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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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幽閉生活②

第二王子ジェームズ・オン・アデルバードの評判は地に落ちていた。


 先日、地下牢に入れられる事になった事件以外にも、アチコチで酷い噂が流されていて、陛下に第二王子の極刑を求める声すら聞こえて来る。勿論、全て作られた噂であったが、事実として、幼い頃に魔力暴走を頻繁に起こし、周りに危害を与えていた為、民衆は簡単にその悪い噂を信じた。


 

「まあまあ、かな。」

 男は教会の、地下室とは思えない豪華な部屋のソファで独りごちた。スラリとした体躯に異国を思わせるまだあどけない顔。

 (ヘンリーは始末出来たし、ジェームズも地下牢に入れる事に成功した。噂も広まってる様だし、裁判が始まったとしても極刑に持ち込めるだろう)

 取り敢えず、これで一安心…と、飲んでいたワイングラスをゆっくりと回す。


 彼の()の名前は『K』。

 元は異世界に生まれ、平凡な人生を歩んでいたがある晩大きな地震が起こり、アパートが崩れ落ちると同時に白い世界に入っていった。最初は何が何だか分からなかったが、何処からか声が聞こえ、『この世界を正す事』をお願いされた。

 元より正義感の強い方だった彼は、話を聞いて直ぐに了解した。そして、透明化(ステルス)を授かり、この教会の大広間に堂々と降臨を果たした。


 降臨した当初は大変だった。話を聞いた司祭達の意見は割れた。女神から選ばれた、それも他所の世界の人間が降臨するなど、今まで一度も無かった事なので、偽者ではないかと疑われた。

 しかし、降臨した事実と彼の知識は確かな物だった。

 その為、この事を大々的に公表し彼の言う通りに行動すべきだと云う者が増えたが、国が大混乱に陥ると反対意見が出た為、公表するのは止め、密かに任務を遂行する事に決まった。

 Kを地下の部屋に匿い拠点とし、『正しい歴史』に戻す為の戦略が練られる。


 まずKはステルスを使いジェームズの様子を見に行ったが警護が厳しい為、後回しにする事にした。先にヘンリーを始末しようとしたが失敗し、3度目で捕縛する事に成功した。本来なら刺し殺した方が確実であったが、普通の大学生だったKにはそこまでの覚悟は無かった。正義の為とは云え、自分の手で誰かを殺す事に躊躇いが生じていた。

 だから、魔獣がいる場所へ放置して、食い殺される方を選んだ。あそこは人の出入りが無いし、一刻も経たずに骨まで食べられるだろうから、証拠も残らなくて済む。

 

 次は、主犯格の暴君だ。

 ジェームズ自体も強いし、常に護衛が居るので騒ぎが大きくなる。だから罠に嵌める事にした。金で人を雇い、実は大した怪我じゃ無かったが、さも重症であるかのように調書を書き、直ぐに貴族や商人にこの噂を流した。

 病院の無いこの世界では、怪我をすれば教会に来るので、調書の偽装は簡単だった。充分に噂が広まった所で陛下へ直訴する。これで第二王子をある程度拘束出来る。

 直ぐにでもステルスを使い地下牢へ行って、暗殺する事も出来たが、やはり直接殺すのは気が引ける。この世界の裁判は元いた世界の裁判と違い、事実確認や証拠よりも、感情で沙汰が決まる為、極刑になるよう動けば良い。


 この世界に降臨し、中々順調に事が運んで居ることにKは満足していた。

 後は、勇者と第一王子とディラン伯爵家の息子を引き合わせ、来る(きた)魔獣暴走(スタンピード)に備えなくては。



 ◇◇◇◇◇

「ぎゃああああ!た、助けてくれぇえええ!」

 バン!涙と鼻水を垂らした男が這いずって逃げようと暴れる。

 ドン!

 男の顔の真横に手入れされた剣が突き刺さると、男はピタリと静かになった。

「失礼な奴だな。()()を話せば何もしないと、言っただろう?」

 動けなくなった男の上に、覆い被さるように立ったテオドールが前髪を払いながら言う。後ろからウィリアムと武装した護衛の二人も現れる。

「…い、言います。言いますから…お命だけは…」

 最初は知らぬ存ぜぬとシラを切っていたが、男はガタガタと震えながら口を開く。

 

*****

「…ふう。テオドール兄様、これで10人ですね。」

 書類を書きながらウィリアムが言う。

「あと、何人だ?」

「調書には13人とあったので、あと3人です。」

「あと、3人か…」

 ディラン伯爵が陛下に献上された調書を受け取り、そこに載っている被害者の身元を洗った。勿論、()()になった為静養の地に向かった者が多く、その所在地を探すのは一苦労だった。国外に出ている者すら居る。

 こうしてディラン伯爵が掴んだ場所へテオドール達が向かい、献上された調書と齟齬(そご)がないかを確認して回っている。被害者は金を貰い身を隠している人間が大半で、()()を聞き出すには 少々時間がかかったが、皆最後には涙を流し懺悔した。

 これが王宮務めの人間がする事かと憤慨したが、これからルーカスが風通しの良い王宮に作り替えるのを期待するしかない。アイツにはそれだけの素質があると思っている。

 

「テオドール様、この者の処遇はどうされますか?」

「今まで通り、我が家に招待しよう。裁判が始まれば重要な証拠になるからな。()()に扱え。」

「承知しました。」

 護衛が泣き叫ぶ男を引きずって馬車に押し込んだ。あの男は辺境まで逃げていたので、これから王都に戻るには日が暮れ過ぎている。馬に夜道を走らせるのは危険だが、早く今捕まえた男を地下室に入れ、次の()()()を探しに行かねばならない。

「テオドール兄様、今日はこの近くで宿を探しますか?」

「うーん、出来れば王都に戻りたいんだが…」

「夜道は危険ですよ。それに、テオドール兄様は寝不足なんですから、今夜はゆっくり休まれてはいかがですか?」

 ウィリアムが心配そうに兄を見つめる。その両目にもクマがハッキリと出ていた。寝不足なのはウィリアムも同じだ。

「…分かった。じゃあ、今日はもう宿を探そう。明日の朝早くに戻るぞ。」

 ウィリアムの顔を見たテオドールはひとつため息を吐いて、その意見に従った。本当は一人でここまで来るつもりだったが、心配したウィリアムが着いてくると言って聞かなかったのだ。テオドールひとりであったなら、王都への強行軍になっていただろう。護衛達は密かにホッと安堵のため息をついた。


 

 ◇◇◇◇◇

「…それで?変わりは無いかな?」

 薔薇が綺麗に手入れされた庭園の真ん中で、美しい薔薇に引けを取らぬ程柔らかい微笑みを浮かべた第一王子ルーカス・オン・アデルバードが問いかける。

「私が感じる範囲、ではね。」

 こちらも愛らしい微笑みで答える婚約者のアシェル・アードルフ。

「でも、これで()()()とは思えないわ。彼等はジェームズ様を幽閉しただけで満足なのかしら?」

「怖い事を言うね、アシェル。」

「だって。一応、これで貴方が王太子に選ばれるでしょうけど、ジェームズ様が釈放されたらどうなるの。」

「僕が王太子になれば()()は収まると思うかい?」

「…どうかしら。ジェームズ様の派閥が黙っていないんじゃない?今度は貴方が罠に落とされるかも知れないわ。」

「はあ。全く、穏やかじゃないねぇ。」

「今に始まった事じゃないでしょ。…でも、こんな行動的なのは始めてよね。腹の探り合いぐらいしかしてなかったのに…」

「誰かが、後ろで背中を押してるのかなぁ。波風立てられるのは困るねぇ。」

 

「まあ、また何かあったら報告するわ。」

「アシェル、分かってると思うけど、これ以上首を突っ込むのは控えてくれよ。君が危なくなるんだからね。」

「あら、未来の王妃様に向かってあんまりな言い様ね。この程度、捌けなかったら国なんて大きなもの、支えられなくてよ?」

 アシェルはにっこりと笑って、苦笑したルーカスを残したまま立ち去った。勿論、王家の影をアシェルに付けているが、危険な目には合わない方がよっぽど良い。

 しかし本人にはそのつもりが無いらしい。あの様子では、教会内を色々と探っているのだろう。基本的に王家は教会へ干渉しない事になっている。その為、大っぴらに調べる事が出来ないので、正直、アシェルが探ってくれるのは助かるのだが…。教会にはステルス使いが居る可能性が高い為、目立つ行動はして欲しくないのが本音だ。


 ジェームズの事に関して調べる事は山ほどあるが、それ以外の王子としての業務も山ほどある。父が王となって、王宮の腐敗が止まったと云われているが、実情はまだまだだ。金を吸う貴族に奴隷堕ちする平民。

 一見平和に見えるこの国も、少し前まで盛んに戦争をしていた。母がこの国へ和平の礎と云う名の人質として嫁いで来てから、両国は平穏を保てている。しかし、東側と西側にも大きな国がある。彼等との平和的な交流を続けていくためにも、王宮は風通しの良い正しい政治を行わなくてはならない。

 それには自分一人だけでは足りない。

 ジェームズにも自分と共に立って貰わなければ。


 幸い、自分には親友と呼べるテオドールが、ジェームズの件を手伝ってくれている。ディラン伯爵も精力的に動いてくれているので、一人ひとり縛り上げる手間が減った。陛下にもマメに報告を入れているので、馬鹿な真似はしないだろう。

 ルーカスはひとつため息を着いて、会議に出るべく薔薇園を後にした。


 ◇◇◇◇◇

「うーん」

「ヘンリー、まだ手紙を書いているのか?」

「あ、ジェーちゃ!」

お昼ご飯を食べた後、家族にお返事を出す為に お手紙を書いてると、鍛錬を終えたジェーちゃがやって来た。

 毎日お返事書いてるんだけど、なかなか書き終わらないんだよね。小さいお手ては文字を書くのもゆっくりになっちゃうし。

 机に座ってる僕の頭を撫でてから、ヒョイと持ち上げて抱っこする。僕、一応四歳児なんだけど…鍛えてるからかな?簡単に抱っこするんだよね、重くないのかな?。


「ヘンリー、まだお手紙を書くのか?」

「あい」

 ぺこりと頷く僕。まだまだ、終わらないのだよ!だって、テオ兄様なんて40枚もお手紙くれたんだよ?たくさん、お返事、書かなきゃでしょ。

「そうか、なら後で散歩に行こうな。」

 しょんぼりするジェーちゃ。そうか、ジェーちゃはいつも忙しくしてたから、急に軟禁されて暇なんだね…。僕は慣れてるけど。なら、お付き合いしてあげるか。僕と一緒で、暇つぶしになるか分かんないけど。

 

「おしゃんぽ!」

「ん?手紙は良いのか?」

「あい!」

 僕がお散歩に誘うと嬉しそうなお顔をするジェーちゃ。お手てを繋いで二階の奥にある図書室に行く事にした。


 *****

 古い本 独特の匂いに包まれた図書室。

 置いてある本は全て王家の紋章が押されている蔵書。ノアだった頃の、お家にあった図書室に似てるなぁ。そう言えば試験勉強してて、歴史書を見てる内にこの世界に飛ばされたんだった。皆元気かなぁ〜。

「ヘンリー」

 物思いに耽ってると奥の棚を見てたジェーちゃに呼ばれた。手には古い本を持ってる。表紙には鍵穴のようなものが描かれている。

「この本、中が真っ白なんだ」

 ポカンとしてジェーちゃが言う。本当だ。ペラペラ捲ってくれるけど、どのページも真っ白!

 あれ?こういう本、見た事無かったっけ?

「王家の蔵書なのに、こんな本があるなんて、ちょっと不気味だな…」

 眉間に皺を寄せるジェーちゃ。確かに、誰が置いたんだろう?なんの為に?


 何の気なしにその本に触れると、パァッと光出した。

「ヘン…!」

 慌ててジェーちゃが叫ぶけど、光が部屋いっぱいに広がる方が早い。あっという間に真っ白になってしまった。

「ヘンリー!」

 ジェーちゃが叫んで僕を抱きしめる。お目目をパチパチして辺りを見ると…。


 そこは森の中だった。


 え?あれ?僕達、図書室に居たよね?

「ジェーちゃ…」

「これは一体…」

 ピーチチチ…。バサバサ…。背の高い葉っぱに囲まれて、鳥の声が聴こえてくる。あちこちに光る塊がフラフラと浮いている。ジェーちゃもビックリして固まってる。

 転移魔法?そんな高度な魔法を発動するには、魔力がたーくさん必要なはず…。しかもさ、これよく見たら水の中?だよね…。息も吸えるし鳥も飛んでるけど、重力を感じない。ふわふわと浮かぶ僕達。びっくりして一言も出て来ないよ…。


 

「やーれ、やれ。やっと来た助けが赤子とは……」

 すぐ近くでしゃがれた声がする。慌てて周りを見回す僕達。

「な、何者だ!」

「威勢が良いねぇ、まあ落ち着きな。」

 青い鳥がフワリと僕の肩に止まる。喋ってたのはこの子みたい。

「貴様何者だ!俺たちをどうするつもりだ!」

 そう叫ぶと攻撃の構えを取るジェーちゃ。もう詠唱を始めてる。早い早い!ちょっと待ってよ…!僕ごと消し飛んじゃうよ!でも、魔法が発動する事は無かった。


「何…っ?!」

「無駄だよ。この翠宮(すいきゅう)じゃ魔法は何一つ使えやしない」

 狼狽えるジェーちゃとは対照的に、青い鳥がのんびりと呟く。

「どういう事だ!説明しろ!何故、俺達を拐かした?!」

「血の気が荒いねぇ。拐か(かどわ)されたのは、アタシの方だよ。」

「なんだと…?」

 青い鳥は翼を啄みながら嘆息する。

「あーあ、やっと出れると思ったのに、こんな子供じゃ何の役にも立たないねぇ。」

「貴様…っ」

「ジェーちゃ!」

 声を荒らげるジェーちゃに向かって遮るように両手を突き出す。それを”抱っこ”と勘違いして僕を鳥ごと抱き込む。


「まあ、取り敢えずアタシの話をお聞きよ。」

「ふん、良いだろう。話してみよ。」

 漸く落ち着きを取り戻したジェーちゃが、聞く耳を持った。ホッ。


「アタシはね、こんな姿になっちまったけど、この国を作った『()()・アレクシス』なんだよ。」

 えっ、いきなり凄い事言い出したんだけど!

「…仮にそれが本当だとして、()()?女神ではなくてか?」

 ジェーちゃ、もうぶっ飛び過ぎてて逆に冷静になったみたい。

「女神?アハハハ!このアタシが『女神』って柄かい!」

 可笑しそうに青い鳥が腹を抱えて笑う。

「元はずっとずっと遠くにある国に生まれたんだけどね。内乱が起こって国が滅んでしまったのさ、皆、散り散りになって、野垂れ死んだ奴も多かったろう。幸いにもアタシはなんにも無い砂漠にたどり着いた。そこで種を撒いて魔力を注ぎ、少しずつ領土を広げて行った。自分が住める場所を作る為にね。」

「それで?」

「魔力で、草を生やして、泉を作って、ウサギや馬を作ったりもした。そうしてる内に、逃げて来た奴隷がここに辿り着いてね。行く所が無いって言うから、手伝う代わりに住まわせてやる事にしたのさ。そうやって少しずつ領土を広げる内に、ひとりふたりと、流れ着く人間が居た。気がつけば大きな国になっていたよ。」

「………」

 懐かしむように話す青い鳥の言葉を、ジェーちゃは黙って聞いている。


「アタシは自分がのんびり暮らせる場所があれば、それで良かったんだ。住みたい奴がいれば、住まわせてやるくらいの甲斐性があるだけでね。…でも、それがいけなかったのかねぇ。アタシは余りにこの国について無頓着過ぎた。アタシを訪ねてきた美しい女に、コロッと騙されちまったんだよ。」

 悔しそうに青い鳥が俯く。

「訪ねて来た女…?」

「ああ、美味い酒が出来たと言うから、一緒に乾杯したんだけど…目が覚めた時には、この翠宮に閉じ込められててね。」

 ふんっ、と不貞腐れ気味に青い鳥が言う。

「きっと魔力封じの何かだろう。これでもアタシは、国を作れる程の魔女なんだ。それが何をやっても、さっぱり魔法が使えない。それどころか少しずつ魔力が抜けて行く…仕方なくこうして鳥の姿になって形を維持してるけど、もし、アタシが不死じゃ無かったら、とっくに死んでただろうね。」

「不死だと…?」

 途端に険しい顔をするジェーちゃ。不老不死は、いつの世も権力者が追い求める戦争の種だもんね。


「信じる信じないは、アンタらの勝手だけどね。…そうでなきゃ、あの内戦から生き延びられなかっただろうね。」

 遠い過去を思い出してるのか、声を落とす青い鳥。

「いつか、ここから出る事を目標に耐えて来たけど…来たのがアンタらじゃ望みは薄いねぇ」

 途端に挑発するように半笑いする青い鳥。

「…本当にここから出られないのか?」

「出れるなら、とっくに出てるよ!」

 んー。この鳥さんが女神アレクシスなら、この鳥さんが使者さんを召喚したって事なのかな?


「…我が炎よ、ここに現れ我の意志に従え」

 ジェーちゃが火を喚ぼうとしてるけど、反応は無い。

「無駄だよ。魔法も使えなきゃ、外部と連絡を取る事も出来ないよ」

 ま、精々、飽きるまで試してみるがイイさ…と青い鳥が言う。

 んん?外部と連絡取れないの?…それなら、あの使者さんを召喚したのは鳥さんじゃないんだ?

 

「…くそぅっ!」

 色々試したジェーちゃ、遂に諦めたみたい。

「どうすればここから出られるんだ?!」

「あのねぇ!そんなの、アタシが聞きたいよ!」

 本当に出られないんだ…。どうしよう…。

「まあ、ここには食うもんも色々あるから、直ぐに餓死する事は無いと思うから安心おし。」

「食うもんだと…?鳥の食い物を俺に食わせる気かっ」

「なら飢えて死にな!」

「ジェーちゃ!」

 もーう、どうしてすぐ喧嘩するのう〜?! 仲良くとは言わなくても、もう少し協力し合おうよ〜!

 


「…怒鳴って悪かったな。こんな状況になった事がないから、少し動揺してしまった様だ。」

 ジェーちゃが、僕の声に反応して、珍しく素直に詫びる。ええ〜!えらーい!

「…アタシも悪かったね。やっと出られるカモって期待しちゃってたからさ…」

 鳥さんも ごめんね する。良かった!仲直り出来たみたい!

「よしよし」

 二人の頭をなでなでする僕。みんなで、一緒にここから出ようねっ。


 鳥さんに教わって、光る草をすり潰して粉にする。そこに夜空の雫を混ぜて、耳たぶくらいの硬さになるまで捏ねて、星のカケラを混ぜて更に捏ねる。それをちぎって口に入れるとシュワシュワ弾けて美味しい!

 夜空の雫とか、星のカケラとかは鳥さんがそう呼んでるけど、なんの草や実なのかは良く分からない。でも美味しいからいっか!

 そもそも、ここが水の中って云うのも凄いよね…。ぐるりと円になってて端まで泳いで(?)も端に辿り着かない。元の場所に戻るだけ。上や下もそう。

 丸い牢獄だ。

 草とか実とかは沢山、成ってるけど、鳥さんが言うには少しずつ魔力を抜かれてるみたいだし、ずっとここに居たら干からびて死んじゃうかも。水の中なのに。


「ヘンリー」

 ふよふよ浮かんでいたらジェーちゃに呼ばれた。なんか、ピンク色の星を持ってる。

「飴だそうだ、食ってみろ」

「あーん」

 パクリ。んー、甘くて おいちい!ここにある植物?は見た事無いものばかり。不思議の国みたい。

 僕がほっぺを両手でおさえて美味しいって言うと、ジェーちゃも、やっとお顔を緩めて微笑んだ。

 そうか〜、そうだよね。いきなりこんな所に迷い込んだら、平常心でなんか居られないよね。特にジェーちゃは王子様だし、どんな罠かと警戒するよね。

 僕はこういうの2度目だし、元々 ちょっとのんびり屋さんなところがあるからなぁ。

 じーっとジェーちゃを見てたら、何を勘違いしたのか、「大丈夫だ!俺が何とかしてやるからな!」って抱きしめられた。


 取り敢えず、ここから出ないとね!

 

 

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