第47話 今すぐ死んでくれないかな
サラに手を引かれて連れてこられたのは図書館の館長室だった。
ここを拠点にしているらしい。
サラに連れてこられてすぐに、別でおれを探しに出ていたらしいシオやジュリも戻ってきて、おれたちは久しぶりに顔を合わせることになった。
「今朝は悪かったな」
勧められるままソファに座ると、隣にイリヤがどかっと腰掛けてくる。
それが人に謝罪する態度だろうか。
そう思ったのはおれだけじゃないらしく、向かいのソファに座っていたジュリが何か言いたげにしている。
だが何も言わなかった。
「おい人が謝ってるっつうのに何だよその目は」
「別に」
「あーもー! ついこの間までちっせぇガキだったのに、図体がデカくなって可愛げがどこにもねぇ!」
「前からそんなものないよ」
「成長してもそのスカした感じはおんなじか!」
イリヤはこの場の空気をはなから読む気が無いらしい。
ソファにぐっと沈み込んで肘掛けで頬杖をついて不機嫌そうである。
おれにとっては三年ぶりの再会だし、みんなにとったら数日ぶりにいきなり成長したおれと再会した状態なのに、戸惑いも何もないの逆にすごいんですけど?
「だけどお前が逃げなきゃ、あいつじゃなくて、おれが魔法解いてたってのに」
「え……おれの魔法解こうとしたの?」
「そうだよ。このメンツなら、俺に解いてもらうのがお前一番マシだったろ。気ぃ使わなくて」
「…………」
同意も否定もできなくて俺は黙りこむ。
「……ごめん」
とりあえず、おれには謝ることしかできない。
「兄さんが休眠から目覚めて、その気配を感知したら解けるようにしてたはずなんだけど……」
「まぁ、そういうこともあるんじゃねぇの」
「うん……」
イリヤの全然変わらない態度は悪いことばかりでもない。
「アスカ、一応網を見せて。ちゃんと綺麗に魔法が解けてるか確認した方がいいわ。中途半端な解け方をしてたから」
「あぁ、それであんな倒れてたのか」
ソファの背もたれの向こうからサラが手を伸ばしてくる。
おれは背もたれに体重を預けてサラの手に頭を委ねた。
「……うん。大丈夫みたい」
「良かった」
サラの診察はすぐに終わり、手がすっと離れていく。
「アスカ、ここには三年前に着いたって聞いたけど……」
タイミングを図っていたらしいジュリが、遠慮がちに話しかけてきた。
それに反応してイリヤはふっと顔を上げる。
「どうしてたの?」
「あぁ……おれ、学校に通ってた」
「学校ぉ?」
いちいちオーバーなリアクションをしてくるイリヤだ。
「うん。親切な人たちのお世話になれてさ、通わせてもらってた。学費もかかるのに」
「んなの、えらい身分の奴らが行くとこだろ? どこの金持ちに拾われたんだよ」
「この時代じゃみんな通うんだよ。むしろ義務なんだって」
「え、マジ?」
「うん」
「学校が義務か。興味深いな」
部屋の窓に寄りかかってずっと無言だったシオが突然話しかけてくる。
でもそれは、シオのいつも通りだ。
記憶を取り戻したおかげで、あぁそうだったと思うことだらけである。
「どんなところなんだ?」
「あぁ……うん。子供が、いっぱいいた。修道院じゃ見たことないくらいの人数」
「大きな街だからか」
「うん。色んな授業があってさ……自分で選ぶんだよ。将来に向けて」
「どんなことを学ぶんだ?」
「そりゃ色々……あぁそうそう。おれ、基礎魔法の授業で全然魔法使えなくて落ちこぼれ扱いだったよ」
「お前がぁ? 面白すぎんなそれ」
「もう、イリヤ」
急に話に入ってきて遠慮の欠片もない感想を投げ込んできたイリヤは、ジュリにたしなめられて、へぇへぇと頭を下げた。
「はは……一度くらい、魔法実技のテストでちゃんと点数取りたかったかも」
笑いながら言ったつもりだけれど、まぁなんか、うまく笑えた気がしない。
「でも……やっぱりそれはずるいか」
どっちにしろ、テストを受けることはもうないだろう。
「決着をつけないと」
全然自然じゃない笑みを、顔に貼り付けるしかなくて、おれは床を見つめた。
「……まずは、魔力のコントロールを馴染ませた方がいいわ」
サラが後ろから声をかけてくる。
「封印魔法で鈍くはなってないと思うけど、体も成長してるし、三年前とそっくりそのまま同じ感覚では戦えないでしょうから」
「…………そうだね」
サラの言葉は至極真っ当で、何も間違ってはいない。
サラはいつだって、目的のために真っ直ぐで、ひたむきだ。
「とりあえず中に入ってきた魔物、全部片付けてからかな」
「そうね。魔物よけの吸収装置の修理が終わるまでは修理班の護衛も必要だわ。いつ気まぐれに魔物の大群をよこしてくるか分からないから」
「余計なことしかしないな」
魔物よけの吸収装置は恐らく、壊れたのではなく壊されたのだろう。
地震を起こしただけじゃ飽き足らず、ご丁寧なことである。
「ほんとうに、今すぐ死んでくれないかな」
言葉を口にしてから改めて思う。
誰かの死を願う時間を過ごすことになるなんて、今朝までは思ってもみなかったなと。
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