第82話 言われ慣れてる
「……なに、なんか変だった?」
「あぁ、もうっ」
ノエルは何かもどかしそうに声を絞り出すと、座席を立って、ほんの僅かに空いていたおれの隣りにどかっと座り込んだ。
リズとは反対側の隣のほうである。
ノエルはおれの肩にがしっと腕を回し、耳元に口を寄せてきた。
「おまえ、何なんだよ、そのやり取りはっ?」
声量を抑えたノエルの声は、術車の走行音に紛れて、おれ以外にギリギリ聞こえるか聞こえないかの大きさになる。
だけど周りはしんとしていて、聞いていない風を装いながら聞き耳をたてているのは丸分かりである。
「……え、……いや、だってサラが変なこと言うから」
だけど一応、おれもノエルのトーンに合わせてヒソヒソ声で答えた。
「そ、れ、だ、よっ」
ノエルは精一杯小さな声で叫ぶという器用な真似をする。
「それって?」
「『好き』って言われて、かわしもせずに顔赤らめて照れるとか、隠す気ゼロかっ」
「はぁ?」
隠す気ゼロって、そりゃおれだって涼しい顔でスルーしたいのは山々だよ。
諦めてるけども。
少なくともゼロではない。
「どうすんだこの空気っ」
「しょうがないだろっ」
「おい認めんのかっ」
「認めるってゆうか! 当たり前だろっ」
「あたりまえ?」
ノエルはおれの言葉を一音一音しっかりリピートする。
「いやそりゃだってっ、恥ずかしくて当たり前じゃんかっ」
「なにをだ?」
「だって……っ、おれ、時渡りする前と今で……っ、たぶん…………」
「なんだよっ?」
「いやだいぶ……キャラ、違う……自覚ある……から」
「はぃい?」
急にノエルは素っ頓狂な声を出した。
あれ? なんか違ったのか?
「何の話してんだお前はっ?」
「だっておれ、あんな泣いたの、さっきのが初めてだしっ!」
「はぁあ? だから何の話なんだっ!?」
「だからそういうキャラじゃなかったんだって! イリヤもなんかからかってくるしっ! 前と今が違うとかそういうのっ、今のキャラの方がいいとか、しみじみ言われると恥ずかしいじゃん! って言わせるなよホントに!」
「てめ……」
ノエルはぴくぴく片目を細めている。
「そういう赤面かよ……紛らわしい……っ」
「他に何があるんだ!」
もはやおれたちの声量は抑えることを全く意図されていない大きさになっている。
「他にぃ? 普通、好きって言われて照れて顔赤くするとか、できてるやつの反応だぞ」
「でっ、できっ……サラと!?」
言われておれは思わずサラを見た。
視線が本人とまともにぶつかり合い、おれたちは同時に身を強張らせる。
「あ、あの……ごめんなさい……私が悪かったわ……」
申し訳なさそうにサラが謝罪の言葉をかけてきた。
「言葉選びが良くなかったわね……」
「いや、あー、それは別に……」
思ったより大きな声になったせいで、サラは自分の言動が発端になったことを悟ったらしい。
だけどノエルはサラに物申したかったわけじゃなかったらしく、わたわたと慌てる。
「サラさんの言い方っていうより、ルイの反応の仕方が……」
「なんでだよっ、ノエルがいつも変に受け取るのが悪いんだろ!」
「おい、いつもって何だ」
「リズのことも変な風に言ってからかって遊ぶだろ!」
リズが体をびくりと震わせた。
しまった、今度はリズに飛び火である。
話を戻そう。
今はサラとの話だ。
「だいたいサラは昔から好きとか嫌いとかはっきり言うんだよ! 特別なことじゃないし今さら好きって言われたくらいでそこに恥ずかしがるわけないだろ! サラには言われ慣れてる!」
かっ、とノエルは目を見開いた。
「いわれなれてる」
「そう!」
「ちょ、ちょっとルイ、私そんなにあなたに好きとか言ってるかしら……」
「言ってる!」
おれは興奮冷めやらぬまま、即答する。
サラは固まった。
「え……」
「嫌いとも言ってるけど!」
「き……気を付けるわ……」
「あはははは!」
突然笑い出したのは、今まで話に入ってこなかったロジェさんだった。
「あー、っはは、もう耐えらんねぇ! 何だこのぐだぐだ!」
「おいロジェ、黙っておけよ」
「いや無理だろ、ひぃい腹いてぇ……」
ユーグさんの忠告を無視する気満々のロジェさんは腹を抱えて苦しい呼吸を繰り返す。
「はぁー、面白すぎんだろマジで……おいノエル、お前苦労してんだなぁ」
「分かってくれますか」
「分かる分かる」
「ちょ、ロジェさん、ノエルの肩持つんですかっ」
「まぁそうだわな」
「えぇえ」
不満だ。




