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未完成の作品

作者:
掲載日:2026/03/18

放課後。

翔太は帰っていく同級生たちを横目に、机に向かい、問題集のページをめくった。


加藤「何してるの?」  


顔を上げると、クラスメイトの加藤が、隣に座ってくるのが、目に入る。


翔太は、大袈裟に溜息をつく。


翔太「勉強。…見て分かるでしょ?」


そう。生憎、僕は勉強で忙しいんだ。話しかけないでくれ。そう心の中で毒付きながら、翔太はノートに視線を戻す。


加藤「…ふーん」


加藤は、にこりと笑うと、そっと席から立ち上がる。


加藤「じゃ、暇ってことだね」


翔太「…はぁ?」


加藤「ね。今から、神社行かない?」


翔太は思わず眉を顰めて、加藤を見る。

が、当の本人は、悪びれる様子もなく、にこにこと笑顔を向けている。


…断らせる気はないんだろうな。

翔太は加藤を見つめて、大きな溜息を漏らした。


翔太「良いけど…」


加藤「決まり。ほら、行こ」


加藤は半ば強引に翔太の手を引く。


神社へと行く二人。


神社に着くと、加藤は、賽銭箱の前に立ち、500円玉を投げ入れる。翔太は、その様子を眺めながら加藤に尋ねた。


翔太「…なぁ。何で、急に神社行こうってなったの?」


加藤は目を大きく見開き、驚いた様子で翔太を見る。


加藤「えぇ。だって、今年受験生だよ?私達」


加藤はそう言いながら、ちらりと翔太に目を向ける。


加藤「君は願掛けしないんだね」


翔太「信じてないからね」


加藤「折角ならすればいいのに」


翔太「嫌なんだよね。なんか、他人任せな感じがして」


その言葉を聞いた加藤は俯く。


加藤「…ふーん、そう」


翔太「加藤は、何か願ったの?」


加藤は微笑む。


加藤「何も」


翔太「本当?」


加藤「うん」


翔太「でも、さっき賽銭箱にお金入れてた。しかも、結構な大金だったじゃん。500円だよ?少し勿体無い気もするけど」


加藤「…なんもないよ」


加藤は、顔を逸らす。


加藤「…言っても、馬鹿にされるだろうし」


翔太「えぇ、何?言ってよ」


加藤は、しばらくして、ぽつりと呟いた。


加藤「…ただ、同じ高校行けたらいいのにって思っただけ」


翔太「え」


翔太は目を丸くして、加藤を見つめる。


加藤は顔を赤らめると、ぱっと顔を背け、


加藤「ごめん。先に帰る!」


と逃げるように去っていった。



次の日の朝。いつも通り、教室には賑やかな声が響いている。机に向かい、勉強をする翔太。そこへ、クラスメイトの中野がやってくる。


中野「朝から勉強?偉いね」


翔太「…別に」


翔太は、しばらく黙ったあと、言った。


翔太「なぁ」


中野「ん?」


翔太「加藤って、僕と同じ学校受けるつもりなの?」


中野「あ、うん。そうみたいだね」 


翔太は目を見開く。


翔太「知ってるんだ」


中野「前から言ってたよ。君と同じ高校行きたいんだって」


翔太は、苦笑いする。


翔太「…いやいや、無理でしょ」


中野「…何で?」


中野は眉を顰める。翔太は笑う。


翔太「…だって、僕の志望校、進学校だよ?加藤じゃ難しいって」


中野「……そんなこと、分かんないでしょ?」


その言葉に、翔太は固まった。


中野「あの子なりに、頑張ってると思うけど」


翔太(…何だよ、こっちの努力なんて知らないくせに)


翔太は席を立ち、鞄を乱暴に掴む。


中野「どこ行くの?」


翔太「…帰る」


早歩きで家に帰る翔太。

翔太(あぁ、苛つく。どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだ)


「ただいま」


翔太は鞄を下ろすと、そのまま冷蔵庫に向かった。扉を開けて、中をぼんやり眺める。


母「翔太」


振り返ると、母親がソファに座っていた。


翔太「何?」


母「学校はどうしたの?」


翔太「休んだ」


短く答えて、ペットボトルを取り出す。


母「そう」


少し間をおいて、母が言う。


母「成績だけは落とさないようにね」


翔太は、答えない。


母「そうそう」


母「昨日、近くで事故があったらしいわよ」


翔太「は?」


母「知らない?噂で聞いたんだけど。貴方と同じ学校の子が、巻き込まれたみたいで」


翔太「…」


母「……名前、なんだったかな。確か…加藤 美月さんって子。翔太、知ってる?」


翔太「加藤…」


翔太は間を置いて聞く。


翔太「病院…」


母「え?」


翔太「病院って、どこ」


母「はぁ?知らないわよ。親と仲良いわけじゃないんだから」


翔太は俯く。加藤の笑顔が脳裏に浮かぶ。


何でた?興味なんて全くない、はずなのに。

何を気にしてるんだ、僕。


「ただ、君と同じ高校行けたらいいのになって思っただけ」


その言葉が頭に蘇る。


気づけば、翔太は走り出していた。


頭の中がぐちゃぐちゃで、まともに考えることもできない。


それでも、向かう先だけは決まっていた。


「神様」


翔太は、鳥居の前で、跪き、手を合わせた。


「お願いします。…どうか、加藤を、助けてあげてやってください」


「どうか…」


翔太は、自分の言葉に思わず苦笑した。


「…はは。何、してんだろ…」


神様なんて信じていない。

見えない何かに頼るなんて、馬鹿らしいと思う。なのに、なんでーー。


「信じてないんじゃなかったの?」


突然、背後から聞こえた声。振り返ると、そこには、加藤がいた。


「か、とう」


加藤はいた。まるでいつもの朝みたいに、何事もなく、当たり前のように。


「加藤!」


「良かった。生きてたんだ、でもどうしたんだよ。病院はーー」


「ごめん、翔太」


「死んだの、私」


「…なんて、」


「私、死んだんだよね」


寂しそうに笑う加藤。


翔太「は…?」


翔太「…何、だよ。死んだって」



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