就職
【補足】
本文の時点から約8年前。
不思議な力をもつ少年が現れた。
前例のない存在に、世界中に衝撃が走った。
その力は多岐にわたり、物体浮遊、テレパシー、発火など。
いわゆる超能力である。
その後も地域・タイミング・出自を問わず、力を使う者が現れ続けた。
多くの国では、力を持つ者を迅速に保護した。
国防上の理由からその発生を秘匿するためである。
しかし、SNSの時代である。
どこからともなく情報は漏れ、個人情報まで出回るのがほとんどだった。
結論、彼らを専門に管理する国際組織が設立された。
世界では複数ある事例も、国単位で見れば稀少例で、研究するにも困難なためだ。
これが、本文の時点から7年前のことである。
彼らは、ある日突然力を使うようになることから【発現者】と呼ばれた。
世界中の親は発現者を非常に恐れた。
発現するのは(当時)10歳にならない子供ばかりであったからだ。
自身の子供が発現すれば、引き離されるのみでなく、周囲から奇異の目で見られることも多く、生活が大きく変化することは明らかだった。
発現者は年々増加したが、未だに20代以上の発現者はおらず、現状11歳での発現を超える事例は確認されていない。
発現者は、専門機関によって研究・保護され、その身分と職業が保証されている。
「近所迷惑なんでやめてもらっていいですか。」
開口一番にクレームをつける。
何の用か知らないが、舐められてはまずい。本能的にそう思った。
カミジョウさんで間違いありませんか。
警察官はこちらの態度など気にも留めず、食い気味に尋ねてきた。
横柄ともとれる態度にイラつきながらも頷く。
早く話を済ませて帰って欲しかった。
そうですか。ではカミジョウさん…。
ようやく本題に入るらしい。
おめでとうございます。
あなたが新たなる【発現者】と確認されました。
寝起きの頭では太刀打ち出来なかった。
こいつは何を言い出すのか。
だいたい確認っていつのまに…。
「ちょっと待ってくださ
つきましてはご同行願います。
よろしいですね?
有無を言わさぬ口調に、国家権力の気配を感じた。
27歳フリーターは大人しく頷くほかなかった。
いやーすごいことですよ。
まさか管轄でこんな事が起こるなんて。
ほんとにねぇ。まさかですよ。
目が覚めたら国家公務員てわけでしょ。
じゃ、お兄さん人生大逆転てわけですか。
びっくりだなぁ。
安心したのか、一斉に喋り出す警察官達。
適当に相槌を打ちながらアパートの階段をおりる。
パトカーに乗るよう言われる間も、頭ではずっとさっきの警察官の言葉がぐるぐるしていた。
これがフリーターを卒業した日だった。