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第72話 ものはついで

 精霊の力の解放状態を常時続けるのは避けて、都市内の魔物は二日かけて掃討する。

 仲間内でそう決めた時のルイの返事をサラは思い返していた。

 そうするつもりは毛頭無さそうな適当な返事だとは思ったのだ。

 だがサラは何も指摘しなかった。

 指摘したところで、素直に考えを改めるとは思わなかったからである。


 そうしてその予感は見事に的中し、ルイは魔力の使いすぎで倒れて寝込んでいる。


「でもこの作戦が上手くいけば……」


 窓の向こう、月がまだ昇っていない暗い夜空を見上げ、サラは呟いた。


「おい、嬢ちゃん!」


 ロジェが手を振ってサラを呼んだ。

 ここは、図書館のある中央政府区域(セントラルエリア)を出てのウェストリング地区を超えた先、工業区域インダストリアルエリアにある魔術機廃棄処理センターの中である。

 都市の中で使われる業務用の大型魔術機などを、文字通り廃棄処理するための施設だ。


「こっちだ! ちょうどいいサイズのがあったってよ!」


 都市内の魔物の掃討作戦が完了したのが今日の夕方のことで、今は真夜中である。

 明日には都市内の魔物討伐完了の連絡が方々に伝達され、都市内は人の往来が一気に増えることになるため、都警隊の術車や魔法エネルギーの魔蓄機(タンク)をこっそり拝借しようと思うと、今このタイミングがベストと言えた。


「もう見つけたんですか?」

「あぁ、拍子抜けだよな」


 探索を始めて、まだ僅かしか時間は経過していない。

 検査前保管室と書かれた大きな扉をくぐったのはほんの数分前で、目的のものを探すのはそれなりに時間がかかると思っていた矢先のことであった。


「まぁ、こういう施設は廃棄物もそれなりに規則性を持って保管してるもんだしな」


 コンテナの上に乗せられた大小様々な魔術機が並ぶ保管室の一角から、エリックの声が返ってくる。

 サラが声のした方へと顔を出すと、エリックは狭い通路で人の背丈ほどの高さの金属製の箱の背面を開け、中を確認しているところであった。


「使えそうです?」

「あぁ。廃棄物って言っても、耐用年数が近付いたから交換のために廃棄に回されただけで、メンテナンスもしっかりしてたみたいだし、機能は問題無さそうだ」

「良かった……」

「さすがに魔法エネルギーは今は空だが、図書館に設置されてる集積装置(プラント)に繋げば明日の朝には満タンになるはずだ。今図書館は人でいっぱいだしな」

「本当に、すごい技術の進歩ですね……」

「魔法は嬢ちゃんたちの時代の方が凄いけどな」


 箱の影から顔を出し、エリックはサラの後ろにいるロジェを呼んだ。


「ここの位置を伝えてくれ」


 ズボンのポケットから取り出した小さな金属製の魔術機をエリックからロジェに放り投げた。

 受け取ったロジェは、それを見て片方の眉をぴくっと上げる。


飛空伝信(エアリング)の携帯用の魔術機じゃねぇか。こんなもんどこで……」

「自作だよ。破魔の術具作りで部品だけはあっちこちからかき集めてたからな」

「すげっ、おっさんこんなもんまで作れんのか!? 街で術具屋やってる場合じゃねぇだろっ」

「高い給料に興味はなかったもんでね。もうひとつノエルに持たしてるから術車を手に入れたら回すように言ってくれ」

「お、おう、任されたぜ」


 飛空伝信(エアリング)の携帯術機の貴重さを指摘しつつも、ロジェはそれを扱えるようで、しばらく全体を眺めた後、操作を始めた。


「よし、容積量も問題なさそうだ。運び出そう」

「これ、勝手に持って行ってしまって大丈夫でしょうか?」

「まぁ、大丈夫ってことはないけど、地震と魔物騒ぎの中で起こった部品狙いの盗難とかで処理されるだろう。こんな非常時に管理体制問われて誰かが責任追わされることもないだろうしな。むしろ廃棄費用が一台分浮いていいんじゃないか」

「じゃあ、返却できなくても良さそうですね」


 中の魔法エネルギーを使用する際、恐らくこの魔蓄機(タンク)は戦闘に巻き込まれて大破するだはずである。

 返却の必要がないのであれば、愁いは皆無とばかりにサラはにっこり笑った。


「おーい、連絡ついたぞ」

「おぉ、どんな感じだって?」


 ロジェから報告があがる。


「いま警舎に着いたとこだとさ。じきに手頃なやつ見繕ってくるだろ。運の良いことに、無人らしいからな」

「じゃあしばらく待機だな」


 エリックの宣言で、しばらく時間が与えられたことに気付いたサラは、一人でそっと息を吐く。

 とりあえず、どのタイミングでどんな風にこの作戦をルイに告げるか。

 それがサラの考え事の目下最優先事項だった。

 

 

    ***

 

 

「ものはついでだ。使えそうな備品も少し借りよう」


 “借りる”ことに決めた術車の中から、ヘルメットやら雨用靴やら余計な積載物の運び出しを行う間、クライドはふいに姿を消し、しばらくして毛布を抱えて戻ってそんなことを言った。


「警舎は仮眠室用の毛布はいいの使ってるんだ。暖かいぞ」

「大胆になってきたな」


 呆れたようにユーグが呟く。


「術車に比べたら、今さら毛布の一枚や二枚」

「どうせ失敬するなら一枚や二枚じゃなくて人数分貰いましょう」


 毛布を抱えて自嘲の笑みを浮かべるクライドに対し、ノエルはさらりと言ってのけた。

 都警隊の術車が何台か停められている駐車場(ガレージ)はそれなりの大きさで、声も意外に響く。

 誰もいないことは確認済みなのに、ノエルの堂々とした拝借宣言が周囲に響き渡ったことに驚いて、クライドは顔をひきつらせた。

 術車の確保組で動いているのは、クライド、ノエル、ユーグの三人だ。

 場所は先日一時避難していた時の、クライドの職場である警舎である。


「毛布なんかいざとなったら床に敷けるんですから何十枚あったっていい。ついでに食糧品の備蓄とかあったらそれももらいましょう」

「え、食糧品は返せないじゃ…………」

「この地震でどれだけ人が死んだと思ってるんですか。その元凶を倒しに行くのに、食糧品くらいでびびってどうすんです」

「……あぁ、だよな」


 いまいち腹を括りきれていない自分を自覚しているクライドだったが、そうとは悟られまいと、背筋を伸ばす。


「食糧品の備蓄なら倉庫に置いてあるはずだ。毛布の予備もある」

「場所は?」

「ここを出て廊下を右に行った突き当たりだ」

「適当に見てきます」

「よし、じゃあ俺も一緒に行こう」


 ユーグも同行を申し出て、二人は駐車場(ガレージ)から警舎の奥へと続く出入り口へと足を向ける。

 だがその歩みを二人は同時にピタリと止めた。

 それを目の端に捉えたクライドは、二人につと視線を向ける。


「ノエル、どうした?」

「全く、何をこそこそやっているのかと思ったら」


 答えたのは、出入り口からふと姿を現した男だった。

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