第92話 じゃあ稼ぎましょう
「……よう」
野次馬の無責任な喝采を浴びつつ、やっと人の壁が抜けたところで声をかけられて顔をあげる。
ノエルがいた。
「あ」
左右を見れば、警護屋さんの二人もクライドさんも、サラもシオもいる。
「ルイたち追いかけるのに荷物預けようと思って飯のとこに戻ったらみんな帰るとこだったからさ。一緒に探そうってんで分担決めてたらこっちの方が騒がしいから」
ここは大通りからはいくらか外れるものの、広場の食事処からはわりと近い場所だったらしい。
こうやって待ち構えられていたということは、どこからかは分からないけど、まぁ最後の方は確実に目撃されていたわけで。
「ふぅん?」
ノエルはおれの背中に張り付いて立ち尽くしているリズに視線を向けた。
「あ、あのっ、お財布っ」
リズはそう切り出した。
「ごめんなさいっ、と、盗られちゃって……! ご飯買うお金だったのに……! お、追いかけたんだけど、見失っちゃって……!」
「大丈夫よ、リズさんに預けてあったのが全額じゃないわ」
「でもっ」
サラの言葉にリズは頭を振る。
「あれ、ご飯のお金五日分だったんですよ……っ、これから……、これからが大事だっていうのに……」
「なんとかなるわ。それより、あなたが無事で良かった」
「そんな……」
「お前も、なんかしゃがんでたけど、大丈夫か?」
尋ねられておれは口を尖らせた。
その辺りから見ていたのなら助け舟のひとつくらいとぶつぶつ呟くが、まぁこの人だかりでは難しかっただろう。
「ちょっと一発もらっちゃったけど、上手く殴られたから全然大丈夫」
「だ、大丈夫じゃないよ、ルイ、ごめんねっ、あたしが何も考えないで突っ走ったりしたから……!」
「大丈夫だって」
「一応、治療呪文かけとくか」
「おぉ、ありがと」
そんなに痛くもなかったけれど、おれは大人しくノエルに治療呪文をかけられる。
それを、リズは心配そうに見つめてきた。
「にしても坊主、お前魔法使わなくても普通に強ぇなぁ」
ロジェさんが感心したように言ってきた。
「え、……まぁ、うん」
「前は弓も使ってたし、図書館じゃ剣っぽいので立ち回ってたしな」
「まぁ、戦い方は一通り……」
生まれ持った使命からすると、まぁそれはそうなるよねという感想しかない。
体術から剣術、弓術、槍術、棒術に至るまで、戦闘訓練は一通り受けている。
攻撃してくる勢いを利用して相手を投げ飛ばすことなど、造作もないことだった。
ただしそんなおれでも、銃タイプの武器だけはは扱えなかったりする。
そんなもの、おれの時代には無かったから触ったこともないのだ。
「でも、でも、強くたって、そんなの……、ごめんね、迷惑かけて……」
だけどリズはいつまでたっても申し訳なさそうな顔のままだ。
「それにお財布も……ほんと、私、どうしよう……」
「分かったわ。じゃあ稼ぎましょう」
さらりとそんな言葉が投げ入れられた。
サラだ。
どうやらサラは、失ったお金が戻れば解決すると思ったらしい。
「稼ぐって、サラ……」
「教会はもうないから修道師の巡礼の文化がないのは分かってるけど、旅芸人の路上公演くらいには見えるでしょう?」
「あー……」
サラの言葉の意味が分かったのは、過去出身組だけである。
すなわち、シオとおれだけだ。
「……やるの?」
「やって意味がないならやらないけど……、もしかして、旅芸人の文化もこの時代にはもうなかったりする?」
「いや、路上パフォーマンスとかは、ミッドガルドでも見たし、やれば見てくれるとは思う……」
「そう、良かった。じゃあ大丈夫ね」
大丈夫ねということは、やるで決定ということである。
「……うん、大丈夫」
決定されてしまったものは、どうしようもない。
「ルイ、路上パフォーマンスって? 大道芸でもする気か?」
「なんでだよ」
「じゃあ手品?」
「ちがう」
「漫談とか?」
「そんなんじゃないからっ」
絶対違うと分かってて言ってくるノエル。
「じゃ、何だよ?」
「奉納の舞」
「舞ぃいい?」
ノエルはひっくり返ったような声を出して笑い出した。
「ま、舞ってあの、なんか、女の人がひらひらした服でくるくる踊る……!?」
「そういうんじゃないよ!」
この時代の舞といえばそういうものなので勘違いされるのも無理はないけれど、おれでその舞を想像されるのは耐え難いものがある。
「あはははは、舞ー!」
「舞って言っても剣舞だから! けんぶ!」
「けんぶ!? ってあの、剣持ってにょろにょろ動く!?」
「ちがうっ!」
この時代の剣舞ってそんなことになってんのか。
「時代が違えば同じ言葉でも想像するものは変わるものなのね」
サラは感慨深げに頷いている。
ちょっと待って欲しい。
イメージの変わった踊りを全部ノエルはおれで想像してるんだぞ。
「一度見れば認識も変わるわよ」
「まぁ、そうだけど……」
路上パフォーマンスのていで、剣舞を踊る。
上手くいけば多少のおひねりがもらえて、路銀の足しになるはずだ。
それは、財布を盗られた責任を一人感じているリズの為にもなるだろう。
「一度見れば認識も変わるわ。さ、どこかで剣っぽいものを借りれればいいんだけど」
サラは辺りを見回した。




