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第83話 この時代で生きていく

「俺も医者の坊主に同情するぜ」

「…………」


 すぐ人の言動を恋愛に結び付けたがるノエルとロジェさんが結託したと思ったら、ここぞとばかりにイリヤが敵陣営宣言をしてくる。

 おれはイリヤにむすっと冷たい視線を送った。

 すると。


「まぁ一つ補足しておくと、俺はサラに好きって言われたこたぁないぜ。嫌いはあった気がするけどな」


 仕返しとばかりに、また話がややこしくなる燃料を投下してくるイリヤ。

 サラはおれには好きや嫌いと発言するのに、イリヤには嫌いとしか言ったことがないという意味らしいが、それ言ってて悲しくならないのだろうか?


「ちょっとイリヤ」


 だけどイリヤはジュリの非難すらどこ吹く風といった様子だ。


「おっとそうなのか嬢ちゃん! 坊主にだけは、好きとも言うってか!?」


 乗ってきたのは、やはりというかロジェさんである。


「おいやめろロジェ」

「いいや大事なことだ、そうだろ、なぁ?」


 楽しげなロジェさんにおれたちは同意を求められる。

 けれど、イリヤが面白そうにしているくらいで、他のみんなはハラハラとしながらサラに視線を向けるばかりである。

 注目の的になったサラは、眉間に少ししわを寄せながらイリヤを軽く睨んだ。


「言う相手を選んでいた覚えはないわ。言わない相手を選んでた覚えはあるけど」

「え、何が?」

「私にだって、分別はあるわよ」


 キリっとした表情でサラはイリヤを見据える。


「分別?」

「恋人のいる相手に、そういう不用意な発言を控えるくらいの分別」

「えぇっ!?」


 今度はリズがすごい反応を見せた。


「イリヤさん恋人いるんですか!? あっ、もしかしてジュリさん!?」

「おう、そうだぞー」


 あっけらかんとイリヤは答える。


「そうだよな? なぁ、ジュリ」

「え、えぇ、そうね……」

「そうなんですか!」


 急な話の展開に食いつくリズ。


「気付かなかったかー? ま、俺たちは大人の恋愛で、落ち着いてるからな〜」

「もうイリヤ……調子に乗って……」

「へえ! うわぁ、そうなんですかぁ!」


 リズは興奮気味に相槌を打つ。

 おれはなんでリズがそんなテンション上がっているのかが分からない。

 リズのキラキラ輝く目にイリヤは気を良くして隣のジュリに肩を寄せた。


「俺たちは将来を誓い合った仲だからな。なぁ?」

「……えぇ」


 呆れたような表情を見せつつも、少し頬を赤くしたジュリの答えにイリヤは満足そうに頷いた。


「ってわけで、俺たちはしっかり愛の力で結ばれてるから、からかっても無駄だぞ」

「わぁー余裕ですね! ちょっと見直しました! すごいかっこいいんですね!」

「おいおい、俺のどこに見直す余地があったんだよ。最初から俺はかっこいいだろ」

「あぁまぁ、そうですね」


 リズの適当な相槌を聞いてイリヤは肩をすくめた。


「んで? 話元に戻すけど、なんかルイって呼んだ方がよさげな流れだな?」

「そうね、私たちもそう呼びましょう。この時代で生きていくんだもの。昔の呼び名も、そのうちいい思い出になるわ」


 ジュリが自分の意見をしっかり口にするのは珍しくて、おれは思わず瞬きをした。

 この時代で生きていく。

 それはつまり、戦いに決着をつけた未来のことだ。


「さすがジュリ。いいこと言うなぁ」


 ジュリの言葉をイリヤは手放しで褒めた。


「わ、カミングアウトしたとたん、のろけてる!」


 リズの突っ込みが車内にどっと笑いをもたらす。

 ロジェさんはもちろん、ロジェさんを制止していたユーグさんも、小さく声を出して笑った。


「なぁー! おーい!」


 ふいに運転席から声が聞こえてくる。

 術車を運転中のクライドさんだ。


「なぁ〜、さっきからみんな楽しそうだけど何なんだよー! 俺一人運転席で寂しいじゃないかっ、誰か助手席に座って解説してくれよー!」


 運転席から寂しそうな要請が聞こえてきて、一同は一瞬沈黙し顔を見合わせた後、さらにまた笑い声をあげた。


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