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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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順調

結局、僕はティム兄様と一緒に薬丸作りに加わる事なく、ジェーちゃと一緒に行動する事になった。

 

 ジェーちゃと魔女さんは空を飛べるから、ジェーちゃが僕を連れて移動して、魔女さんがルーカス王子殿下とテオ兄様と行動する。

 テオ兄様はルーカス王子殿下の護衛も兼ねてるから、側を離れる訳には行かないって言ってた。ルーカス王子殿下は「私兵の、それも選りすぐりを連れて来ているんだから、お前はヘンリーと一緒に行動したらどうだ?」って言ってくれたんだけど、第一王子殿下の側は離れられないって、キッパリ言ってた。

 だから、「ヘンリーはウィリアムと戻りなさい」ってまた言われちゃったんだけどさ…。二手に分かれた方が魔獣暴走(スタンピード)が早く沈静化出来る筈だって話し合って、渋々頷いてくれた。そんな訳で、ティム兄様や魔女さん達とはここで一旦お別れです。

 

「ジェームズ、ヘンリーの祝福(ギフト)の『言語通信』を使用するには、ヘンリーに話し掛ければ良いんだったよな?」

 ルーカス王子殿下が言う。

「ええ…多分。ヘンリー、それで良かったんだよな?」

「あい!」

 元気にお返事する僕。僕が魔力を流してある相手なら、話し掛けて貰えればちゃんと繋がるよ!さっきみたいに皆で話し合う事も出来るしね。

「………解った。宜しく頼むな」

 ルーカス王子殿下が、何とも言えないようなお顔してる…。そうだよね、僕の新しい祝福も、充分世界変えちゃうよね…えへへ…。でもこれを与えたのって魔女さんの独断だから…、僕にそんなお顔されても困っちゃうんだけど…。

 こまめに連絡を取り合う事を約束して、僕とジェーちゃは次の戦場へ向かった。



 ◇◇◇◇◇

「…はぁ」

 テオドールがヘンリーを抱えて飛んで行くジェームズの背中を見送りながら、ため息を漏らす。

「…そんな顔をするなら、やっぱり向こうと一緒に行動した方が良かったんじゃないか?」

 呆れ顔で言うルーカスに、テオドールは緩く首を振った。

「…いや、ジェームズ王子殿下が強いのは分かっている。俺の側に居るよりも、安全だとも思う。ただ…」

「ただ?」

「……いや、なんでもない。俺達も移動しよう。早くこの大災害を沈め無くては…」

 このスタンピードが起こってから、テオドールもルーカスも戦い通しだった。傷はウィリアムの薬丸で治せても、疲労感までは無くならない。

 

「…そうだな。()()にも期待して良いのかな?レディ」

 ルーカスが窺うように魔女アレクシスに問いかける。突然ジェームズと共に現れたのにも驚いたが、彼女の”鑑定”をさり気なく行ったところ、(ルーカスは身近に近づく者を必ず祝福を使い確認する)何と鑑定画面(ステータス)には『創世の女神』と書かれていた。それを信じるなら、彼女はこの国の唯一神だと云う事になる。


 突然、空を飛べるようになったジェームズ。ヘンリーの他人の能力を3倍以上も引き出せる強化魔法(バフ)、更に、遠く離れた人間と話し合える祝福…オマケに目の前の女性は、女神アレクシスと云う…。驚き過ぎて、ルーカスは逆に冷静になっていた。

 もう何を言われても驚かない…。

 とは言っても、現実問題としてコレほど特殊な祝福を持った人間を管理しないわけにはいかない。そもそも、生まれて直ぐに教会で属性とステラのランク、そして祝福を調べるのは王家にとって脅威に成り得る者を監視管理する為だ。今までは、年を重ねてもステラのランクが上がる位で、新たな祝福を持つ者など居なかった。タイミングと良い、自身の祝福効果(ギフトスキル)を信じるなら、今 目の前にいる女性がジェームズとヘンリーに新たな祝福を与えたに違いない。分からないのは、何故、今このタイミングなのかという事と、何故あの二人なのかという事。


「ふふふ、さあどうかな?ほら、難しい顔してないでさっさと行くよ!」

 彼女は自分の名前を「アレクシス」と名乗った。この国の唯一神である「女神アレクシス」の名を子供につける親はいないし、偽名であろうとも よりによってその名を名乗る者など居ない。先ほどの鑑定の事を(かんが)みても、やはり目の前にいる女性はこの国を作った『女神アレクシス』なのだろう。

 この国の一大事に降臨してくれたのだろうか。

 今回に限って何故?

 長い歴史を持つこの国、アデルバード王国。これまでにも国を揺るがす災害は、度々起こって来た。しかし、女神アレクシスが降臨した、とか、神託が下された、等と云う逸話は何処にも記されて居ない。それを信じるなら、何故今回に限ってこの地に現れたのか…。そしてジェームズとヘンリーに新たなる祝福を与えた意味とは何なのか…。

 疲れ切っているだろうに、穏やかな微笑みを浮かべたまま、ルーカスは頭の中にある引き出しを忙しなく開け閉めしていた。


 

 ヘンリーが狙われる()()をずっと探って来た。

 今ならば「確かに」と頷けるが、ヘンリーの新しい祝福は最近与えられたものだろうし、教会に納められている人物帳(にんぶつちょう)のヘンリーの欄を見なければ、脅威を感じる事も無いはずだ。その人物帳も、一見するだけでは『ちょっと珍しい』という感想で終わるだろう。そこに記載されているのは、月魔法使いである事、祝福が与えられている事、ステラのランクが()()である事。ステラが五つというのはかなり珍しい、しかし属性が「月魔法」である為そこまで警戒はされない筈だ。これがもし、ジェームズと同じ火魔法や、テオドールと同じ水魔法の攻撃特化であれば、幼い頃から王城で暮らす事になって居たかも知れない。

 ヘンリーはステラ五つの魔力で、相手を誰でも魔王級に強くする事が出来るという事だ。

 もしこの事が露見すれば、王反派に取り込まれ内乱が起こるかも知れない。

 しかし、どうしてそれが『ヘンリー暗殺』になるのか?

 殺すよりも自陣に引き入れた方が、利用価値は高いと思うのだが…。


 しかしこれは、黒い影(ブラックシャドウ)が間違いなく教会を抱き込んでいる証拠でもある。

 何故ならば、教会に納められている人物帳は、国王陛下と教会運営の上層部にしか閲覧権限が無いからだ。もし、これを見ずにヘンリーを暗殺しようとしているなら、それはもう個人的な恨みと断じる他ない。あんなに幼く、無害そうな子供をあそこまで狙う程の、恨みとはどんなものだろう。


 ジェームズを狙う『強烈な第二王子排除派』がここ最近、大きく動く事が多い。ヘンリーが狙いと云うよりは、ジェームズとヘンリーが一緒に居る事により、ジェームズの力が増幅される事をきらって居るのではないか。

 もしそうであるなら、とんでもないトバッチリだ。

 これが()()ならテオドールは鬼の形相になり、ジェームズとヘンリーを引裂き、二度と合わせないかも知れない…。

「どうかしたのか?ルーカス」

「…あ!。イヤイヤ、別に…さ、次に行こうか」

 にっこり微笑むルーカスに、不信感を露わにするテオドール。付き合いの長さのせいか ルーカスが、何事かの思考に行き当たったのを雰囲気で察するが、肝心の本人は伝える気が無いらしい。相手は、曲がり曲がってもこの国の第一王子だ、無理やり聞き出す訳にもいかず、テオドールは言葉を飲み込んだ。

 何、言わないなら、行動と言葉端から導き出せば良い。こういう事に、テオドールは長けていた。

「ほら、グズグズするなって!」

 アレクシスの号令で、ルーカス王子隊は次の死地へと歩を進める事になった。



 ◇◇◇◇◇

「まさか、君が防衛掃討に参加しているとは思わなかったよ」

 隣の町へ移動すると、丁度そこへ ヘンリーが行方不明になった時に世話になったジュード子爵家の次男、ダニエルが数人と一緒に辿り着いた所だった。

 ルーカスはフードと口あてを被り、偽名である『伯爵家ルーク・ウィーク』を名乗り、簡単な自己紹介を交わした。

「例の…オアシスに居る時に魔獣達に遭遇しまして…、おれ…あ、私も僅かばかりでも、と参加しています。」

「君が強いのは良く承知している。心強いよ」

 テオドールがそう言いながら手を差し出すと、ダニエルはフワリと微笑んだ。実はオアシスから直にあちこちの魔獣達を沈めに出掛けた為、一度もジュード子爵家に戻って居ない。本来なら一度自宅に戻り、当主の意向に従うものだが、防衛掃討への参加を反対されるのは目に見えていた為、こうして単身、戦火に身を投じている。


「しかし、あまり傷を負っていないな。流石だ」

 自分達は怪我をしてもウィリアムの薬丸で傷を塞ぎながら戦って来たが、目の前のダニエルには目立った怪我は無い。オアシスでの戦闘を思い出しながらテオドールは感心していた。これはジェームズと良い勝負に成る逸材かも知れない。

「いえ、そんな事は…、実は新しい剣を貰って…それが凄く使いやすくて、それで…」

 照れながら言うダニエル。

「剣?」

 言われて見れば、確かにダニエルは腰に剣を()いている。魔法使いは詠唱により攻撃を行うので、武器を持つ者は居ない。その珍しさに思わずテオドールはその剣を凝視した。視線に気付いたダニエルが、腰から剣を外しテオドールに掲げてみせる。

「貰い物ですが…、刃に、多分魔法円だと思うんですけど、呪文が刻まれてて、魔力が通りやすいんですよ。これならある程度距離が合っても、魔法が飛んでいくので相手の攻撃を受けずに済むんです」

 ダニエルの説明に感心するテオドールの横で、ルーカスはダニエルとダニエルの剣に祝福を使っていた。


 ダニエルに対しては、さして気になる事は無かったが、その剣の鑑定結果には驚きを隠せなかった。

 『異世界の素材による刀剣』

 なんとその剣自体が、この世界の物では無かった。あまりに突然記された『異世界』の文字。魔法学では異世界の事も習うが、”あるのでは無いか”と予想されている段階で、行った人がいる訳でも、確かな証拠がある訳でも無かった。

 それが今、目の前にある。

 ルーカスはもう一度、心を沈めて鑑定を行った。もしかしたら、不具合が起きた可能性もあるからだ。しかし、結果は変わらない。

 ルーカスの祝福効果(ギフトスキル)は人や物を鑑定する事だが、読めるのは、『その人の名前、年齢、祝福と祝福効果、今の状態。物であれば素材、作成からの年月』もっとステラを増やす事が出来れば、その人間が辿って来たストーリーや、今、何を考えているかまで鑑定出来るようになる筈だ。


 ルーカスはため息を着いた。

 異世界の物を持つ者を、野放しにする訳には行かない。一体、今日1日で、どれだけ驚けば良いのか…。

「我々は、テオドール様達と共に行動します。協力し合いましょう」

 唸るルーカスを他所に、刀剣についてアレコレ話し合っていたテオドールとダニエルの間に、見知らぬ男が進み出た。

「君は…」

「あ、この人はK…いや、知り合いの協力者さんで…、木魔法が使えるんですよ。とても助かってます」

 ダニエルの紹介に、男はロジェ・ダンシエールと名乗った。移動中に出会い、Kと入れ替わるように仲間に加わったのだ。

 話し合う少年達を少し離れた所で見ながら、魔女アレクシスは腕を組んで立っていた。先程まで上機嫌に魔獣達を狩っていたが、今は口をつぐみ静かな目をしていた。

 


 ダニエルと共に行動する事にしたテオドール達は、その後も順調に魔獣暴走(スタンピード)を沈めて行った。



 ◇◇◇◇◇

 《アデルバード王国・教会地下》

 

「はぁ〜」

 ドサリとフカフカなソファに身を沈めた青年は、ひと仕事を終え、満足のため息と共に体の力を抜いた。

 ここまで来れば、もう計画は半分以上 成功したと言って良いだろう。自分の優秀さに青年は満足していた。


 ()()()()()()()によってこの世界に召喚され、歴史の修正を頼まれた時は、どうして自分が…と思ったが、話を聞いてみれば確かに気の毒ではあるし、成功した暁には青年がこよなく愛するソーシャルゲーム「レディと夏の物語」に主人公として転生させてくれると云う。

 こんな素晴らしい取引は無い。

 『異世界転生』なんて絵空事だと思っていたが、実際、この世界へ召喚されているのだし、きっと「レディと夏の物語」にも、転生させる事が出来るのだろう。


「レディと夏の物語」やくして”レデナツ”。一体、幾ら課金しただろう。新しい衣装、主に水着が出る度に、新しい子が登場する度に、ガチャを回す為に、湯水のように課金した。お陰で常に金欠だったが…、その世界に!自分の全てと言っても過言では無いその世界に!『転生』出来ると云うのだ!転生先が選べるなんて最高過ぎる。

 青年は、来る未来に笑顔が止まらなくなった。


 女神から聞いた話では、本格的なスタンピードが起こるのはまだ数年先だ。しかし、ヘンリーを始末し、ジェームズを地下牢に入れる事に成功したKは、スタンピードまでに”勇者陣営”の絆を強くしておきたかった。

 自分が起こした数々の作戦のせいで、もしかしたら第一の歴史通りにダニエルとルーカス、テオドールが出逢わない可能性もある。そこで、小規模なスタンピードを起こし、そこへ強制参加するであろうテオドールとダニエルを出会わせ、共闘し仲間意識を持たせたかった。

 信頼を築くのは、やはり共闘に限る。


 ルーカスは第一王子だから、戦場には来ないだろうが、テオドールとルーカスは親友だ。テオドールが紹介すればルーカスとも知り合える。いずれ勇者と呼ばれるようになるダニエルをみれば、ルーカスも是非、自陣に加えようと思うだろう。

 (ダニエルくんには()()()も渡したしね…)

 あの剣はアニメイートンでアルバイトしている時、あるソシャゲの刀剣ブームで模造刀や玩具が沢山入荷した。その品出しをしている時に召喚されてしまったので、一緒に異世界に転生して来たのだ。

 この世界では武器を使わないと聞いたが、やっぱり”勇者”なら”剣”デショ!って事で、教会の人に魔法円を描きこんで貰って渡した。思ったよりも使い勝手は良いようで、ただの思い付きだったが、流石俺!とまた自分の優秀さに酔いしれた。


 順調だった。これなら、レデナツに行く日も近いかも知れない。

 そう思って居たのに、ある一報により青年は計画を 練り直さねばいけなくなった。

 

 

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