表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/78

竜に食べられるのは慣れてるからね!!



 光が見える。

 ドラゴンの歯の隙間だ。


 真っ白な光に照らされて、一つの影が見えた。


 ミロウ⁉


 彼女は片手でドラゴンの歯を押さえて、もう片手で俺に手を差し伸べている。

 ドラゴンに食われた時点で普通なら絶望的なのに、彼女はなぜか微笑んでいた。


「手、掴んで」


 『あの人』が差し出してくれた手を思い出して、手が小さく震えた。

 涙で視界がぼやけたせいだろうか、ミロウが彼女と重なっているように見える。


「なん、で?」


 また、助けてくれるのだろうか。

 こんな俺を?


 俺はミロウを生贄にするつもりで村に迎え入れた。

 竜に食われて当然のことをしたのだ。


 それなのに、どうして?


「なんでって、当たり前でしょ。エイスが大切で、死んで欲しくないからだよ。」


 そう言って、ミロウは竜の口をこじ開けた。

 あの細い腕のどこからあんな力が出ているのか。


 バキバキ、という音で、竜の口が開かれた。


 だが、ドラゴンも口をこじ開けられて黙っていられるわけではなかった。

 ドラゴンは抵抗するように暴れる。


 その拍子に、俺の体は喉の奥の方に落ちていった。


 ミロウは慌てたように俺の手を掴む。

 けれど、片手で人を一人支えるのは難しい。

 そのうえ、ドラゴンの唾液のせいで手がつるつる滑ってしまう。

 このままだと、二人一緒にドラゴンに飲み込まれてしまう。


 それは、絶対に嫌だ。


「ミロウ、俺のことはいい。だから逃げ――」

「大丈夫だよ。」


 俺の言葉を遮るように、ミロウは言った。


 どういう意味だろうか。戸惑っていると、ミロウはもう片方の手を離した。

 ドラゴンの歯を押さえていた方の手だ。

 そして、その手で落ちかけていた俺を引っ張る。


「何やっている、そんなことしたら……」

 ドラゴンを押さえていた手がなくなり、竜の口が勢いよく閉じられた。

 鋭い歯がミロウの腹に食い込む。


 その数秒後、その歯は腹を貫通した。

 潰れるような音とともに、ミロウの口から血液が零れた。


「うわぁああああああああ!!!」

 俺は叫んだ。


 真っ赤な血が、全身にかかる。


 思い出したのは、『あの人』が竜に食べられた時のこと。

 また、俺は周りの人間を犠牲にした。


 あの時と同じ。百年経ったのに、結局結末は変わらないのか。


 ミロウは最後に微笑み、そして何かを呟いた。


 その声を聞くより前に、俺の意識は途切れた。

 

 



 ◇◇◇





 エイスの叫び声が聞こえる。


 そんなに心配しなくてもいいのに。



「なんせ、竜に食べられるのは慣れてるからね」


 竜にかみ砕かれながら、私は微笑んだ。





 ◇◇◇村長視点――




 その光景を言葉で表現するのなら、『闇』だ。

 

 真っ白な雪の中で、その『闇』は静かに揺れていた。


 竜が叫ぶ。


 その音で、大地が揺れる。

 この世の生き物の頂点に君臨すると言われるドラゴンの断末魔。


 天は割れ、空は漆黒に染まり、地は苦しむように軋むような音を立てた。


 真っ黒な魔力はぐるぐると渦巻いて、辺りに漂っていた。


 この世のありとあらゆるものを混ぜて集めたら、このような色になるのだろうか。


 やがて、闇は一つになった。


 まるで集まるように、中心へと動いていく。


 霧が晴れるように、淀んでいた魔力の空気が晴れていく。


「ドラゴンが、蒸発している。」


 息を吞む。


 そこから現れたのは、蒸発したドラゴンの骨。


 その上に、人影が揺れるように浮かんでいた。


 赤い瞳。

 それは、まるで血で染まったようだった。



 彼女は自分の膝の上に寄りかかったエイスを見て、安心したように微笑んだ。


 目がゆっくりと閉じられる。


 そして、彼女はパタンと倒れた。


 辺りの魔力が、彼女を支えるように集まっていった。


「雪が、解けていく。」


 この竜が生まれてから二千年間、解けることのなかったという雪。

 それが、まるで最初からなかったかのように消えていく。


 空が晴れ、まるで光が差すように、ゆっくりと辺りが明るくなった。


「一体、何が起きているのだろうか……」


 この村で村長となり、すでに数百年も経つ。

 村には何もない。

 雪に包まれた村には、何も届くことがないのだ。


 しかし、今は違う。


 真っ白な雪が消え、茶色い地面が現れている。植物だって育つだろう。そうすれば、食料になる動物だって集まってくる。


 これからは雪に悩まされることも、食事に困ることも、……竜神様に生贄を捧げなければならなくなることもなくなる。


 まさに、この村はたった今、救われたのか。


 私は彼女に目を向ける。

 

 彼女が教会の扉を開いて入って来た時、一体何事かと思った。

 厳重に警備が敷かれている教会の中に入るのは困難だ。

 しかも、足音を全くせずにいつの間にか部屋の中にいた。


 間違いなく、普通の人間ではない。


 その時の彼女の目は、恐ろしかった。

 目が真っ黒に染まっているようにも見えた。そこにいるのが本当に人間なのか、疑ったほどだった。

 

 だがもう、彼女がどんな存在でも別に構わない。

 彼女がこの村を救ってくれた。その事実には変わらないのだから。


 どこまでも続く青空の下で、私はいつの間にか涙を流していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ