反撃
魔女さんに新しい祝福を与えて貰って、共に空中散歩するのかと思ってたら、魔女さんから僕を取り返したジェーちゃは直ぐに下に降りてしまった。
「なんだい〜!もうっ、折角散歩しようと思ったのにさぁ〜!」
文句を言いながら魔女さんも降りてくる。ジェーちゃが心配してくれてるのを分かってるみたいで、ひとりでどっかに飛んで行っちゃう事は無いみたいだ。
「”何だ”は、こっちのセリフだ!ヘンリーを誘拐しておいて何を呑気な事を…!」
ジェーちゃはプンプンだ。魔女さんはずっとあの翠宮に閉じ込められてたから、外に出られて浮かれてるんだと思う。でも、ジェーちゃはこの間、僕が連れ去られて行方不明になった時に、魔力暴走しちゃったくらい心配してくれたみたいだから、凄く不安にさせちゃったのかも…ごめんね。
何だかんだと言い合って2人の後ろから、急に誰かが出て来た。うわっ!
「…ジェームズ王子殿下…?」
現れたのはアシェル様だった!地下牢という名の隠れ屋敷から飛び立って、いつの間にか教会の近くに降り立ってたみたい。アシェル様は、教会に向かってる所だったんだけど、林の向こうから聞き覚えのある声が聞こえて来たから覗きに来たんだって。
「…アシェル!あ、こ、これは……」
ジェーちゃが慌ててる。
「一応、地下牢に入ってる事になってるんですから!外を出歩くにしても変装するなりして頂きませんと…特に、教会の近くを彷徨くのはいただけませんわ!」
アシェル様が呆れて苦言を呈す。
「…いやあの…っ!……す、すまない」
事情を説明しようとして、でも結局謝る事にしたジェーちゃ。説明を諦めたね。
「はーい!こんにちわ。アンタ、綺麗な魂をしているね」
魔女さんがニコニコしてアシェル様に声を掛けてる。「おい…!お前…っ」てジェーちゃが止めたけど、アシェル様は自己紹介を始めた。
「私はアードルフ公爵家の令嬢、アシェルですわ。魂を褒めて下さってありがとうございます」
ニッコリ微笑むアシェル様。いきなり魂を褒めるという怪しい相手にも丁寧だ。
「アタシは、魔女アレクシス。宜しくね!」
「…魔女、…アレクシス…?」
アシェル様が困惑してる。『アレクシス』は女神の名前だから、子供にその名をつける親はまず居ない。アレクシスと名乗った事に訝しんでるのかも。でも更に何か問いかける前にジェーちゃが割って入った。
「アシェル!先を急ぐんだろう?今日も教会で治癒を行うのか?」
ハハハ…と、苦笑いして言うジェーちゃ。
「ええ…、少しでもお役に立ちたくて…」
意味深な微笑みをみせるアシェル様。何故か不安になった僕は、ジェーちゃに抱かれたままアシェル様のお手手を握る。そして、そおっと自分の魔力を流す。これでいつでもアシェル様と連絡が取れる筈。アシェル様は、僕の魔力を流されて、「???」てなってる。
「…アシェル。外では何か起こっているのか?」
何かを感じたジェーちゃが、声を低くしてアシェル様に問いかける。
「…実は、小規模の魔獣暴走が起こっております」
「魔獣暴走?!」
えっ!!!嘘でしょ?! スタンピードが起こるのは、僕が成人する頃だから、まだまだ先の筈だよ!それとも、やっぱり僕がヘンリーになったから、歴史書と違って来ちゃったのかな…。もう、僕が読んだ歴史書とだいぶ掛け離れちゃってたから、そう言われてもおかしくない。た、大変だ…!
「何処だ?!。スタンピードは何処で起こっているんだ?!。陛下は何と…!」
「落ち着いて下さい、ジェームズ王子殿下!…スタンピードは最初、小規模とランク付けされ王城騎士団の半分が防衛掃討に派遣されました。しかし、問題は発生した場所です。国境をグルリと囲むように一斉に発生した為、騎士団の到着を待てず壊滅状態の土地もあります。勿論、各地の領主や貴族達も駆けつけてはおりますが…」
「…俺も出よう」
アシェル様の話を聞いたジェーちゃは静かにそう言った。本当なら、地下牢に閉じ込められている罪人が、勝手に外に出れる訳ない。テオ兄様がここに居たら、めちゃくちゃ反対すると思うけど、残念ながら、ここにジェーちゃを止められる人間は居ない。
「…本来なら、止めるべきなんでしょうけど。でも、ルーカス王子殿下も密かに王城を抜け出し、防衛掃討に加わっております。私も参加したいのですが…」
「ダメだ!」
えー!ルーカス王子殿下も参加してるの?!。この国の第一王子でしょ?!。何かあったらどうするの…いや、それはこの第二王子であるジェーちゃもだけど…。
「でしょうね。先程、私の父にも却下されました。ので、私は私の出来る事をしようと思います。」
「…アシェル?。危険な事はするなと兄上に言われていると思うが…」
「あら?危険な事をするなんて言っていませんよ。出来る事をすると言っただけです」
またニッコリと微笑むアシェル様。なんか嫌な予感がするよね。
「それより、ジェームズ王子殿下が防衛掃討に参加されるのなら急いだ方が良いかも知れません。最早、”小規模”とは言い難い被害が出ております。ひとりでも多くの民を…」
アシェル様が瞳をうるうるさせて訴えて来る。ジェーちゃは深く頷いた。そこで、教会に行くというアシェル様と別れて、僕達はさっき魔女さんに貰った祝福を使って空を飛ぶ。
ひゃー!さっきは突然で良く分かんなかったけど、空を飛ぶって気持ち良いね!ジェーちゃにしっかり抱っこされて、取り敢えず僕達ディラン伯爵家の領地へ向かいます。何も聞かされて無いから、テオ兄様達と会って情報を共有したいと思って。
しかし、さっき与えられた祝福なのに、ジェーちゃはすっかり使いこなしてるね!凄いね!それじゃ僕も僅かながら、ジェーちゃに強化魔法をかけて速度に貢献しようかな!
「…!」
急に飛ぶ速度が上がって、魔女さんがビックリしてる。はわ〜、3倍くらい速くなっちゃった…。
「ちょっと!置いてくんじゃないよ!アタシは場所知らないんだからね!!!」
ワーワー言いながらも、ちゃんと速度上げて追い付いてきた魔女さん。流石だね!
「…ヘンリー、俺に強化魔法を掛けるなと言っているだろう…」
何でだか分かんないけど、ジェーちゃは僕がバフを掛けるのを嫌がるんだよね〜?。アシェル様じゃ無いけど、僕も役に立ちたいだけなんだけど…。
そうこうしてる内に領地が見えて来た。凄い!いくらも掛からず到着したよ!これなら本当に魔女さんが言うように、国境の端から端まで、ひとっ飛びかも!
「?!ジェームズ王子殿下?!」
屋敷の庭に降り立ったんだけど、丁度、ドアを開けて義父が出て来た所だった。
「ディラン伯爵!すまない、色々してくれて居るのに、スタンピードが起こったと聞いて、出て来てしまった!」
「…いえ、驚きましたが、陛下からお聞きになったんですか?この辺りは沈静化出来ましたが、まだまだ各地で援助を必要としています。テオドールとウィリアムも近くの戦火へ赴きました」
「解った、俺も行こう!ではヘンリーを頼む。」
「ええっ?!」
ジェーちゃ?!。僕をここに置いていくの?!
「分かりました、ヘンリー、こっちへ…」
ジェーちゃが僕を義父へ渡そうとしてる。
「やー!!!!!」
僕はジェーちゃにしがみついて、ブンブン頭を振った。
「へ、ヘンリー…これから向かうのは戦場だ。お前を連れて行く訳にはいかないんだぞ!」
「やー!!!!」
「ヘンリー……」
「やーーーー!!!!」
テオ兄様もティム兄様も戦ってるんだよ?僕が戦力にならないのは分かるけど、魔獣を弱体化出来るし、皆を強化魔法する事も出来るし、ちょっとは役に立つと思うんだよ!
「ヘンリー…」
いつも大人しい僕が、本気の駄々を捏ねるもんだから、ジェーちゃも義父も唖然としてる。
「……いーじゃないか!王子サマ、アンタ強いんだろう?なら、ヘンリーの1人や2人、連れて戦う事なんか訳ないだろ!」
「いや、何を言うんだお前は…!戦場がどれだけ危ないか…」
「アタシも居るのに?」
魔女さんがニヤリと笑う。それを見てジェーちゃが黙る。
「…ジェームズ王子殿下。コチラの方は一体…」
義父が魔女さんについて説明を求める。まあ確かに気になるよね。でもジェーちゃはそれには応えず、義父に宣言する。
「ディラン伯爵、俺は腹を決めた。ヘンリーの事は俺が命をかけて護る。ヘンリーの残りの人生を俺にくれ!」
えっ、それって…プロポーズ?今?なんで?
「………駄目です。」
アッサリ断る義父。
「何故だ?!。許す流れだったろう?!」
「くれぐれもと、テオドールに言われておりますので…、それは私よりも我が息子に聞いて下さい。」
義父よりも力のあるテオ兄様……?いつの間に……。ぐおお〜と呻くジェーちゃに、義父は、
「しかし、ジェームズ王子殿下の事は信頼しております。ヘンリーが貴方様の側を離れたくないと言うなら、私に出来る事はありません。ヘンリーを宜しくお願いします」
深々と頭を下げる義父。普通ならこんな子供が戦地に行くなんて、絶対許してくれないと思うけど(アシェル様のお父上のように)ジェーちゃと僕の我儘を許してくれた。ジェーちゃは真面目な顔になって、ぺこりと頭を下げた。
一度は置いて行こうとしたけど、本当は僕を連れて行きたかったのかな?じゃなきゃ、絶対置いてくよね!
僕は義父にもお手手を握って魔力を流す。何かあったら直ぐに連絡するからね!
そして、一番近い戦場へと飛び上がった。僕らが飛んでいく様を見て、義父は腰を抜かしていた…。
「よーし!暴れるぞ〜!」
「おい!何を浮かれている!これから向かうのは魔獣が暴れている戦場なんだぞ!」
不謹慎だ!と怒るジェーちゃ。魔女さんは、外に出れて、とにかく嬉しいみたい。ずっとテンション高いよね。
あっという間に隣村に着いたけど、ここはもう沈静化されたみたい。ヨシ、次行こ!
「ぎゃああああ!」
あちこちから火の手が上がって、魔獣がいっぱい居る!ジェーちゃは空から手をかざして詠唱を唱える。
「我が炎よ、ここに現れ我が意思に従え!」
僕もジェーちゃにバフをかける。ジェーちゃの手から出た炎は勢い良く魔獣にまとわりつき、あっという間に消し炭になった。
「…えっ、だ、第二王子…?!」
さっきまで魔獣に襲われていた人がへたりこんだまま、こっちを見て唖然と呟く。
でもジェーちゃは全然気にしないで、次の魔獣に攻撃を開始する。魔女さんも大いに暴れている。流石、国を作るだけあってむちゃくちゃ強い!
この辺りの魔獣はたちまち沈静化させられた。
「第二王子様!ありがとうございます!もう、もうダメかと…」
生き長らえた人達が僕達の周りに集まって涙を流して感謝してる。
「当然の事をしただけだ、お前達は王国の民なのだからな」
ジェーちゃの言葉を聞いて、皆が泣き崩れる。僕は義父と連絡を取る事にした。魔獣は倒したけど、ここにはまだ怪我人も居るし、家も壊されちゃってるから、援助が必要だよね。
((とうさま?))
((?! へ、ヘンリー?!))
義父と繋がったけど、義父は姿が見えない僕の声に驚いている。まあそうだよね。でもコッチも時間が無いから要件だけ言うね!
((シャノむら、だっかん! えんじょ、おねしゃす!))
((へ、ヘンリー?! シャノ村、奪還?援助、お願いします?))
((あい!))
流石、お父様!僕の拙い伝言でも、1発で通じたね!愛♡
よしよし、じゃあ次に行こう!ふんっ
「さっ!次に行くよ!」
魔女さんもノリノリだ。この分なら、魔獣暴走も直ぐに収まるかも!長引く程、被害が出ちゃうもんね!
その後も順調に魔獣達を沈静化して行った。忘れてたけど、ジェーちゃは悪い事して地下牢に入ってる筈なのに、どうしてここに居るんだ?と言う当然の疑問をぶつけてくる人も居た。せめてフードを被るとか、変装すべきだったかもね…。誰も気にしてなかったね…。
「第二王子ジェームズ・オン・アデルバードはね!この国の一大事に民を救う為、命を捧げてこの戦いに身を投じたんだよ!」
魔女さんが声高らかに叫ぶ。助けられた民衆は、『うおおおおぉ〜!』と泣きながら拳を突き上げる。魔女さんにいい様に先導されてる感は否めないけど…、ジェーちゃの評判が上がるのは良い事だよね。
幾つかの地を沈静化した後、とうとうテオ兄様達に再開出来た!
「ヘンリー?!」
「ておにぃさまぁ〜!」
これでもかと驚くテオ兄様。まあ、隠れ屋敷に居る筈の僕と戦場で再開したら驚くよね。
「ヘンリー!」
ぎゅううう〜と強く抱き締められる僕。テオ兄様とは地下牢に入る前に別荘で別れて以来だもんね。
「どうして連れて来たんだ!!」
僕を抱きしめながら、ジェーちゃに怒鳴るテオ兄様。ああ〜今までで一番怒ってる…。
「何を考えているんだ!ここは戦場なんだぞ!そもそも、貴方は隠れ屋敷に居るはずでしょう!」
テオ兄様、ジェーちゃを殺しかねないくらい怒ってる…怖っ!
「これは驚いたな…まさか、お前が来るとは……」
まあまあ、と言いながらテオ兄様の肩に手をかけるルーカス王子殿下。わっ、やっぱりアシェル様の言った通り戦場に来てたんだ〜第一王子殿下なのに…。
「…兄上、すみません。スタンピードが起こったと聞いて、居ても立っても居られず…」
ルーカス王子殿下達の策で、僕達は隠されていた訳だから、それを台無しにした事にジェーちゃはまず詫びる。
テオ兄様はまだまだ全然怒りが収まってない。相手はこの国の王子様なのに…。
「まあ来てしまったものは仕方ないさ!それより、正直に言うとお前達の援護が受けれるのは有難いな。ウィリアムの薬丸も底を尽きてしまってね…」
ハハハ…と力なく笑うルーカス王子殿下。良く見ると、皆 薄汚れてる。血が滲んでるのが痛々しい。だからこそ、僕をここに連れて来たジェーちゃが、テオ兄様は許せないんだろうな…。
でもね、ここに来たのは僕の意思なんだよ。僕だって、皆を守りたいもんっ。
「はいはい!ケンカは後回しにしな!生き残ってこそでしょ!」
「…貴女は?」
「んー、コイツの保護者かな?」
ルーカス王子殿下の問いに、ジェーちゃを指さして魔女さんが言う。
「はああ?逆だろう!この世界を良く知りもしない癖に!」
神妙な顔をしてたジェーちゃが、魔女さんに声を荒らげる。魔女さんは、アハハハとご機嫌だ。簡単に挨拶して情報の共有を測る。ジェーちゃが強いのもあるけど、魔女さんがべらぼうに強いし、何より空を飛んで移動出来るから、もう5分の1は沈静化出来てる。その事に、ルーカス王子殿下とテオ兄様は空いた口が塞がらない。
「ほ、本当に…? もうそこまで沈静化したのかい…?」
「信じられん…」
ルーカス王子殿下に、テオ兄様。
「いやぁ〜、なんて言うか……流石、僕の弟だね……」
引き攣りながらもそう言うルーカス王子殿下。分かる。魔獣より魔獣みたいだよね。でも、魔女さんの火力が本当に凄かったんだよ…。
形を保っている部屋で情報交換してたんだけど、そこへティム兄様が合流した!ティム兄様は、初日に魔力切れを起こしてしまって、それから回復するのを待ちながら、薬丸を沢山作ってたんだって!『自分に出来る事』を考えて、防衛掃討に参加するんじゃなくて、怪我を治せるように。
そうだよね、魔獣を倒したとしても死んでしまったら悲しい。しかもティム兄様の薬丸は、いっぱい研究して、今では飲むと傷とか怪我とか、直ぐに治せるようになったんだって!凄くない?魔法の薬じゃない?これ、世界が変わるよね?流石、ティム兄様!
「ヘンリー…」
僕は涙ぐんだティム兄様にぎゅうううと抱きしめられております。別荘で突然別れて以来だもんね…、心配かけてごめんね。
皆はティム兄様が追加で持って来た薬丸を飲んで、すっかり傷が癒えたみたい。ご飯を食べたら次の死地に向かいます。
「本当に行くの?ヘンリー、僕と一緒に薬丸作りに戻らないの?」
僕がジェーちゃと次の死地に行くと聞いて、ティム兄様はさっきから僕を口説き落とそうと必死だ。
「そりゃ、ジェームズ王子殿下が強いのは分かるけど…危ないよ…」
お目目がうるうるしてる。わー!止めて〜!決意が緩いじゃうよ〜!
「ヘンリー、ウィリアムと戻りなさい!」
テオ兄様に至っては、絶対に許さないという姿勢を崩さない。ルーカス王子殿下は苦笑いして黙って見てる。えーん、どうしよう…でも、僕、バフかけたいし…。戦力が充分なのは、分かってるんだけど…。
「…アンタらがヘンリーの身を心配してるのは分かるけどねぇ。でも、絶対にヘンリーは連れて行った方がいいよ!この大災害を早く沈めたいだろ?早くしないと死者が増えるだけだ。」
「しかし、ヘンリーはまだ子供で…」
「ヘンリーが掛ける強化魔法は、実力の3倍は出るんだよ!」
口を挟んだ魔女さんにテオ兄様が抗議すると、また魔女さんが言った。あー!もしかしてバラそうとしてる…?
「強化魔法って…」
「知ってるだろう?ヘンリーは月魔法使いだ!見ただろ?あのジェームズ王子があんな魔法使えるのは、ヘンリーが側に居る時だけだ!ジェームズだけじゃない、ヘンリーは誰にだってバフを与えられる。その力は普段の3倍以上の力を引き出せるとなりゃ、誰だってヘンリーが欲しくなる…!」
その場がシーンとなる。それを良くよく分かっているジェーちゃは何も言わない。皆、何か考えている顔をしてる…。わーなんか、怖いよぉ〜。
「『ソレ』が、ヘンリーが狙われる理由…か?」
ルーカス王子殿下が、皆を代表するみたいに重い口を開いた。
「ふふ、さあね。でも、ヘンリーの価値は更に上がったよ〜。ヘンリー、父ちゃんに連絡してくれる?ウィリアムと合流したって!」
魔女さんに言われて、僕は義父と繋げる。
((とうさま、とうさま。ティム兄様とあえまちた))
((ヘンリー!そうか、連絡ありがとう。ウィリアムに、薬丸を持って北にあるネルダノダ市へ向かうよう言ってくれるかい?騎士団が来ているそうだから…))
むむ、話が長い…直接繋いじゃお!
((ティム兄様!))
((えっ、なにこれ?))
((ウィリアムかい?))
((えっ、お父様?! これは一体…))
「何だ? どうしたウィリアム?!」
オタオタするティム兄様に不安がるテオ兄様。んーめんどくさいから全員繋いじゃお!説明するとか僕には無理!
((ウィリアム、無事合流出来て良かった…この後なんだが…))
((父様?! 父様ですか?!))
((その声はテオドールか、ヘンリーが繋いだんだな))
((えっ、ちょっ、これは……))
「これはね、ヘンリーの祝福『言語通信』だよ。これがあればどれだけ遠くても連絡が取れる。こんな素晴らしい祝福を持ってるヘンリーを連れて行かない理由はないだろ?」
「ヘンリーの祝福は、透明化を見抜ける事では…?」
わーわー騒いで、ひと段落した頃、魔女さんがそう言ったのを受けて、ポカンとしたままテオ兄様が聞く。
「目覚めたんだよ…」
タップリ感情を込めて魔女さんが言う。
「目覚めた…?」
「そう、『女神アレクシス』の眼差しを受けて、この2人は新たな祝福を与えられた『女神の愛し子』という訳さ…」
何それ!そんな話聞いた事も無いですけど!魔女さん、誤魔化すの苦手なのでは…、いや、誤魔化す気も無いのかも…。
「…ヘンリー、いつの間にそんな遠い存在に…」
ティム兄様がもう泣いてる!遠くないよ!貴方の義弟ですよぉ〜!
「……この2人とは――――」
テオ兄様がジト目で魔女さんに問う。
「コイツに決まってるだろ!なんとっ!コイツは空を飛べるんだ!アタシと同じにね」
ジェーちゃの頭をパンパン叩いて魔女さんが楽しげに言う。当然ジェーちゃは怒ってるけど。
「…ジェームズ…、この少しの期間に、一体お前に何が…」
ルーカス王子殿下も凄いビックリして唖然としてる。
「参ったな…、ここまで聞いてしまったら、ヘンリーを”王宮預り”にしなければならん…」
ルーカス王子殿下の言葉に、場が緊張する。
そうだよね…僕は既に王国にとってヤバい存在になっちゃったって事だよね…。
「ルーカス!」
「悪いな、テオドール。こればかりはどうしようも無い…。それも、ヘンリーだけでは無く、ウィリアムも、だ」
「えっ」
えっ!!僕は分かるけど、ティム兄様も…?!
「ヘンリーは言わずもがなだが、これだけ治癒速度の高い薬を作れるんだ。野放しにする訳にはいかない…」
「そんなっ…僕は、ただ、ヘンリーの為に…」
「勿論、分かっているさ。私達の仲じゃないか。でもな、ヘンリーが狙われるように、これからはお前も狙われる事になるんだぞ?」
そうなんだ…ティム兄様の薬は、そこまで革新的な物なんだ。そうだよね、さっき僕だって、世界が変わると思ったもん…。
「…………」
「悪いな、テオドール。堪えてくれ」
テオ兄様は何も言わず下を向いている。もしかしたら、前々からこうなる事を予感してたのかも…。
「解りました。それがルーカス王子殿下の御命令なのだとしたら。」
テオ兄様のお顔は表情がまるで無い。僕は知ってる…これ、そうとうブチ切れてる時のお顔だ…。はわわ…。
何とも言えない雰囲気になっちゃった僕達に、パンパンと手を叩いて魔女さんが言う。
「ハイハイ!面倒な話は後々!!今はスタンピードを沈静化するのが先だろ!!」
その言葉を皮切りに、僕達はそれぞれ戦場へ向かう事になった。




