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第5話 好きだって言えよな

「あー、まだ昼過ぎっていいよなぁー」


 学校からの帰り道、機嫌よさげなノエルは伸びをしながらおれにそう同意を求めた。

 おれは「あーうん」と適当な返事をするものの、ノエルのテンションにはついていけそうにない。


「あれ? 大丈夫か?」

「うん……。早く帰れたのはいいけど、普通より疲れた……」


 突風は一度きりで怪我人も出なかったらしい。

 だけど、他にも窓ガラスが割れた教室があった為、今後に備えて学校全体の窓ガラス補強が最優先で行われることになり、午後の授業は休講になったのだ。

 まさに実習中であった補強呪文の領域の話である。


「ノエルなんでそんなぴんぴんしてんだよ……」


 普段は学科ごとにばらばらなタイミングで終わる授業が同時に解散下校となったのだから、駅も列車も、混雑しないわけがない。

 人混みに揉まれたせいで、おれの気力はもう尽きかけている。


 なにせ、ミッドガルドの学校はひとつだ。


 初等部は基本的に全員が同じ授業を受け、中等部高等部から学科が少しずつ分かれていく。専門部にいたる頃には数えきれないほどの分野に選択授業は分かれるが、学校として分かれることはなく、生徒は自分の授業を受けるため、校舎移動と教室移動を繰り返すのが常だった。


「逆になんで人混みくらいでそんな疲れんだよ?」

「……いや、あんなに人がうようよしてると脅威だよ……」

「脅威って、そこまで?」

「もうちょっとゆとりとかさー。前々から思ってたけど、ミッドガルドって人詰め込み過ぎじゃないのかなぁ? どこの都市でもそう?」

「そうじゃないの? だって魔法エネルギーを利用するのにはある程度人口って必要だし」

「ふぅーん……。ヘンなのー」


 感覚的には納得いかないけれど、おれが駄々をこねる話でもない。

 おれは気を取り直そうと、姿勢を正した。


「ま、いっか。リズのクッキーに癒されよう」

「すげぇ好きじゃん」

「え? ノエルも好きだろ?」

「……ん?」


 ノエルの返答には一拍変な間があった。


「どうかした?」

「いや……何の話をしてる?」

「……え、ノエルだって何気に結構好きだろ? いつもおれのことダシにしてるけど、たまにはちゃんとノエルも好きだって言えよな」

「………………」


 ノエルは今度は結構な時間黙りこくった。

 それから急に顔が赤くなる。

 なんだ面白いな。


「リ、リズはただの幼馴染みだっつうの!」


 うん?


 今度は俺が黙り込む番だった。

 ノエルの言葉の脈絡がなさすぎて分からない。


「ごめん、何の話?」

「は!?」


 ノエルは全力で疑問符を飛ばしてきた。

 なんだろう、どっかから何かがズレたらしいことは分かる。


「えーっと……リズのクッキーの話……じゃなかった?」

「………………」

「おれをダシにしないで、リズに素直にクッキー好きだから焼いてくれって言えよという話を……」

「ぐ……っ」


 ノエルは苦し気に呻き、立ち止まって両手を膝についた。

 

「おーい! ルイ~! ノエル~!」


 噂をすれば。

 おれは後ろを振り返った。

 そこには見知った姿がひとつ。


「リズ! 今帰りー?」

「そうだよ~! 列車一本違ったのかな~」


 リズは、にっこり笑って駆けてきた。


「そうかも。さっきの暴風、怪我なかった?」

「うん、平気だったよ」

「それは良かった」

「ルイは基礎魔法の授業、どうだったの?」

「うん。相変わらずおれは可哀そうだった」


 自己申告すると、リズはくすくすと笑う。


「自分で言う?」

「可哀そうなのを頑張ったって報告がいるかなぁと」

「そう頑張ったの? じゃあ帰ったらすぐにご褒美のクッキー作るから、荷物置いたら来て手伝って」

「よぉっし!」


 クッキーが確定事項となって、おれのテンションはようやく上がってくる。


「そうだな……、ルイはまだ色気より食い気だよな……」


 何やらダメージから回復したらしいノエルの言葉をおれは綺麗にスルーした。


「あ、そうだ。手伝ってくれるなら、最初に買い物お願いしていい?」

「買い物?」

「チョコチップクッキーにしようかなと思って。チョコ買ってきてほしいの。ついでに紅茶も切らしてたから。クッキーには紅茶でしょ?」

「た、確かに……」


 リズのチョコチップクッキー。それは抗えない誘惑である。


「分かった。任せて」

「帰る前に店寄るか?」


 おれが引き受けると、当然のように一緒に行く気のノエルがそう尋ねてきた。

 だけど、そんな都合よくおれはお金を持っていない。

 有難いことに、居候のおれにもじいちゃんは小遣いをくれるが、あまり使わないようにしているので最低限しか持ち歩かないことにしているのだ。


「いやでも、小遣い取りに帰らないと」

「俺が持ってる。一回帰ってまた出るの面倒だから、店寄って帰ろうぜ」

「あぁ、そうなの。じゃああとで返すな」

「あ、私もちゃんと出すからね」

「え、リズは作ってくれるんだからいいよ」

「私も食べるもの。それに絶対、お父さんも食べたいって言い出すから、材料費はお父さんから貰っちゃおう」

「おぉ……」


 いたずらっぽく言うリズの甘え上手さは、眩しいものがある。


「じゃあ行くか」

「うん、じゃあまたあとで」

「いってらっしゃーい」


 おれたちは二手に分かれた。

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