表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/34

静養中

おはようございます、ディラン伯爵家の三男 ヘンリーです。


 目が覚めたら、静養で来ていたお屋敷のお部屋でした。まだ夜中のようでお部屋は真っ暗。両側にはテオ兄様とティム兄様がガッチリくっついてて身動きが取れませんね。うーん、随分寝ていた気がする…。ええっと、どうしてここに居るんだっけ?…そうだ、僕はオアシスに放置されてる所をダニエル君に拾われて、しばらく面倒をみて貰ってたんだった。お庭で日光浴してたら、メイドさんの半分くらいの背丈の、多分子竜だと思うんだけど、その子が走って来て僕を咥えて背中に乗せられた。

 えっ、と思うまもなく空に舞い上がって、(わぁ〜、竜が空飛べるって本当だったんだなぁ〜)と思ってる内に、オアシスの方に向かってるのが分かった。近づいて行くと、大きな鳥…鳥って言う大きさじゃ無いけど、恐竜みたいな奴が バッサバッサと飛んで、人間を襲ってる!しかも良く見たら、テオ兄様とジェームズ王子殿下じゃないか!どうしてここに居るの?あ、ダニエル君も居る!


 これは一大事と、慌てて飛び降りた。僕が行って役に立つ事なんて無いって分かってたけど、無我夢中だったんだよね。丁度、ジェームズ王子殿下が受け止めてくれたから、強化魔法(バフ)を思いっきりかけた!慌ててたから、無詠唱だったけど、ちゃんと発動したみたい。魔法円が出なかったから心配したけど、ジェームズ王子殿下が難無く恐竜をバーベキューにしたからホッとした。

 皆、凄く強い魔法使いなのにボロボロだよ、あの恐竜、本当に強かったんだな。女神の使者もダニエル君だけじゃ難しいって言ってたもんね。

 その後、テオ兄様と感動の再会したけど、気絶しちゃったんだよね。凄く心配した!ジェームズ王子殿下が薬丸持ってて、それをテオ兄様に飲ませてくれたから、少しでも早く効くようにテオ兄様に強化魔法(バフ)をかけた。その辺から記憶が無い。多分、一気に使いすぎちゃったんだと思う。


 魔法を使う時に詠唱するのって、魔肝(まかん)から力を引き出す為に、通り道を整備する役目があるんだけど、無詠唱で魔法を使う事も出来なくは無いんだよ。ただ、それって準備運動無しで川に飛び込む様なもんだから、体に負担がかかるんだよね。それで疲れちゃったんだと思う。

 でも、それでも魔力枯渇にならなかったのは凄いと思う。やっぱりステラ五つ持ちだからかな。ヘンリーの体って四歳の割に小柄だし、(ダニエル君は二歳くらいだと思ってるし)そんなに魔力持ってる様に見えないんだけど、バレたらまた面倒な事に巻き込まれそうな予感…。


 そう言えば…あの後、ダニエル君とジェームズ王子殿下、何か話したのかな? ほら、女神の使者がジェームズ王子殿下は敵で殺しておけってアドバイスしてたじゃない。ダニエル君、どうするつもりなんだろ…。

 色々お世話になったのに、やっぱり敵同士になっちゃうのかな…。そんな事をぼんやり考えてたら、ギィィってドアが開いたから、慌てて両目を閉じた。静か〜に誰かが近寄って来て、そお〜っとコチラを覗きこんでいるのが分かる。

「…ヘンリー、ちゃんと居るな」

 ホッとしたような声が落ちてくる。あ、これはジェームズ王子殿下ですね、僕の生存確認?

「…ジェームズ王子殿下、夜這いのような真似はおやめ下さい」

 すぐ隣からテオ兄様の低い声が聞こえる。

「…お前が遠慮すれば良かっただけの話だろう。俺の部屋で一緒に寝るつもりだったのに…」

「ヘンリーの部屋は、最初からここです。お客様はどうぞ客間にお帰りください」

「なんと不敬なっ、お前はヘンリーを独占し過ぎている自覚はあるか!」

「寝るギリギリまで側にいた癖に、何を仰るやら」

 二人がまた言い合いを始めてしまった…。でも久しぶりに聞くな〜、なんか帰って来たって感じがして嬉しくなっちゃう。


「…ちょっと二人とも、ヘンリーが起きてしまいますよ。」

 ティム兄様も起きちゃったみたい。

「ちっ」と舌打ちをして、ジェームズ王子殿下がテオ兄様と僕の間に潜り込んで来た。

「おいコラ!」

 テオ兄様が思わず言葉を荒らげる。「へへ」と笑ってちゃっかり布団に包まるジェームズ王子殿下。

「最初からこうすれば良かったんだ」

 そう言って笑うジェームズ王子殿下を、本気では追い出す気が無いのか、テオ兄様も文句は言っても動く気配は無い。ティム兄様もクスクス笑ってる。

 なんか、こんな平和なの久しぶりじゃない?わぁ〜、こうやって暮らして生きたいよね。にこぉ。

 そのまま、また夢の中へ落ちて行く僕なのでした。


 ◇◇◇◇◇

「テオドール兄様!まだ安静にしてなくちゃだめでしょう!」

 お庭でテオ兄様と日向ぼっこしてたら、通りかかったティム兄様に注意されてしまった。

「いや、お前の薬丸が効いてて、もう大した事は…」

 言い訳するテオ兄様に被せるように、ティム兄様が眉を釣り上げる。

「何を言っているんですか!あんなにボロボロで帰って来て!だから僕も行くと言ったのに…っ。護衛だって交代して休んでるんですよ!ちゃんと傷が塞がるまでは、ベッドから出ない約束でしょう!」

「…あ、ああ。すまん…」

 流石のテオ兄様も勢いに負けて口ごもる。ふふ。

「はい、ヘンリーは僕が抱きますから、テオドール兄様は寝室へ戻って下さいっ!」

 有無を言わさないティム兄様の勢いに、黙って僕を渡すテオ兄様。行きしなに頭を撫でてくれたけど、背中が しょんぼりしてる。


「ヘンリーは僕とお散歩しようね?」

「はぃ!」

 抱っこされたまま、お庭をゆっくりひと回りして、森の入口にある切り株に座る。木陰になっていて、爽やかな風も吹いてるから気持ちが良い。

「ヘンリー、喉乾いてない?ここの湧水も美味しいんだよ。」

 そう言って、侍従から受け取ったカップで水を汲んでくれる。近くの木に実っていたレモンみたいな果物をもぐと、ナイフで半分に切って 手で絞ったジュースを、そのカップの中に注ぐ。酸っぱくは無いんだけど、ミントみたいな風味が足されて、凄く美味しい。

 湧水だけでも美味しいんだけどね、ちょっと贅沢だね。


 僕がゴクゴク飲んでると、慈愛に満ちたお顔で微笑んでるティム兄様。手早くもう一杯作ると、自分でも飲んで水分補給する。夏の盛りは過ぎたと言っても、まだまだ暑い日もあるからね、水分補給は とっても大事!僕達のメイドさんも真似して飲んでる。美味しいよね〜。

「ティムにぃさま、テオにいさまにも…」

「ああ、そうだね。それじゃテオドール兄様にも差し入れしようか。ヘンリーは優しいね。」

 やっぱり兄弟同じが良いからね、僕の提案に快く賛成してくれるティム兄様。そこでお散歩は終わりにして、室内に戻った。


 テオ兄様の怪我は、他の兵士達に比べて格段に良くなってる。何故かと言うと、薬湯を飲むタイミングで僕が無詠唱で強化魔法(バフ)をかけてるからなんですね〜。まあ流暢に喋れないから詠唱しずらいってのはあるんだけど、魔法を使ってるのがバレると色々 面倒だからって言うのが一番だね。他の兵士達は休んでる部屋も別棟だし、強化魔法(バフ)をかけるタイミングが無いから、薬湯で頑張って治して貰うしかないね。

 本当はジェームズ王子殿下にも強化魔法(バフ)をかけたいんだけど、「無闇に使うんじゃない」って嫌がられるんだよね。


 だから、ジェームズ王子殿下は まだまだベッドの住人。王宮からこっそり木魔法の使い手を呼んだみたいで、その人が付きっきりで看護してる。やはり、なんと言っても相手は一国の王子様だもんね…、本来ならこんな所に滞在してて良い人じゃ無いのよ…。

 ルーカス王子殿下は一旦、王宮に戻ったよ。僕が帰って来たのもあるし、なんか大人同士で色々話し合いがあったみたい。義父(パパ)も僕が居なくなってから、こっちに来てたみたいなんだけど、今は王都に居るらしい。やる事があるんだって。

 四歳児(ぼく)相手にキチンと説明してくれる人が居ないので、どれも、そうかな?って感じただけの事なんだけど…。


 ティム兄様と一緒にテオ兄様の部屋へ行った後、今度はジェームズ王子殿下の部屋にお見舞いに行った。

「ヘンリー!今日も来てくれたのか!」

 ジェームズ王子殿下は傷が治るまで、ベッドから出るのを禁止されてるんだけど、テオ兄様みたいに「もう治った」って言って動き回るから、僕が遊びに行くようにしてる。僕が行けば大人しく部屋に居るからね。

「はぃ、どーじょ」

 ティム兄様が作ってくれた水を渡す。

「ありがとう」

 素直に礼を言って受け取るジェームズ王子殿下。本当なら毒味をしないといけないんだけど、僕の侍女のレイラが毒を無効化する祝福(ギフト)を持ってるから、口に入れる前に必ず、祝福を使って無効化してる。

 これはいつも僕とか兄様達にも使ってるから、レイラが居る限り、僕らは毒で死ぬ未来は無いね。


 この祝福を持ってる人間は滅多に居ないから、本来なら王族とか公爵家とかからスカウトが来てもおかしくないんだけど、高位貴族はやはり身元というのか、育ちを重要視するし、レイラは祝福を秘匿してディラン伯爵家に就職したからね。

 だから、ここに居る間は ジェームズ王子殿下は温かいご飯を食べられてるの。遅効性の毒もあるから、毒味係が食べた後、少し時間を置かなくちゃいけないんだよ、その間にご飯が冷める。元からそうだと思うから、慣れてるだろうし、王宮のシェフもそれを考慮してご飯を作るんだろうけど、出来たてアツアツのご飯程、美味しい物は無いよね。

 ジェームズ王子殿下もルーカス王子殿下も、いつもより食べてるってから甲斐あってたもん。


「む、普通の水かと思ったが、何だか爽やかだな。ミントが入っているのか、これは気が効いている。流石、ヘンリーだ!」

 ひと口飲んで、パッと顔を光らせるジェームズ王子殿下。でも、それ作ったのはティム兄様だよ、僕は運んだだけ。

「んーん!ティムにぃさま、ちゃいちゃい」

 言いながら果実を切って入れる真似をする僕。それを見て、何故かみんな笑う。えー?


「ヘンリー、こっちへおいで」

 ジェームズ王子殿下がベッドのクッションに背を預けながら両手を広げる。これもいつも通りのやり取り。僕を抱っこしてたティム兄様が、ジェームズ王子殿下に僕を渡す。その後、ティム兄様が退室するまでがいつもの流れ。ティム兄様は最初こそ、僕を片時も離さなかったけど、薬湯…薬丸?の研究を本格的にする事になって忙しいの。

 やっぱり、戦闘後に手軽に飲めるって云うのが良かったみたい。瀕死の皆が薬丸で回復したの、結構な騒ぎになったんだよ。それまでは薬湯を煎じてお湯で煮込む必要があったから、材料や器具の関係で飲める場所っていうのは決まってたからね。

 戦場で傷を負った兵士が悪化して亡くなる事もあるんだ。全員救えるかっていったら断言は出来ないけど、助かる命が増えるのは間違い無い。


 木魔法をかけてもらう方が効果は絶大だから、あまり薬湯の研究をする人が居なくて、でも木魔法使いも沢山いる訳じゃ無いし、自分の魔力を分け与える訳だから限度はあるし。平民や土地の教会に木魔法使いが居なければ、やっぱり薬湯のお世話になるしか無いのが現状だ。

 だから、ティム兄様がいっぱい研究して、手軽に効果がある薬丸が一般に普及したら、大事業な訳ですよ。社会貢献にもなるしね、だから義父(パパ)に言われて、ティム兄様は薬丸の研究で忙しいの。


 特に、テオ兄様とジェームズ王子殿下には僕が強化魔法(バフ)掛けちゃったから、兵士達の治りよりもずっと早いんだけど。二人が「もう治った」って言ってウロウロしたくなるのも分かる。えへへ。


 兎に角、日中はテオ兄様の部屋とジェームズ王子殿下の部屋を行ったり来たりして過ごすのが、ここ最近の僕の日常です!


「ヘンリー、イチゴを食べるか?」

 ジェームズ王子殿下に抱っこされてると、すぐオヤツ食べさせようとするんだよね。

「ジェームズ様、ヘンリー様にオヤツをあげる時はテオドール様の許可を得ませんと…」

 と言いながら、荷物から乾燥イチゴを取り出すファーニーさん。ファーニーさんはジェームズ王子殿下の側近みたいなんだけど、他の侍従とは雰囲気が違う。しかも、魔肝が無くて魔法も使えないみたいだし、そんな人を王宮が使ってるなんて珍しい。

 詳しい経緯は分からないけど、そっと闇魔法の祝福で鑑定してみた結果、ステータス画面に『異世界者』って書いてあるんだよね…。僕のステータス画面にも『異世界者』って書いてあるから、多分、僕と同じ様に魂だけ 時戻りした人なんじゃ無いかなぁ。でも、魔肝がないって話だけど、ステータス画面には『木魔法使い』て書いてあるんだ。経歴はあくまでファーニーさんのだろうから、中身が違う場合、『異世界者』しか情報が無いんだ。


 この前、ルーカス王子殿下に鑑定された後(ルーカス王子殿下の祝福は”真実の眼”じゃ無くて、”鑑定”だった!僕の闇魔法の祝福の”鑑定”とは見えてる物が違うかも知れないけど。)、気になって自分のステータス画面を見直したんだけど、そこには『ヘンリー・ディラン』の経歴しか書かれてなかった。勿論、属性も月魔法使いってだけ。そして、最後の所に『異世界者』って書いてある。

 一応、ファーニーさんの動向は注意しておいた方が良いよね。ジェームズ王子殿下に一番近い人だし、とてもそうは見えないけど、ジェームズ王子殿下を傀儡にして国を傾けようと計画中かも知れない…とてもそうは見えないけど…。


「ほら、ヘンリー。」

 口を開けろ と、ジェームズ王子殿下が乾燥イチゴを差し出す。今日はもうオヤツ食べちゃってるから(テオ兄様のところで食べて来ちゃった)、今 食べると夕飯が入らなくなるかも…。むむむ。

「ヘンリー」

 無邪気な顔のジェームズ王子殿下に負けて、お口を開ける。だって、いつもイライラ気味だったジェームズ王子殿下がこんなに、ニコニコしてるんだよ?食べなかったら、しょんぼりしちゃうでしょ。

「あー」

「ほら」

 甘〜い!おいちい!イチゴ、大好き!


「ふふふ、ヘンリー様は本当にイチゴがお好きですねぇ。生のイチゴが手に入ったら宜しいんですが…」

 あ、やっぱり生のイチゴを入手するのって、難しいんだ!て事は、この辺ではイチゴを作って無いんだねぇ。

「ふん、王宮に戻れば毎日 食べさせてやるぞ。その内、兄上から連絡が入って戻る事になるだろ」

 えっ、そうなの?。王都に戻れるって事は犯人の目星がついたってこと?。あの女神の使者の仲間とかが分かったのかな?


 もぐもぐしながら女神の使者の事を思い出してたら、ジェームズ王子殿下が頭を撫でてくれる。

「どうした?ヘンリー。そんな悲しそうな顔をして…、俺に言ってみろ。何でも叶えてやるぞ?」

 そんな暴君みたいな事言わないで…、僕達は 真っ当に生きていかなきゃなんだから!

 プルプルお顔を振ると、またイチゴを差し出して来た。まあ食べますけど。おいちい。

「…ヘンリー、困った事があったら 何でも直ぐに俺に言うんだぞ。もし、俺が側に居なかったら、取り敢えずテオドールに言え。アイツなら…俺程では無いが、どんな困難も解決出来るだろ。だから、ひとりで我慢する事は無いんだぞ。」

 ジェームズ王子殿下の珍しい言葉にビックリする。テオ兄様に頼れ、なんて…前は一番警戒してたのにね!それだけ仲が良くなったって事だよね。素晴らしい!


 明日はみんなでお散歩しようね!そんで、もっともっと仲良くなろうよ。いつまでも皆で平和に暮らしたいよ。

 女神の使者とか、ダニエル君とか、これからどうするつもりなのか分からないけど、皆で仲良く出来たらいいなぁ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ