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第66話 馬のない車

「あんた……、魔物退治の連中の……」

「サラよ。探したわ……、診療所にいると思ってたけど、まさかこんな奥で作戦会議やってるなんて……」


 サラは少し疲れたような表情を見せながら中に足を踏み入れる。


「探したって、ルイに何かあったのか?」

「そういうわけじゃなくて……。さっきはアスカがあんな風に言ったけど、やっぱり一緒に来てほしくて、探してたのよ」

「そんなの、あの場は一度引いたけど、言われなくたって押しかけるつもりだったさ」


 ノエルの回答に、サラは安堵の表情を浮かべた。

 ルイの拒絶のせいで、説得に時間を要すると思っていたのだ。


「それより、ここでは戦えないってどういう意味だよ……。あんた、一体どこから話聞いてたんだ?」

「……あの子を助けたいって言ってるのを聞いて……。ごめんなさい。立ち聞きする気はなかったんだけど、タイミングが分からなくて……」


 サラは一度言葉を切って、表情を引き締める。


「ここで戦えないのは、ここには大勢人がいるからよ。相手は、精神体への切り替えが自由にできる混じり子。殺すっていうより消滅させるに近いの。強大な魔力に、同じだけ魔力をぶつけて相殺するのよ。その余波って言ったら、とんでもない被害になるわ。都市じゃ人が大勢巻き込まれることになる」


 サラの淡々とした説明にノエルは目を瞠る。


「そんな……せっかく」

「ううん、でもその話は詳しく聞かせて。魔法エネルギーのシステムなんて私たちの時代にはなかったから全然分からないの……。その分配所とかいうところには魔法エネルギーを溜めておくものがあるのよね? それって大きさは? 持ち運びはできない?」

「いや……ちょっと待ってくれ、持ち運びなんてイメージでいてもらっちゃ困る、術機とか使わないと……。人の手で動かすのは無理だ……」


 サラの質問にエリックは難しい顔をして答えた。

 術具や術機の原動力となる魔法エネルギーのシステムは、魔術具屋の店主でもあり魔術具職人でもあるエリックにとっては基礎知識である。


「あの、馬のない車でも運べない?」

「馬のない車……?」


 サラの表現に全員が怪訝そうな顔をした。


「術車のことか?」

「そう言うの? 私たちの時代にはそれもなかったわ。すごい技術の進歩ね。あれは軽いものしか運べない?」

「……いや、術車なら重いものも運べるがさすがに分配所の魔蓄機(タンク)は大きさが……。いや、待てよ」


 エリックは何かを思いついたように手を口元に添え、考え込む仕草をする。


「足りない魔力ってどれくらいなんだ?」


 なにやら思いついたらしいエリックの言葉に全員が集中して耳を傾ける。


「どれくらい……?」


 サラは一瞬言い淀んだ。

 前回の戦いで言えば、足りなかったのは生身ひとつ分を構成する魔力だと説明ができる。

 スティアが生身を維持できず眠りにつかなければならなくなったということは、スティアの魔力残量は生身をひとつ構成する分を切っていたことになるからだ。

 だが、そこまで追い詰めることができたのは、もっと仲間が多かった時の話である。


「ええっと、生身ひとつ、ゼロから構築するのには、上級修道士レベルで七人がかりの魔術が必要というから……」

「うお? いや嬢ちゃん、ちょっと待てなんか今さらっととんでもないことを……」

「人を魔術で作り出すのか!?」


 自身の独り言にロジェとユーグが急に食いついてきて、サラは面食らったように瞬きをする。


「あ、いえ、魂を持たない生身は、構成できてもすぐ消滅しますから、人を生み出すわけではないです」

「どういう術なんだそりゃ!?」

「ま、魔族や高位魔獣との戦いに有利になるよう、精神体と生身への切り替えがどういう術式で成されているのか、研究する過程で証明のために生まれた魔術です。魔力を使って生身を構成することには成功したそうですが、維持もできず、逆に人を精神体へ切り替えることのできる魔術は証明されませんでした」

「お、おぉ……」

「何を言ってるかさっぱり分からんな」

「俺はもう、どんな魔術があっても驚かねぇようにするよ」


 ロジェは引きつった顔でそう答えた。


「まぁ、その……使い道がなくて実用化されることのなかった魔術はたくさんあります。でも生身構成の魔術は実用化こそされませんでしたが、証明されたおかげで、魔族や高位魔獣を倒しきるのにあとどれだけ魔力が必要か計算できるようになりました」


「おぉ……そんで、さっきの七人分ってのは……」

「はい。生身構成の魔術では上級修道士が七人、限界まで魔力を使います。ですがそれを今の時代でどう表現していいのか……」

「あー、……上級修道士ってのがまず分かんねぇな」


 分野がマニアックすぎると眉間にしわを寄せながらロジェは首を捻る。


「そもそも、今魔法エネルギーの測定で使われるマジュールって単位はお嬢さんの時代にはあったか?」


 ユーグに尋ねられて、サラは首を振った。

 まぁそうだよな、とロジェは軽い口調で天井を仰ぐ。


「マジュールは定義されてから百年かそこらだろ。そんな昔からあったって言われたら、魔術理論史の教則本を全部修正しなきゃなんねぇとこだったぞ」

「うんちくは要らん。具体的にどうする?」

「あーじゃあ……いっちょ計算するかぁ」


 誰も答えを導き出せないのではという嫌な予感を、ロジェはあっさりと覆した。



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