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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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第四章-1-『義兄弟』


 おはようございます、ヘンリーです。

 真っ黒な空間でこの体の持ち主、元のヘンリーと出逢って さよならをしました。お母様と一緒に 暖かい所へ行けてると良いな。ヘンリーの話だと、ヘンリーが馬車事故にあって あの暗い空間に行った後、僕がそこへ古い本、多分 直前に読んでた歴史書だと思うけど…、それを持って現れて『世界を変えるために召喚された』って言ったらしいんだよね…。全く覚えて無いんだけど…。

 つまり、その時の僕はこの世界を変えるつもりで やる気満々だった訳だよね…。うーん。でもヘンリーに約束したし、頑張るつもりだよ!何をどう頑張るかは、まだ決めてないけどね…。


「ヘンリー、苺はどうだ?」

 ベッドに寝たままの僕に、ジェーちゃが艶々の苺が沢山入ったガラスの器を見せてくる。僕は二週間も意識が戻らなかったらしい。僕としては、ちょこっとヘンリーと話してその後すぐ目が覚めたと思ったんだけどね。その間、皆に凄く心配させちゃってたみたいで、申し訳ない。毎日、代わる代わるお見舞いといって色んな人がやって来るけど、基本的にジェーちゃはこの部屋に居る。あ、ここは王宮の中の一室みたい。隣の部屋は執務室になってるみたいで、そこで勉強とかしてるらしい。


 僕、魔力量は多いんだけど、流石に大魔人相手に使ってたら枯渇しちゃって、それも初めての魔力枯渇だったからそのまま気絶しちゃったみたい。起きたらジェーちゃがめっちゃ泣いててビックリした!直ぐに義父(パパ)やテオ兄様、ティム兄様、それにルーカス王子殿下や国王陛下が集まったのにも、本当にビックリ。毎日、ジェーちゃのお母様が僕に治癒魔法をかけてくれてたんだって。有り難い事です。それでも ずっと寝てたからか、はたまた ヘンリーが旅立って月魔法が消えたせいなのか、僕は体を起こす事も出来なくて、薬湯を飲むだけの生活を数日送った。

 今は、柔らかい果物とか潰したパン粥とかなら食べられるようになった。そして何故か、毎食 ジェーちゃが「あーん」してくれるんだよね…。ジェーちゃったら、仮にも一国の王子殿下なのに……。申し訳ないと思いつつも、お口を開けるだけで精一杯の僕は、他にも色々とジェーちゃにお世話されてるのだった。


「あ」

 お口を開けると、ジェーちゃが小さくカットされた苺(僕の大好物♡)をスプーンですくって入れてくれる。甘くて美味し〜い!瑞々しくて柔らかくて、これならいくらでも食べれるよ!しばらく、モチモチ噛んで お口開けて、の繰り返しだったんだけど、ドアがノックされて教会の神官さんがやって来た。

 この人は女神の使者さんが作ってた黒い影(ブラックシャドウ)のメンバーじゃ無くて、それと対立してた方なんだけど、今回の事件で『教会が黒幕!』て噂が広まっちゃってるし、事実、沢山の教会の神官が逮捕されたから民衆の怒りが教会全体に向けられてて、悪いことしてないどころか、何とかしようとしてた方なのに仕事を追われる事になっちゃってるんだって。今は教会は閉鎖されてるんだけどそのうち、国王様がちゃんとしてくれるだろうから、それまで 何とか頑張って欲しいよね。ええと、それで、謹慎中の木魔法使いの神官がたくさん居るからって、入れ替わり立ち替わりで僕に治癒魔法をかけてくれに来てるんだよね。プルクラ様だって毎日来てくれるし、こんなに治癒魔法かけて貰って申し訳ないんだけど、何故か、僕の体は全快しないの。これだけのメンツにこれ程の治癒魔法かけて貰えるなんて国王陛下くらいしか無いよ?普通だったら、もう元通りになって なんなら走り回ってたって不思議じゃ無いのに。


「ヘンリー様の体の状態は相変わらずですね。」

 いつもの検診をしてくれた後、また同じ言葉が出た。

「ヘンリーはいつになったら起き上がれるようになるんだ?」

 それを聞いて、これまたジェーちゃが同じ質問を繰り返す。も〜何回やるの、このやり取り…。

「それはまだ何とも…、ヘンリー様は今回の戦闘で魔力枯渇どころか、属性そのものを失ってしまわれましたから…」

「…本当に魔法が使えなくなってしまったのか?一時的な事ではなく?」

 暗い顔をしてジェーちゃが同じ質問を繰り返す。

「…私も信じたくは有りませんが、大き過ぎる魔法を使った場合、魔肝(まかん)が破壊され、魔法が使えなくなる者は、稀にですが居られます。ヘンリー様の魔肝(まかん)は破壊まではいっておりませんので、もしかしたらこの先、回復しないとは断言出来ませんが…、途方もない長い時間が必要でしょう。」

「…そうか。」

 毎回、言いづらい事を言わされる神官さんも辛いだろうけど、ジェーちゃが、本当に辛い顔をするから、僕も何も言えなくなっちゃう。そもそも、意識が戻ってから声が出ないんだけどさ。

 最初に体の検診をしてもらった時、魔肝(まかん)の状態が悪かったらしく、神官さん達は ”この状態では魔法が使えない” って判断した。確かにヘンリーの月魔法は使えなくなってるはずだから、言い訳には丁度良いよね。だって、何とも無かったら『なんで急に月魔法が使えなくなった?』って言われちゃうもんね。でも僕は、元々、闇魔法使いだったから、そっちは使える筈なんだ。だから特に心配はしてないんだけど、皆が ”この世の終わり” みたいな顔するから申し訳なくて…。

 

 あのね、月魔法はヘンリーと共に去っただけだから!

 僕はそもそも、闇魔法使いだから大丈夫なんだよー!


 って言って安心させたいけど。もしかしたら魔肝(まかん)が治らなくて使えない可能性もあるから、今はまだ何とも言えない。こんなに具合が良くないのは、魔肝(まかん)が破損してるせいなのかもね…。病や傷なら木魔法の治癒で治せるけど、魔肝(まかん)は治療出来ないんだって。自然治癒に任せるしか無いらしい。

 それなのに、こうして沢山の木魔法使いさん達が来てくれるのは本当に申し訳ないよね。


 検診が終わった後、ベッドで ぼーっとする僕の隣で ジェーちゃは何か難しい本を読んでる。本当に、ずっとこうして時間が許す限り傍に居てくれるんだよね。メイドさんや ドアの外には護衛騎士だって居るし、危ない事は無いのに、ちょっとも目を離せない赤ちゃんみたいな対応されてる。とにかく眠くて、一日の半分以上 寝てる僕だけど、さっき起きたばかりだから まだ眠くなくて、かと言ってする事もなく、ぼんやりするしかない。

 ハッキリ言ってめちゃくちゃ暇!

 体が動かせないんだから仕方ないけど、本当に暇!


 コンコン。

 ドアがノックされる。

「誰だ?」

 ジェーちゃが鋭い目つきになって問いかける。メイドさんがドアを開けて相手を確認してジェーちゃに答える。

「ジェームズ王子殿下、ファーニー様がいらしております。国王陛下がお呼びだそうです。」

「父上が?…分かった、出よう。代わりにファーニーをここへ置いていく。」

 そう言って、僕の頭を撫でてからドアへ向かったジェーちゃと入れ替わりでファーニーさんがやって来る。

「ヘンリー様、お加減はいかがですか?」

 いつも通り、ニコニコと話しかけてくれるファーニーさん。僕は コクンと頭を縦に振る。

「それはようございました。寝ているだけではお暇でしょう。僭越ながら、わたくしめが御本を読み上げますね。」

 さて今日は何に致しましょうか〜と歌うように言って魔法の本を読んでくれる。絵本や物語じゃ無いのが、ファーニーさんぽい。まあ僕としても、本当に四歳な訳じゃないから、それは有り難い。色んな魔法について覚えられるしね。


 でも、皆、僕を心配するばかりで、あの後どうなったのか、誰も教えてくれないんだよね。聞こうにも言葉が出ないからさ〜。大魔人が粉々になった所は見たと思うんだけど、何しろ大分、意識が朦朧としてたからさ、確信はないんだ。でももし倒せてなかったら、今頃大変な事になってるだろうから、こんなに平和と言うことは きっと上手くいったんだよね?

 お見舞いに来る人の中に、アシェル様が居ないのも 凄く気になるんだ。もしかしてたくさん怪我をして、僕と同じようにベッドの住人になってるのかも。心配。それから、魔女たんも姿が見えない。今、どうしてるんだろう?そもそも、お家とかあるのかな。野宿とかしてたらどうしよう。でも国王陛下がそんな事させないよね?魔女たん頑張ってたもんね。

 僕は今、魔肝(まかん)が壊れてるから、当然 新しい祝福(ギフト)の『言語通信』も使えないの。これが使えれば、今 どこで何してるか、聞けるのに。


 ◇◇◇◇◇

「ヘンリー!」

 ある日の昼下がり、テオ兄様が来てくれた。

「おい!何を勝手に入って来てるんだッ ノックくらいしろ!」

 ドアを開けて飛び込んで来たテオ兄様に、ジェーちゃが声を張り上げる。でもそんな声、聞こえていないとでも言うように、足早に僕の傍まで来たテオ兄様は ぎゅうっと僕を抱きしめてくれる。

「あぁ…ヘンリー…」

 もう何日も経つのに、テオ兄様は僕を抱きしめる度に涙声になる。前だったら「おいッ 離れろ!」と怒ってたジェーちゃも、僕がここで目覚めてからは テオ兄様にそんな態度を取ることが無くなった。


「ヘンリー、具合はどうだい?」

 その後ろからルーカス王子殿下がやって来て、声をかけてくれる。ルーカス王子殿下っていつもキラキラしてるよね。本当に『王子様』って感じ。

「ヘンリーへ相変わらずです。()()()?」

 ジェーちゃがテオ兄様の下でうごめく僕の代わりに、兄であるルーカス王子殿下に応えてくれる。

「こっちも()()()()()だ。本当に参ったね。」

「そうですか…」


 なんだろ?何の話?


「ヘンリー、そろそろ家に帰るか?ウィリアムも心配している。」

 テオ兄様が僕のおデコに コツンと自分のおデコをつけて、そう聞いてくる。僕が反応する前に、王子殿下達が反応した。

「「ダメだ!!」」

 ジェーちゃは言わずもがな、お顔を真っ赤にしてる。意外だったのはルーカス王子殿下も反対した事だ。ルーカス王子殿下って、いつもジェーちゃとテオ兄様のやり取りを静観してたのに。


「ここがこの国で一番安全なんだ!!もし、伯爵家に返してまた攫われたらどうする!まだKは捕まって無いんだぞッ!!」

 ジェーちゃが怒鳴る。えっ そうなの? 女神の使者さんは逃げたんだ?それってヤバいのでは…。

「こら、ジェームズ。ヘンリーの前で…。テオドールも、その話はもう済んだ事だろう?ディラン伯爵家は王宮(こっち)に移ったじゃないか!」

 えっ それも初耳! 王宮に居るのって、僕だけじゃ無かったんだ!だからみんな、頻繁にお見舞いに来てくれてたのか〜。


「……」

 テオ兄様は僕を抱きしめたまま、黙ってる。どうしたんだろう、大丈夫かな?心配。

「君の心配も解るよ?テオドール。でも賢い君なら、今、どうするべきか、解るはずだよね?」

 ルーカス王子殿下が優しい微笑みを浮かべてテオ兄様の肩に手を置く。テオ兄様はジロリと睨んで その手をパッパッと払った。あれ、また喧嘩してるのかな。

「――とにかく!ヘンリーはどこへも移さないッこれは『国王陛下命令』でもあるんだからなッ!」

 ジェーちゃが腕を組んでふんぞり返る。それを忌々しそうに見るテオ兄様。ちょっとッ !不敬になりますよッ あわわ。

「ソレは、貴方がキャンキャン喚いて無理やり陛下に言質を取っただけでしょうが、何が『国王陛下命令』だ…」

「フンッ 使えるものは何でも使うんだ!そもそもコレは兄上が教えてくれた案だしなッ」

 誇らしげに胸を張ったジェーちゃ。バッと勢い良くルーカス王子殿下を振り返るテオ兄様。あちゃ〜って顔するルーカス王子殿下。


「…おい、ルーカス…」

 地の底から聞こえて来そうな低音を出すテオ兄様。

「待ってよ、テオッ! 確かにちょっとアドバイスはしたけど、でも現状、こうするのが一番、効率的だろう?神官達は通い易いし、プルクラ様だってヘンリーの治癒をするようになってから、こもりきりだった別邸を出る機会が増えて明るくなられたし、首謀者が捕まっていない今、ここには精鋭達がいつでも出陣出来る体制が整ってる。ウィリアムはここで他の研究者達と共同で薬の開発を進められるし、ディラン伯爵家は嫁に行った弟さん親戚一家が領地経営を進めてくれてるだろ?何が問題なんだ?」

 等々と説明するルーカス王子殿下を白い目で見つめるテオ兄様。

「――何も、問題は無いさ。お前の計画通りだ。…だがお前は『人の心』を蔑ろにする。」

「うっ…」

 テオ兄様に言われたルーカス王子殿下が言葉に詰まる。二人のやり取りを見て、何とも言えない顔をするジェーちゃ。


「テオドール、悪いが、俺は引かない。ヘンリーを離す気は無い。」

 キッパリと言ったジェーちゃに、テオ兄様はルーカス王子殿下からジェーちゃに視線を戻す。睨み合いが続く三人。

 ねえ、僕の意見は?トホホ…。僕は、僕は そうだなぁ。ジェーちゃの事は好きだけど、また前みたいにディラン伯爵家でみんなで暮らしたいかなぁ。最初はあんなに距離があって、会う事も少なかったけど、僕のニコニコキャンペーンで少しずつ距離が縮まって、色んな事件が あり過ぎて絆は強くなったと思うけど、まだ穏やかな暮らしをそんなに送ってないんだよね。家族でピクニックとか行きたいし、暖炉を囲んでお喋りするだけでも良い。そんな普通の暮らしをまだまだ、送りたいかなぁ。

 だってヘンリーに、ちゃんとヘンリーをやるって約束もしたし!

 そんな気持ちを込めて、テオ兄様にぎゅうっと抱きつく。

「て…てお、にぃ…」

「! ヘンリー!声が出るようになったのか?!」

 僕が呼んだら、テオ兄様はびっくりして僕のお顔を両手で挟んだ。

「てお、にぃ…」

 もう一回言うと、テオ兄様はぎゅうっと強い力で抱きしめて来た。う、つ 強いッ…!苦しいって…!

「何も心配要らない、ヘンリーは俺が護るからな…」

 テオ兄様がそう言うと、「だから!それは俺の役目だって言ってるだろ!」ってジェーちゃが怒鳴る。ルーカス王子殿下は乾いた笑いを零してる。


「ほらほら、そんなに抱きしめたらヘンリーがペチャンコになっちゃうだろう。テオドール、そろそろ私達は会議に行かねば」

 ルーカス王子殿下に促されて、やっとテオ兄様は僕を離してくれた。すぐさまジェーちゃが僕を抱きしめる。

「ヘンリー、騒がしくて悪かったね。そういう訳で呼べばいつでもテオドールを連れてくるから、安心して休むといいよ。」

 そう言い残して、不満そうなテオ兄様を連れてルーカス王子殿下は退室して行った。やれやれ、でもあの二人が来るとジェーちゃも怒ったり笑ったりして感情が動くから、とても良いと思うんだよね。僕の前だとなんか張り詰めた顔ばっかりなんだもん。やっぱり兄弟と居るのって特別だよね。


 そうして、しばらくは平穏な日々が続くと信じてた僕の期待は、あっさりと裏切られるのであった――。

 

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