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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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24/34

英雄


おはようございます、ヘンリー・ディラン4歳です。

 

 夕方、戦場から引き返して隠れ屋敷に戻った僕とジェーちゃは、食事と軽く湯浴みをして仮眠を取ってました。そして、イザ、戦場へ戻ろうとしたらルーカス王子殿下から通信が入ったの。

 ジェーちゃによれば、魔獣暴走(スタンピード)を沈静化させるには、早くても後2日はかかるらしい。でも、ルーカス王子殿下が言うには、”黄金王”と呼ばれた先代国王が、初日から魔獣暴走(スタンピード)を鎮めるために戦ってくれていて、僕達がこれから向かおうとしていた土地は既に沈静化されてるらしい。


((勿論、魔獣を倒して終わりじゃない。怪我人の手当に倒壊した家屋の確認や、まだまだやる事は多いが、それはこちらでやるからお前達は大人しく隠れ屋敷に居なさい。))

 僕の新しい祝福(ギフト)、言語通信を通じて淡々と説明するルーカス王子殿下。

((待ってください、兄上!『黄金王』と言うのは…))

 僕もそれ気になってた!黄金王って、確か今の王様のお父様、先代国王だよね?どっかで療養中なんじゃなかったっけ?

 ((色々聞きたい事はあると思うが、今は時間が無い。後でゆっくり話そう))

 そう言ってルーカス王子殿下は通信を切ってしまった。


「…どういう事だ。黄金王は魔法が使えない筈…」

 そうだよね、それなのに魔獣暴走(スタンピード)発生から精力的に動いてくれてたんだ〜!凄い!さすが『王様』だ!

 関心する僕とは裏腹に、ジェーちゃは難しいお顔して、ブツブツ言ってる。そこへ、朝食の準備が出来たと声がかかる。また戦場に戻るつもりだったから、持って行けるようにカゴに詰めてくれたみたい。でも、行かなくて良くなったみたいだし…ジェーちゃはどうするのかな?


「ヘンリー、兄上はああ言っておられたが、まだ残党が居るかも知れないし、俺は少し様子を見に行こうと思う」

「いっちょ!」

「…はあ、まあそう言うよな…」

 やっぱり一人で行こうとしてたね!魔獣暴走(スタンピード)が沈静化されたなら危険は無いと思うけど、何があるか分かんないだから、僕も一緒に居ないと!

 ジェーちゃに引っ付いて離れない僕を見て諦めたのか、ジェーちゃは仕方なく僕を抱いて外へ出た。


「ガアァァァ!!!」


 その瞬間、魔獣の雄叫びが聞こえた。

「何だ?!」

 ジェーちゃが辺りを見回す。今のって割と近くから聞こえた気がする。おかしいな、王都には魔獣が居ない筈なのに…。侵入されたのかな?でも、ルーカス王子殿下の話では、魔獣暴走(スタンピード)は沈静化された筈…。でもその後も魔獣の雄叫びは止まらない。

「…ヘンリー、様子を見に行くぞ!」

「あい!」

 ジェーちゃは僕を抱いたまま空へ飛び上がる。声のする方へ飛んで行くと、何と、いつも賑わっている城下町に何体もの魔獣が暴れ回ってる。人々の逃げ惑う声と、駆け付けた王城騎士団の怒声が響く戦場に変わっていた。大変だ!

「なんて事だ…っ」

 ジェーちゃは声を張り上げる。

「お前達、そこから離れろ!」


「…えっあれって第二王子?!」「飛んでるぞ!」「牢に入ってる筈では…?!」人々から驚きの声が上がる。ジェーちゃの姿を見付けた王城騎士団の人達は、驚きつつもジェーちゃの言う通りに魔獣達から距離を取る。それを確認して空に浮いたままジェーちゃは詠唱を唱える。

「我が炎よ、ここに現れ我が意思に従え、魔に染まりし獣の魂を業火によって救済せよ」

 僕も慌ててジェーちゃに強化魔法(バフ)をかける。


 巨大な魔法円から現れた炎は真っ直ぐ魔獣の体へ向かい、その体をあっという間に包み込み燃え上がる。魔獣は何とか逃れようと咆哮を上げて のたうち舞うけど、直ぐに倒れて動かなくなった。それを見た人々は歓声を上げる。でもジェーちゃは直ぐに他の魔獣にも同じように攻撃魔法を放って倒して行く。あっという間にその場を沈静化したジェーちゃに、人々や王城騎士団から歓声と拍手が沸き起こる。

 でも…


「罪人だ!」人々の中から声が上がった。

「第二王子は罪人だ!地下牢から逃げ出してる!今すぐ処刑しろっ!」

 あちこちから声が上がる。たった今、自分達を助けてくれた英雄にかけられる言葉に戸惑い、人々はざわめきが大きくなる。王城騎士団の人達も、「静かにしろ!」と声を張り上げている。ジェーちゃはその真ん中に、静かに舞い降りた。ぶつけられる悪意に傷つけられてはしないかと、心配してジェーちゃを見つめる。でも、ジェーちゃは穏やかなお顔をしてる。

 

「この魔獣暴走(スタンピード)は第二王子の仕業だ!第二王子がこの国を滅ぼす為に仕組んだんだ!」

「おい!たった今、俺達を救ってくれたのを見ただろう!」

 喚く声に怒声が響く。それを皮切りに”そうだそうだ”と、声が大きくなる。「魔獣暴走(スタンピード)を仕掛けたのが第二王子なら、どうしてそれを自ら止めるんだ!影で見ていれば良かっただろうが!」大きくなる声に、第二王子を避難していた声は聞こえなくなる。そして…


「英雄だ」


「そうだ!あんなに凄い魔法が使えるなんて英雄だ!」

「王城騎士団ですら押されていたのに、あっという間に沈静化した!」

「偉業を成した第二王子は罪から解放されるべきだ!」

 ジェーちゃを称える声が広がって行く。僕は胸がドキドキしていた。良かった、ちゃんとジェーちゃの味方は居るんだ…!えーっとでも、大丈夫かな?僕達は罪を犯したから地下牢に入れられた訳じゃなくて、身を守る為に地下牢に入った訳だから、このまま解放されちゃったらマズイんじゃない?


 ザワつく城下町に、ガラガラと王家の馬車が到着した。皆が上げていた歓声を一斉に止める。カツン、と音を鳴らして国王が馬車から降りた。

「第二王子ジェームズ、これはどういう事かな?」

 声を張った訳でもないのに、国王の低い声は、その場の隅々まで届く。ジェーちゃは、サッと礼の姿勢を取って答える。

「国王陛下、申し訳ありません。人々の助けを求める声に居てもたっても居られず、地下牢から抜け出し魔獣を討伐しておりました」

「そうか、大義だったな。それよりも、()()()(ざい)を課した事、心から詫びる」

 軽く頭を下げる国王陛下に、民衆が「うおぉぉぉ!」と唸る。あちこちから「やっぱり第二王子は英雄だ!」と声が上がる。突然の方向転換に、ジェーちゃは戸惑った顔をしたまま陛下に声をかける。

「陛下…宜しいのですか…?」

「ああ、()()()発言をした奴らは影によって既に捉えられている」

 声を潜めて陛下が答える。えー!そうなんだ、いつの間に!って事は、もう()の組織を把握出来たって事かな?そんな事をジェーちゃの隣でぼんやり考えていたら、フワッと体が浮き上がる。あっと思う間も無く僕の意識が途切れる。ヤダこれ…前も無かった…?

 遠くで「ヘンリー!」とジェーちゃの声が聞こえた…。



 ◇◇◇◇◇

 それからどれだけ経ったのか、僕は体を揺すられて目を覚ました。

「ヘンリーくん、大丈夫?」

 僕を揺すって起こしたのは暗闇でも美しいアシェル様だった。

「あちぇる、ちゃま…?」

「そうよ、ヘンリーくん。気分はどう?一応、木魔法をかけてみたんだけど、気持ち悪いとか無い?」

 僕はまたしても女神の使者さんに連れ去られてしまったみたい。透明化(ステルス)って祝福(ギフト)は本当に厄介だね!コクリと頷いて辺りを見回すと、ここは薄暗くて狭い部屋だ。なんか地下牢っぽい雰囲気。そんで、近くに二人程倒れてるんだけど…

「だれ?」

 指さしてアシェル様に聞くと、

「…神官、だったんだけど…今はただの悪い人間ね!」

 フンッと腕を組んでアシェル様が言う。神官?って事は教会で働いてる人だよね?

 首を傾げる僕に、アシェル様が困ったお顔をして言う。

「ヘンリーくんは…この人達に殺されかけたのよ。だから、私から離れないでね」

「えっ!」

「驚くわよね…言うべきか悩んだんだけど…アノヒトに騙されたら大変だと思って…」

 困り顔のまま言うアシェル様。そこへジェーちゃの声が響く。

 ((ヘンリー!ヘンリー!聞こえているなら返事をしてくれ!))

 ((ヘンリー!今どこにいるんだ?!ヘンリー!))

 続いてテオ兄様の声もする。

 ((あい!))

 ((ヘンリー!))((ヘンリー!無事なのか?!))

 お返事すると、二人が一斉に声を上げる。

 ((だいじぶ!))

 ((今、何処なんだ?!直ぐに迎えに行く!))

 一人で話し出した僕に、アシェル様が驚いたお顔をしてる。気が触れたと思われたらいやなので、アシェル様も言語通信で繋ぐ事にする。えい!

 ((ヘンリー!))

 ((えっ!ジェームズ王子殿下?!))

 ((その声はアシェルか?!))

 ((何?!アシェルだと?!))

 あ、ルーカス王子殿下も居るんだね。

 ((あの…これは一体……))

 驚き過ぎて声が出ないアシェル様。

 ((アシェル、後で説明するけど、とりあえず()()は何処なんだい?危険は無いのか?))

 ((…そうですわね。危険が無いかと言われれば、危険です。たった今、ヘンリーくんは水魔法使いによって殺されかけたのですから))

 ((何だと?!))((それはどういう事だ!))((ヘンリー!))

 皆の声がわんわん響いて何を言ってるのか分からない。

 ((落ち着いて下さい!丁度、私が居ましたので、水魔法使いは制圧して捕縛してあります。気絶したヘンリーくんは頭に水球をつけられ窒息させられる所でしたが、私が割りましたので大丈夫です。勿論、木魔法もかけてあります))

 流れるような説明に一同が黙る。僕、そんな事になってたの?怖っ!アシェル様が居て良かった!って言うかアシェル様が居るって事は…

 ((そこは教会なんだな?))

 ルーカス王子殿下が言う。

 ((正解です、ルーカス王子殿下。))

 ((直ぐにそこへ行く))

 ((お待ちください、ルーカス王子殿下。実は私も踏み込み過ぎて捕縛されていたのです))

 ((アシェル……))

 ルーカス王子殿下がため息をつく。

 ((敵は、私が大人しく捕まっていると思って油断している筈です。ヘンリーくんも始末したと思っているでしょうし、今が攻めどきなのでは?))

 ((アシェル……))

 またルーカス王子殿下が深いため息をつく。

 ((ルーカス、第二王子排除派が手配した手駒は俺の屋敷に閉じ込めてある。手を貸した貴族の名簿も出来上がった))

 ((テオドール…))

 今度はテオ兄様の名を呼んでため息をつく。

 ((兄上!ヘンリー達は俺が助けに行きます!兄上は貴族共の制圧を!))

 ((………はあ、分かったよ。今こそ動くだ!皆、私に力を貸してくれ!))

 ヤケクソでルーカス王子殿下が叫ぶ。皆も「おー!」と声を重ねる。


 さて!外で皆が動いくれてる間、僕は何をするかと言うと、ジェーちゃが来るまで待機ですね。

 アシェル様は捕縛した二人を隅によせ、布をかけた。

「良し、とりあえずここに置いて行きましょ。いずれ見つかると思うけど、時間稼ぎくらいにはなるはずだわ」

 そう言えばアシェル様も捕縛されてたってさっき言ってたけど…どうやって自由になったのかな?他にも協力者が居るのかな?

「あちぇる ちゃま、ほばく といたの?」

「ん?捕縛?ああ、私がどうやって解いたのかって事?簡単よ、縄の時間を進ませて腐らせたの。私は木魔法使いだからね、植物ならお手の物なのよ」

 へー、凄いねー!木魔法使いって治癒だけじゃなくてそんな事も出来るんだ〜!

「さあ、上に行きましょ、アノヒトは透明化(ステルス)を使えるから気をつけなくちゃ」

 アシェル様と手を繋いで上へと続く階段を上る。ここは地下だったんだねぇ、教会に地下があるなんて知らなかったよ。廊下の壁に火が点ってるから暗くは無い。

 

 少し歩くと扉があって鍵がかかっていた。

「あら、用心深いわねぇ〜」

 アシェル様がガチャガチャとドアノブを回して言う。

 ここが開かないとジェーちゃと合流出来ないし、僕達が逃げ出した事を知った敵が追いかけてくる可能性もある。うーんと悩むアシェル様に、僕は、

「あちぇる ちゃま、どあ、しんか!」

「うーん、でもねぇヘンリーくん。縄くらいならすぐだけど、流石に大きな扉となると時間がかかるわ…」

 と言いながらも扉に木魔法を使ってくれる。僕は「フンッ」とアシェル様に強化魔法(バフ)をかける。途端、扉は朽ち果てて崩れ落ちた。


「えっ?!」

 固まるアシェル様。

「ええっ?」

 あっという間に朽ち果てた扉を見下ろして、まだアシェル様は驚いてる。

「んちょ!」

 僕は扉を踏みしめて外に出る。

「ヘンリーくん…あなた……」

 ドタドタドタ…!外が騒がしい。地下から繋がる階段の先にあったのは小さな執務室で、普段は誰かが居るんだろうけど、今は無人だった。その更に外で走り回る音が聞こえる。

「ヘンリーくん、行くわよ!」

 アシェル様に連れられて扉を開ける。そこは広い礼拝堂のようだった。

「ヘンリー!どこだ、ヘンリー!」

 そこへ声を張り上げながらジェーちゃが入って来た。必死で神官さん達が止めようとしてる。

「ヘンリー!」

 僕達を見付けたジェーちゃが、神官さん達を振りほどいて近寄ってくる。

「アシェル、助かった!礼を言う」

「いいえ、お役にたてて良かったですわ」

 言葉を交わす二人を神官さん達が遠巻きにしている。

「さて、」

 アシェル様が神官さん達に向かって言う。

教会(ここ)で恐ろしい計画が練られ実行されました。その全てを私は見聞きしました。これより国王陛下にご進言しに参ります。教会は取り潰されるかも知れません」

「せ、聖女様…!これは女神のご意志なのですよ?!」

「そうです!正しい行いなのです!」

 毅然(きぜん)と言い放つアシェル様に、神官さん達が口々に止める。

魔獣暴走(スタンピード)を人為的に起す事の何処が、『正しい行い』なのですか?!」

 アシェル様が声を荒らげる。すると、神官さん達は「うっ」と言って引き下がる。その場を離れようとすると、違う扉が開いて女神の使者とダニエルくんが現れた。

「女神の使者様!」

 神官さん達がパッと瞳を輝かせる。


「驚いたね、アシェル嬢どうやってここまで来たのかな?」

「うふふ」

「まあいいや、ダニエルくん。見ただろ?第二王子は教会へ押し掛けてきた、自分にとって不都合な物は全て潰す気なんだ。全く城下町まで魔獣を引き入れるなんて恐ろしいねえ」

「……」

 ジェーちゃは初めて見る女神の使者をじっと観察してる。

「さあ!『勇者』よ、今こそ悪の親玉を討つんだ!」

 女神の使者がダニエルくんにけしかける。剣を構えるダニエルくん。

「待ちなさいっ」

 慌ててアシェル様が声を上げる。でも、ダニエルくんの剣から炎が上がりその剣先はジェーちゃに振り下ろされる。でもジェーちゃは詠唱が間に合わない、火を呼べない!

 ボオオオオオ……ッ キ――――ン!!

 でもその剣はジェーちゃの前に現れた石の盾によって阻まれる。

「とうさま!」

「お二方、そこまで。お話は王城でお聞きします」

 突然現れたのは、僕の義父(パパ)!いつの間に!


「ダニエルくん!止めるな!悪は討たねばならない!」

 女神の使者が叫ぶ。でもダニエルくんは剣を下ろした。

「ダニエルくん!!」

 女神の使者が怒鳴る。

「K、このままここで暴れれば教会に被害が出る。外に出てからでも…」

「煩い!!僕の命令に従え!!ジェームズもヘンリーも今すぐ殺せ!!!」

 激高するKに、ダニエルくんが引く。動かないダニエルくんに失望したのか、女神の使者は後ろを振り返る。

「もういい!ダコール!コイツらを全員殺せ!」

 後ろから現れた男は禍々しい黒い炎を纏っている。あれ、これって暴走してる魔獣と同じオーラじゃない…?


 その男は、詠唱を始めるとどデカい魔法円が現れ巨大な水が僕達へ向かって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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