなくなるだろう。
謎の紫色の虫が食卓に登場することはもうないのだ。バンザイ!!
森で獲物を探していた結果、偶然リリサを見つけることができた。
リリサは私と同じく、迷子になってしまっていたらしい。
このままだと、一生会えなかっただろう。
本当に、無事に合流できて良かった。
「そういえば、レアルドはどうしたの?」
少し前まで行動を共にしていたレアルドがいない。一体なぜだろうか?
するとリリサは、この場にいない誰かに恨みを籠めるように地面を見つめた。
「……レアルドのことなんて、考えないでいいですよ。どうでもいいですって、あんな奴のこと。」
静かだが、強い怒りがその言葉には含まれていた。思わずちょっと後ずさったぐらいだ。
ずいぶん怒っているようだ。一体、レアルドは何をしたのだろうか。
うちのリリサをこんなに怒らせるなんて許せん。
「そういえば、ミロウ様は森へ採集へ行ってきたのですよね。何か美味しそうな食材はありましたか?」
リリサが話題を逸らすように、明るい声で言った。
「うん。 たくさん採れたよ。」
籠に詰まった大量の草を見せると、リリサは目を丸くした。
「お肉しか食べたがらなかったミロウ様がこんな健康によさそうな食材を……」
リリサは感激したように目をキラキラさせているが、私は別に野菜嫌いではない。断じてない。魔力を摂取するのに肉が一番効率が良かっただけだ。だが今は、竜を食べたおかげで魔力が満ち溢れているのでまったく問題はない。
ただ一つ心配なことは――
「これ、毒とか入ってないか確認できないかな?」
そう、私がとって来た食材には毒が入っていることが多くあるのだ。
ダンジョンで取った鶏肉なども、一部に毒が入っていることがあった。
一見まともな食材でも、異世界で知らない食材を調理するときは注意が必要になる。
すると、リリサが自信満々に胸を張った。
「任せてください! 鑑定なら私もできます。冒険者ギルドの雑用歴五年を舐めないでください!!」
(冒険者ギルドの雑用歴五年? それを公開したら逆に舐められそうだが、大丈夫なのだろうか……)
まあ、私がいつも役に立ってくれているリリサを舐めることなんて絶対にないが。
私がそんなことを考えているとは露知らず、リリサは楽しそうに鑑定を始めた。
「【鑑定】」
リリサがそう唱えて自分の目に手をかざすと、彼女の右目の前に魔法陣のようなものが出現した。
(おお。これが魔法陣。初めて見た!!)
私は魔法を使う時、大体ドラゴンのスキルを使っている。だが、何となくイメージだけで魔法を使っているだけで、魔法陣などは出ない。どういう違いがあるのだろうか? 一度、誰かに魔法について詳しく聞いてみた方がいいかもしれない。
「これは、ポーションに仕える薬草ですね。この黄緑のは魔力が多く含まれている雑草です。こっちはお腹を壊すかもしれないので食べない方が良さそうです。」
リリサは籠の中に並んだ草を順番に指差していく。
なるほど。ずいぶん鑑定が早い。さすがだ。
そう思っていると、彼女は一つの草を前にして眉を顰めた。
「あれ? この草は何でしょう? 鑑定魔法を使っても何も表示が出ません……」
リリサは一つの草を前に突き出してきた。
これはどこで取った草だっただろうか? 辺り一帯の草をまとめて持ってきたので、よく覚えていない。
「ちょっと見せて。」
草を手に取ってよく観察すると、前世で毎日のように食べていたあの草と似ているような気がした。
この硬さ、サイズ。間違えない。
(お米!!)
初めて見つけた前世そっくりの食材に、私のテンションは上がりまくる。
まさか、異世界にもあっただなんて!!
「ミロウ様、知っている草だったのですか?」
「うん!! せっかくだから、これでエイスにお粥を作ろう!!」
やっぱり病人にはお粥だよね!! と思っていると、リリサは首を傾げた。
「おかゆ……ですか?」
そっか。異世界だからお粥はないか……
「任せて!! 私が作り方を知っているから!!」
早速、作ってみよう。
エイスの家の調理場を勝手に借りることになるが、それぐらいは構わないだろう。
エプロンを着ると、リリサは目を丸くした。
「珍しいですね。ミロウ様が料理をなさるなんて。」
確かに、私はあまり料理をしない。というか、できないのだ。
前世でも、親に料理を作ってもらったことしかないため、自炊というものが絶望的にできない。
とりあえず、土鍋のようなものに薬草と米をぶち込んでいくことにした。
米は、外側の殻のような部分を削らなけらば食べれなそうだ。
確か、すり鉢のようなものの上で、ゴリゴリやれば良かったはずだが……
「う~ん。何か固いものでもあればな~」
「固いもの、ですか? ミロウ様の鱗なら固いのでは?」
う、鱗⁉ その手があったか……
確かの私の体のあちこちには、鱗が生えている。
掌や顔などはなぜか生えていないが、服の下はほとんど鱗だらけだ。
確かにこの鱗は固いため、米の殻も壊せるだろう。
鱗がなぜかキラキラと光っていて正直怖いため、今までは包帯的なものを巻いて隠していた。けれどこの際見られても仕方がない。もう開き直ることにした。
手の甲に巻いてあった包帯を外して、鱗をお米にこすり合わせる。
ザラザラと音がして、米の殻が取れていく。
やっぱり私の鱗は物凄く固いようだ。
その後、水魔法を使って米をかき混ぜた。
結果、前世で売られているような半透明のお米が出来上がった。
後は、薬草と一緒に混ぜて土鍋で炊くだけ!!
(ん? 炊く?)
そこで私は、すっかり忘れていたものに気が付く。
(そうだ、この世界、IHがない! ガスコンロもない!! これで一体どうお米を炊けば⁉)
エイスはどのように火を出していただろうか? やばい、分からない。
「リリサぁ。手伝ってぇ」
「はいはーい。もちろんですよ!!」
リリサに火の起こし方を教えてもらった結果、台所の下にある火属性の魔石に魔力を注げばいいそうだ。
早速、魔石をつついて火の属性を送る。
その瞬間、巨大な火柱が上がった。
「ひぇっ!!」
慌てて魔力を止める頃には、台所は丸焼けになっていた。
「……ミロウ様?」
「はい……」
「料理は私がやります。ミロウ様はじっとしていてください。」
「はい……」
リリサに怒られてしまった……
私は台所から離れて、エイスの様子を見に行く。
熱は収まっただろうか。
布団の中で縮こまっている所は、まるで小さな子供のようだ。
「どんな夢見てるのかなぁ」
何となく、銀髪を撫でていると、手をピクッと震えた。
起こしてしまっただろうか。
手を握ってやると、エイスはまた眠りについた。
「かあさん……」
夢の中で、エイスが小さく呟いた。




