1話 悪魔の食卓
高級マンションの最上階で、お嬢様と二人食卓を囲んでいる。
「今日の朝食は格段においしいわ、誠一郎」
お嬢様は、普段と特段変わらない筈のベーコンエッグの感想を、わざわざナイフとフォークを一旦皿に置いてから口にした。
「凛華の口に合ったならよかったよ......」
俺は、普段と特段変わらない筈のベーコンエッグが、ひどく血生臭く感じた。
県立高校の制服を着ている俺に、純黒のロングヘアを美しく整え、橘女学院の制服に身を包んだお嬢様は
「きっと、”茜さん”も喜んでくれるわね」
と微笑した。
中学卒業と同時に藤村家を出て二年。
二人で暮らしてきた俺達の要塞に、今夜初めてお嬢様が学友を連れてくるのだが、
「そうだといいな......」
”おもてなし”をお嬢様にお願いされている。
「彼女きっと気に入るわ
お花畑な世界観が変わるくらいには」
「........」
「覇気がないわね、誠一郎
私の大切な学友をもてなすが嫌になったのかしら?」
お嬢様は、俺を試すようにいたずらっぽく小首を傾ける。
「やるよ、別に大したことじゃない」
「ふふっ、今夜が待ちきれないわ」
満足げに微笑んだお嬢様はベーコンエッグをナイフで細かく切り刻んだ。
俺は血生臭いベーコンをこれ以上飲み込む気にならなかったので、席を立って学校の鞄を肩にかけた。
「先に出るよ
真世子のとこに報酬渡しに寄らないとだし」
「そう、”美人”さんによろしくね」
こうして、お嬢様の皮肉から、人気者で活発で明るい夏川 茜最後の一日が始まった。
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