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第45話 生まれ持った役目だから

 おれがとどめを刺せないと分かったとき、スティアは笑っていた。

 そして言ったのだ。


 『お前のせいで、この先も大勢死ぬことになるな』と。


 それは、逃げた先でもずっと人を殺し続けるという宣言だった。

 そしてあいつはこうも言った。


 『止めたいなら、追いかけてこい』と。


「あいつは半分魔族だから……魔物の休眠と同じことができるんだ」


 上位種の魔物が、精神体になって長期の眠りにつくことでダメージを回復させるというやつである。

 これはこの時代の学校の授業でも聞いた覚えがあるので、時代を問わない共通知識なはずだ。


「本当は、それができるほどの魔力を残させずにとどめを刺さなきゃいけなかったんだけど……失敗した。休眠されると所在も分からないし手も出せない。だからあいつが休眠から目覚めるのを……あいつの気配がする時代を目指して、時渡りの術を使って追いかけてきたんだよ」


 説明していると、どこか他人事のように思っている自分に気が付く。

 まだ、魔法の影響が残っているのかもしれない。


「だけどおれがずれて着いた三年前は、あいつはまだ休眠中だった。時渡りの術はおれ一人じゃ発動できなくて、おれは着いた時間から、あいつが目覚めるのを待つしかなくなったんだ」


 その時のことは、あいつに逃げられた時と違って、何だか記憶が曖昧な気がする。


「平和な時代だったし、もしあいつが目覚めるのが何年も、何十年も後だったら、戦いから離れて鈍った勘じゃ絶対に負けると思って……」


 説明しながら、疑問がふと脳裏を()ぎった。

 思ったのは、本当にそれだけだっただろうか?


「だからそういう、放っておいたら鈍ったり廃れるようなもの、魔力とか記憶、戦いの勘とか戦意っていうようなものを、その時が来たらそっくりそのまま戻せる魔法をかけたんだ」


 そう。

 それは間違いない。

 正しい理由である。


「だけどそれは万能じゃなくて、引き換えに、その時が来るまで戻したいものを失う魔法なんだ。劣化させない為に封印してしまう魔法だから……。それでおれは記憶を失くして魔法も使えなくなった」


 だから、記憶を失くしたのは、どうしようもない不可抗力だった。

 仕方がなかったのだ。


「事情を何にも説明できない怪しい奴だったのに、家族みたいに迎えてくれてありがとう」


 そう言っておれは、感謝の笑みを浮かべる。


「ルイ……お前……」


 やっと、ノエルが反応を返してきた。

 やっぱり、気付くよな。


 『家族』ではなく、『家族みたい』と表現したおれの意図に。


「魔法をかける時、どうせ必要な時に必要なものは戻るから、体さえ生きてればいいと思ったんだ。まさかこんな普通の生活をして、学校にまで通うようなことになるとは思ってなかった。だから、ありがとう」


 これは、決別の意思表示だ。

 おれはもう、使命を果たしに戻らなくてはいけない。


(もう、ここまででいい)


 そう思ったとき、おれの服の袖を、ぎゅっと掴む手があった。


「もしかして、戦いに行くって言ってる?」


 リズだ。

 リズが、ぐっと眉根を寄せて、まっすぐに見つめてくる。


「……うん。そのために時を渡ってきたから」

「どうして、ルイが戦わなくちゃいけないの?」


 リズの質問は、とてもシンプルだった。


「討伐の使命って何? だって、ルイ、いくつなの? あたしたちと変わらないでしょう? 三年前はもっと子供だったはずだよ?」

「…………」


 そんなことを言われると思っていなかったおれは、すぐには答えられない。


「あなただって、まだ未成年でしょ?」


 リズはサラにも年齢の満たなさを指摘する。

 サラもおれと同じく、リズの指摘が予想外だったらしく、軽く目を見開いた。


「その過去っていうのがどれくらい前か知らないけど、子供を平気で戦わせる時代だったの? たとえ昔がそうだったんだとしても、今はそんなの駄目だよ」

「……いや、えっと」

「警護隊の人に言って、ちゃんと対応してもらおう。都市防衛の部隊とかあるはずだし」

「いやいや、待って……」


 リズの訴えは、よくよく考えたら至極真っ当だ。

 この三年をこの時代で生きてきたおれには何となく感覚が分かる。


 ほとんどの国が都市国家の形を取る現代では、戦争抑止のために、各国が武力を保有しているという。

 国の一大事となればそれが動くらしいし、その規模でなくても犯罪が起きれば市民は都警隊に頼るのが普通だ。

 決して個人間の私刑で事を収めることはない。


 でも。


「これは、おれたちの時代が残した禍根で……」

「時代って何っ? 別の世界の話なわけじゃないんでしょ? 今と地続きの過去で、私たちのご先祖さまが、子孫の私たちに先送りにした問題ってことでしょ?」

「そ、う言われると……そうだけど」

「だったらまずはちゃんと警護隊の人に言おう!」

「言ってもいいけど、おれが戦わなきゃいけないのは変わらないよ」

「なんで!?」


 リズは理解ができないと言う風だった。

 だけどそれは、リズが知らないからだ。


「……兄さんを、討つのが」


 思考より先に、勝手に言葉が紡がれる。

 だってそれは、おれの存在理由そのものだ。


「おれの、生まれ持った役目だから」


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