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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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第三章-3-『終焉』


《女神アレクシス》


 ヘンリーに、大魔人に向かって放ってくれ と頼まれた時、魔女はヘンリーに何かしらの考えがあるのだと、その理由については知らずとも、願い通りにヘンリーを力いっぱい放った。直ぐにジェームズとテオドールの絶叫が木霊する。もし頼んだのが、魔女では無かったら、きっとその願いは叶わなかっただろう。

 そしてヘンリーが大魔人に必死にしがみついた事で、ヘンリーがやろうとしている事に思い至った。ヘンリーは月魔法使いだ。強化魔法(バフ)が使えるなら弱体化魔法(デバフ)も使える筈だ。魔力枯渇に陥った我々に残されたのは、敵の攻撃魔法を弱体化させて コチラの攻撃魔法が通るようにする事。大魔人が『人』に戻る程の弱体化魔法(デバフ)を掛けられれば、他の魔法使いでも倒せる可能性がある。しかし相手は魔力枯渇などしない為、弱体化魔法(デバフ)は掛け続けなくてはいけない。普通の人間であれば、五発分の攻撃魔法を弱体化させられれば良い方だ。いくら消費魔力が、火魔法や水魔法の攻撃魔法よりも少ないとは言っても、大魔人相手に弱体化魔法(デバフ)を使うなら魔力はあっという間に消費する。まだヘンリーが魔力枯渇していないのは、ステラ5の魔力量を保持している為だ。


「ヘンリーが弱体化魔法(デバフ)を使う気だ!攻撃するならその時だよ!」

 ヘンリーを追って大魔人の周りを飛び回っているジェームズとテオドールへ、魔女が声を張り上げる。

弱体化魔法(デバフ)だと?!」

「でも、俺達は…!」

 大魔人の攻撃魔法を避けるだけで精一杯、近付く事すら出来ない。それに既に魔力枯渇しているから、攻撃魔法を撃つ事も出来ない。そうこうしている内に、大広間だった壁や天井は崩れ、外の光が差し込んで来る。大魔人はその天井の裂け目へと飛び上がった。


「「ヘンリー!!」」

 ジェームズとテオドールが揃って声を上げた。

「危ない!ここはもう崩れるよ!外へッ」

 ガラガラと周りが崩れ落ち、一行は慌てて 外へと逃れる。怪我する者も居たが、即妃プルクラが直ぐに詠唱したので、動けなる者は無く、這う這うの体で教会前へと転び出た。

 丁度そこへ、国王陛下と共に 王城騎士団の団員達が駆け付けてくる所だった。

「お前達、大丈夫かッ」

 馬車から国王陛下が飛び出してくる。

「陛下!ヘンリーが、多分、弱体化(デバフ)を大魔人に掛けるつもりです!それが反撃出来る最後の手段です!」

 第一王子ルーカスが、皆を代表して答える。

「ジェームズ様…ッ!」

「ファーニーか、俺なら大丈夫だ」

 涙目のファーニーが慌ててジェームズに近寄って来る。

 

「今、貴族の半数が 転移装置を使い、各主要都市へと事情を説明しに行っているが、どれ程 魔力が集まるかは解らない。各地に散らばった騎士団員や精鋭達に招集をかけるには、伝達にも集合にも数日かかる。主要都市には戦闘向きでは無いが、貴族が多い。貴族は魔肝(まかん)を持つ者が多いので魔力を持っている。その為、緊急用の転移装置を発動させ説得しに行って貰った。」

「説得、ですか?」

 陛下の説明に、ルーカスが首を傾げる。

「ファーニーの案だ。集められる魔法使い 全員の魔力をひとりの人間へと譲渡し、強力な攻撃魔法を撃つ。」

「魔力譲渡?そんな事が可能なの?」

 側に寄っていた即妃プルクラも怪訝な声を上げる。

「解らない、そんな前例は無い。しかし、木魔法使いが自身の魔力を『治癒』という形で渡しているのは事実だ。であれば、他の魔法使いにも魔力譲渡が可能かも知れない。何にせよ、我々には出来る事は 何でもやるしか無いんだ。」

 陛下の言葉に皆、黙るしかない。プライドの高い貴族達が、至高である自分の魔力を他者に渡すなど考えられないが、少なくとも、ここに居る者達は 成功するか解らないが、魔力を譲渡する為に集まったのだ。


「魔力譲渡か…まあ出来なくは無いだろうけど、ここに居ない者の魔力を、どうやって集めるつもり?」

 魔女の問いかけにファーニーが答える。

「特別な魔法円で繋ぎます。ヘンリーくんがやってる『言語通信』からヒントを得ました。」

「アレか…でもアレは、魔力を流した人にしか使えないよ。不特定多数を繋げ、それも魔力を受け渡すなんて、魔法円が幾つあっても足りない!」

「しかし…、いくらヘンリーくんのお掛けで弱体化されてると言っても、それぞれがバラバラに攻撃魔法を撃っても倒せるとは限りません、ひとりに集め、最高峰の攻撃魔法を叩き込む方が…」

「そうだね、ヘンリーだっていつまで持つか解らないし。」

「でしょう? だから…」

「だから、アタシがやるよ!」

「えっ!」

 魔女に反対されるとばかり思って懸命に説得しようとしたファーニーに、魔女は言った。


()()()なら、魔法使い同士を繋ぐ事が出来る。どこまで魔力を奪えるか分かんないけど、アタシがやるよ!だからアンタはその譲渡先を造ってくれる?」

「そ、それは勿論――!しかし、魔法円も無しに、魔法使い達を繋ぐ事が、本当に出来るのですか…?」

 驚いたファーニーが問いかける。

「――んー、多分ね。だって『魔法使い』は元はと云えば――……」


「キャー!!」

「イカン!大魔人の攻撃魔法を防げ為、土魔法使いは防御に徹しろ!魔力譲渡には加わらなくて良い!」

 教会前は大魔人による水魔法によってボロボロになっている。陛下は慌てて命令を出した。話が纏まり、ファーニーは貴族達に特別な魔法円を創る呪文を伝えた。

 (きっと出来る筈だ――…!)

 ファーニーの頭の中には、先程と同じように根拠の無い自信が溢れてくる。チカチカと目の奥が点滅を始める。

 (――ヘンリーの祝福(ギフト)()()()()。あれは”体液の交換”によって、ヘンリーの魔力を好きなように引き出せると云うモノだった。しかしそれが可能なら、魔力で紐を創り、互いを繋げる事で似たような効果が期待出来るかも知れない…!)

 かつて、ジェームズを王位につける為に狂乱の魔術師となった天才魔法使いは、いくつかのヒントを元に、他者から魔力を奪える特別な魔法円を成功させた。


 空へと飛び上がった魔女は、静かに意識を集中させ、各地に散らばる魔法使い達の魔力を辿った。そして、初めての試みになる、魔力を自身に集め、ファーニーが創った魔法円へと魔力を送る。転移装置で説得しに行った貴族は数人だ、彼等は転移するだけで魔力枯渇しているだろう、それにどれ程の人間が 素直に魔力を差し出すとも思えない。

 (本当はこんな事、したくは無いんだけどさ…)

 魔女は、繋がった魔法使い達から、魔力を吸い上げる事にした。それでも遠過ぎて繋がらない者、少し吸い上げただけで魔力枯渇する者、途中で魔力が霧散してしまう事もあり、思ったようには集まらない。仕方ない、初めての試みなのだから、それでも魔女は吸い上げた魔力を、特別な魔法円へと流し込んだ。




《撃破》


 目の前が真っ赤に染まる。それはヘンリーの体から溢れた血だけでは無く、粉々になった大魔人と、その核たる赤い石の破片であった。

 とうとう、アデルバード王国は、三体の大魔人を倒す事に成功した。王国は大混乱に陥っており、全てが済むには まだしばらくの時間が掛かるだろう。

 大魔人と共に火龍により空中に吹き飛ばされたヘンリーは、アードルフ公爵の防御魔法で直撃は免れた筈だが、そもそも体力も魔力も 限界寸前であり 、砕けた大魔人の欠片を見て安堵した後、すぐに意識を手放した。


 ジェームズは、すぐさま『飛行』を使いヘンリーの元へと飛び、その傷付いた身を受け止めた。ポスンッと軽い音をたてて 腕の中に落ちて来たヘンリーは、血で汚れている。勿論、半分は大魔人のものだが、残りの半分は 間違いなくヘンリーのものだ。ジェームズは歯を食いしばった。

「ジェームズッ!」

 後ろから駆け寄ってくる母、プルクラがジェームズに向かって声を上げる。プルクラは直ぐヘンリーに治癒魔法を掛けたが、ヘンリーは目を開かなかった。

「ヘンリー…」

 ジェームズが 力なく横たわったままのヘンリーに声をかける。

「ジェームズ、ヘンリーくんの身体の傷は、殆ど元通りになった筈よ…。本当は、馬車事故に会う前の、健康な身体まで戻してあげたかったけど…」

 これまで幾度も、傷付いた人間に治癒魔法を使っていた即妃プルクラの魔力は 枯渇しそうになっている。青ざめた顔で言う即妃プルクラの隣には、支えるように寄り添う国王アーヴィンが、側近に指示を飛ばしていた。


 魔女に魔力を吸い上げられた者の多くはその場でへたりこみ、この場にいる魔力譲渡を行った貴族達も、立っていられる者は居なかった。魔力が枯渇してしまえば 身体が空っぽになるだけで無く、気分が悪くなったり 失神してしまう者まで様々だ。その為、魔力が少ない者程、『魔力枯渇』を恐れ、魔法を使わないように暮らしている。

 テオドールは、既に魔力枯渇していたのに、それでも魔力譲渡の部隊に加わった。上手くいくか解らないこの方法しか打つ手は無く、観ているだけを良しとせず、ありったけの魔力を渡した。その為、今はルーカスの腕の中で気を失っている。ディラン伯爵も土魔法で防御として参加し、本日二度目の魔力枯渇を起こし、片膝をついている。

 散々たる状況に、大魔人討伐の歓声を上げれる者は居なかった。



 王城の一室を与えられたディラン伯爵家は、息子二人がベッドに沈み、当主であるベンジャミンは兵士達に連れ添われ、ようやっとソファに深く座り、ため息をついた。まだ実感が湧かない。急ごしらえの作戦は功を奏し、この国最大の強敵は粉々に飛び散ったが、果たして、これで終わりなのだろうか。

「今、探させているが、教会の地下に居るはずだったアシェル嬢と黒い影(ブラックシャドウ)の首謀者である『K』の姿が無い。」

 向かいのソファに腰掛けた国王アーヴィンがベンジャミンにそう言った。

「それは――…まだ終わりでは無い、と言う事か?」

「ベンジャミン、お前はどう思う?」

「俺に聞くなよ、国王サマ。また大魔人を造られでもしたら、もうコチラには打つ手が無いだろう。」

「連れないな、ベンジャミン。郊外()から王国()を護ってくれる約束じゃ無かったか?」

「この件、黒い影(ブラックシャドウ)の関係者のリストと実行者の確保と調書は既に揃っている。後は『K』を捕まえるだけ、だったんだがな。」

「一歩、遅かったな。あんな騒ぎになってしまった。そして、今、Kは 今頃どこで何を企んでいるのか――もし、お前が言うようにまた、大魔人を造られでもしたら――…」

国王アーヴィンの顔に皺がよる。


「フ、大丈夫だ。さっきはそう脅したが、大魔人を創るには大変な工程が必要となる。奴らの造成所は全て抑えてあるから、奴ひとりだけでは何も出来ん。…しかし――、アシェル様も居ないのは 心配だな。」

「ショーラを筆頭に動ける者は捜索しているが…、彼女は一度、捕らわれの身だった。もしまたKに捕らわれているとしたら、その身が心配だ。」

 話し込む二人の後ろのベッドでテオドールが「うぅ…」と身動ぎした。そちらに二人の目が行くが、テオドールは起きたわけでは無いらしい。しかし何やら魘されているようだ。


 国王アーヴィンが声を潜めて言う。

「それにしても、魔力が多く攻撃魔法に長けているとは云え、まだ成人もして居らぬ子供達に頼りきる結果となってしまった。何が国王か、呆れるな。」

「アーヴィン…」

「だが、だからこそ、これから先は 我々が頑張らねばならない。()()は着いてきてくれるよな?我が友――ベンジャミン・ディラン?」

 暗く微笑む国王アーヴィンに、肩を揺すって応えるベンジャミン。

「ええ――、仰せのままに 我が君。」



《ヘンリーとヘンリー》

 

 ヘンリーは暗闇の中に居た。

 右を見ても、左を見ても、真っ暗な空間だが 不思議と不安な気持ちには ならなかった。

 (ここはどこだろう…僕は、何をしてたんだっけ…?)

 ペタリと座り込んで小首を傾げる。不思議と暑くも寒くも無い。

 (なんか…こんな事、前にもあったような…)

 けれど考えても何も思い出せない。ウーン、と腕を組んで記憶を振り返っていると、目の前に ふんわり とした明かりが灯った。ヘンリーはジッとその明かりを見つめる。


 (ひさしぶり、だね?)

 その明かりから声が聞こえる。

 (久しぶり?)

 キョトンとしてヘンリーが繰り返す。

 (うん、ぼくが、じこにあって、ここへきたとき、だよ)

 (事故…て、馬車事故? 君はもしかしたら、ヘンリー?)

 (もと、かな…。ぼくは あのじこで、しんじゃった、から…)

 (そうなの?!)

 驚いてヘンリーが声をあげる。

 (うん。ぼくがここへきたとき、きみもここへきたんだ。)

 (僕が…ここへ?ごめん、全然 覚えてなくて…)

 シュンとなってヘンリーが謝る。


 (ううん、だいじょーぶ だよ、もしかしたら、わすれちゃうかもって、おかあさまが いってたし)

 (おかあさま…?)

 (ぼくの、おかあさま。いっしょに、じこで しんじゃったんだ。でも、きみとここであって、ぼくの からだをあげることに したの。)

 ヘンリーはそう言われても 思い出す事が出来なかった。

 (体をあげる? それって、ヘンリーはまだ死んで無かったんじゃないの?僕にあげちゃって、ヘンリーはそれからどうしたの?)

 ふふっと笑う雰囲気があった。

 (そうかも しれない、でもぼくは、おかあさまと いっしょが よかったの。ぼくは、うまれてから、ずぅっと、おかあさまといっしょ だったから。でも、きみに からだをあげたのに、ぼくはここから うごけなかった。)

 (それじゃあ、お母様と離れ離れになっちゃったの?)

 (ううん、まだ ぼくのそばに いるよ。でも、ここはくらいから、ちがうところへ いきたいんだ。)

 (そっか…それは、どうすれば良いの?僕に出来る事はある?)


 (うーんと…、ぼくが ちがうところへ いっちゃうと、ぼくの ちから? は、つかえなくなっちゃうんだって。だから、きみに、ちゃんときいてから おかあさまといこうと おもってたの。)

 (そうなんだ…だから、僕はヘンリーの月魔法が使えてたのか。ちょっと前にね、どうして僕は二つの魔法が使えるんだろうって不思議だったんだよ。)

 つまり、魔法や祝福(ギフト)は、魂に付与されると言う事だ。

 (うん、ここからは なにも みえないし、きこえない。きみが また ここにくるか、わからなかった けど、かってに いっちゃうのは、だめだと おもったの。だって きみは、ヘンリー になってくれたんだから。)

 (君は? 僕と交換してヘンリーになる気はないの?僕がここに居るなら、君はヘンリーの身体の中に戻れるんじゃない?)

 そう聞くと、また ふふっと笑う雰囲気があった。

 (きみこそ、もとの、からだに もどりたくないの? きみにだって、ちゃんと からだが あったんでしょう?)

 元の身体――…そう言われてヘンリー、いやノアは随分 昔の事のように思い出した。


 ノア・アードルフ。公爵家の三男で、のんびり屋のノア。あの世界では 殆どの人が魔法を使う事が出来ず、高度な機械と共に 不自由の無い暮らしをおくっていた。魔法が使えるのは、たまに産まれる先祖返りと呼ばれる祝福(ギフト)持ちだけだ。そんな中で、ノアは全ての魔法を無効化出来る闇魔法使いで、祝福(ギフト)は『鑑定』だった。

 学校の宿題の為に訪れた書庫で 一冊の本を見付け、それを読んでいるうちに、気が付けばこの世界へと飛ばされヘンリー・ディランになっていた。怪我をしていた事もあり、それからは生きる為に必死で思い付く事は何でもして来た。『戻りたくないのか』と聞かれ、ノアはじっくりと考えてみた。


 (ねえ、それって、僕は元の体に戻れるって事なのかな?)

 ゴクリと唾を飲み込んでノアは尋ねる。

 (ごめんね、きいておいて なんだけど、わからないんだ。)

 (えっ そ、そうなの?)

 (うん、ぼくが、しってるのは、きみが、ここにきたとき、ふるいほん をもっていて、『せかいを かえるために、しょうかん された』っていってくれた ことだけ。)

 (え!ほ、僕、そんな事を言ったの?)

 (うん、よくわかんなかったけど、ぼくに もうなにも しんぱい いらないよって、いってくれた。それが うれしくて、はなれちゃうのが、ちょっと さみしくて、ここで きみが くるまで まってたんだ。)

 (そうだったんだ…。ごめんね、その事を僕は覚えてないんだ、でも待っててくれて ありがとう。もう大丈夫だよ、ちゃんとヘンリーをやるから、君は安心して、お母様と暖かい所へ行って良いんだよ。)

 ノアは申し訳ない気持ちでヘンリーに謝った。そう言われてヘンリーは 少し戸惑う。ここは暗いけれど、ノアと離れるのも寂しいらしい。ヘンリーには、生まれてからずぅっと、母親しか居なかった。別邸で二人きりで暮らすのは穏やかだった。けれど、ノアと出逢って、初めての友達が出来た気分になっていたので、なかなか 踏ん切りがつかない。


 (…わかった、それじゃあ、ぼくたちは もういくね。でも…また、あえるかな?)

 (分からないけど…会えると良いな)

 この先どうなるのか解らないので、約束は出来ないけれど、それでもノアはまた別の形で ヘンリーに逢いたいと思った。それを聞いて ヘンリーは嬉しそうにノアの周りをクルクルと回った。

 (それじゃあ、のあ、またね!)

 そう言って、ヘンリーの明かりはその場いっぱいに広がり、目が眩む程の光が溢れた。


 

◇◇◇◇◇


 大魔人と共に飛ばされたヘンリーは意識を失い、直ぐに治癒魔法を掛けられ、身体の傷はほぼ治ったが、目覚める事は無かった。

 ジェームズは王城の中でも一番安全な部屋にヘンリーを匿い、ずっと付き添っていた。テオドールは連れて帰ると言い張ったが、まだやる事があり、『絶対安全』の文字の前に屈するしか無かった。

 

「機嫌が悪いなぁ、テオ」

「良いわけ無いだろう、ヘンリーはもう一週間も意識が戻らないんだぞ」

 ルーカスと共にアシェル嬢の捜索に出ているテオドールは不機嫌に言った。側の護衛が聞いたら二度見するような態度である。この国の次期国王との呼び声も高い第一王子ルーカスに、こんな風に口をきける者は限られる。テオドールは勿論、他に人が居れば、こんな態度は取らないが 今は二人きりであった。

「一週間か…アシェルはどこへ行ってしまったのか…」

「…」

 大魔人討伐後、消えたアシェル嬢とKの捜索を開始したが、以前として二人の行方は掴めなかった。突然消えてしまったとしか思えない程、その足取りは途絶えていた。

「二人は…一緒に居るんだろうか」

 ボソリとテオドールが言う。

「アシェルひとりなら、きっと何か連絡を寄越す筈だ。彼女は私などより 余っ程、賢いからな。それが無い、という事はKに囚われているか、または――――」

「立て続けに大事があったせいで、場は混乱してる。そろそろ落ち着く頃だろうし、これからはもっと大人数を捜索に回せる。そうなれば、きっとアシェル様も見つかるさ」

 テオドールはパンッとルーカスの背中を叩きながら言った。痛いな、と文句を言いながらもルーカスも応じる。

「…そうだと、言いけれど。」

 

 

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