第75話 納得なような意外なような
リズの同行を消極的に認めたノエルは、ため息をついた。
「……リズ、俺はお前が作れるのはお菓子と玩具用の術具しか知らないんだけど、医療術具の再発動処理なんてできんのか?」
「まかせて」
「おじさん」
根拠を求めてノエルはエリックに声をかける。
「いや、親馬鹿で言うんじゃないけど、こいつの腕は保障するよ。学校の成績表も俺の学生時代よりいいしな……」
「……初耳だぞ」
意外そうなノエルの声に、リズは肩をすくめた。
「学科が違うのに、成績の比べっこもないじゃない。どうせノエルだって成績いいだろうし、自慢になんないもん」
「納得なような意外なような……」
難しそうな顔で呟くノエルを見てエリックは目を細めて笑う。
「術機になるとまだまだ勉強がいるだろうが、術具なら問題ないはずだよ。しかも一からの製作じゃなくて再発動処理だしな」
「おじさんが言うなら……」
「安心しろって坊主! このおっさん、トップクラスの研究所にいたっておかしかねぇほどの腕の持ち主だよ! そんな男が太鼓判押す娘なんだ。優秀に決まってる」
「いやいや、持ち上げないでくれ」
「いーや、この飛空伝信通信機は個人がひょいひょい簡単に作れるもんじゃねぇよ」
横から話に割って入ったのはロジェである。
ちゃっかり旅のお供として貰い受けた通信機を、腰をぐいっと捻って装備しているのを見せ、ロジェはエリックより自慢げだ。
「……分かった。ならいいんだ。リズが器用なのは知ってる」
「おっ、解りあってる幼馴染み的な? 坊主ノロケかぁ?」
「からかうなら読み間違えないで下さいよ」
「…………。……あぁ、そうなの? なるほど……?」
普段なら否定など聞き流して更にからかっているところだったが、ノエルの言い方に何か合点がいったらしく、ロジェは珍しく聞き分けの良さを発揮した。
「よし、じゃあ乗り込もうぜ。隊長さん、運転よろしく!」
切り替えるようにロジェは明るく言い放ち、クライドさんの肩を叩いて術車の荷台に嬉々として乗り込んでいく。
その姿は、戦いに赴くもののそれとは到底見受けられない。
ノリのあまりの軽さに首を捻ったクライドは服のすそを引っ張られたのに気がついて、後ろを振り返った。
「ナタリア……」
「ったくもう、まさか付いてくなんて言い出すとは思ってなかったわよ」
「いや、だからそれは、大型の免許があるのは俺しかいなかったからで……あの双子も運転したことあるのは」
「中型までらしいからって言うんでしょ。聞き飽きたわよ」
「…………。舎長にあそこまで信頼されて自由にさせてもらったんだ。丸投げってわけにはいかない。一緒に行って、帰ったらちゃんと報告にいくって決めたんだ」
真剣な眼差しで語るクライドに、ナタリアは呆れ返った様子で天を仰いだ。
「……っもー、暑っ苦しい性格なんだから。……ちゃんと帰ってきて、しっかり舎長さんに報告してよね。クビとかになったら許さないから」
「あぁ。約束通り、卒業まではお前の学費もちゃんと稼ぐ。あ、その代わりちゃんと」
「はいはい弁当作りでしょ分かってるわよ。私が今までサボったことある?」
「……ない」
「だったら自分がクビになる可能性の方を心配して」
「まぁ……そうだな」
クライドは苦笑した。
「じゃあ、行ってきます」
クライドの大きな手がナタリアの頭を撫で、ナタリアは一瞬目を閉じる。
次にナタリアが目を開けると、見えたのは術車に向かうクライドの背中だった。
運転席に乗り込む直前、クライドはナタリアを振り向く。
ナタリアはひらひらと手を振った。
「気をつけてな。くれぐれも無茶はするなよ」
ノアに声をかけられて、ノエルは深く頷く。
エリックはリズの頬に手を添えて、深呼吸を一度した。
「……リズもだ。戦いの時は、絶対隠れてなさい。お前の出番は別の時なんだから」
「うん、分かってる……、ありがとう、お父さん」
リズは父親にぎゅっと抱きついて感謝を伝えた。
娘が年頃になってからひっつかれることのなかったエリックは、一瞬驚きながらもリズを抱きしめ返す。
危険は承知だったが、ルイたちの傍の方が安全なような気がしたのは確かで、それゆえに同行を許したのである。
その選択が正解であるようにとエリックは祈った。




