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第94話 悪いやつだな

  剣舞が終わった瞬間、大きな拍手と歓声に気が付いておれは目を開けた。

 向かい合っているサラもそれは同じだったようで、広場の盛り上がりに今気づいたというような表情のサラと目が合った。

 周囲を見回すと、人人人の波である。

 こんなに人が集まるなんて想定外だ。


「……何か、思ってた反応と違うわね」


 周囲が向けてくる視線の熱量に、サラはそう呟いた。

 少し頬が赤い。

 サラのその言葉にはおれも同感だった。


 教会で修練を積んだ修道師というのは行く先々の街や村で剣舞を求められるのが常で、おれたちもそれには何度も応えてきた。

 だけど、剣舞を披露してこんな風に盛り上がったことなんて、一度もなかったのだ。


「あ」


 けれど、唐突に腑が落ちる。


「何?」

「分かった。きっと純粋に娯楽だと思ってるんだ」

「純粋に娯楽?」


 サラは眉根を寄せながら首を傾げる。


「この剣舞が精霊に奉納するものだってこと、今の人は知らないから」

「……あぁ」


 サラも合点がいったらしい。


「昔は剣舞の時って精霊に祈ってる人が多かったけど……。今は精霊とかみんな意識してないからさ、単なる娯楽だと思ってるんだよ」

「そういうことなのね」


 サラの回答はまだ少しぎこちない。


「……こんなに盛り上がってもらえるとは思ってなかったの」

「こうなるって分かってたらやらなかった?」

「や、やらなくはないわ……多少、驚きが少なくて済んだかもなって」


 おれの問いかけに、サラは動揺を隠しながら答えた。

 そして少し離れたところに置いてあった篭に目をやり、コインや紙幣が投げ入れられるのをほっとしたように見つめる。


「これでリズさんも自分を責めなくて済むわね」


 失ったお金を取り戻せば問題解決という思考はとてもサラらしいとは思う。

 リズがそう考えるかどうかは分からないけれど。


「ルイ!」


 人だかりの中からリズの腕を引いてノエルが出てきた。

 その後に警護屋の二人とクライドさんが続く。


「お前らすげぇなあ。どこぞの曲芸団みたいじゃねぇか」

「見事だった」


 ロジェさんとユーグさんに正面から称賛されて、サラは笑みを浮かべたが、どこか困ったような色が浮かんでいる。

 想定外の盛り上がりにまだ恥ずかしさが上回ってるんだろう。


「おーいリズ、お前はいつまで俺の後ろに隠れてんだ」

「いや、だって!」


 ノエルに背を押されておれの前に一歩出てきたリズは、どうにか冷静を保とうとして失敗しているようだった。


「だっ、……そのっ、あの、あたしの、せいで……、手間かけさせちゃって、ご、ごめんなさ」

「そうじゃないっつうの」


 後ろからノエルがびしっと訂正を入れる。


「ごめんなさいより、ありがとうの方が圧倒的に嬉しいだろ、ルイは」

「あ、あ、そっか、そうだよねっ」

「あはは……まぁ、それはそう」


 おれはとかノエルは言うけど、そんなものはおれじゃなくたってみんなそうだろう。


「あ、ありがとう……!」

「う、うん……へへへ」


 なんか、改めて面と向かってお礼を言われるとなると、ちょっとむずむずするものがあって、おれは思わずへらへらしてしまった。

 全然スマートじゃない。


「にやけた顔してんなー」


 自分でも分かっていることをわざわざ指摘してきたのはノエルだ。


「……うるさいなぁ」

「剣舞の時はめちゃくちゃ真面目な顔してたのに」

「そりゃするだろ、おれだって。真面目な顔くらい」

「悪いやつだな、お前」

「はぁ?」


 意味の分からない暴言を吐かれておれは眉間にしわを寄せた。


「結構集まったぞ」


 だが横からクライドさんに声をかけられて話題は逸れる。

 クライドさんはちょっと高めのテンションで、回収してきたおひねり用の篭をおれたちの前に差し出した。


「へぇ、紙の金が結構入ってんじゃねーかよ」

「大盛況だったしな」


 警護屋の二人は感心と納得の頷き顔でそう呟いた。


「にしても、太っ腹な観客が多いんじゃね?」

「そうだな。ここらは富裕層エリアからはまぁまぁ離れてるはずだが」

「財布の紐ゆるっゆるな感じだぞ」


 おひねりを前に論じる警護屋さんの二人に、おれはそっと手を挙げて発言を試みる。


「ん? どうした坊主」

「……それ、今精霊が集まってるからかもです」

「は? 精霊?」

「あの、この剣舞ってそもそも、精霊への奉納の舞なんです。精霊が好むらしくて、集まってくるから」

「え、マジな話?」

「はい。なので、今ここら辺一帯精霊が集まってきてて。それで気持ちが昂ったりするんです。生命力が上がるというか。元気になって、疲れがとれたり風邪気味なのが治ったり」


 だから、昔は町や村で人々に求められたし、舞の効果を分かってたから、みんな有り難み一番で娯楽扱いはされてなかったのだ。


「なので、普段以上にみんなテンション上がって、おひねり多く払っちゃったりしたかも」

「いや、そんなすごい物理効果がある踊りだったなら、もっと喧伝して見物料ちゃんと取って商売できんぞ?」

「……しないですよ?」


 旅路のついでに行く先々でやろうといい出しそうなロジェさんを、おれは先に牽制した。

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