義兄弟ほのぼの暮らし 2
「ヘンリー、朝だ。起きなさい」
おはようございます。ディラン伯爵家三男のヘンリーです。今日も義兄達に挟まれての起床、大変 幸せです。
「ウィリアム、起きなさい」
ティム兄様の朝のグズりも健在です。いつもピシッとしてるティム兄様の 赤ちゃんみたいな様子を見れるのは、弟の特権ですね!賢者みたいなテオ兄様も、きっと赤ちゃんの時期があったんだよね〜、なんか想像がつかないけど…。
「どうした?ヘンリー、そんなに見つめて」
プルプル顔を振る僕。考え事すると凝視しちゃうみたい、気をつけないと!にこーって笑って誤魔化すと、テオ兄様も フッて笑ってくれる!イケメン!
「今日は朝食の後、少し森を散策するか。ずっと部屋に居てもつまらないだろう」
御屋敷に来て3週間、ここ最近は体を動かす事も許可されるようになったし、薬湯も飲んでない!
まあ、あんな大怪我してたせいだと思うけど、皆 過保護なんだよね〜。ちょこちょこ お庭で日光浴はしてたけど(抱っこされた状態で)、森に行くのは初めてだ。楽しみ!
「…ておどーるにいさま…、ヘンリーをもりへつれて…いくのですか?」
まだ良く目が開いていないティム兄様が、テオ兄様に問いかける。
「何か問題があるのか?」
ティム兄様は、日中は家庭教師の人と良く森へ調査に行ってるんだ。ティム兄様の属性は土魔法で、義父と同じ。そのせいもあると思うんだけど、薬学を学んでるみたいなんだよね。
広大な森の中に御屋敷があるんだけど、敷地内だけ塀で仕切ってるから、ここで言ってる森は塀の内側、大きいめの庭程度なんだけど、それでも毎日調査に行く程広いみたい。
「いえ…危険は無いと思いますが…まだ全て調査が終わった訳では無いので…」
何かあったら大変…と続けるティム兄様。モソモソ毛布から起き上がって両目を擦ってる。
「そんなに奥までは行かない、手前数メートルだ。それに、この屋敷には防御魔法が掛かってるだろう?」
「まあ、それはそうなのですが…」
ティム兄様は、隣に居たのに僕が水底に連れ去られたのを、まだ気にしてるみたい。ここに来て直ぐに、自分でも土魔法の防御をかけてたもんね。それでもいい返事をしないティム兄様に、テオ兄様が肩をすくめる。
「分かった、では庭でパンを焼く事に変更しよう」
「ぱん?」
えっと顔を輝かせる僕。庭にはかまどがあって、たまにやって来る公爵様の趣味で、色んな物を焼いたり出来るようになってるんだ。お庭で日光浴してる時も気になってたんだよね〜。
「パンですか?」
ティム兄様がテオ兄様の急な方向転換にビックリして目を大きく開いてる。
「ああ、折角こんなに自然に溢れた所に 滞在出来ているんだ。ヘンリーにも色んな体験をさせてやりたい」
「なるほど…それは良いですね。伯爵家では絶対にやらない事です」
にこっと笑って言うティム兄様。そうだね、危ないからって許可が降りないよね。
伯爵家でもそうだけど、未来の世界では僕、公爵だったからシェフがやってるのを見た事はあるけど、着替えすらメイドの仕事だったし料理なんて以ての外だよ。テオ兄様は結構、柔軟な考え方する人だから こういう提案出来るんだろうなー。
ティム兄様と手を繋いでダイニングルームに行くと、今日の朝ご飯はオニオンスープと蜂蜜たっぷりのフレンチトーストでした。オニオンスープは、飴色になるまでジックリ炒めた玉ねぎが甘くて、でもスパイスが効いてるから、甘いフレンチトーストの合間に飲むと お口がサッパリして無限ループ出来そうだよ。
フレンチトーストも、卵がしっかり染みてて 表面はカリカリなのにナイフで切ると中が半熟で、とろーって溶けるの。おいちい。
「…ウィリアム…。そろそろ、ヘンリーに食事のマナーを教えるべきだと思わないか?」
ええ、勿論、ティム兄様に あーん させて貰ってます。毎回、それとなく苦言を呈してるんだけど、『ヘンリーはまだ小さいから、1人で食べさせたら食事が終わらない』って言って、テオ兄様の苦言を無視してるんですよね…。ティム兄様が1番過保護かも…。
でもそもそも、テオ兄様自体がティム兄様に過保護だから、ティム兄様にそう言われちゃうと何も言えなくなっちゃうと言うか…。
今回も『そうですね』って笑顔でスルーされてます。モグモグするしか出来ない僕。申し訳ない。
◇◇◇◇◇
そしてお昼過ぎ頃に、レイラ監修の元、パン作り体験がはじまりました。シェフは毎食の支度に忙しいのでね、ここは人数も限られてるし。それにレイラは一通りの料理も出来るんだって、イザと言う時に必要なスキルのひとつらしい、特にレイラは護衛も兼ねてるし 凄いよね。
珍しい体験が出来るから、嬉しくて ぴょこぴょこ跳ねちゃう僕に、すぐテオ兄様の注意が入る。
「ヘンリー、止まりなさい。騒ぐと事故の元だぞ」
「あい!」
両手を上に上げてお返事する。なんかもう、ティム兄様が不安な顔してる。
そして結局、ティム兄様に抱っこされてしまった。もう〜。大人しくしてるって!
「いいかい、ヘンリー。良く見ていなさい。まずはこうして…」
そう言って慣れない手つきで材料を混ぜ始めるテオ兄様。そうだよね、パン作りなんてこれは2人の義兄様達にとっても、珍しい体験だよね!ティム兄様も興味津々でその様子を見てる。
まとまった生地を捏ねる作業だけ、少しやらせて貰えた。白い粉に卵が入って少し黄色味を帯びた塊を、小さいお手てで捏ねる。ひんやりして、モチモチ柔らかい感触が新鮮!夢中で捏ねる僕を ほのぼのと見守る兄様達とレイラ。
なんか、最近益々、テオ兄様の父上感と、ティム兄様の母上感が…。慈愛溢れてるというか…、未来の世界の僕の兄達は、もうちょい普通の兄弟感だったから なんか甘えたくなると云うか…。既に甘えてると云うか…。手遅れと云うか……。そんなに歳が離れてるわけじゃないのにね、ハハハ…。
「良し、そろそろ良いだろう。ヘンリー、生地を寝かせている間に休憩しよう」
へえー、生地って寝かせるんだ! 『ヘンリー、いっぱい捏ねて偉いね』って褒めて貰いながら、濡れた布巾で両手を拭いてくれるティム兄様。優しい。
すぐにレイラが庭に設置してあるテーブルに、お茶の用意をしてくれる。普段大して動かないから、生地を捏ねるだけでも喉が渇いちゃった。それに今日は日差しも強くていい天気だしね。
レイラが入れてくれたお茶を、ティム兄様のお膝に乗って飲む僕。貴重な氷入りのハーブティー。テオ兄様の祝福なんだって!
テオ兄様の属性は水魔法で、攻撃魔法を得意とするアタッカーなんだけど、”知識の番人” とも云われる程、多くの学者を排出してる属性でもあるんだ。賢い。
祝福効果で氷を作る事が出来るんだって、暑い夏だけじゃなく、多方面にも生かせる凄いスキルだよね!『真実の瞳』じゃなくて良かった!
僕の祝福効果で相手のステータス画面を見る事はできるけど、そこで見れるのは 名前や性別、生年月日や歳と属性、ステラのランクに生い立ち。でも、ギフトスキルは載ってないんだよね。不思議。確か…学校の先生はなんて言ってたかな…。未来の世界には あんまり魔法が無かったから興味無くて…、こんな事になるなら、もっと真面目に勉強しておくんだったよ。はあ。
とにかくテオ兄様が作ってくれた氷を入れて、上機嫌でアイスティーを飲む僕。でも、僕のコップには氷が2つしか入ってない!兄様達のコップにはたくさん入ってるのに!そろっと手を伸ばすとテオ兄様に止められる。
「ヘンリー、これはお前には冷た過ぎるからダメだ。」
「そうだよ、お腹を壊したら大変だよ!」
ええ〜、アイスティーはキンキンに冷やしてナンボじゃ無いの〜?!うるうるした瞳で見つめても、絆されてくれない兄様達…う、手強い。
ゆっくり休憩してる間に生地も脹らんだみたいで、それぞれが自由に形を作る。と言っても僕には丸める位しか出来ないけど。それでもティム兄様は『凄い凄い』って褒めてくれる。えへへ、そおお〜?
焼く工程は危ないからって、またテーブルセットに戻ってティム兄様のお膝で待機。テオ兄様が釜に生地を入れるのを見てた。カッコイイ!職人みたい!
焼けてくる匂いが庭じゅうに広がって、お腹が くうぅ〜
って鳴っちゃう。そしたらティム兄様に笑われちゃった。焼きあがったパンもテオ兄様が取り出してくれた。凄い絶妙な焼き加減で美味しそう!
「まだ熱いからね、気をつけて」
そう言って ふうふう 冷ました黄金色のパンを僕のお手てに乗せてくれるティム兄様。
わあ〜温かい!これ、僕がさっき丸めたやつだ!焼く前よりも大きくなってる!すんすん 匂いを嗅ぐと、凄く芳ばしい香りがする。連動してるかの様に、僕のお腹が くうう と鳴る。
「ふふふ、夕食が食べられなくなっちゃうから、ひとつだけね」
って言ってウィンクしてくれる。やったー!
「あい!」
ギュッと両手に力を入れてパンを左右にむしる。中は真っ白で 湯気が立ち上る。ほわわ〜 美味しそう!パクっとお口に入れると 甘い味が口いっぱいに広がる。おいちい〜!何もつけなくても、絶品ですね!!
「ヘンリー、美味しいだろう。普段、出来たてを食べる事は無いからな。」
毒味の関係で食事は、いつも結構冷めてるんだよね。僕は猫舌だから何とも思わないけど、やっぱり『出来たて』って美味しいんだなぁ〜!
うんうん 頷いてたら、テオ兄様が頭を撫でてくれる。
「今回は自分で作ったから、美味さもひとしおだろう」
晴れやかなお顔のテオ兄様。こんな顔見るのも珍しい!テオ兄様も楽しかったんだね!ティム兄様もにこにこしてるし、明日もパン作りやりたいな〜!
そんなに はしゃいでるつもり無かったんだけど、いつの間にかティム兄様のお膝で寝落ちしていた僕。夕食だよ〜って起こされるまで、お昼寝していたのでした。