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第4話 貴方みたいな生徒が一番嫌いですッ

「ルイ=ウィルマリアぁあ!!」


 教室内に怒号が響き渡った。

 おれはとりあえず、肩を丸めて小さくなる。


 授業が始まって、強化呪文の概要説明のあと、実技のターンになりしばらく経った頃だった。

 まぁ当然こうなると思っていたので覚悟はできている。

 たぶん教室中が、できている。

 できていなかったのは先生だけで、だから毎回、ちゃんと怒るのだ。


 まぁ、諦められて何も言われなくなるよりは、改善の見込みを期待してくれていた分、有り難いことなのかもしれないけれど。

 正直、なんで見限ってくれないのか不思議である。


「あなたはァ! 一体いくつ皿を割れば気が済むのッ!? やってみせた通りにやるだけでコツなんかほとんどありゃしないのにっ、どうして、そうまでできないのッ!? わざと以外に何か理由があったら言ってみなさい!!」

「…………」


「魔法力ゼロなんてたわ言はいい加減聞き飽きました!! ないなんてありえません!! 個人差はあっても! ゼロなんて話は聞いたことがないわ!! 人より魔力が少ないならそれを補う努力をしなさい!! それをあろうことか、最初からゼロですなんて、努力を放棄して! 先生は貴方みたいな生徒が一番嫌いですッ!!」

「………………」


 でしょうねと思ったけれど、思ったことは顔に微塵も出ないよう、おれは困った笑顔のままフリーズした。

 正直な理由はことごとく反論されつくしてしまっている。何か説明すれば説教が倍になって返ってくる為、何も発言しないのが一番だった。

 ただ、反抗的と取られては本意でないので、しょんぼりした困り笑いは崩さずにいること。


「……何分続くかクッキーの配分賭ける?」


 隣でぼそっと呟いたノエルの言葉に、おれはこっそりノーを返した。

 大概、説教は十分ちょっとで終わる。その時間を待てなくて暇つぶしをしたばっかりに、それがバレて説教が倍に伸びたのはつい先週のことである。


「………………」


 先生の説教を聞き流しながら、おれはちらっと教室内をチラ見する。

 説教が始まった直後は静まり返っていた生徒たちも慣れたもので、しばらくすると実技の練習に戻っている。先生の説教などどこ吹く風とばかりにお喋りまで始まっている。


 さきほど会話をしたナタリアの周りには案の定複数の友達がいて、呪文をかけながら何やら盛り上がった話の真っ最中だ。


「そもそも魔法力なんてものはッ、人の存在力の定義とほぼ等しいんですよ!? 魔法力ゼロってことは貴方存在しないんですか!? そぉおんな馬鹿なことありますかッッ! そういう下手な言い訳は、まず魔法理論を覆す新理論でも仮説してみてからにしなさい!!」


 そう言われてみればゼロなんて話も有り得ないはずだとは思うけれど、おれに言われても困る。

 そんなのは偉い人が考えて欲しい。


(……やっぱ呪いかな。なんか使えないように悪い魔法使いとかに魔法でもかけられてるのかな。そういう話なら、先生納得するかな)


 とりあえず先生の説教は右から左へと流しつつ、おれは適当なことを考えて時間を潰す。


(記憶ないのもその呪いのせいとかだったら、面白いよな〜)


 そんなことをふと考えた瞬間だった。


「あいたっ」


 ふいに、頭の奥がきりりと痛む。

 その声にノエルが反応したのが視界の端に見えた。


 がた、と教室に音が響く。


「…………………………」


 なぜか教室内の全員が沈黙し、静寂が降りた。

 そして一瞬の空白の後、すべての窓が一斉に音を立てて揺れ始める。


「わっ」

「何!?」


 風だと思った瞬間に、教室の後ろの方の窓ガラスが一枚、甲高い音を立てて砕け散った。

 その破片が教室の中へと降り注ぐ。


「きゃあっ」

「危ない離れろ!」


 生徒の焦りの声は、窓から吹き込んできた激しい風の唸りにほとんど掻き消されてしまう。

 おれは教室内を吹き荒れる風によろめいて、ノエルと肩を寄せ合った。


「風つよっ!」

「やだぁ!」


 窓に近かった生徒が飛びのくようにその場を離れ、さっきまで大声でわめき散らしていた先生が我に返って何か指示しようと口を開きかけ――


 それは急に止んだ。


「…………」

「なに、今の……?」


 しんとした沈黙の中に誰かの呟きがやけに大きく響く。


「え、突風とか……?」


 誰かが言い、それを合図にしたように教室は一斉に言葉で溢れ返った。


「えぇーっ、びっくりしたぁー」

「うっそー、突風でこんなんなるのーっ? ガラス割れるのーっ?」

「おーい、誰も怪我してないかぁ?」

「大丈夫―?」


 不安を紛らわせるように一人ひとりが声を大に喋り出し、教室内は騒然となる。


「し、静かに! 落ち着いて!」


 先生は慌てたように声を荒げ、生徒たちの注意を集めた。


「今ので怪我をした者は!?」


 先生の問いかけに皆顔を見合わせるが、名乗り出る者はいない。

 ノエルも大丈夫そうだった。


「大丈夫ね!? 先生ちょっと今の確認してくるから、みんな騒がないで待ってなさい。念のため窓には近寄らないように! 呪文の練習は中断、教科書でも見てて!」


 がらがらと教室の扉が音をたてた。

 



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