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獣人国


◇◇◇


 風魔法で地面を蹴り移動する。

 リリサが置いて行くなと喚いている声が後ろから聞こえてきたが、聞かなかったふりをした。



 しばらく進むと、雪が降って来た。

 吹雪が体中に突き刺さるように当たる。


「ずいぶん魔力が濃いな。近くに強い魔物でもいるのか?」


 強い魔物がいる場所——つまり、魔力が異常に強かったり、魔力暴走が起きている場所のことを極地という。


 そう考えていると、横からアンドリューが近づいて来た。

 氷魔法を使って、滑るように移動している。


「おい、良かったのか、リリサを置いて行って……」


 あいつは魔法が使えない。

 俺に追いつくことは不可能だろう。


「……余計なお世話だ。」


「リリサじゃ絶対に追いつけないぞ」


「知っている」


 リリサが絶望的なまでに足が遅いのは何となく気づいていた。


 ミロウ様の前では転ばないように細心の注意を払っているが、ミロウ様のいない場所で観察しているとよく分からない場所で突然すっ転ぶ。


 正直見ちゃいられない。


「……あいつが付いてきても荷物になるだけだろ。戦えないのだから。」


 ミロウ様がいなくなった理由——迷子になっただけならいいのだが、もしかしたら重大な問題に巻き込まれているかもしれない。

 それこそ、誰かに攫われたりしている可能性だ。


 その場合、戦闘になる可能性だってある。そうなれば、戦闘能力がないリリサは足手まといだ。


「ずいぶん辛辣だな。それでいいのか?」


 何を今更。

 俺はそういう人間だろう。


 ただ、今回はそんな理由だけじゃない。


「……それに、リリサをあまり危険な目に合わせたくない」 


 それを聞いて、アンドリューは数秒黙り込んだ。


「そっちが本音か?」


「……さあな」


 アンドリューから目を離す。俺はなんでペラペラとつまらない事を話しているんだか。言う必要もなかっただろう。


 ニヤニヤしているアンドリューにイラッと来たので、ため息を付く。




 その数秒後、ものすごい轟音が響いた。




「なんだ、今のは……」


 まるで、ドラゴンのうめき声みたいな声が聞こえる。

 一体どこからだろうか。


 周りを見渡していると、辺りを飛んでいた巨大な魔力が移動して行くのが分かった。

「おい、雪が解けていかないか?」


 足元から、雪が消えていく。

 そして、氷でできた山が解けていき、吹雪が弱まっていく。


「極地の雪が晴れただと? 魔力の異常か何かか?」


「分からん。……リリサがさっき、空が光っているようなことを言っていたが、それが関係しているのか?」


 ほとんど吹雪が無くなって行き、前が見えた。


 雪が晴れるのと同時に、緑の草木が地面に広がった。


 一つの巨大な樹を中心に、ツリーハウスのようなものが大量に並んで繋がっている。


「なんだ……巨大な、国?」


 アンドリューが目を見開く。


 退屈しのぎのためとか言ってずいぶんいろいろな場所を渡り歩いていたアンドリューすら初めて来るのだから、よっぽどの僻地なのだろう。


「まさか……」

 アンドリューは何かを思い出すように呟いた。


「知っているのか?」


「聞いたことがある。森に囲まれた、巨大な国。ほとんど立ち入るのが困難とされる場所。」


「は? 嘘だろ……」

 一応皇子だったせいか、この大陸にある国の名前ぐらいは覚えている。

 まさかここは――


「獣人国、ビーストダリア帝国」

 アンドリューがゆっくりと呟いた。


 あり得ない。そう思った。


 獣人国と竜神国の国境は、雪で閉じていたはずなのに。

 その雪が消えたのはなぜだろうか。

 

 様々な疑問が俺の頭の中に浮かんでは消える。 


「それでどうする? 中に入るか?」


「それ以外の選択肢はあるか?」

 ミロウ様が獣人国にいる可能性が万が一にもあるのなら、中に入る以外の選択肢はない。


「だが、国と国の間に結界が張ってあるだろ? それはどうするんだ?」


 確かにそうだ。

 竜神国と獣人国は貿易を結んでいない。貿易を結んでいない国同士を移動すれば、不法入国とみなされて国を覆う結界に弾かれる。



――だが、国を移動しながら働く冒険者の場合、話は別だ。


「問題ない。冒険者ギルドのSランク証明書を使えばどこでも通れる」


 そう言って、俺は自分の剣を取り出した。その柄頭には、冒険者ギルドのSランクを証明するマークが刻まれている。


 冒険者ギルドの証明書というのは、正式に冒険者として認められたものが得る証だ。


 下級や銅級の冒険者ならギルドが発行するカードが証明書となるが、Sランクになれば、ギルドに頼んで自分の持ち物にSランク証を入れてもらうことができる。


 ちなみに俺は、常日頃から持ち歩いている自分の剣に入れてもらった。


「そう言えば、お前のSランク証はどこだ?」


 アンドリューは確か、懐中時計に証を入れてもらっていたが……


「ああ。それならミロウに預けてある。」


「ミロウ様に⁉」


 冒険者の証は、一人一つまでだ。


 つまり、ミロウ様が失くしてしまったり、捨ててしまったりしたら、もう戻ってこない。

 その場合、アンドリューは下級冒険者見習いからやり直しになる。

 ……普通にありそうだから怖い。


「冒険者証なしで、どうやって通るつもりだ?」


 アンドリューを睨みつけると、数秒黙り込んだ。


「お前の冒険者証で一緒に通れないのか?」


 確かに、俺の冒険者証を使えばアンドリューも一緒に通れるだろう。

 だが、それは同行者に限り、だ。


「俺とパーティーを組めってことか?」


「ああ。ダメか?」


 それを聞いて、俺は一つため息をつく。

「全く、面倒だな」


 まあ、冒険者のパーティー登録なんて基本はただの口約束みたいなものなのだが。


「よろしくな、レアルド」

 そう言って、アンドリューは拳を突き出してきた。


「仕方がないな……」


 そう言って、二人で拳を突き合わせる。


「即席パーティーの完成だな。」

 アンドリューが楽しそうなのはなぜだろうか。


「言っておくが、すぐに解散するからな。」


「分かってる。……ほら、見えて来たぞ。あれが結界じゃないか?」


「ああ。」


 アンドリューと並んで結界の中に入っていく。

 透明の膜のようなものをくぐり抜け、俺たちは獣人国へ足を踏み入れた。


(待っていてください、ミロウ様。必ず見つけますから。)


 俺は拳を強く握りしめた。




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