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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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第四章-2-『揺れるアデルバード王国』


《アデルバード王国 会議室》


「それでは、報告を始めてくれ。」

 厚い扉で隔てられた会議室は煌びやかさが抑えられ、話し合いの内容を外へ漏らさぬ事に特化した作りになっている。不測の事態に備え、護衛を兼ねた側近が 円卓に座った当主達の後ろに静かに立つ。普段であれば座る事のない第一王子ルーカスと第二王子ジェームズ、そしてディラン伯爵の後ろには側近として嫡男のテオドールが控えている。一堂を見回した国王陛下アーヴィン・オン・アデルバードは、低い声を聞かせた。


 突然起こった魔獣暴走(スタンピード)に、教会の分断、禁忌の存在である大魔人の誕生、更に言えば ヘンリー親子の暗殺、誘拐、第二王子ジェームズ・オン・アデルバードを極刑へ追い込む為の数々の裏工作、その全てを取り仕切って居たのは黒い影(ブラックシャドウ)を立ち上げた『女神の使者』と呼ばれる男。その男に王国は多いに荒らされ、まだ後処理が終わって居ない。しかも、首謀者であるKと呼ばれた男と、この国の『聖女』であるアシェル・アードルフ公爵令嬢が行方不明のままなのだ。


「では、私から――」

 そう言って片手を上げた公爵が話し出した。

「各地の状況につきましては、後ほど騎士団長から報告があると思います。地下に倒れていた男ですが、崩れた壁と壁の間に隙間があった事が幸いし、潰される事はありませんでした。現在、治療中ですが話を聞く事は出来ます。その男についてはまた後ほど報告させて頂きますが、Kとアードルフ公爵令嬢は、確かに転移魔法円で脱出したとの事です。」

「嘘をついている可能性は?」

 国王陛下が疑問を口にする。

祝福(ギフト)持ちの者を使い確認しました。事実です。」

 嘘か本当か分かる祝福(ギフト)を持つ者が居るのだろう。こういった特殊な魔法は命の危険に繋がるため、氏名を公表せずに公爵家に飼われる事が多い。

「その後、転移魔法円を調べてみました。緊急脱出用だったようで詠唱を行わなくとも発動するようです。行き来した人間のログなどは残されておりませんでした。繋げられた先は西の教会で、実際に使用して見ましたが これ以外には出口は無く、転移魔法円を通ったのなら近隣にいるのでは無いかと捜索しておりますが、姿を見た者はおりませんでした。」

「……」

「また、関係者は全て拘束してある為、誰かがアードルフ公爵令嬢を攫った可能性は低いと思われます。」

「…なら、何だ?自ら消えたとでも言うつもりか?」

 いつも和かなルーカスが、珍しくトゲのある言い方をする。

「…いえ、そう言うつもりでは…ただ、事実を――」

 冷たい瞳を向けられた公爵は ビクリと体が揺れた。ディラン伯爵の後ろに立つテオドールは、そんなルーカスに一瞥を寄越した。未来の側近からの注意を素直に受け、ルーカスは目を閉じ肩をすくめた。

 調べた。思い当たる場所は寝る間も惜しんで隈なく調べたのだ。しかし、アシェル嬢は忽然と消えてしまった。消えてから数日経つというのに、まるで行方が解らない。国王陛下から「後のことはコチラに任せて休め」と言われたが、朝から晩までテオドールと共に探し回った。


 その後も会議では様々な話が持ち上がった。どれも重要な話ではあったが、ヘンリーに関する話になると、今度はジェームズの瞳が冷たくなった。

 『ヘンリーの処遇をどうするか』

 大魔人からの攻撃で危機的状況だった為、ヘンリーが桁外れの強化魔法(バフ)を持っている事が広く知られてしまった。一時的とはいえ、当人の三倍以上の魔力を引き上げる事が出来るヘンリーは、当然ながら”危険人物”とされる。本人の意思に関わらずとも、例えば弱味を握られ命令されるなどしてその力を使えば、大魔人級の災害が発生する事になる。それは大魔人の脅威を体験したばかりの王侯貴族達にとって、とてつもない恐怖だった。いつ、誰が『大魔人』と成るか予測出来ないからだ。

 よって厳重な対応を求められる。ある者等は魔法具を付け、牢に入れるべきだと主張し、それに賛同する者も少なく無かった。ヘンリーの魔肝の状況が悪く、『もう魔法が使えないかも知れない』と報告されても『言い逃れをしているのでは』『隠れて誰が使う気なのでは』と、大魔人に向けられる畏怖がそのままヘンリーへ向けられた。


 当然、ジェームズはその者共を一喝し、『この王国を救ってくれた英雄に対してとんでもない侮辱だ』と喚いたお陰で表面上は”英雄”として扱われているが、水面下ではヘンリーの利権争いが始まっている。しかも、問題はヘンリーだけでは無い。ヘンリー ジェームズと共に、今回の事でテオドール、ダニエル・ジュードも”英雄”となった。ダニエルは土地が与えられ、王宮務めになる事が確定している。成人の儀を終えた後、王女の護衛騎士になる予定だ。

 そしてテオドールは私の側近にする、とルーカスが言い出したから大変だ。力のある”英雄”を王宮の側に置き、常に監視出来るようにする必要がある。何故なら反逆を企て、それが成功してしまう確率が高いからだ。その為、常に監視と高待遇を与える事でコントロールし、王国の危機には活躍して貰う。そこまでは良いのだが、ヘンリーもテオドールもディラン伯爵家の者だ。更に次男であるウィリアムは木魔法使いを必要としない『薬丸』を研究して素晴らしい功績を収めている。病や寿命を伸ばす事は出来ないが、切り傷や骨折など 初期対応時に飲めば、たちまち傷が塞がり、直ぐに木魔法使いの治療を受けられず化膿などで命を落とす事が多い戦士たちにとっては、正に『魔法』のような薬だ。そのお陰で死亡率が大幅に減少する事が認めれ、王宮管理の元、研究が続けられる予定になっている。


 更に飛んでもない魔力を持つヘンリーを、ジェームズは生涯の伴侶とすると公言した為、今までは広い領土を治める伯爵だったディラン家にとって、息子が漏れなく王宮預かりとなるのは、特出した『権力』を握る事と同義だ。その力は王家すら左右するかも知れない。一家に権力が集中する事を防ぎたい貴族達は、何だかんだと文句をつけていた。内乱の始まりだ。


 

「ヘンリーは魔肝に重症を負い、今後魔法を使えない可能性の方が高い。」

「しかし陛下!破壊はされていないのでしょう。即妃様も足繁く通われていると聞きます、それならばいずれは完治するのでは無いですか?」

 国王が口を開けばすぐさま質問が飛ぶ。

「まるで完治されたら困るとでも言いたげだな?」

 冷えきった声でジェームズが射抜くように発言した貴族を見る。

「いえ、決してそんなつもりは――だだ、事は重大です。慎重な決断が必要かと――…」

「だから!この俺が側で一生面倒をみると言っているでは無いかッ」

 ジェームズとしては『監視すれば良いんだろう』と腸が煮えくり返る気持ちでいるのだが、貴族たちにしてみれば、『魔王と呼ばれた第二王子殿下と一緒に居る』と云うのが一番頭が痛い問題だ。ただでさえ この国一番の攻撃魔法を使える人間が、それを三倍以上に出来る人間と一緒に居るという事は、いつでもこの王国を破壊出来ると云う事である。

 大いなる危険と、権力を集中させたくない貴族たちとの話し合いは いつまでも平行線だった。


 バンッ! ジェームズがキレそうになる前に国王陛下は机を叩き、全員を黙らせた。

「今日も結論が出ないようだ。ここまでとしよう。引き続き、対応にあたってくれ。」

 閉会を告げると、皆口々に溜息をつき 疲労を滲ませた顔で立ち上がる。ジェームズは一番に立ち上がると、振り返る事無く扉を押し開け、足早に立ち去った。

 その様子を見ながらルーカスが 軽くため息をつく。

「…まだまだ甘いなぁ。もっとやりようはあるのにね。」

「ルーカス王子殿下、私を側近にする話を白紙にして貰えませんか。」

 スッと側によって耳打ちするテオドールに、またため息が漏れる。

「…はあ。テオドール、君も諦めが悪いねぇ。『英雄』となってしまったら監視対象になるのは解ってた事だろ?」

「…別に第一王子の側近でなくとも、いくらでも職はあるだろう。このままではディオン伯爵家に害が及ぶ。」

「それも今更だ。大丈夫だよ、”今回”は父上、本気だから。誰もディラン伯爵家に手を出せないさ。」

「だが――」

「酷いなぁ、テオ。私以外の者に付き従うつもりかい?」

「…ふざけてる場合か、俺が忠誠を誓ったのはお前だ。もし、ヘンリーが狙われたら…」

「それこそ有り得ないよ、大魔人を倒しちゃうような弟が、ヘンリーひとり護れないなんて事、あると思う?」

 会議の時は冷ややかな顔をしていたが、テオドールと喋る内にルーカスの顔は いつも通り『爽やか王子様』に戻っていた。テオドールは不満そうに口を紡ぐ。実際、決定権を持つのは高位貴族で、『王命』と言われれば 黙って従うしかないのだが、父や弟たちがこれからどんな待遇を受けるのか、テオドールは心底 心配だった。

「さあ、テオドール。転移魔法円を調べに行こう、今日は女神アレクシスも来て一緒に調べてくださるそうだよ。」

 そして二人は護衛を引き連れ、まだ瓦礫の残る教会地下へと向かった。


 

 

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