昼寝してたら変な夢を見た。
今日は祭りの日!
楽しみで朝早くに飛び起きてしまった。
部屋を出ると、エイスが食事の支度をして待ってくれていた。
「ほら、食え。」
机の上に置かれた謎の肉を見て、心の中で悲鳴を上げる。
「いらないよ!! またいつもの虫なんでしょ⁉」
謎の黒い物体を見ながら後ずさると、エイスはムスッとした顔をして頬を膨らませた。
「今日は虫じゃないぞ。蜥蜴だ」
「どちらにしても嫌だからね」
なにドヤ顔しているのだろうか? 虫も蜥蜴も変わらない。絶対食べたくないに決まっている。
「でも……最後ぐらいはちゃんと食べたらどうだ?」
「最後ぐらいは?」
どういう意味だろうか?
「っ、いや、なんでもない」
エイスは焦ったように視線を逸らした。どうしたのだろうか?
まあいいか。
部屋に戻って服を選ぶ。一応、リリサと買いに行った服を何着か手提げに入れて持ち歩いていたのだ。こんな寒い場所に来るとは思っていなかったので薄手の生地だが、せっかくだから着て行こうと思う。
「どれにしようかなぁ~」
いろいろと悩んだ結果、一番お気に入り服を選んだ。
「エイス~。この服どう思う?」
それを見て、エイスはポカンと口を開いて動きを止めると、数秒後に動き出した。
「な、なんだその恰好!!」
なんだと言われても……普通のノースリーブのワンピースだ。ウエストを絞って、魔物の皮から作ったという黒いベルトを着けている。
「普通の服だよ? 流行ってるらしいけど……」
「村の外で買ったやつか?」
「そうだけど……?」
それを聞くと、エイスは呆れたように肩を落とした。どうやら、この村は一年中雪が降っているので、そんな薄手の服は誰も着ないそうだ。肌を出すなと怒られてしまった。
「ちゃんと服を着ろ……心臓に悪い」
心臓に悪い? それほど寒々しいのだろうか?まあ確かに雪が降ってるし、ちゃんとあったかい恰好で出た方がいいよね。
「あと、着替えるのは早くないか? まだ朝だぞ……」
むっ! それぐらい私だって気づいている。だが、楽しみで起きてしまったのだからしょうがない。
「昼までゆっくりしてろ。どうせやることないんだから」
エイスに追い払われてしまったため、部屋に戻ってぶらぶらすることにした。
「早く昼にならないかなぁ……」
あまりに退屈だったので、部屋の中にある荷物をいじりながら時間を潰す。と言っても、持ってきた荷物など少ない。レアルドに渡されたお金と、リリサと買いに行った服、あとはこの剣ぐらいだ。
首につけておいた剣を外す。
ダンジョンの最下層に刺さっていたものを引っこ抜いたものだ。魔力を抜いたらずいぶん小さくなったので、今は小指ほどのサイズになっている。だが、紐で縛ってネックレスのように首に掛けておいたから失くすことはないはずだ。
せっかくなので、ちょっと魔力を注いであげることにした。
ちょんちょんと指先でつついて魔力を注いでいく。
真ん中についている赤い魔石のような部分に手を当てると魔力を注ぐことができるのだ。
しばらく魔力を注いであげると、心なしか剣はちょっと大きくなった気がする。魔力が抜けると、少し眠くなってきた。せっかくなので、昼まで少し寝ようと思う。
ベッドの中で横になれば、睡魔に襲われてストンと眠りに落ちた。
◇◇◇
カラン。コロン。
小さな洞窟のような場所で、並んだ五つの卵を撫でる。手を当てて魔力を注いであげると、その卵はどこか楽しそうに音を立てた。
『またここに居たんですか? ■■様?』
黄金の瞳をした少年が、静かに立っていた。
『うん。見てみて、この卵、こんなに大きくなってるよ』
そこには色とりどりに並んだ五色の卵があった。その隣には、雪に埋もれて動かなくなった巨大なドラゴンがいた。
五千年もの寿命を終えて、最後に倒れたのだ。自分の子供達を頼むと言い残して。
魔力をゆっくりと注ぐ。
生まれたばかりの子供は魔力がなければ生きられない。親がいなくなったのだから、代わりに面倒を見なければならない。何となく、そう思ったのだ。
『この子達はあなたに育てられて幸せでしょうね。』
彼はそれが当たり前とでもいうように、はっきりとした声で断言した。
卵は、きれいに並べられている。恐らく、このままなら小さな洞窟の中で誰の目にも止まらずに一生を終えるのだろう。
一つの卵がころりと地面に転がろうとしたので、慌ててそれを受け止めた。
『……窮屈じゃないのかな?』
『え?』
少年は、不思議そうに目を丸くした。
『この子達は誰にも知られることなく、見つけてもらうことなく、このままずっとここにいるのかな?……広い世界を知らずに?』
それって、すごく残酷なことなのではないだろうか。
すると、『彼』は覗き込むようにして顔を近づけてきた。
『あなたの傍にいられるだけで、とっても幸せなことなのではないですか?』
彼の黄金を散りばめたような瞳が私を捉えた。
『それはね、自由を知らないからそう思うんだよ』
『そんなことないと思いますけどね。』
なぜか、彼は寂しそうに見えた。
『ねえ。あなたはもとの国に帰りたい?』
ぽつりと、そんな言葉が出た。
その瞬間、彼の瞳は不安げに揺れた。
『■■様は、僕のことがいらないんですか?』
彼は、私の手を取った。そして、それを両手で握りしめると、祈るように自分の額に当てた。
それは必死に縋り付いているような、辛そうな顔だった。
慌てて手を握り返す。
『そんなわけないよ……でも、広い世界を見に行って欲しいとは思うんだよね。』
『広い世界?』
『そう。自由で、楽しくて、美しい世界。』
ずっと私が、夢見ていた世界。
『……その世界では、僕とあなたは、一緒にいられるんですか?』
『うん。きっと。』
私がほほ笑むと、彼もつられてほほ笑んだ。
『分かりました。ずっと、一緒ですからね』
そう言って、二人でほほ笑んだ。
願っていたような美しい世界なんてなかったのに。
夢の中で私たちは、ただ子供らしく、無邪気に笑い合っていた。




