第88話 お前のキャラが分かんなくなってきた
「サンドイッチ屋さん? サンドイッチが食べたいの?」
リズが少し微妙そうな顔をする。
向こうにサンドイッチ屋があったと言っただけなのにそんな反応をされて、おれは少し物悲しくなった。
「……なんか、手軽でいいかなと思って」
「手軽は手軽だけど、お店で売ってるサンドイッチは朝作ったものだろうし、明日食べる頃にはぺちゃぺちゃになってるかも」
「あ、そう……だよね」
いや別にどうしても食べたいというわけじゃ、と付け加えようとしたところで、リズがよぉしと何やら気合いを入れたのを見て口ごもる。
「じゃあパン屋さんでパンを買って、中に挟めるものをどっかで適当に買いましょ。食べるときに挟めば問題ないわ。人数いるし、その方が安く済むもの。ひとつはそれで決まりね」
「……うん」
リズの言葉はおれに色々な感想を抱いたが、とりあえずひっくるめて一言返事を返す。
それからそっとノエルに耳打ちをした。
「やっぱ、術具の再発動処理とか関係なくさ、リズって結構いてくれて良かったと思わない?」
「……まぁな」
「おれたちだけだと、だいぶ途中のご飯がお粗末になってた気がする」
「うん、思った」
ノエルも同じ感想かと呟いて、おれは笑う。
「ちょっと二人ともー、早くーっ」
少し離れたところから振り返って手を振ってくるリズを、おれとノエルは追いかけた。
人数分のパンを買い、テイクアウトのできる小料理屋でハムサラダとベーコン炒り玉子を手に入れたおれたちは大通りに戻って回りを見渡す。
人通りはまだ多い。店もまだ閉まらなさそうだ。
「とりあえず一食分はこれでいいとして、他はどうしよう?」
「なんかシリアルのバー的なのとかは……?」
「なんでルイってそう不健康そうなので済まそうとするの?」
真面目に訊ねられておれはまた物悲しくなる。
「えー、……シリアルって栄養あるんじゃないの?」
「補助的な栄養はね! ちゃんとしたの食べてる前提なの!」
「そうなんだ……。いや、ほら、おれの時代って旅の時にそんなのなかったから、便利だなーって思って」
「そういえば、どんなの食べてたの?」
「え……っと、保存のきく固いパンとかあって……、干し肉とか木の実とか……」
「なんか美味くなさそうだな」
話してる途中で興味が尽きたとばかりに正直な感想を述べるノエルである。
なんという言い草だろうか。
「いやでも、料理もしたよ。馬に鍋とか積んでたし、香辛料で適当にぱーっと味付けしてスープとか」
「お前アウトドアできるってタイプかよ! しかも馬って、乗れんのっ?」
「いやまぁ、乗れるけど……、乗って旅してたわけじゃないよ……。荷物乗っけるのに一頭だけ連れてたんだ」
「すげぇ原始的……」
「すっごいルイ、乗馬できるんだ」
それぞれ注目するところが違うらしく、二人は同時に違うことを呟いている。
「でもルイって料理するの苦手じゃなかった? 包丁とかあぶなっかしかったよね、いつも」
「あ、うん。ナイフを包丁代わりにしてたから、逆に包丁は使ったことなかったっていう……」
「何お前、包丁よりナイフ使った方が食材上手く切れますってこと?」
「平たく言うとそうなる」
「あっはっは! お前のキャラが分かんなくなってきた!」
なぜノエルに笑われるのか分からないんですけど。
おれが眉をしかめて首をひねっていたら、リズが服のそでをぐいっと引っ張ってきた。
「じゃあ今度ナイフで皮とかむくの見せて! あ、ていうか、外で料理が有りならそうしちゃえばいいじゃない? 出来合いのもの買うよりいいよ! あったかいもの食べれるし!」
「えー、じゃあ鍋買わないと……」
「そう、お鍋! あぁ持ってきてたら良かったなぁー、まだお店開いてるかしら」
食べ物を売る店なら遅くまで開いているようだったが、調理器具を扱う金物屋が遅くまでやっている理由はあまりない。リズは近くにそれらしき店がないかと大通りをきょろきょろと見回し、
「おい、リズっ」
「え、きゃ!」
「リズ!」
人とぶつかってよろめいたところを慌てて支えた。
「……すみません」
ぶつかってきた相手は急いでいたようで、一言謝った後足早に去っていく。
「大丈夫リズ?」
「え、う、うん」
リズはまだ驚きから立ち直れずに、瞬きを繰り返しつつおれから身を起こした。
それからぶつかられたところにそっと手を当てる。
「どっか痛めた?」
「う、ううん……」
「大丈夫か?」
おれとノエルがそう尋ねたところで、リズががしっとおれの腕を掴んできた。
「リズ……?」
「ない」
「え?」
「お財布がない……!」
リズの声は悲痛だった。
「どうしよう、ご飯買うお金なのに……!」
「え、え、ほんとにないのっ?」
「さ、さっきまであったのに……っ、あっ、今の人……っ!!」
それだけ呟いて猛ダッシュで駆け出したリズを、おれはとっさに止められなかった。
おれとノエルはサンドイッチを抱えているが、リズだけは身軽だったのだ。
「おいちょっと待てリズ!」
「ノエルこれ持ってて!」
リズを止めようと声をかけたノエルにおれは荷物のすべてを押し付けた。
「ちょっ」
「リズ待って!!」
スリをするような相手に女の子一人で追いかけていってどうにかなるわけがない。
おれはリズのあとを追うべく猛ダッシュした。




