未完成の作品
放課後。
翔太は帰っていく同級生たちを横目に、机に向かい、問題集のページをめくった。
加藤「何してるの?」
顔を上げると、クラスメイトの加藤が、隣に座ってくるのが、目に入る。
翔太は、大袈裟に溜息をつく。
翔太「勉強。…見て分かるでしょ?」
そう。生憎、僕は勉強で忙しいんだ。話しかけないでくれ。そう心の中で毒付きながら、翔太はノートに視線を戻す。
加藤「…ふーん」
加藤は、にこりと笑うと、そっと席から立ち上がる。
加藤「じゃ、暇ってことだね」
翔太「…はぁ?」
加藤「ね。今から、神社行かない?」
翔太は思わず眉を顰めて、加藤を見る。
が、当の本人は、悪びれる様子もなく、にこにこと笑顔を向けている。
…断らせる気はないんだろうな。
翔太は加藤を見つめて、大きな溜息を漏らした。
翔太「良いけど…」
加藤「決まり。ほら、行こ」
加藤は半ば強引に翔太の手を引く。
神社へと行く二人。
神社に着くと、加藤は、賽銭箱の前に立ち、500円玉を投げ入れる。翔太は、その様子を眺めながら加藤に尋ねた。
翔太「…なぁ。何で、急に神社行こうってなったの?」
加藤は目を大きく見開き、驚いた様子で翔太を見る。
加藤「えぇ。だって、今年受験生だよ?私達」
加藤はそう言いながら、ちらりと翔太に目を向ける。
加藤「君は願掛けしないんだね」
翔太「信じてないからね」
加藤「折角ならすればいいのに」
翔太「嫌なんだよね。なんか、他人任せな感じがして」
その言葉を聞いた加藤は俯く。
加藤「…ふーん、そう」
翔太「加藤は、何か願ったの?」
加藤は微笑む。
加藤「何も」
翔太「本当?」
加藤「うん」
翔太「でも、さっき賽銭箱にお金入れてた。しかも、結構な大金だったじゃん。500円だよ?少し勿体無い気もするけど」
加藤「…なんもないよ」
加藤は、顔を逸らす。
加藤「…言っても、馬鹿にされるだろうし」
翔太「えぇ、何?言ってよ」
加藤は、しばらくして、ぽつりと呟いた。
加藤「…ただ、同じ高校行けたらいいのにって思っただけ」
翔太「え」
翔太は目を丸くして、加藤を見つめる。
加藤は顔を赤らめると、ぱっと顔を背け、
加藤「ごめん。先に帰る!」
と逃げるように去っていった。
次の日の朝。いつも通り、教室には賑やかな声が響いている。机に向かい、勉強をする翔太。そこへ、クラスメイトの中野がやってくる。
中野「朝から勉強?偉いね」
翔太「…別に」
翔太は、しばらく黙ったあと、言った。
翔太「なぁ」
中野「ん?」
翔太「加藤って、僕と同じ学校受けるつもりなの?」
中野「あ、うん。そうみたいだね」
翔太は目を見開く。
翔太「知ってるんだ」
中野「前から言ってたよ。君と同じ高校行きたいんだって」
翔太は、苦笑いする。
翔太「…いやいや、無理でしょ」
中野「…何で?」
中野は眉を顰める。翔太は笑う。
翔太「…だって、僕の志望校、進学校だよ?加藤じゃ難しいって」
中野「……そんなこと、分かんないでしょ?」
その言葉に、翔太は固まった。
中野「あの子なりに、頑張ってると思うけど」
翔太(…何だよ、こっちの努力なんて知らないくせに)
翔太は席を立ち、鞄を乱暴に掴む。
中野「どこ行くの?」
翔太「…帰る」
早歩きで家に帰る翔太。
翔太(あぁ、苛つく。どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだ)
「ただいま」
翔太は鞄を下ろすと、そのまま冷蔵庫に向かった。扉を開けて、中をぼんやり眺める。
母「翔太」
振り返ると、母親がソファに座っていた。
翔太「何?」
母「学校はどうしたの?」
翔太「休んだ」
短く答えて、ペットボトルを取り出す。
母「そう」
少し間をおいて、母が言う。
母「成績だけは落とさないようにね」
翔太は、答えない。
母「そうそう」
母「昨日、近くで事故があったらしいわよ」
翔太「は?」
母「知らない?噂で聞いたんだけど。貴方と同じ学校の子が、巻き込まれたみたいで」
翔太「…」
母「……名前、なんだったかな。確か…加藤 美月さんって子。翔太、知ってる?」
翔太「加藤…」
翔太は間を置いて聞く。
翔太「病院…」
母「え?」
翔太「病院って、どこ」
母「はぁ?知らないわよ。親と仲良いわけじゃないんだから」
翔太は俯く。加藤の笑顔が脳裏に浮かぶ。
何でた?興味なんて全くない、はずなのに。
何を気にしてるんだ、僕。
「ただ、君と同じ高校行けたらいいのになって思っただけ」
その言葉が頭に蘇る。
気づけば、翔太は走り出していた。
頭の中がぐちゃぐちゃで、まともに考えることもできない。
それでも、向かう先だけは決まっていた。
「神様」
翔太は、鳥居の前で、跪き、手を合わせた。
「お願いします。…どうか、加藤を、助けてあげてやってください」
「どうか…」
翔太は、自分の言葉に思わず苦笑した。
「…はは。何、してんだろ…」
神様なんて信じていない。
見えない何かに頼るなんて、馬鹿らしいと思う。なのに、なんでーー。
「信じてないんじゃなかったの?」
突然、背後から聞こえた声。振り返ると、そこには、加藤がいた。
「か、とう」
加藤はいた。まるでいつもの朝みたいに、何事もなく、当たり前のように。
「加藤!」
「良かった。生きてたんだ、でもどうしたんだよ。病院はーー」
「ごめん、翔太」
「死んだの、私」
「…なんて、」
「私、死んだんだよね」
寂しそうに笑う加藤。
翔太「は…?」
翔太「…何、だよ。死んだって」




