義兄弟ほのぼのドキドキ暮らし1
「良いかい?ヘンリー。私の名前は『ルース』で、ジェームスは『アムス』だ」
おはようございます。ディラン伯爵家三男のヘンリーです。いつもの様に朝起きると、両脇に兄様達は既に居なくて、レイラに抱っこされてダイニングに行くと、第一王子ルーカス殿下がそう言いました。
あ、昨日、二人の王子殿下もお泊まりしたんだねぇ。
「おなまえ…」
「そう、暫くここで世話になる。ここに居る間は、王子では無く伯爵家の身分とする。だから、この名前で呼んでくれ。分かったかな?ヘンリー。私の名前は?」
「るーす」
「ヨシヨシ!頭の良い子だな、ヘンリー」
ルーカス殿下の問いかけに答えると、抱き上げて頭を撫でてくれる。え、待って、暫くここに居るって、本当?
どういう事?と思ってテオ兄様を見ると、直ぐに僕をルーカス殿下から奪い取ってこう言う。
「ルーカス王子殿下、ヘンリーを勝手に抱かないでください。不安がるじゃ無いですか」
「おいおい、私は『ルース』だと決まっただろう。四歳のヘンリーにも出来るのに、困ったお兄ちゃんだねぇ〜」
咎めるテオ兄様に、ニヤニヤ顔で煽るルーカス王子殿下。二人って、本当に仲が良いんだねぇ〜。
「ヘンリー、俺は?俺の名前はなんだ?」
テオ兄様に抱っこされたまま ニコニコしてると、暴君殿下がやって来る。
「あむす」
キリッとした顔で答える僕。暴君殿下のお顔が、パッと華やぐ。
「そうだ!偉いなっヘンリー!俺もお前と同じ身分だ!」
テオ兄様から僕を取り上げようとする暴君殿下。でも、テオ兄様がさっと僕を遠ざける。
「おい!テオドール!ヘンリーを寄越せ!不敬だぞ!」
「アムス身分は同じなんだろう?”不敬” にはならないが?」
フンと鼻を鳴らすテオ兄様。
「お前っ!俺の時ばっかり…!」
地団駄を踏む暴君殿下。
「ハイハイ、そこまで。朝食に致しましょう、皆様」
ティム兄様が止めにやって来る。そして、みんな揃って朝食を摂る。でも僕はティム兄様のお膝の上…え?
「ウィリアム、それでは食べづらいだろう。俺が変わろうか」
「いいえ、テオドール兄様。僕が一番慣れておりますから」
「急に来て済まないね。まさか食卓が 四席しかないとは思わなくてな」
そう、ここは公爵家の別荘だけど、『隠居』との呼び名の通り、こじんまりとした御屋敷なんだ。部屋数も少ないし、ダイニングテーブルも席が四つしかない。先に言ってくれれば、用意する事も出来たけど、本当に突然やって来たからね!昨夜は 帰路に三刻もかかるから、流石にテオ兄様も追い返せなかったみたい。夜中の移動は危険だもんね。
「俺の膝でも良いぞ」
キラキラしたお顔で提案する暴君殿下。
「いえ、王子殿下にそんな事をさせる訳にはいきませんから」
キッパリ断るティム兄様。
「ウィリアム!俺は暫く、アムスだぞ!」
ムッとして言い張る暴君殿下。本当に暫くここに居るつもりみたい…。すると、みんなの前に朝食が用意される。王子殿下が居るとあって、いつもより豪華だ!コレは夜飯用の食材も使ってますね!慌てて買い出しに行く使用人の姿が思い浮かぶ…、ご面倒おかけしますね…。
フカフカの白パンに、具だくさんのシチュー。厚切りのローストビーフに新鮮野菜のサラダ。レモンのキッシュに煮魚。それと見た事ないフルーツ。きっと暴君殿下のお土産だろうな、いつも珍しいフルーツくれるから。
白パンは暖かく、小さくちぎるとフワリと湯気が立つ。そのまま何もつけずにお口にパクン。柔らかくて、ほのかに甘い味がする。おいちい。じっくり煮込んだシチューは、具がトロトロに溶けて、旨みがお口いっぱいに広がる。この白パンとシチューだけで最高においちい!
なのに今日はローストビーフもある!これはいつもなら夕食のご馳走だ。朝から出るなんて凄い。ティム兄様が小さく切ってくれて、僕のお口に入れてくれる。噛みごたえがあるのに、あっという間に溶けちゃう。じゅわ〜と濃い味が白パンを呼んでいる。
モチモチ食べて居ると、スっと野菜が刺さったフォークを差し出される。テオ兄様だ。野菜も食えって事だろう。良く見てるよね。パクンと食べると満足そうに頷く顔が見える。別に僕、野菜が嫌いな訳じゃないからね!でも、褒めてくれても良いよ〜。えへへ。
「ヘンリー、ほら」
僕達のやり取りをジッと見てた暴君殿下が、野菜を僕に差し出す。ほほーん、テオ兄様の真似ですか、まあ僕は良い子なので、食べてあげますよ。パクン。
「ふふふ」
凄い嬉しそうな顔で笑う暴君殿下。昨日からめっちゃ機嫌が良いですね〜。
「アムス」
ルーカス王子殿下が、暴君殿下にローストビーフが刺さったフォークを差し出す。お?
「あ、兄上?!」
「なんだい、ここでは”こうして” 食べるもんなんだろう?ほら」
ニヤニヤしてる。ルーカス王子殿下って、結構 イイ性格なんだね〜。キョロキョロしてた暴君殿下は、意を決して口を開ける。お顔が真っ赤だ!
「どう?美味しいかい」
「は、はい…」
この二人ってこんなに仲良かったっけ? まあ、兄弟の仲が良いのは良い事だよね!!!
「じゃ、次は私だ。ほら、アーン」
ルーカス王子殿下が口を開けて催促する。ええっと暴君殿下が可哀想なくらい慌ててる。でも、ルーカス王子殿下が引かないので、仕方なく ローストビーフを切ってお口に入れる。プルプルお手てが震えてるよ!暴君殿下も可愛いとこがあるね。ふふ。
「いやぁ、ここへ来る事にして良かったな」
満足そうなルーカス王子殿下。
「来た理由を忘れないでくださいね」
ジロリと睨むテオ兄様。そうそう、何しに来たんだろう。暴君殿下が僕にお見舞いに来たなら、今日はもう帰る筈だよね…。暫く居るって何するんだろう。でも、往復六刻(12時間)かかるから、少しゆっくりしてから帰るのかな!
朝ご飯は豪華で量がいっぱいだったけど、僕が食べる分はいつもと同じ。何か今ならいっぱい食べられそうな気がしたけど、気のせいだったみたい。げふっ。
お外は今日も雨。朝ご飯の後、皆で応接室に移動してお茶を楽しむ。何か、人が増えたせいか、密度が濃いね!王子殿下が二人も居るからかな、何かオーラが凄い。
「さて、ヘンリー」
少し歓談した後、ルーカス王子殿下が コホンと話を切り替えた。
「君の事について、改めて確認したい事が有るんだが、良いかな?」
「?」
首を傾げる僕。
「君を狙った犯行があったのを確認している。それは調査中だが、まず、何故 君が狙われたか、心当たりは有るかい?」
ルーカス王子殿下が、優しいお顔をして聞いてくる。僕を狙った犯行…?この間の溺れた事件の事かな。うーん、正直 何の心当たりも無いんだよね。歴史書にもそんな事件、書いて無かったし…、と 云うか、もう歴史書の内容から大きく外れてて、アテにならないんだけどさ〜。
「ない、です」
プルプルお顔を振って答える僕。皆も、うーんだよね〜みたいな顔してる。
「透明な男を見たと言っていたね、君の属性は月で間違いないかな?」
ドキィ…!! 確かに、僕の属性は月魔法なんだけど…、闇魔法も持って転生したっぽいんだよね…。でもこんな話聞かせる訳には…、そもそも、祝福二つとか、有り得るのかな?未来の世界で ちゃんと勉強しとけば良かった…うう。
「あい」
こくん と頷く僕。取り敢えず、月魔法使いである事は間違いないから、頷いとこ!
「では、鑑定をしても良いかな?」
えっ! そんな事されたらバレちゃう!!
「かんてい…」
「ああ、少しも痛くは無いよ。私の両手を取って、両眼を見つめてくれれば良いんだ」
うわ!ルーカス王子殿下、”真実の瞳” を持ってる?! 確か、光魔法使いだったよね…。これはヤバイのでは…。
アワアワしてる内に、両手を繋がれて瞳を覗き込まれる。綺麗な赤い両眼が ふわふわと滲んでいく。
「…ふーん。成程、『月魔法使い』で、間違いないようだね。」
えっ
「そうですか…」
ちょっとホッとした顔をするテオ兄様。でも直ぐ複雑そうに眉を寄せる。
「じゃあ、やっぱり透明化を解いたのは、ヘンリーの月魔法の祝福なんですね」
ティム兄様も、ホッとしてそう言う。
「その様だね。まあ、祝福と言うのは人それぞれ、神からのプレゼントだ。国の記録にある以外にも、沢山の権能があるんだろう」
闇魔法の基本スキル、魔法無効化じゃ無くて、あくまで月魔法使いの『祝福』として処理されたみたい…!ちょっとホッとしたけど…、ルーカス王子殿下は”真実の瞳” が祝福なんじゃ無いのかな?それだと何もかも見破れる筈なんだけど…?
不思議に思ってルーカス王子殿下を見てると、ニコッて笑った。え、何、意味深過ぎる…。
「それでは、何故ヘンリーが狙われたかについて、話し合おうか」
フンと暴君殿下が仕切り直す。あ、そうか、僕の為に集まってくれたのかな?なんか、すいません…。でも、全然思い当たる事が無いんだよね〜。歴史書にもヘンリー暗殺なんて無かったし、そもそもヘンリーは悪役令息で、暴君殿下の右腕で、下克上を成功させて国を傾ける。暴君殿下に裏切られて斬られるまで、ずっと生きてたし。
「相手は複数と見て間違いないだろうな、それも高位貴族が匿って居るんだろう。で無ければ 既に発見されて居る筈だ。何処にでも 人の目はある。」
「ヘンリーの母上、エイダン夫人は公爵家の令嬢でした。エイダン夫人を狙った、と云うのはどうでしょう」
ティム兄様が遠慮がちに言う。貴族は皆そうだけど、やっぱり位が高ければ高い程、恨みや思惑のせいで暗殺される可能性が高くなるもんね。
「それが目的なら、既に果たされているだろう。その後にヘンリーが狙われる理由は?」
「それは…」
問いかけるルーカス王子殿下に、答えに詰まるティム兄様。
「ヘンリーの…父親に理由が有るとしたら…?」
テオ兄様が低い声で答える。と、その場が パリッと緊張を帯びた雰囲気になる。えっ、僕の父親…。
「それは…」
ルーカス王子殿下とティム兄様が遠慮がちに僕を見てくる。あー、そうだよね。僕の父親は ベンジャミン・ディラン伯爵の筈だもんね。
「成程!もし、ヘンリーの本当の父親が、王家の人間であったなら、『王位継承権』が発生する!エイダン夫人が相手を言わずに身篭ったのも頷けるな!」
「ジェームス!」「「王子殿下!!!」」
ハッとして大声で言う暴君殿下に、ルーカス王子殿下と兄様達の声が被さる。
「何だ? ヘンリーなら、もう自分の出自を知ってるぞ」
全員に怒鳴られて、憮然とする暴君殿下。
「えっ! な、何故…つ!」
ティム兄様が慌てる。
「何故、だと? そりゃ、俺が教えたからな」
フンと腕を組む暴君。真っ青にあるティム兄様に、頭を抱えるルーカス王子殿下。
「…それは、ヘンリーが成長してから時期を見て告げるつもりでした。どうして家族でもない貴方が、そんな大事な事を勝手に…っ」
テオ兄様の低い声が部屋に響き渡る。怖っ。
「…っ、そ、それは!最初はお前達が、ヘンリーを狙ってると思っていたからな…っ。」
自衛させる為だ、とか何とか暴君殿下が言ってる。テオ兄様のお顔が般若みたい…。怖っ。
「…あーーーー、そうか。しかし、ジェームスの言には納得もいくな。エイダン夫人は高貴な令嬢だ、出会える男と言うのも高位貴族だろう。それが王族…仮に陛下や王弟殿下であっても不思議では無い。」
「もし、陛下であったなら、俺とヘンリーは義兄弟と言う事に…!!」
「何を嬉しそうに言ってるんですか!もしそうなら、とんでもないスキャンダルですよ!!」
はわわ…としている暴君殿下に、ティム兄様がピシャリと叱る。
話が凄い事になってるけど…、僕の本当の父親は、確か詩人だった筈…。皆の言うことも分かるけど、歴史書にはそんな事書いて無かったよね〜。うーん。
「まあ、その線が一番可能性が有りますね。事実で無かったとしても、犯人がそう誤解してヘンリーを狙っている事も考えられますし」
腕組みして考え込むテオ兄様。
「では、その方面で探るか。ヘンリーには暫くここで身を隠して貰うしかないな」
思案顔のルーカス王子殿下に、皆が頷く。
「元よりそのつもりです。テオドール兄様、父上にもご報告しないと…」
「ああ、これから手紙を書くつもりだ」
「では、ヘンリーは俺が見ていてやろう。ヘンリー、何して遊ぶ?」
「ふふ、お前が遊びたいだけだろう。ジェームス」
「い、いや!決してそんな…っ」
「テオドール兄様、ルーカス王子殿下。お仕事があるのでしたら、僕はヘンリーとジェームス王子殿下と別室におります」
スっと僕を抱っこして立ち上がるティム兄様。
「悪いな、ウィリアム」
「いいえ、さ、参りましょう ジェームス王子殿下」
「ウム」
暴君殿下もスっと立ち上がる。
外は雨なので、別室で絵本を読んで貰う事にした僕なのでした。