第四章-4-『潜入』
こんにちわ!ディラン伯爵家三男のヘンリーです。
ファーニーさんが王子殿下達を呼びに行ってくれてる間、王宮の蔵書室で あの、魔女たんが閉じ込められた本を探してたんだけど、どこにも無かったんだ!あんなに分かりやすく存在感があったのに、全ての本棚を探しても見つからなかったの。
「…もしかしたら、あの時 ヘンリーが脱出させてくれた時に、あの本事態を壊してしまったのかねぇ〜。出られて浮かれてたから、あの本がどうなったか、ちゃんと確認して無かったんだよねぇ〜」
ウムム…と腕を組んで考え込む 魔女たん。確かに僕も、その後どうなったのか、確認してなかったなぁ。
「では、その本から跡を辿れないという事か…」
一通り話を聞いて、残念そうな顔をするルーカス王子殿下。
「…と、いうか。君たちは本気でその本の中に入るつもりだったのか? 出られなくなったらどうするつもりなんだ?」
呆れ顔で言うテオ兄様。
「だから、ヘンリーが一緒に行けば…」
「ヘンリーは今、魔肝が壊れていて魔法が使えないんですよ?ただの可愛い俺の弟なだけです。」
ジェーちゃの言葉を遮っていうテオ兄様。か、可愛いって…でも、よく言ってくれました!そうだよ、二人とも、僕は今 魔法が使えるか分かんないんだからね!
テオ兄様の言葉に ハッとするジェーちゃと魔女たん。
「それなら、やっぱり教会かなぁ〜。転移魔法円から消えたのは間違いないし、教会は『女神』のお膝元だしねぇ。」
うーん、と魔女たんが言う。
「女神アレクシス様、それならやはり、『K』は偽女神が匿っているとお考えですか?」
「どうかなぁ〜、アタシはよく知らないんだけど、他所から召喚するくらいだから、転移魔法円から自分の元へ移動させるくらいは、おちゃのこさいさいなのかもねぇ。」
ルーカス王子殿下はちゃんと魔女たんの事を敬って女神様って呼ぶんだよね。
「なら、もう一度 教会を調べてみよう。」
「そうだな、ジェームズ。しかし今日はもう日が暮れる。明日 改めて行くとしよう。」
ジェーちゃとルーカス王子殿下の話にテオ兄様が割り込む。
「いや、それはいけません。」
「何故だ?テオドール」
キョトンとした顔をするジェーちゃ。それをジロリと睨むテオ兄様。
「ジェームズ王子殿下、来週に『祝賀パーティー』が行われるのをご存知ですよね?」
「『祝賀パーティー』?」
顔に影がさすジェーちゃとは対照的に、魔女たんは面白そうに顔を綻ばす。魔女たんは 皆とワイワイするのが好きみたいだ。
「そうですよ!今回の大魔人戦で 大きな災害になるのは目に見えていました。王妃様が隣国に連絡を取って下さり、まだ多くの民があちらに避難したままです。それにサイラス国王は騎士団も派遣して下さって、戦場の後片付けも手伝って下さってます。それに対してアデルバード王国は大魔人討伐と隣国との友好を示し、祝賀パーティーを開催する予定です。」
と、ファーニーさんが説明してくれる。
へぇ〜 そうなんだ。僕はずっと王宮の一室に居たけど、ほとんどベッドの上だったから そんな事知らなかった。でも待てよ…何だろ? 何か、今 引っかかったような…。
「そうですよ。もし戻って来れなくなったらどうするつもりですか?」
「だが、今回こそ アシェルの所に繋がるかも知れないんだぞ?祝賀パーティーをするなら、アシェルも参加させたいし…」
「…ルーカスの言い分も分かるさ、このままではアシェル様の座が危ないからな。」
「そうだろう?だから私が…!」
「言っただろう、そんな危険な場所に行かせる訳には行かない。調査なら俺が行く。」
「テオ……!」
クールに言い切るテオ兄様に、ルーカス王子殿下の顔が カッとなる。珍しーい!ルーカス王子殿下って、微笑みの王子って二つ名があるくらい、感情のブレが少ない人なのに。テオ兄様相手だからかな?仲良しみたいだもんね。
「そうですよ、兄上!後のことはお任せ下さい!」
キリリッとしたお顔で言うジェーちゃ。
「…いや、何を言ってるんですか?ジェームズ王子殿下。ルーカスが行けないのに貴方が行ける訳無いでしょう。」
呆れ顔でいうテオ兄様。
「はぁ?!何でだ!俺は王になる気は無いし、別に出なくても良いだろう!」
「ジェームズ!それだけどね、君は今日のお茶会を無断欠席したよね?エミューズ伯爵令嬢に失礼だろう。彼女は後宮に入る予定なんだぞ。父上は誰を王太子にするか まだ明言されておられない。私達、二人で出迎えるべきだった。」
「そ、それは…だって俺は、将来、兄上の支えになるつもりです!父上は兄上を王太子に指名なさるに決まってますし!俺はヘンリー以外を傍に置く気はありません!」
「………!」
わっ! ジェーちゃの言葉に、テオ兄様が般若みたいな顔してる!
「ジェームズ…、そう言ってくれるのは嬉しいけどね…」
額に手をあてて、ヤレヤレ…みたいなルーカス王子殿下。義兄弟で王権を争う必要がないのは 有難い事なんだろうけど、それにしたって他の人の思惑とか色々あるだろうし、『いっち抜けたぁ〜!』みたいなジェーちゃの態度は褒められたものじゃ無いんだろうなぁ。
「ジェームズ王子殿下にも、祝賀パーティーには出席して頂きます!王族なんですから。ですから調査にはディラン伯爵家が向かいますので、ご安心を。」
「「何だって?!」」
テオ兄様の言葉に、そっくりの顔で驚くジェーちゃとルーカス王子殿下。
「勿論、女神様にも手伝って頂きます。父の防御魔法、ウィリアムの薬丸、ヘンリーの可愛らしさがあれば問題無いでしょう。」
「よし来た!任せなッ」
何故かガッツポーズを取る魔女たん。
「イヤイヤイヤ!ディラン伯爵家だけに危険を強いる訳にはイカン!俺も行く!」
騒ぎ出すジェーちゃ。ルーカス王子殿下は諦めの顔をしてる。そうだね、テオ兄様って頑固だしね。
「…ジェームズ。仕方ない、ここは引こう。任せる事も必要だ…。」
「しかし、兄上…ッ! ヘンリーが行くのなら俺も…ッ」
「ジェームズ!アタシが居るんだから大丈夫だよ!大舟に乗ったつもりでいなっ!」
パーンと胸を叩いて、ウィンクする魔女たん。
「うぐぐ…ッ」
不満げに唸るジェーちゃ。こうして、次の日のお昼前、準備を整えたディラン伯爵家一家は教会の中へと足を踏み入れたのでした。
◇◇◇◇◇
翌日、不機嫌なジェーちゃと 爽やかなルーカス王子殿下に見送られながら 再び入った教会は、アチコチにヒビが入ってて、『立ち入り禁止』は伊達じゃないなと思いました。ディラン伯爵家一同と護衛騎士の皆さんで教会に入ります。
「そうだ、ヘンリー。はい これ飲んでね。」
何だか 凄く久しぶりに会った気がするティム兄様は、ぎゅうぎゅうと僕を抱きしめた後、赤い色の塊をくれた。透き通ってて 薬丸くらいの大きさ、何だろ、ティム兄様の事だから、もしかしてお薬かな?
「最近完成したんだ。ヘンリーは魔肝にヒビが入ってるんだよね?もしかしたら少しは良くなるかも知れないよ。」
にっこり笑うティム兄様。凄いなぁ〜、薬丸だって凄い発明なのに、更に違う薬も作ってるんだ!これなら本当に、木魔法使いの治癒魔法が無くても、大丈夫かもね!
「ウィリアム、その先 足場に気をつけろよ」
僕を抱っこしてるテオ兄様が、辺りを観察してるティム兄様に声をかける。元々、あんまり歩くのは得意じゃ無かったけど、大魔人戦で大怪我して、治療して貰って、最近はまた歩けるようになってるんだけど、みんな、当然のように僕を抱っこするんだよね。まあ、僕のヨチヨチ歩きじゃ遅過ぎて迷惑になるから、大人しく抱っこされてるんだけどさ、重くないのかな?とても申し訳ないよね。
「ここは一度、徹底的に捜索されてるからな…。何かあるとは思えないが…」
義父が辺りを見回しながら言う。そうだよね〜、ルーカス王子殿下とテオ兄様も、何度も探したって言ってたもんね。
「しかし父上、私達では感じられない事を、女神様ならもしかして…」
「あ!」
テオ兄様が義父に応えていると遠くで魔女たんが声を上げた。みんな、一斉に近くへと走る。
「どうしましたかっ!」
「ここ!ここから行けるかも!」
そこは女神像が祀られている広間だった所。女神像は傾いて、アチコチにヒビが入ってる。床が崩れてて、丁度 地下の転移魔法円が見える。
「凄い…!」
魔女たんの言葉にティム兄様がビックリしてる。義父も驚いた顔してる。テオ兄様だけが冷静に、
「全員、入れますか?」
「いや…ここも狭いね。入れるとしたら…」
チラリと僕を見る魔女たん。
「まさか…ヘンリーだけ、とか?ハハ…」
多分、冗談のつもりで言ったんだろうけど、ティム兄様のお顔は引きつってる。
「ヘンリーだけ行かせる訳には行きません。魔法も使えないし、今は声だって出ないんですよ。」
キッパリと言うテオ兄様。
「んー、そうだよねぇ。アタシは鳥に変身出来るから、アタシだけで見てこようか?」
そう言うと、パッと青い鳥の姿に変わる魔女たん。流石にみんなビックリしてる。こういう魔法は無いし、あったとしても祝福だろうしね。でも魔女たんだけ行って、大丈夫なんだろうか?この国を創るくらい凄い魔法使いだけど、簡単に閉じ込められちゃってたし…、こう言ったらアレだけど、凄い魔法使い過ぎて過信し過ぎてると言うか、人を疑う事を知らないと言うか…結構アホよりに感じるんだよね。
でも、テオ兄様達には通れないし…。
「ぼく、いく」
あ、声出た…!ティム兄様の赤いお薬飲んだからかな?ティム兄様、凄ーい!
「ヘンリー、ダメだよ!危ないに決まってる!」
そのティム兄様が めっ!ってしてる。
「ヘンリーが行ったとて、何も出来ないだろう?かえって足手まといになるんじゃないか」
義父も反対なんだね。まあ、そうか。でもさ〜…
「ヘンリー、着いてきてくれる?」
魔女たんが、パタタと僕の肩に止まる。
「女神様、でも…!」
ティム兄様がオロオロと皆を見回す。
「ヘンリーはさ、『解呪』が使えるみたいだから、ヘンリーが居れば確実に戻って来れるんだよ。」
「…………」
魔女たんの言葉に、ディラン伯爵家が顔を見合わせる。僕のその話は既に周知済みだ。もしこの先にアシェル様が閉じ込められているとして、僕が居なくて出れない、なんて事になれば事態は更に深刻になる。
「…ヘンリーに、絶対に、危険な目に合わせないと誓えますか?」
そう聞くテオ兄様の顔は能面のように真っ白だった。対する魔女たんの返事はいつも通り…
「まっかせなぁ!」
だった。
どうしてそんなにいつも自信満々なのか…。やっぱりこういう所が放っておけないよね。ディラン伯爵家はしばらく話し合ったのち、外で待つ事になった。行くのは僕と魔女たん。魔肝が壊れてるのに大丈夫なのかって?さっき、試しに『言語通信』使ってみたら、ちゃんと出来たんだよね。きっとティム兄様のあのお薬のお陰なんじゃないかなって思う。魔肝が治ってるかどうかは、あとで神官さんに診て貰わないと分かんないけど、とりあえず『言語通信』は使えたから、何かあったら直ぐに連絡するように言われた。これなら、中の様子を知らせられるしね!
魔女たんが言うには女神像の足元辺りに歪みがあるらしく、そこへテオ兄様に置いて貰った。すると水音が聞こえてきた。あれぇ?と後ろを振り向くと、そこは本当に水の中みたいな景色で、テオ兄様もティム兄様も義父も…護衛騎士の皆さんの姿も見えなかった。
水の中みたいだけど、普通に息は出来るし、冷たくもない。どこかへ流されてる感じがする。辺りをキョロキョロするけど、一緒に来たはずの魔女たんの姿が見えない。はぐれちゃったのかな…。
しゅるしゅる〜みたいな水の中をどれくらい流されたのか、パッと辺りが白くなった。眩しくて目を瞑る僕。
「ヘンリーくん?!」
えっ、と思って目を擦りながら開けると、ビックリしたお顔のアシェル様が!
「あー!」
嬉しくなって笑顔になる僕。
「ヘンリーくん、どうしてここへ?!」
駆け寄って来て、僕を抱っこしてくれる。周りは大きな本棚でいっぱいだ!王宮の蔵書室みたいだけど、それよりもあるかも…。そう思ってると足音が聞こえて来た。
「アシェルさん…?」
綺麗な女の人が現れる。ドレスが素敵で、ルーカス王子殿下とかジェーちゃのお母様みたいなドレスだから高貴な人かなって思う。
「あ、この子は…ヘンリー・ディランと言って…知り合いの子なんです。」
「ヘンリーじゃないか!久しぶりだな〜」
あ!女神の使者さんも居る!
「そうなの…。今まで誰も訪れた事など無かったのに、最近は来客が多いのね。」
僕は本棚に囲まれたソファセットに座って、隣にはアシェル様、向かいには綺麗な女の人と使者さんが居る。
「ヘンリー・ディランと言うと…」
「そう、魔王を魔王たらしめる、魔王の側近だよ。」
「ちゃんと謝りなさいよ!」
綺麗な女性、使者さん、アシェル様が順番に喋る。
「分かってる分かってる…、俺が悪かったよ。単細胞ですいませんでしたァ!ヘンリー、死んでなくて良かったな!」
軽くウィンクする使者さん。
「何それ!本当に悪いと思ってるの?心を入れ替えるって言ってなかった?! ヘンリーくん、ここに居るのは王妃様に異世界から召喚された貝原 和也で、黒い影の頭よ。」
「その名で呼ぶなよ…ッ!…俺は今、Kって言う…」
何が恥ずかしいのか、Kは顔を赤らめてる。というか、Kを召喚した、王妃様?なにそれ?
「ヘンリーくん、ごめんなさいね。私の至らなさが原因で貴方を危険な目に合わせてしまったわ。」
そう言って、王妃様はこれまでの経緯を話してくれた。
そこで――――。
僕の頭の中に真っ白な光が溢れるのを感じた。
そうだ――!
忘れていた。なんで忘れてたんだろう。
ノアだった頃、僕は歴史書を読んでいた。その本には保管魔法の他に、途中から強固な閲覧禁止魔法がかかっていた。そして僕は、闇魔法の魔法無効化を使い そのページを読んだ。
そこには――――。




