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第51話 どっちかは、死ぬかもしれないよ

 図書館から少し離れたところにある建物の屋上から眼下の街並みを見下ろして、おれはぐっと腕を伸ばして伸びをした。

 隣のサラは、穏やかな風に金の髪をなびかせている。


 都市の外壁に設置されている魔物よけの吸収装置(プラント)の修理が明日から開始されることになり、おれは朝から都市の中の魔物狩りに精を出していた。

 修理作業が始まればそちらの護衛に戦力をほとんど割くことになるため、その前に都市内の魔物をできるだけ減らしておきたいというのが狙いである。


 とはいえ、都市はだだっ広く、魔物よけが機能していない今、倒したそばから魔物はどんどん侵入してきてしまう。

 まさしく焼け石に水である。


「でも、やっぱりそんな大きな群れはいないな」


 地震から避難する最中におれたちが出会った魔物の群れは、やはり異常だったのだ。

 おれがいたからスティアがわざと群れを差し向けたというのは、もはや可能性ではなく事実だろう。


「まぁ、あんな群れが他では出てないっていうのは、不幸中の幸いか」


 都市の中では地震の後片付けが進んでいて、道路で作業している人も結構見かけたりしている。

 もちろん、武器になりそうなものを携帯した男の人がほとんどだったけれど、家の中から女の人や子供の声も聞こえてきていた。


「アスカ、感覚はどう?」

「うん、だいぶいいよ」


 サラに話しかけられて、おれは手を握ったり開いたりしながら答える。


「記憶を思い出すと、色々違いがあるのは感じるけど」

「たとえば?」

「手足の長さとか目線が変わってるから、リーチが違うなって」

「戦いづらいとかない?」

「まぁ、急に成長したわけじゃないし、あの時とは違うなって思うだけで、大丈夫」

「そう。でも確かに、背は伸びたわね」


 サラはおれの背を確かめるような視線を向けてきた。


「あぁ。まぁ、ちょっとだけだけど」

「そんなことないわよ」

「そんなことある」

「どうして」


 サラは不満そうだ。

 なぜおれが否定するのか分からないらしい。


「……サラが言ったんじゃん。それだけだったのって」

「え」

「再会したとき。背が伸びたのねって言ったあと」

「…………」


 サラは目を(みは)った。

 その様子におれは少しだけ違和感を覚える。

 失言を指摘されたときの気付きの様子とは、少し違って見えたのだ。


「どうかした?」

「……ううん、なんでも」


 サラは何かを隠すふうでもなく、自分で何かを納得したような様子で答えた。


 あぁこれは何も言う気がないなと思ったおれは、それ以上追求しないことにする。


「おれ、十六か……」

「……」

「サラ、今十七?」

「えぇ」

「そしたら、サラの二十歳も見たかったな」


 おれだけ三年経っているが、みんなも三年前に着いていれば、平和な時代で三年過ごして、みんなもそれぞれに年をとっていたはずだ。

 そうしたら、おれたちの関係も、何か変わっていただろうか。


「……見れるわ」


 サラは、そう言ったあと、唇を横に引き結んだ。


「……そうかな?」

「そうよ」

「サラの三年後をおれが見るには、二人とも、勝って生き残らないとだけど」

「大丈夫よ」

「……でも、どっちかは、死ぬかもしれないよ」

「死なないわ」


 ふいに風が強く吹いた。

 サラの長い髪があおられ、表情が見えなくなる。


「…………」


 その風に、嫌な気配が混ざっているのに気付いて、おれは眉をひそめた。

 まるで風に乗ってきたかのような、掴みどころのない、悪意。


「……あいつ」

「アスカ?」

「スティアだ。図書館の方から」

「なっ!」


 おれの言葉にサラは息を呑んだ。

 おれは屋上の床を蹴る。

 体がふわりと浮かび上がった。呪文詠唱無しの、飛行魔法である。

 サラも同じ魔法を使うために呪文を唱え始めたが、おれは振り返って短く告げた。


「先に行く」


 サラが頷いたのを見て、おれは屋上の手すり壁から飛び出した。

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