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第49話 あいつ、一体何なんだ?

「おい、お前ら聞いてんのか?」


 隣にどかっと腰を下ろす警護屋の双子の兄に驚いて、リズはスプーンを取り落としそうになった。

 場所は、炊き出しの食事スペースの一番端、建物の影になっている目立たないテーブルの一角である。

 昼の炊き出しとして配られた具の少ないシチューを食べている最中のことであった。


 リズの向かいにいるノエルは、無遠慮な相席に眉をしかめてロジェを見上げる。

 双子の弟ユーグはノエルの隣に無言で静かに腰掛けた。


「お前らんとこの小僧、魔物退治の連中に加わってるらしいじゃねえか」

「ここに来るまでは仕方ない状況だったが、病気というのは治ったのか?」

「………………」


 煮崩れた何かの野菜をスプーンにのっけたまま、ノエルは眉間にしわを寄せる。


「外壁の吸収装置(プラント)装置の復旧作業。その魔物対策にあいつが加わるって話だぜ?」


 ロジェの言葉にノエルはスプーンを器に置いた。


「……どんな話になってるんですか」


 数日前、外で不本意な別れ方をして以降、ノエルもリズも、ルイとは顔を合わせてはいなかった。

 夜も部屋に戻ってきていないのだ。


「外壁まで行くのに使うルートが確定したら、それを全て結界とやらで覆うらしい」


 味気のないシチューを淡々と口にしてふっと息を吐きながらユーグが説明する。

 ロジェは顔をしかめながらスプーンで皿を叩いた。


「こっから外壁までどんだけあると思ってんだか知らねぇけど、それをほとんどあいつ一人が引き受けるらしいぜ?」

「………………」


 ノエルはしばらく無言で眉をひそめ、それからおもむろに食事を再開した。


「おい、何とか言えよ。おかげで俺たちはほとんど出る幕なしなんだぜ? もしもの時の警備要員って話だ。警護屋が、魔物と接触する可能性ほとんどない場所に配置されて、どうしろっつうんだよ」

「……あいつに直接聞けばいいでしょう」


 答えてシチューを喉の奥に流し込むノエル。その前でリズは手を止めたままじっとしている。


「……ってぇと何か? お前らもあいつの行動把握してるわけじゃねえのか?」

「余計なお世話です」


 ノエルの皿は空になった。


「リズ、とっとと食え。お前も作業場で仕事溜まってんだろ」

「あ。う、うん」


 ノエルに促されてリズはスプーンを口へ運ぶ。


「連れないな。一緒に死地を切り抜けてきた仲だろうに」

「死地を渡ったのはルイ一人だ。俺たちは安全確保された道をぬくぬく歩いてきただけです」

「まぁ、そういう仲だっていう意味でもある」

「何が聞きたいのかハッキリしてください」


 ロジェが肩をすくめた。


「あいつ、一体何なんだ?」

「何ってなんですか」


「あの馬鹿でかい魔力は何なんだって話だ。いくら何でも個人差のレベルを超えてる。外生まれだって納得できねえぞ」

「何生まれなら納得するんですか? 今より人の魔力が強かった時代の生まれだって言えば、納得するんですか?」

「ははは、何百年も生きてられる人間がいるなら納得してやるよ」

「生きてきたんじゃなくて、時間を越えてきたんだそうです」

「……なんだそれ。真面目な話か?」


 ロジェはふいに表情を引き締め、眉をひそめてノエルの方へ身を乗り出す。

 ノエルは空になった皿を見つめながらため息をついた。


「別に。本人はそう言ってますけど、証拠はありません。何か事情があって、俺たちを遠ざける為に適当な嘘ついたって可能性もある」

「ノエル、ルイは嘘は言ってないと思うわ」

「俺だって嘘じゃないとは思ってるよ。あくまで可能性の話をしただけで」

「もう……」


 思ってもないことを言うなと言わんばかりに、リズは責めるような目でノエルを見た。


「でも、遠ざけたそうな感じはしたろ」

「……そう、だけど」

「おいおいおい。マジなのか? 時間を越えてきた……って、時間跳躍の話か? んなの、現代人の魔力じゃ発動不可って理論が証明されてから呪文の研究なんて誰も……、…………って」

「へぇ」

「おい、過去の人間って、そういう話か?」

「理論上じゃありえなくもないんだ」


 現代人の魔力で時間跳躍魔術の発動は不可でも、過去の人間が現代にたどり着く可能性は否定されたわけではない。


「魔術理論史が学科で必須だったからな……。っていうか、あの小僧記憶なかったんだろう? 戻ったのか?」

「……戻ったみたいですね」


 自分でやったんだと告げたルイの顔が脳裏をよぎり、ノエルは首を振る。

 その途中にノエルを呼ぶ声があった。



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