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第64話 大事な子供だったのか

 医療魔法ができる者がいなかった為にろくな手当ても受けぬまま術車に一日以上揺られていた怪我人たちは、皆一様に衰弱しきっていた。

 スティアが傷口を塞いで回りはしたが、体力が回復するわけでも歩けるようになるわけでもない。

 そのため、怪我人たちは治療のあと、すぐに病院に運ばれて、町の出入り口に残った住人はほんの僅かになった。


 そのほとんどが、帰ってこなかった者の家族や友人たちだ。

 未帰還者たちの死亡ははっきり確認できない状況だったが、生存は絶望的であった。

 どうすればいいのか分かる者などひとりもいない。


「……大事な子供だったのか」


 ぼんやり地面を見つめているタリアにスティアは声をかける。


「母親というのは、面白いくらいに、本当に子供が大事なんだな」

「…………」

「そんなに愛されて、アイルとかいう奴は幸せだったさ」


 フードの陰に隠れて、スティアの表情は分からない。


「……アイル?」


 ゆっくり顔をあげたタリアがそう呟いた。


「ん?」


 死人のようだったタリアの顔色がみるみる戻ってゆく。


「あぁ、アイル! やっぱり帰ってきてくれたのね! 良かった……!」


 タリアの言葉を理解しきれなかったスティアはぱっと立ち上がったタリアに抱きしめられて固まった。


「死んだなんて嘘だったのね! あぁ、驚いた、心配したんだから……」

「おい……、何を勘違いしてるんだ」

「どうしたのアイル? 疲れてるのね? さあ家に帰ってご飯にしましょ。ゆっくり休めば疲れも取れるわ」

「…………」

「おかあさん……?」


 タリアの足元で泣きつかれて眠っていたアイシャが目を覚ます。


「アイシャ、ほら、お兄ちゃんが帰ってきたの」

「え……」


 アイシャは戸惑った顔でスティアを見上げ、それから母親を見る。


「その人……お兄ちゃんじゃないよ……」

「もうアイシャったら何言ってるの」

「おい女、いい加減にしろ」

「あらやだ、いやよそんな怖い声出して」

「お母さんっ、どうしたのっ?」


 状況を理解したアイシャは慌てて立ち上がる。


「しっかりして! お兄ちゃんじゃない、旅の人だよ! まだ死んだって決まったわけじゃないよっ、ちゃんとお兄ちゃん待っててあげなきゃ……っ」

「もうっ、アイシャこそしっかりして! あんまり言うとお母さん怒るわよ。お兄ちゃんだって可哀想じゃない、せっかく帰ってきたのに妹にそんなこと言われたら」

「お母さん……」


 途方に暮れたように言葉を失って、アイシャはその場に立ち尽くした。


「さぁ、帰りましょう。ご飯の支度をしなきゃ」


 さきほどの様子とは打って変わって元気になったタリアに手を引かれ、スティアは思わずそのまま歩き出す。そしてそんな自分に愕然とした。


「お、母さん……だって、その人……」


 アイシャも慌てて後を追って歩き出す。


「ご、ごめんなさいお兄さん……っ、ど、どうしよう……えっと……」


 心細そうに後ろを振り返るアイシャ。

 出入り口に留まっていた人々は皆憔悴しきっていて、事態に気が付いていない。

 助けを求められそうな相手がおらず、アイシャは焦りの表情を浮かべた。


「……とにかく、迷惑だから……っ、お母さんっ」

「……いい」


 短くスティアは言った。


「え?」

「息子の死がショックで、完全におかしくなってるようだ」

「そ、そんな……お母さん……っ」

「お前は悲しくないのか?」

「……え」

「兄が死んで、悲しくはないのか? それとも生きていると信じているのか?」


 アイシャはぎゅっと目を閉じ自分の両肩を抱いた。


「……だって、そんな……、お兄ちゃんがそんな……」

「信じたくないのか」

「だって信じられないもの……!!」


 叫び声と共に、アイシャの目から涙が散った。


「……信じられない、か」


 ふ、とスティアは息をもらした。


「信じなければどうしようもない時が来るさ」


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