名前間違えられた!!
彼女は人生に絶望していた。
働いても働いても、お金は溜まらず。
溜まっていくのは借金だけ。
彼女には運という根本的な才能がなかった。
給料がいいからと選んだ職場はブラック企業。
ほとんど休みなしで働き、そしてすべてが家賃に消えていく。
職場で同僚に騙され、罪をなすりつけられる。
そして彼女は仕事を首になり、職も住居も失った彼女は、冒険者に転職した。
冒険者は誰でもできる自由な仕事だ。
逆に言うと、他になれる仕事などなかったのだ。
だが、一度も戦ったことのなく、さらには剣を買うこともできなかった彼女は冒険者としてほとんどお金を稼ぐことはできなかった。
依頼はほとんど達成できず、信用だけは落ちていく。
ランクは何年たっても一番下の銅級だった。
彼女は、並ぶ依頼書の前に立ちながらため息をつく。
「なんで、こんなことになっちゃったんだろう」
このまま依頼を一つも達成できなかったら、私は一生お金を稼ぐことができずいつかは飢えて死ぬだろう。
(誰にでもできる仕事でもあればいいのに)
そんなものがあれば、私は借金に追われることもなくなる。
だが、そんな都合の良い話、あるわけがなかった。
ちょうどその時、他の冒険者の話す声が聞こえてきた。
「おい、みろよ。あの依頼書。」
「怖いよな。絶対怪しい勧誘だな。」
私は彼らに目を向ける。
そこには見るからに怪しい紙が貼ってあった。
住み込みで働ける人を募集中。
誰にでもできる簡単な仕事です!
日給金貨一枚から。
興味がある人はダンジョン四十層、森エリアまできてください!
見るからに怪しい勧誘だった。
誰にでもできると書いてあるのに日給が金貨一枚だなんて多すぎる。
金貨一枚というのは、平民なら一か月は暮らせる額だ。
こんな都合のいい話、あるわけがない。
しかも、ダンジョンの中に来てほしいというところが怪しさしかない。
ダンジョンは、よく犯罪者の根城になることがある。
表の世界で生きられない人たちが、安全な場所を求めてダンジョンの中に潜んでいるのだ。
この勧誘が怪しいことは、騙されやすい私でも分かった。
でも、一文無しの私にとっては魅力的な依頼にしか見えなかった。
いつの間にか私は、ダンジョンへ向かっていた。
気配を消しながら下へ下へと歩いていく。
初心者である私が上級者の多い四十層まで行くのは自殺行為だろう。
だが、なぜか下へ行くほど魔物が減っていっている気がする。
いや、魔物はいるのだが襲い掛かってこないのだ。
不思議に思っていると、あり得ないものがダンジョンの中にあった。
巨大な、木でできた建物が。
「こんにちは。ようこそ森の宿へ!」
後ろから声がかけられる。
私は驚いて思わず飛び上がった。
震えながら後ろを見ると、美しい女の人が立っていた。
きれいな青い髪に、宝石のような赤い目。
私は思わず言葉を止めて彼女を見つめていた。
「お客様ですか?」
彼女が聞いてくる。
私はごくっと唾を飲みこんだ。
あまりの恐怖に声が出なかったのだ。
私が震えていると、彼女はなぜか嬉しそうな声を出した。
「もしかして、ここで働いてくれるんですか?」
私は震えながら頷いた。
すると、彼女は嬉しそうに目を輝かせた。
「そうなんですか!!よろしくお願いします!お名前はなんと言うのですか?」
「……リ、リサです。」
「リリサさんですね。よろしくお願いします。」
私は震える声でリサと言ったのだが、彼女はいろいろと勘違いしたらしい。
だが、否定などできるはずはなく、
私は「よ、よろしくお願いします」と言った。
この日、私の名前はリリサになった。
リリサさんの話は後半もあります。続きは明日です。