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第52話 逃げたら殺してもいい

「さてと。目立つところに移動しようか」


 少女の声でスティアは笑みを浮かべながら言った。


 泡玉がふわりと浮き上がり、中に閉じ込められているノエルとリズは互いに身を寄せ合う。

 人の身長より高い位置に捕らえられ、緊張しないわけがない。


「待てお前!」

「二人を放せ!」


 双子がそれぞれに言葉を発したがスティアは少女の顔で二人に笑顔を向けるのみだった。


「く……っそ!」


 二人は武器を構えてはいるが、取り憑かれているだけというノエルの言葉がひっかかりとなり、少女へ攻撃を加えられずにいる。

 双子が今携帯している武器は破魔の薬液を込めた弾を打ち出す破魔銃(ディスガン)だけで、物理的な攻撃力も低くはない。

 子供の体では致命傷になる可能性が高いのは明らかであった。


 二人を包む泡玉は、食事時を過ぎて人がまばらになった食事スペースを通り、人の多い正面玄関前の広場へと向けて移動してゆく。

 その下を歩くスティアの足取りは、悠々としていた。


 一人がそれを見つけてからは、騒ぎになるのは早かった。


「なんだあれ……」

「どういう仕掛けなの……?」

「何が始まるんだ?」


 ざわざわとどよめきが広がり、スティアはいまいち納得のいかない憮然とした顔つきで首を傾ける。


「そろいもそろって平和ボケとは、幸せな連中だ」


 広場のほぼ中心までやってきたスティアは呟いた後、天に向かって手のひらを伸ばした。


 直後、魔法エネルギーがひずんだ時のような音が、強い光と共に辺りに撒き散らされる。


「な……、なんだ……!?」

「雷……!? お、おい!」


 突然の光と音に皆が空を見上げる中、幾人かが地面へと視線を移し、戸惑いの声をあげる。

 スティアを中心に、近くにいた人々が地面へと昏倒していた。

 周囲の者がざっと後ずさり、何人かが倒れた者へと駆け寄る。


「逃げるべきだな」

 

 スティアが天へ伸ばした手を振り下ろすと、再び先ほどと同じような音が小規模に起こり、倒れていた者を助け起こそうとしていた数人がグニャリと地面へ崩れた。

 直後、一瞬の間を置いて広場は恐慌状態に陥る。


「何が起こってる!?」

「し、死んだのか!? そんな!」

「ににに逃げろ!」

「あっ、あの子供何だ!?」


 悲鳴が飛び交う中、誰かが輪の中心に佇んでいる少女を指差し、スティアは呆れたように笑った。


「人間は、ここまで生存本能が鈍くなるのか」

「誰なんだ!? あの子供がやったのか!?」

「あの捕まってる子達は!?」

「あの玉は何なんだ!? なんで浮いてる!?」


 疑問が叫ばれるが直接スティアに対して尋ねる者はいなかった。


「つまらない……。くだらない……。アスカはまだか? もっと殺せばいいかな」

「やめろ!!」

「……んー?」


 頭上からの声にスティアはゆっくり声の主、ノエルを見上げた。


「何の指図だ?」

「こっ、殺したのか!?」

「……さあ。強い奴は生きてるんじゃないか? 弱い奴は死んだだろうけど」

「手当てさせろ!!」

「は、ぁー……?」


 理解不能の声と表情でスティアは首をかしげた。


「お前は立場を分かってるのか?」

「わ、分かってるっ、人質だろ! 逃げたりはしない! 応急治療するだけだ! 今ならまだ助かる人がいるかもしれない!」

「別に僕は誰が死んだってどうでもいい」

「どうでもいいなら生きてたっていいだろ!」

「ははは、面白い理屈だ」

「俺が逃げたら殺してもいい!」

「へえ」


 わずかに驚いて、スティアは楽しそうに声をあげた。


「ノエルっ? なに、そんなの、殺していいって……っ」

「大丈夫だ、人質になってるうちはむやみやたら殺されない。助けなきゃ」


 小さく震えながら声を絞り出すリズの肩を掴んで、ノエルは低くささやいた。


「でもっ、だって、ノエルっ」

「リズ、今ここで救命医療魔法師と同じ治療ができるのは俺だけだ」

「でもっ、それは本当は……! こんな人が大勢いるところじゃ……っ」

「誰かが手遅れになるよりずっといい!」


 ノエルはスティアを振り返って、要望を訴える視線を送った。

 スティアは一瞬考え込む。


「……まぁ、僕には思いつかない趣向という点では価値を認めてやってもいいか」


 スティアの言葉の直後、泡玉がノエルだけを選んだかのように、重力に従った方向へその体を外に出した。

 大人一人分程の高さの空中から放り出されたノエルは地面に転がり、よろっと起き上がる。


「ありがとう」

 

 一言そう告げてノエルは近くに倒れている者へと駆け寄った。

 礼を言われたスティアはしっくりこない表情で沈黙する。

 そこへ、悲鳴のような叫び声が届いた。



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