第二章-5-
《邂逅》
ジェーちゃに抱えられたまま、陛下達と一緒に教会へと急いだ。
魔女さんの口ぶりから まだ大ピンチって訳じゃ無さそうだけど、相手が相手だけに とっても心配!テオ兄様怪我して無いかな。心配と言えば、ジェーちゃはもう魔力が枯渇してるから(少しは回復したみたいだけど…)、陛下が闘うって言ってるんだけど、大丈夫かなぁ。
僕の強化魔法は掛けた相手の魔力を 三倍くらい増幅させられるけど、皆の口ぶりを聞く限り、陛下の魔力量は平凡並みらしいから…強化魔法を掛けたとしても、大魔人相手にどこまで通用するのか…。でも、勇者のダニエルくんだって さっきの大魔人との闘いで、もう魔力枯渇してるもんね。不安だけど、頑張るしかないッ。
義父の防御と…、ジェーちゃのお母様プルクラ様の回復 木魔法、アシェル様のお父様は 何の属性か分かんないけど、とにかく、皆が陛下をサポートするつもりみたいだし、きっと 何とかなるよね?
教会は王城から少し離れてるから、馬車に乗って移動する。ジェーちゃの魔力が枯渇してなかったら、ビューって飛んで行けたんだけどね、あ、でも流石にこの人数は無理か。それでも、めっちゃお馬さんが頑張ってくれたみたいで、馬車の中で喋る暇も無く到着したよ。ありがと!
そして、不安な気持ちで馬車から降りると…
「父上……!」
陛下が驚いた声を上げる。えっ えっ?ジェーちゃに抱かれたまま側まで寄ると、そこには銀髪の非常に顔の整った壮年の男性が立っていた。なんか、ジェーちゃに似てるかも?
「黄…ゴホンッ 先代国王陛下、貴方は既に隠居なされた筈…何故、ここへ…?」
黄金王、と言いかけたアシェル様のお父様が、男性に問いかける。先代国王陛下?それって、ジェーちゃのお爺様って事ぉ? でもでも、とてもお爺さんには見えないよ?ウチの義父と同じくらい…いや、もっと若くに見えるよ?
「それに、その姿は…まるで歳をとっていないように見えますわ」
陛下の隣でジェーちゃのお母様が、僕の疑問を口にした。やっぱり 若く見えるよね?何かの魔法かのかな?
先代国王陛下、黄金王さんは、軽く頭を振って教会を指さす。と、そこへ奥から走り寄ってくる足音が聞こえた。
「デー様ぁ〜!待って下さいよ〜!速すぎますってぇ〜!……わっ!」
走って来た少年…ジェーちゃと同じ位かな?その子は黄金王さんの隣に立って、ペコりと頭を下げた。
「…国王陛下!我々、デー様…じゃ無かった、えと デーストルク先代国王陛下は、先程 魔女アレクシスなる女性の要請を受けて 馳せ参じました!デー様は喋る事が出来ませんので、何か有れば ワタクシ、ヤゲンにお申し付け下さいッ!」
「女神が君達のところへ現れたのか?」
驚いた国王様が ヤゲンと名乗った子に問いかける。僕としては黄金王さんの事を良く知らないので、成り行きを見守るしかない。確か、戦争を終わらせた王様だったよね?歴史書に載ってたような…。
「はい!あ、ワタクシはデー様のところでお世話になっている者です!アレクシスさんはデー様に 厄介な相手をとっちめるのに手を貸して欲しいと言われまして…、デー様はご存知の通り 既に隠居しております。墓守でもありますから土地を離れるのを渋って居たんですが、近くで魔獣が暴走したりして、王国に災害が起こっているのでは無いかと心配されまして…こうしてやって来た訳でございます!」
根がお喋りなのか、国王陛下を前にして緊張してるからか、ヤゲンくんはペラペラと経緯を喋った。黄金王さんは特に何の意思表示もしてないから、間違いじゃ無いんだろう。
「それは有難いが――しかし、父上は魔力が…」
普段は賢王と呼ばれて、少しも感情が揺れない国王様は誰から見ても狼狽えいる。きっと久しぶりに会ったんだろうし、びっくりしてるんだろうな。
「…!そ、それなんですが――――」
今度は問いかけられたヤゲンくんが狼狽える。
「ええ〜と、実はそのお〜、…デー様は隠居なさる時に、確かにご自身の炎で喉を焼かれました。それは居合わせた王侯貴族の方々も確認済みだと思います。…よって、詠唱が出来ない訳でして…無力化された訳でございます…。無力化されて無ければ、隠居など到底、認められ無かった訳ですしね?――…ええー、しかし、そのお〜、…デー様の魔肝は傷ひとつ無く……決して!決して、国家を謀った訳では無いんですよ!――ええ〜と、…そのお〜」
長々と、言い訳を言ってるようにしか見えないヤゲンくんに、国王様が断言する。
「つまり、”黄金王” は健在な訳だ。」
「ああ〜!デー様は、決してそんなつもりじゃ無かったんですよ!奥様と二人で 権力の闇に巻き込まれることなく、ヒッソリと暮らしたかっただけなんです!!」
わあわあと、ヤゲンくんが手を振りながら黄金王さんを擁護する。
「そうか…、いや、それで父上に刑を言い渡すつもりは無い。それより、今は大変 有難い。」
…黄金王さんの言う事も分かるけど、でもそれじゃ、残された子供――ジェーちゃのパパ達が、あんまりじゃ無い?その頃には”国王”を譲渡してたから、アレかも知れないけどさ…、僕だったら寂しいと思うな。
それとも王子とか国王とかってのは、僕の想像とは違う感性なのかな…。ソッとジェーちゃを見る。忙しい国王の父親に、自分を避ける母親、魔力暴走を繰り返して ドンドン孤独になるジェーちゃ。
きっと国王様だって、色々あったと思う。
僕はジェーちゃを、ぎゅっと抱きしめる事しか出来ない。
結局、黄金王さんが地下へ出向く事になった。国王様はアシェル様のお父様の注言に従って、貴族達と会議を開き、王城騎士団を突入させる準備を整える。ジェーちゃのお母様だけは一緒に地下へと向かう事になった。一緒に会議へと誘う国王様達に「私は即妃なんだから出る必要は無い!」と彼らの心配を一刀両断したのだ。正直、かなり危険だから、安全な所に居て貰いたいジェーちゃは、何とか諦めさせようとしたけど、「アシェルも向かったと云うのに、私が引く訳にはいかない。皆は私が護る!」と言い張って引かなかった。強情なのは、ジェーちゃにソックリだね!
《黄金王》
そして、地下への階段を降りて行ったんだけど、結局、何で黄金王さんが 若い見た目なのかは分からないままだ。黄金王さんの現役時代の攻撃魔法は凄まじいらしく、何しろ戦場の最前線に立ち、次々と他国を制圧する程なんだって!その力が現存してると云う事実に全員が打ちのめされて、「何で若いか?」を追及する所では無かった!きっと、後でヤゲンくんに聞けば教えてくれそうだから、今は ピンチだと思われるテオ兄様とルーカス王子殿下の元へ急がなきゃね!
ドオオォ!
凄い地響きがする!大変だ!
そこはもう大広間とは言えない、廃墟のようになってた!
「ヘンリー!コッチコッチ!」
その一角で、丸い防御壁の中に人影が見える。手を振って声を上げるのは魔女さんだ!火柱がめちゃくちゃに放たれるそこへ、僕達は駆け出した。黄金王さんが無詠唱で攻撃魔法を使ってるらしく、火柱は尽く跳ね返される。
「なーんだ!アンタも一緒なら、ヘンリー呼ぶ事も無かったね!」
魔女さんが気安く黄金王さんの肩をパンパン叩く。
「兄上…!大丈夫ですかッ血が…!」
「ジェームズ、来てしまったのか…まだ魔力も回復していないだろうに…大丈夫だ、これは私の血では無くテオドールの…と、言うか…そこに居るのは…」
ルーカス王子殿下が驚いたように黄金王さんを見る。
「てお!にぃさま!」
でも僕は、頭から血を流して俯いているテオ兄様しか目に入らない!ジェーちゃに抱かれたまま、精一杯 両手を伸ばす。
「大変!大丈夫よ、今すぐに!」
ジェーちゃのお母様が詠唱を始めると、真っ白だったテオ兄様の顔色が戻る。ああ〜良かった!ジェーちゃのお母様が一緒に来てくれて良かった!止血はしてあったけど、かなり危なかったんじゃ無いかな。ルーカス王子殿下もアチコチから血が滲んでる。すぐにまたジェーちゃのお母様が詠唱を始める。ジェーちゃは魔女さんに、「これの何処が”致命傷を負ってない”だ!」と目を釣りあげて怒ってる。
「あのね、ここは戦場なんだよ、状況は 刻一刻と変わるんだから…」
と魔女さんも言い返してる。僕達が ヤイヤイやってる後ろで轟音が鳴り響いた。
ガオオオォォン……!
全員が ビタリッ!と動きを止める。僕らの前に立った黄金王さんが、火魔法の攻撃魔法と、多分 祝福だと思うけど、凄まじい雷が 大魔人に降り注いだ。
数秒停止した大魔人は、プスプス…と煙が身体中から立ち上って、ゆっくりと倒れた。その身体はボロボロと崩れて行き、頭の辺りに砕けた赤い石が 確認出来る。
た、倒した…?
え、僕、まだ 黄金王さんに、強化魔法掛けて無いんだけど――――……。
「…ハハッ 流石、戦争の化身・黄金王サマだね。」
多分、こうなる事は予想して、魔女さんは呼びに行ったんだろうけど、あまりに圧倒的な力に 乾いた声しか出て来ない。
これが…数々の戦争を征した、黄金王――――…。
凄まじい過ぎる……。
誰もが身動き出来ず、ただ クルリと振り向いた黄金王さんを見つめる事しか出来ない。ヤゲンくんだけが、「おお〜…」と小声で言った。きっと、ここまでの攻撃魔法は見た事が無かったのかも。
僕達が、ようやく 歓声を上げようとした、その時…!
ガラガラ…ッと、崩れた壁の向こうから、多分 三体目の大魔人が現れた!!
「黄金王!アレ!アレもやっちゃって!」
魔女さんが大魔人を指しながら大声を上げる。でも、黄金王は首を横に振った。え!何で?
「お姉さん!デー様は、さっきの一撃に全ての魔力を乗せました!国王陛下から一撃で仕留める必要があると言われたからです!もう、デー様は魔力枯渇しております……!」
ヤゲンくんの言葉に場が一気に緊張する!
そ、そんな……!それじゃ、ここには戦力になる人が居ないって事ぉ?!
一難去ってまた一難!どうしたら良いんだ?!




